インクルージョンの本質を紐解く

「大事なことなんだろうけど……社会的に必要なことだからやるのか、自社にとって必要なことだからやるのか、よくわからないんだよね」 

カルチャー変革を支援するUniposでCOOを務める私・松島は、この言葉をとあるダイバーシティ&インクルージョンの取り組みを行っている担当者様から伺いました。打ち合わせが終わっても、どうしてもこの言葉が頭から離れませんでした。 

近年、DE&IやD&Iが注目されることが増えてきました。様々な企業の中で具体的な取り組みも増えてきていると実感しています。一方で、お客様とのお話を通じて感じることは、「社会的な要請の中で行うべき取り組み」といった認識や、「特定のチームに任せるもの」といった空気が入り混じっているということ。このようになっているテーマは、他にないと感じます。 

本連載では、組織づくりに関する複雑なテーマを、これまでの歴史や理論を紐解きながら考えていきます。

Profile

松島 稔

Unipos株式会社 代表取締役副社長COO

2013年、現Unipos株式会社(旧Fringe81株式会社)取締役COOに就任。同社COOとしてプロダクト企画/事業開発/事業提携/営業マネジメントを管掌。2016年、同社の東証グロース市場への上場に貢献。2021年、Sansan社との資本業務提携を主導。2021年、Unipos株式会社 代表取締役副社長COOに就任。現在は、事業/コーポレート/プロダクト全体を管掌し、組織風土/カルチャーに関するセミナーも実施。

 

「インクルージョン」を考える3つのポイント

第1回である本記事では、インクルージョンという概念が生まれた歴史、社会学的なインクルージョンと経営学的なインクルージョンの違いについて解説します。 

最初に、本記事の結論を3点挙げます。 

① インクルージョンとは、主に米国で、公共政策の分野で議論されてきた概念であり、企業側はその社会的要請を受けて議論してきたという歴史がある。そのため、「社会の中のインクルージョン」と「企業の中のインクルージョン」の議論が混同されやすい。 

② インクルージョンは経営学的には議論が継続しており、定義は明確になっていないが、「集団の中での個人の認識」を指すことが一般的である。 

③ 議論は継続しているが、職場におけるメンバー1人1人の帰属感を高めつつ、個々の‟らしさ”の欲求を満たすにはどうするべきか、という問を持つ必要がある。 

インクルージョンという概念の歴史  

インクルージョンという概念自体は、米国で1960年代以降の人権運動や障害者権利運動を背景に発展したといわれています。1961年、ジョン・F・ケネディ大統領が初めて「アファーマティブ・アクション」という言葉を使用しました。彼は大統領令10925号を発布し、連邦政府の契約を受ける企業に対して、人種・肌の色・宗教・国籍に基づく差別をしないよう指示しました。特に、教育・障害者福祉・公共政策の分野で、すべての人々が社会の一員として受け入れられ、尊重されるべきだという理念に基づいています。 

この文脈でのインクルージョンは、「すべての個人がその特性や違いに関係なく、平等に社会参加する権利を持つ」という考え方に基づいています。障害者やマイノリティ、社会的に排除されがちなグループが、社会的・教育的・職業的に平等な機会を持つことを目指しています。「社会」という大きな枠組みの中に多様性を導入し、特に社会的な弱者の権利も平等に保障する、という考え方です。 

日本でも米国の流れを受け、障害者や高齢者が利用しやすい建物(バリアフリー建築物)の整備を促進する法律であるハートビル法(1994年)や、交通バリアフリー法(2000年)、教育面では特別支援教育が定められ学校教育法が改正(2006年)されています。 

このように、インクルージョンはダイバーシティ(多様性)・エクイティ(公平性)と共に語られることが多いです。近年日本では、令和5年6月23日に「性的指向及びジェンダーアイデンティティの多様性に関する国民の理解の増進に関する法律」が施行されました。下記の通り、第十条二項に事業主の努力義務も記載されています。  

――事業主は、その雇用する労働者に対し、性的指向及びジェンダーアイデンティティの多様性に関の他の必要な措置を講ずるよう努めるものとする。 

ダイバーシティは社会的要請の中で企業側で求められるものになってきていますが、チームの一体感の欠如やコミュニケーションの齟齬など、とりわけ1990年代の米国で負の側面が注目され、非常に難しい問題として取り上げられるようになっています。

経営学としてのインクルージョンの議論は、このような背景から活発になってきました。 

 

なぜ、インクルージョンが近年注目されているのか  

日本企業でも、社会的な要請を受け、D&I(ダイバーシティ&インクルージョン)という枠組みで力を入れる会社が増えています。 

企業に対する「新しい資本主義」、岸田前内閣の「人への投資と分配を増やす」という文脈。そして、「人的投資が企業の持続的な価値創造の基盤である点について、株主との共通の理解を作る」という考えの中で、2023年には上場企業への人的資本開示の義務化が制定されました。具体的には、有価証券報告書への記載義務——例えば育児休業取得率や、女性管理職比率、男女賃金格差などを企業として開示義務を負うことになっています。 

このように、インクルージョンは「社会集団という大きな枠組みの中で語られるインクルーシブな取り組みを受け、事業主側が社会的要請を受ける」という文脈で捉えられやすい側面を持っています 

社会学的なインクルージョンと経営学的インクルージョンの違い  

インクルージョンの定義については、いまだ明確なものはなく議論されている状態ですが、語源的には「中に(in-)閉じる(claudo)こと(-tio)」という意味となります。日本語では「包含」「包摂」という言葉が適切でしょうか。前段の公共政策全般においては、「社会全体」の中に「様々なマイノリティも含め尊重され、社会生活を閉じる」という意味になります。 

対して、経営学上のインクルージョンは、「社会構成要因の1つである企業体における社会的責任」という観点と、「1つの会社・企業体という中に‟閉じる”」という観点が、別で発生します。 

いずれも「社会的アイデンティティ理論」と紐づいています。社会的アイデンティティ理論とは、「個人のアイデンティティの中に、個人的なアイデンティティ(私)と、それを拡張するものとしての社会と関係づけられたアイデンティティ(私達)があり、個人が自己と集団を同一化し、その集団を自分自身の集団だと感じると、その集団への協力行動が動機づけられる」という理論です。 

 

また、当たり前ですが、各企業体は自社の目的に即した採用活動を行い、個々の職能やその目的に対する合致性を見極めた上で雇用契約を結ぶというプロセスを経ています。 

無論、企業体は社会的責任を果たす側面もあり、障害者雇用等が義務付けられているなど、社会政策の中でのインクルージョンの流れにも影響を受けていますが、あくまでも「企業体の目的のもとに、企業も個人も選択している」という観点を忘れてはなりません。 

また個人は、他者との類似性を求める帰属感の欲求と、自分自身は唯一無二の存在でありたいとする独自性の欲求という両面を持っているといわれています。 

そのため、経営学上のインクルージョンは、「集団の目的における合致性というベクトル」と「その集団的構成の中での個人の自分らしさ・個人の発揮」という二つのベクトルを包含する概念となります。 

また、インクルージョンにおける研究では、「従業員が自由に発想することで革新的なアイデアが生まれるといったことと相関がある」「多様な観点を出すことによって良い意思決定へ好影響がある」などの学説も生まれています。 

このように、米国から生まれた概念であり、社会的要請から企業が対応してきたという歴史があるため、前述したお客様のコメントにあった「社会的に必要なことだから行う」という認識を持つことは自然です。一方で、ただ社会的要請のために行うものではなく、1人1人のメンバーの帰属感と"らしさ"を同時に高めることで業績へ良いインパクトを与えるために行う、という認識も持つことが重要です。 

※記載されている情報はインタビュー当時のものです。

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