「日本型経営の功罪」を歴史と理論で振り返る

前回の記事では、社会学的なインクルージョンと経営学的インクルージョンを混同して議論されている点を取り上げ、それを分けて議論する重要性を提言しました。
その中で、「日本の会社は『集団への帰属感』は高いが、『自分らしさの発揮』が希薄(=同化・アシュミレーション的)が高いのでは」という話をしました。 

今回は、日本型経営の功罪としてなぜ日本では同化的なマネジメントが現状でも課題として挙げられるのかといった点を、大正・昭和・平成・令和という時代を通して紐解き、組織文化・組織課題を歴史と理論で分析します。 

日本型経営は、高度経済成長期における日本の驚異的な発展を支えた原動力として、世界から注目を集めました。日本型経営は「終身雇用・年功序列・新卒一括採用・企業別組合」といった特徴があります。これらシステムは、従業員の忠誠心と組織への帰属意識を高め、長期的な視点での人材育成と技術革新を可能にしました。しかし、グローバル化やIT革命の進展に伴い、その硬直性や変化への対応の遅さが問題視されるようになり、平成、そして令和へと時代が移り変わる中で、日本型経営は大きな変革を迫られています。 

Profile

松島 稔

Unipos株式会社 代表取締役副社長COO

2013年、現Unipos株式会社(旧Fringe81株式会社)取締役COOに就任。同社COOとしてプロダクト企画/事業開発/事業提携/営業マネジメントを管掌。2016年、同社の東証グロース市場への上場に貢献。2021年、Sansan社との資本業務提携を主導。2021年、Unipos株式会社 代表取締役副社長COOに就任。現在は、事業/コーポレート/プロダクト全体を管掌し、組織風土/カルチャーに関するセミナーも実施。

大正から昭和:新卒一括採用のはじまりと高度経済成長、日本型経営の確立 

第二次世界大戦後の荒廃から立ち上がり、高度経済成長を遂げた昭和の日本。この時期、日本型経営は確固たる地位を築き、その後の日本社会に大きな影響を与えました。その仕組みは昭和を更にさかのぼり、大正時代から基盤が進んでいました。 

【特徴】 

この時期の日本の経営は、終身雇用、年功序列、企業別組合に加え、新卒一括採用を大きな柱としていました。実は、新卒一括採用の歴史は古く、第一次世界大戦後の不況により買い手市場になったことに端を発します。1918年に「大学令」が公布され、大学と大学生の数が急増しました。これにより、大卒者の就職先確保が課題となったのです。 

1920年代の新卒採用で特筆すべき企業を紹介しましょう。鐘紡(現カネボウ)を再建したことでも知られる武藤山治は、「職工優遇」の方針のもと、新卒採用を積極的に行いました。また、松下電器(現パナソニック)は、創業者の松下幸之助が1929年の世界恐慌時にも従業員全員の雇用を維持し、新卒採用を続けました。松下幸之助は「物をつくる前に人をつくる」という考え方を持っており、早い段階から人材育成に注力していたことが知られています。 

その後、日中戦争が激しくなると軍需産業を中心に景気が回復し、今度は買い手市場から売り手市場となり、初任給の激化などが生まれました。戦時体制下の政府は「従業者雇入制限令」(1938年)や「賃金統制令の試行」(1940年)を実行。これらの政策により、それまで帝大と私学など出身学校によって差があった初任給が横並びになり、現在にまで続く「新卒者の初任給は横並び」という慣行のルーツとなったといわれています。その後、第二次世界大戦を経て、1950年に勃発した朝鮮戦争による特需景気が戦後の新卒採用復活のきっかけとなりました。この時期、企業の新卒採用競争が激化し、それを受けて1953年に文部省と労働省が正式に採用活動解禁日を制定しました。これが「就職協定」の始まりとなります。 

新卒一括採用は、毎年春に大学卒業予定者をまとめて採用するシステムで、企業にとっては大量のフレッシュな人材を一度に確保できるメリットがあり、学生にとっては就職活動の負担を軽減できるメリットがあります。企業は、入社した新卒社員を長期的に育成することを前提としており、これが終身雇用や年功序列制と密接に結びついていました。 

また、企業別組合は、労使間の協調関係を築き、安定的な労務環境を構築する上で重要な役割を果たしました。これらの要素が組み合わさり、高度経済成長を支える独特の企業文化が醸成されていきました。 

【理論的背景】 

当時の日本型経営は、Mayoの「人間関係論」*1の影響を強く受けていました。Mayoは、1920年代にアメリカで行われたホーソン実験*2を通じて、人間関係が労働生産性に与える影響を明らかにしました。彼の研究は、労働者が経済的なインセンティブだけでなく、社会的な要因や心理的な満足感によっても動機づけられることを示しました。この考え方は、従来の科学的管理法(テイラー主義)とは対照的で、労働者を単なる生産要素としてではなく、感情や社会的関係を持つ人間として捉える重要性を強調しました。 

また、Lewinの「集団力学」*3も、日本企業における集団主義的な文化を理解する上で重要な理論的枠組みを提供しています。集団の規範や相互作用が個人の行動に影響を与えるという考え方は、日本企業における同調性や協調性を説明する上で有効です。 

【功績】 

これらの日本型経営は、高度経済成長の原動力となりました。従業員の高いモチベーションと組織の安定性により、生産性向上と技術革新が促進され、世界第二位の経済大国へと躍進しました。「ジャパン・アズ・ナンバーワン」と称賛された時代であり、日本型経営はその成功の象徴でした。「大量生産・大量販売」の時代では、労働集約的な生産性が重要であったことから、このような経営形態が大きく花開いたのです。 

【課題】 

高度経済成長の終焉とともに、日本型経営の硬直性が徐々に問題視されるようになりました。終身雇用は人材流動性を阻害し、年功序列は能力や成果に基づいた評価を難しくしました。これらの硬直性は、変化の激しい経済環境への対応を遅らせる要因となりました。例えば、1980年代後半のバブル崩壊後、多くの企業が業績悪化に苦しみましたが、終身雇用制のためにリストラが難航し、経営の再建が遅れたケースも少なくありませんでした。

平成:バブル崩壊と日本型経営の揺らぎ・継承

バブル経済の崩壊と長期不況を経験した平成時代。日本型経営の限界が露呈し、抜本的な改革の必要性が叫ばれるようになりました。 

【特徴】 

平成時代の日本企業は、バブル崩壊後の経済不況を受け、それまで当然とされていた終身雇用制を見直さざるを得なくなりました。雇用調整やリストラが実施されるようになり、終身雇用の神話が崩壊し始めたのです。同時に、成果主義の導入が始まり、年功序列から個人の能力や成果に基づいた評価・処遇システムへの移行が進みました。 

また、女性の社会進出や外国人労働者の増加により、職場環境の多様化が進展しました。一方で、昭和時代に確立した「終身雇用・年功序列・新卒一括採用・企業別組合」の中で一部は形を変え継続する形となっています。 

【理論的背景】 

成果主義の導入は、Vroomの「期待理論」*4に基づいています。従業員は、努力が成果につながり、成果が報酬につながると期待することでモチベーションを高めるという考え方です。Vroomの期待理論は、「期待」「道具性」「誘意性」の3点で整理されます。 

期待(Expectancy): 「ある行動をすれば目標を達成できる」という主観的な確率のことを指し、努力と成果の間の因果関係に対する個人の認識を表します。この確率が高いほど、人はその目標達成に向けて行動する可能性が高くなります。 

道具性(Instrumentality): 目標達成が望ましい結果(報酬)につながるという主観的な確率のことをいいます。 

誘意性(Valence): その報酬がどれだけ魅力的か、価値があるかという主観的な評価のことをいいます。 

上記3点が強い動機を引き出し、生産性を高めるという考え方のもと、グローバル化やバブル崩壊後の事業の立て直しを行おうと多くの組織がチャレンジしました。 

しかし、成果主義は、日本の会社にとって導入が難しいものでした。それは一重に、公平性の担保が大きな壁となったのです。とりわけ、組織領域では「組織的公正」と呼ばれます。「組織的公正」については、詳細を後述します。 

成果報酬の導入においては、まず「定量的に定めた目標が本当に妥当性があるのかが主観的になりやすい」という課題が発生しました。目標達成難易度は各マネジメントにばらつきが生じ、客観的な定量尺度を持つことが難しかったのです。また、昭和の「年功序列」を完全に廃せていない中で成果主義の導入を行うことで、組織の中でダブルスタンダードが生じてしまいました。「組織的公正」は、Adamsの「公平理論」*5の中で論じられています。従業員が自身の投入と産出の比率を他者と比較し、不公平感を感じるとモチベーションが低下することを示唆しています。成果主義の導入にあたっては、公平な評価システムの構築が不可欠でしたが、昭和時代に構築したOSを入れ替えるという結果には至っていません。 

【功績および課題】 

平成は「失われた30年」と表現される通り、長く続いたデフレの影響で賃金上昇が難しい中で、各組織で様々な取り組みがなされましたが、何かしらの成果が得られたものは少ないといえるでしょう。成果主義が導入されたものの、男女の賃金格差が明確に残るなど実態が伴わず、逆に混乱をきたしてしまい、組織の活力が失われていきました。 

組織の活力を測る指数としてエンゲージメント率が挙げられます。ただ、実のところ、エンゲージメント率の測定、および国際的な比較がされ始めたのは平成時代から(2009年ごろ)であり、昭和時代から明確にエンゲージメントが下がったというデータはありません。一方、高度経済成長期であった昭和はエンゲージメントが高く、バブル崩壊を経て経済が停滞すると共に下がっていったことは明らかでしょう。 

日本のエンゲージメント率が低い原因と「組織的公正」 

「組織的公正(Organizational Justice)」とは、先のAdamsの「公平理論」を基礎として発展した概念です。これは、従業員が組織の制度・プロセス・行動を公平だと認識する度合いを指します。 

このテーマについてはエンゲージメント研究の中で様々な研究がされています。単に「平等」であることではなく、従業員が「公平に扱われている」と感じているかどうかが重要です。一般的に、組織的公正さは以下の3つの要素に分類されます。 

・分配的公正さ:報酬・昇進・昇格などの資源配分が、能力・貢献度・努力などに基づいて公平に行われていると感じるかどうか。 単なる平等ではなく、個人の貢献度に見合った報酬や評価がなされていると感じるかどうかが重要です。 

手続き的公正さ意思決定のプロセスが透明で、公平であり、従業員の意見が反映される機会が与えられていると感じるかどうか。 ルールが明確で、そのルールが公平に適用されていると感じるかどうか。また、異議申し立ての機会が保障されているかどうかも含まれます。 

相互作用的公正さ上司や同僚とのコミュニケーションが尊重され、丁寧な扱いを受け、公平な扱いを受けたと感じるかどうか。 これは、職場の人間関係や、上司からのフィードバックの質、従業員への配慮なども含みます。 

上記は平成最後の年である2018年のデータです。勤続年数別賃金格差と性別・年齢別勤続年数の国別比較を見てみると、男女差の賃金格差、勤続年数による賃金格差は、日本は大きく開いています。分配的公正さ/手続き的公正差に関して、エンゲージメント率に影響があるのではないか?という部分は、様々な有識者からも指摘されています。Gullupの記事にも、「日本の女性労働者は男性労働者よりもエンゲージしていない割合が高い(男性:女性=78%69%)」というデータがあります*6 

令和:新たな価値観と日本型経営の再定義

グローバル化とデジタル化が加速する現代・令和。日本型経営は、新たな価値観を取り入れながら、更なる変革を迫られています。 

【特徴】 

まず、多くの企業で働き方改革の動きが活性化しました。長時間労働の是正やワークライフバランスの重視が進んでいます。
また、ジョブ型雇用も推進され、職務内容を明確にした雇用形態の導入により、従業員の自律性と専門性の向上が期待されています。
人材の多様化が進む中で、ダイバーシティ&インクルージョンの考え方も推進され、多様な人材が活躍できる職場環境づくりが求められています。
そして、人手不足に伴い「人的資本経営」への注目も集まっています。人的資本経営は、従業員を「資本」と捉え、育成や能力開発に投資することで、企業価値を高める経営戦略です。 

【理論的背景】 

Deci & Ryan の「自己決定理論」*7によれば、従業員の「自律性」「有能感」「関係性」という3つの基本的欲求を満たすことで、内発的モチベーションが高まり、業績の向上につながるとされています。近年注目されている働き方改革やジョブ型雇用は、この理論を基盤に設計されています。 

また、 Freeman の「ステークホルダー理論」*8は、企業が株主のみならず、従業員、顧客、地域社会などのすべてのステークホルダーに責任を負うべきであるという考え方を提唱しています。この考え方は、ダイバーシティ&インクルージョンや人的資本経営の基盤として大きな影響を与えています。 

【功績】 

働き方改革の推進により、従業員のワークライフバランスが向上してきました。また、ダイバーシティ&インクルージョンの取り組みによって、多様な人材がその能力を最大限に発揮できる環境が整備され、イノベーションが促進される成果も見込まれます。 

さらに、近年法整備もされた人的資本経営が今後さらに推進されることで、従業員のエンゲージメントを高め、持続可能な企業経営が実現できると考えられています。 

【課題】 

一方で、ジョブ型雇用の導入に伴い、ジョブディスクリプション(職務記述書)の明確化や評価制度の見直しといった運用面での課題が指摘されています。
加えて、人的資本への投資効果を適切に測定し、それを経営戦略に反映させていくという課題も残っています。
また、従来の日本型経営の強みを活かしつつ、新たな価値観とどのように融合していくかも重要な課題となっています。 

日本型経営の未来 

このように、日本型経営は、時代とともに変化を遂げてきました。昭和の高度経済成長を支えたシステムは、平成のバブル崩壊を経て大きな転換期を迎え、令和においては新たな価値観を取り入れながら、更なる進化を続けています。終身雇用や年功序列といった従来の制度は、もはや絶対的なものではなくなり、個人の能力や成果を重視する方向へとシフトしています。しかし、日本型経営が培ってきた、従業員を大切にする精神や長期的な視点での経営は、今後も重要な資産として残していくべきです。 

今後の日本型経営は、グローバル化、デジタル化、そして少子高齢化といった社会変化に対応しながら、新たな価値を創造していくことが求められます。働き方改革、ダイバーシティ&インクルージョン、人的資本経営といったキーワードを軸に、従業員のエンゲージメントを高め、持続可能な企業経営を実現していくことが、日本企業の未来を切り開く鍵となるでしょう。 変化を恐れず、常に進化を続けること。それが、日本型経営の真価を発揮するための、そして日本企業がグローバル競争を勝ち抜くための、唯一の道といえます。

一方で、今回少々触れましたが、「日本のエンゲージメントは低い」という言説はいささかセンセーショナルに取り上げられすぎている、とも感じます。次回は、このエンゲージメントに関する是非について考えたいと思います。

 

*1:Mayo,G.E. Roethlisberger,F.J.「人間関係論」https://www.eco.nihon-u.ac.jp/research/business/publication/annals45/45_3.pdf 等を参照
*2:Handling the Hawthorne effect: The challenges surrounding a participant observer : Carey, A., The Hawthorne Studies: a Radical Criticism, American Sociological Review, 1967, Vol.32, No.3, pp.403-416.等を参照
*3:Lewin, Kurt. 「社会科学による場の理論」(1947). Frontiers in Group Dynamics: Concept, Method and Reality in Social Science; Social Equilibria and Social Change. Human Relations.等を参照
*4:VROOM’S EXPECTANCY THEORY. AN EMPIRICAL STUDY: CIVIL SERVANT’S PERFORMANCE APPRAISAL INFLUENCING EXPECTANCY Leonina-Emilia SUCIU Maria MORTAN Lucreţia LAZĂR 等を参照
*5:Adams, J. S. (1963). Towards an understanding of inequity. Journal of Abnormal and Social Psychology, 67(5), 422-436.  Adams, J. S., & Jacobsen, P. R. (1964). Effects of wage inequities on work quality. Journal of Abnormal and Social Psychology, 69(1), 19-25.等を参照
*6: https://news.gallup.com/opinion/gallup/510257/japan-workplace-wellbeing-woes-continue.aspx
*7:Deci, E. L., & Ryan, R. M. (1985). Intrinsic motivation and self-determination in human behavior. NY: Plenum. Ryan, R. M., & Deci, E. L. (2000). Self-determination theory and the facilitation of intrinsic motivation, social development, and well-being. Ryan, R. M., & Deci, E. L. (2017). Self-determination theory: Basic psychological needs in motivation, development, and wellness. NY: Guilford. 等参照
*8:R Edward Freeman Strategic management: A stakeholder approach 2010 "Stakeholder Theory and 'The Corporate Objective Revisited'" (2004) Andrew Wicks/Bidhan ParmarOrganization Science 等参照

 

 

※記載されている情報はインタビュー当時のものです。

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