38の国と地域の多様性を力へ。価値観を羅針盤に、自律型組織をつくるコスモスホテルマネジメントの挑戦

“みんなで泊まる” をコンセプトに「APARTMENT HOTEL MIMARU」を運営し、「旅先で暮らすように滞在できる」という新たな価値を開拓し続ける、株式会社コスモスホテルマネジメント。訪日外国人観光客を中心に人気を博し、2025年現在、東京・京都・大阪の3拠点で27施設を展開しています。

38の国と地域という多様な国籍やバックグラウンドを持つ従業員が活躍し、ゲストへのホスピタリティを発揮するため、同社は徹底的に「人」を重視し、多様性を力に変える組織戦略をとっています。

同社がどのようにして共通の価値観を醸成し、価値に直結させているのか、取締役の塩見様、人事部長の東様へのインタビューを通じて深堀りします。

Profile

塩見 良二氏

株式会社コスモスホテルマネジメント 常務取締役

1988年 関西学院大学卒業後、株式会社リクルートコスモス(現・株式会社コスモスイニシア)入社。主に分譲マンションの販売やマーケティングに従事。その後、賃貸事業を経て、2019年株式会社コスモスホテルマネジメント取締役に就任。2024年常務取締役。

Profile

東 真紀子氏

株式会社コスモスホテルマネジメント 人事部長

証券会社リテール営業職、小売業の経理担当・総務人事課長職、専門商社の人事部副部長職を経て2022年2月に同社に入社。同年4月より現職。

多様な人材が交わる現場から生まれた、組織づくりへの覚悟

——コスモスホテルマネジメントが組織づくりに注力するようになった背景について、経営戦略や事業課題という視点からお聞かせください。

塩見様: 当社の事業は、インバウンド旅行者がまだ2,000万人にも満たない2015年頃から計画が始まりました。当時、日本のホテルはシングル・ダブル・ツインといった少人数向けの部屋が圧倒的に多かったのですが、海外からの旅行客は家族や友人といった大人数で来日するケースが多いという点に着目し、多人数で宿泊できるアパートメントホテルを企画しました。

現在、当社のホテルがお客様から評価いただいている強みは大きく2つあります。1つは、最低4名以上で宿泊できる広い部屋という建物の特徴です。もう1つは、日本が大好きな外国人スタッフが、海外から来られるゲストの気持ちを理解した上で接客できるという点です。

海外のお客様を中心に迎えるホテルは多数ありますが、その多くは人手をかけず、機械化や省人化を進めるスタイルです。その中で、私たちは人による接客こそが強みであると強く認識し、人材育成を強化することを決意しました。

現在、従業員は38の国と地域という多様な国籍で構成されています。こうした環境で、いかに多様なバックグランドを持つ人材が共に働き、力を発揮できるか、ということを組織の課題として取り組むようになりました。

多様性を活かして同じ方向に向かうために策定した“共通言語”

——「人」に注力する中で、どのような組織づくりの施策を展開されているのでしょうか。

塩見様: 根本にあるのは、多様なバックグラウンドを持つ人が働くからこそ、世界中のお客さまを迎えられるという考えです。ただし、多様な価値観が乱立して良いわけではなく、全員が同じ目標に向かっていく必要があります。

そこで、行動規範である「Our Principles」や、接客時の心構えを示す「The MIMARU Way」を策定しました。新入社員に対しては、まず人事部でダイバーシティに関する研修を必ず実施しています。バックグラウンドが違うメンバー同士が、違いを受け入れて相乗効果を発揮するためには、前提となる心構えや知識を知っておいてほしいと考えるからです。

東様: 38の国と地域から人が集まる組織というのは、日々発見と驚きに満ちています。採用面接の場でも、皆さん考え方や行動特性がカラフルでユニークなのです。日本人の感覚からすると驚くことも日常茶飯事ですが、それがゲストへの感動体験や従業員一人ひとりの成功に繋がっていると思います。そのため、メンバーのユニークな考え方やアクションを日本人の枠にはめこんでしまわないよう、ユニークさを最大限に活かすことを重視しています。

とはいえ、違いがあるのは事実です。だからこそ、まずその違いがどこにあるのかを互いに理解し、尊重し合うという観点から、入社から2ヶ月経った頃に「ダイバーシティ&インクルージョン研修」を受けてもらっています。この研修では、自由なディスカッションを通じて考え方の違いを学んだ上で、「どうやってインクルーシブなチームをつくれるか」という問いをグループワークで考えてもらい、各現場に持ち帰ってもらうようにしています。

——研修は自社で作られたとお伺いしました。

東様: はい。実は、事業立ち上げ間もない時期にコロナ禍になり、ホテルの予約がなくなってしまいました。空いた時間をどう有効に使うか考えたとき、「今こそ“当社のダイバーシティ&インクルージョンはどうあるべきか?”を再考し、研修を行う」という結論に至りました。

既存の研修に当てはめても当社では上手くいかないだろうと考え、スタッフや人事が一所懸命に本などを読み、当社ならではの研修を少しずつ組み立てていきました。この研修を繰り返し受ける方もいるほど満足度が高いのですが、それは会社の形に沿うように作られているからこそと思っています。

他の施策としては、優れた取り組みやゲストとの良いエピソードに対して、経営陣が選ぶ月例表彰を実施しています。一方で「なぜあの人が選ばれて、自分は選ばれないのか」と、表彰そのものに対してネガティブに受け取る方もいるという事実が分かりました。そのため、なるべく多くのメンバーが納得できる表彰のあり方について対話を重ね、日々改善しています。迷った時には、必ず「Our Principles」や「The MIMARU Way」という羅針盤に立ち戻るようにしています。

カルチャーギャップを超え「自ら動く文化」をどう根づかせたのか

——様々な施策を進める中で、苦労した場面と、それをどのように解決したかをお聞かせください。

塩見様: 一つは、ジョブディスクリプション(職務記述書)がきっちり決まっている文化が浸透している国出身の方が多いということです。例えば、フロントスタッフとして入社した方が「清掃はしなくていいと思っていた」というケースがありました。「困っている人がいたら手伝う」「誰もやらない仕事があったらやる」という日本の考え方が、当初はうまく通じなかったのです。

最初はきっちりジョブディスクリプションを作るべきかと考えましたが、我々のホテルは、多人数宿泊が多く海外ゲストが95%といった点で非常にユニークで、国内にお手本となるルールがありません。

そこで、我々は「ゲストに価値を提供することはどんどんやるべき。誰もやる人がいないことは、自分で拾ってでもやらなければいけない」ということを伝え続けました。すると、これが「ゲストのために、仕事は自ら拾ってやらなければいけない」という、ある種のジョブディスクリプションになったのです。

——採用・配置・評価・育成などの人材戦略に関する考え方をお聞かせください。

塩見様: 当社では目指すべき人物像として「自立型人材」を掲げています。自分自身が何をすべきかを考え、判断・行動して、業務を主体的に遂行していく行動を強く推奨しています。

この自主性を重んじるという考えは「OurPrinciples」にもあり、評価の際も反映しています。組織として大事にすることと、それを行ったら称賛され評価に繋がるというサイクルを、注意深く繋げるようにしています。

東様: 評価は、減点ではなく加点をするという考え方で運用しています。人は誰でも強みと、まだ活かしきれていない強みを持っていると考えています。弱みにはある程度目をつぶり、強みを活かすという方針です。

ただし、採用はとても重要です。私たちが求めているのは、自ら機会を作り、機会によって自分を変えていけるような自律人材です。具体的には、周囲に対して好奇心を持ち、「この人は今何を求めているのだろう?」と思いを巡らせ、アクションを起こせる方です。こうした視点は、メンバー自身の成長にとっても重要なので、対人影響力やチームワーク、他者の挑戦を応援できるかという視点も評価に組み入れています。

 

——「Our Principles」や「The MIMARU Way」を組織に浸透させ、行動に移すために、どのような工夫をされていますか。

塩見様: 最も大切なのは、とにかく日常会話に出すことです。普段から価値観について話し合われていなければ浸透しません。

チーム内でのミーティングでは、「The MIMARU way」に沿った行動をしたかを皆で発表し合う場があります。これは「The MIMARU way」のこういうところに合致しているね、という議論をするのです。

東様: ホテルのスタッフは毎日営業日報を書いていますが、日報の中に「The MIMARU wayシート」というExcelの表があり、そこに価値観に沿ったゲストとの素敵なエピソードを書いています。これにより、必ず価値観がスタッフの目に触れるようになっています。

当社には38の国と地域から集まった人材がいるため、日本人特有の「言わなくても分かるだろう」という暗黙の了解ではなく「言わなければ分からない」という前提に立っているため、必然と話し合う頻度が多いことも関係していると感じます。

人の成長こそが最高の顧客価値に繋がる

——組織づくりの取り組みが、顧客価値の向上や事業成長にどのように繋がっていると感じていらっしゃいますか。

塩見様:ホテル事業において、我々の商品とは「部屋(ハード)」と「人(ソフト)」の両方であり、他の事業と比較して「人」のウェイトが非常に高いと感じています。組織づくりに懸命に取り組み、人の活躍・人の成長・人がいかにゲストのために動けるかを追求することは、事業の成長に直結する感覚があります。

取り組みの結果として共通の価値観が醸成されていると実感したエピソードをご紹介します。ゲストがチェックアウト後に成田空港へ向かう電車内で、小さなスーツケースをホテルに忘れたことに気づきました。このとき、ホテルマネージャーは、交通費・工数の問題・現場を抜けていいのかといった通常のホテル運営の常識を超えて、電車に乗って成田までスーツケースを届け、フライトに間に合わせたのです。

このエピソードを社外の方へ紹介したところ、「なぜ現場でそのような判断ができるのか」と驚かれました。そのとき私が思い出したのは、2年前に起こったホテル内での議論です。ゲストのために病院に行ったスタッフに対して「称賛されるべき」か、「フロントを空けることで職務を全うできていないため称賛されるべきでない」か、という意見で大激論になったのです。そうした議論を経て、スタッフは「お客様への価値提供」と「職務の全う」の両方を満たすことを考えるようになり、「この状況ならどうすべきか」という価値観が揃ってきたのです。

東様: 従業員の多様性やユニークさが、事業成長にそのまま直結し、加速の原動力になっているという確かな実感があります。これらの取り組みは離職率の低下や採用にも繋がっています。

顧客からの反応については、口コミを重視しています。お客様は子連れのファミリーが多く、ホテル選びにおいて冒険ができないため、口コミを読んで宿泊先を選ぶケースが多いです。当社の口コミには、「フレンドリー」「ヘルプフル」「アテンティブ(よく気がつく)」といった言葉が頻繁に登場しています。ゲストが「○○さんに良くしてもらった」とスタッフの名前を書いてコメントしてくれることも非常に多く、これが従業員にとって大きなモチベーションに繋がっています。

従業員は日本が大好きという熱量が高い方が多く、その熱量がゲストへの対応やコミュニケーションに活かされ、それがゲストの感動体験となり、好循環を生んでいるのです。

 

——組織づくりを進めていく上で、お二人が大切にされていることはなんですか。

塩見様: 自分たちで考えて動ける組織をつくりたいと思っています。当社には、トップが指示を出し、それを忠実に実行するという考えはありません。従業員から良いアイデアが出て、それが現場で改善を重ね、最善の方向に進んでいく。そのために何ができるか、という視点で考えてたいと思っています。

東様: 私の当社のイメージは、「大きな一つの船に乗っているのではなく、従業員一人ひとりが自分の手漕ぎの小舟に乗っていて、その何百もの集まりである」というものです。トップダウンで言われたことをやるのではなく、一人ひとりが自分の大切にしたいことを一生懸命考えながら、オールを漕ぎ、前へ進めていく。それが一体となって同じ方向に進んでいる、というイメージです。

採用面接や日々の対話においても、私は従業員から日本の良さを再認識させてもらうことが多いです。従業員はもちろん、これから仲間になっていく方々との対話も大事にして、より良い組織をつくっていきたいと考えています。

※記載されている情報はインタビュー当時のものです。

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