「企業理念」が持続的成長の鍵。現場と採用を変えたジャパンフリトレーの理念浸透
2025.03.14
目次
1957年に日本で最初のポップコーン製造・販売会社として発足した、ジャパンフリトレー株式会社。2009年にカルビー株式会社の完全子会社となり、現在は、マイクポップコーン、ドリトス、チートスなどの人気スナック菓子を製造・販売している。2023年12月には、中長期経営計画と企業理念を発表し、現在は浸透・体現に向けた活動を進めている。
今回は、石辺社長と齋藤常務に、企業理念の策定の背景や浸透方法、企業理念が果たしている役割について伺った。
Profile

石辺 秀規 氏
ジャパンフリトレー株式会社 代表取締役会長兼社長
1990年にカルビー入社。営業に配属後、近畿カンパニー支店長を歴任。2011年、カルビーの上場とともに執行役員となり営業本部長に就任。2015年には事業本部長として、工場・物流・販売・マーケティング・人事を統括する西日本エリアの事業運営を担う。その後、本社営業企画本部長、CVS事業部本部長を歴任し、2023年にジャパンフリトレー会長に就任。2024年4月より現職。

齋藤 紀光 氏
ジャパンフリトレー株式会社 常務取締役
2002年大学卒業後、調味料メーカーでの営業職、総合食品メーカーでの事業企画、嗜好品メーカーでのブランドマネージャーを経て、2019年ジャパンフリトレー入社。マーケティング本部長、2023年取締役に就任。2024年4月より現職。
短期目標から持続的成長へ。変革には「企業理念」という軸が必要だった
――ジャパンフリトレー社では企業理念の浸透活動に力を入れられていますが、どのような背景があったのでしょうか。
齋藤氏:2020年頃からコロナ禍が本格化し、外的環境が大きく変わり始めました。消費者の価値観の変化と同時に、原材料の高騰なども重なり、先行きの見えない不透明な時代に突入しました。
ジャパンフリトレーのスナック市場におけるシェアは3%程度。おかげさまで需要は伸びていましたが、工場の老朽化や生産キャパシティの限界といった課題も浮き彫りになっていました。さらなる成長のためには、消費者ニーズを深掘りし、ブランド戦略の見直しと計画的な投資を行い、戦略を立てる必要がありました。逆に言えば、外的環境の変化が変革のチャンスでした。
例えば、『ドリトス』というブランドは、スナック菓子の領域から、お酒のおとも、軽食や食事として提案できる可能性がありました。また、『マイクポップコーン』は食物繊維が豊富であることから、健康意識の高い消費者にも訴求する戦略をとりました。これらの取り組みは消費者のニーズと合致し、実際に新規ユーザー数も増加しました。
しかし、内部には別の課題がありました。コロナ禍でリモートワークが進む中、部門間のコミュニケーションが減少し、情報の共有や連携が不足していました。また、当社は中途社員が約8割を占めており、各々の強みや熱い想いはあるものの、会社全体としての軸が欠けている部分もありました。
これを解決するためには、持続的な成長を支える計画と、その計画を実行に移すための企業理念が必要でした。同じ方向を向いて進むための共通の軸が欠かせなかったのです。
――コロナ禍が大きなきっかけだったのですね。
石辺氏:他の背景もあります。当社は2025年、設立68年を迎えました。しかし、この歴史の中で一貫した企業DNAが育まれてきたかというと、必ずしもそうではなかったのです。その大きな理由の一つが、外資企業であった企業の沿革です。経営層が度々変わり、運営会社も変遷してきたため、会社の中に深く根付いた文化や価値観が形成されにくかったのです。
過去の経営スタイルは、アメリカ式の、年単位の短期的な目標達成を重視するものでした。その年の目標を達成することに集中するため、長期的な投資や人材育成にはなかなか手が回っていませんでした。
しかし、2009年にカルビーグループに加わったことで、持続的な成長の必要性が強く認識されるようになりました。これに伴い、長期的な視点での投資と、社員が一丸となって同じ方向に進むための企業理念の確立が重要になりました。

――持続的かつ長期的な成長へのシフトが必要だったのですね。そのような課題がある中で、どのように企業理念を作り上げていったのでしょうか。
齋藤氏: まず、経営陣で中長期の計画を立てるところから始めました。同時に、ジャパンフリトレーとしての強みや方向性について議論を重ね、企業理念のラフ案を作りました。
その後、まずは管理職を対象に、パーパスやバリューをディスカッションするワークショップを約1年かけて4回開催しました。当初はパーパス等の概念に馴染みが薄く、戸惑う声もありましたが、ディスカッションを重ねることで、徐々に理解と共感が深まっていきました。
最終的には、全員の意見を集約し、シンプルでジャパンフリトレーらしいパーパスとバリューが完成しました。このプロセスを通じて、管理職の間にも会社に対する想いや企業理念の理解がしっかりと根付いたと感じています。

齋藤氏:最初のワークショップの段階では、通常業務で忙しい中、「こんなに時間をかけて売上に直接つながらないことをやっているのはなぜか」という疑問を持つ人もいました。しかし、「この会社が世の中にどんな存在意義を持つのか」や「私たちはお客様にとってどんな価値を提供できるのか」といった根本的な問いに向き合うようになってからは、皆が当事者意識を持ち始めました。
重要だったのは、企業理念や価値観を「押し付けない」こと。単に「理解してもらうもの」として扱うのではなく、一緒に考え、想いをディスカッションするプロセスを大切にしました。これにより、自然と同じ方向を向くことができたと思います。
掲げるだけでは意味がない、企業理念を行動に移すためのプロセス
――現場への浸透活動はどのように進めていますか。
齋藤氏:まず、全社員を対象にしたワークショップを開催しています。ここでは、企業理念やビジョンについて議論し、具体的な行動に落とし込むことを目指しています。
ワークショップでは、単に言葉を覚えてもらうことを目的にはしていませんでした。重要なのは、その言葉の本質を理解し、自分自身の行動とどう結びつけるかということです。例えば、バリューにある「Integrity BASE」には一言で言うと「正しいことを正しく行う」という意味がありますが、その意味を掘り下げ、なぜ必要なのか、という本質を考える投げかけをしてきました。
このように、単にスローガンを掲げるだけではなく、その意味や背景を深く考える機会を提供することが重要であると考えています。そうしなければ、企業理念は単なる言葉に過ぎず、実際の行動には繋がりません。

――企業理念の理解は進んでも、それを業務にどう活かすかが課題になることが多いと思います。その点はいかがですか。
石辺氏:まさにその通りで、理解はできても、それを業務にどう落とし込むかが難しいという声もあります。
大切なのは、社員一人ひとりが自分の存在価値を認識し、それを会社の理念と結びつけることです。現在、弊社には約350人の社員がいますが、全員がそれぞれの価値を持っている。そのことに気づいてもらうことが課題でした。
そこで取り組んでいるのが、個々の社員が自分自身の「マイパーパス」を作り、それを会社のパーパスと重ね合わせるというステップです。このプロセスを通じて、パーパスが一方通行なものではなく、社員一人一人の仕事が持続的成長や社会貢献につながっていると気づくことができます。
また、社員それぞれが異なる立場や視点を持っているため、同じ企業理念を伝えても解釈が異なることが多いです。これを統一するために、"北極星"のような存在が必要だと考えました。それが「顧客志向」です。
私たちのビジネスは、顧客がいるからこそ成り立っています。すべての活動が顧客のためにあるという視点を持つことで、どの立場から見ても同じ方向を向くことができます。
――車座ミーティングも行われているとのことでした。トップ自ら働きかけることの意義について、どうお考えですか。
石辺氏:現在は変革の時期にあるため、自らが自分の言葉で語ることが非常に重要であり、社員一人ひとりに変革の必要性を理解してもらうために、トップの直接的かつ丁寧なコミュニケーションが不可欠です。
例えば、車座ミーティングは、年に2回実施しています。2023年から本格的に始め、中長期ビジョンや企業理念を自ら伝える場として活用しています。
先月の中間ミーティングでは、現在のビジネス状況や重要プロジェクトについても共有しました。この場で直接社員と対話することで、彼らの疑問や意見をリアルタイムで受け取ることができ、経営陣の考えがより深く浸透することを実感しています。
社内から手上げ制で募った理念浸透アンバサダーも、現在は第2期アンバサダーの段階に入り、管理職だけでなく一般メンバーも中心となって活動を進めています。例えば、管理職アンバサダーが自らワークショップを主導したり、広報が「Pop Your Time.」というコーポレートステートメントに基づいた社内報「Pop Your Times.」を発信したりしています。
また、部や課ごとの活動を可視化する取り組みを進めています。他部署が何をしているのかを知ることで、社員同士の興味や関心も高まりました。また、経営層からも定期的に企業理念に関連した情報発信を行い、数字以外の視点からも経営状況を共有しています。これにより、社員が自分の業務と企業理念の結びつきを意識しやすくなっています。

"供給量の拡大"を図る構造改革の要が「企業理念」だった
――理念浸透活動の成果はどのように測定していますか。
齋藤氏:正直、定量的な評価は難しい分野ですね。ただ、年に一度実施している社内サーベイ、エンゲージメントサーベイである程度測っています。活動を始めてまだ1年ほどなので、具体的な成果はこれからです。ただし、サーベイ結果からは、一定の成果が見られています。
大きな変化の目標としているのは2027年から2028年頃です。その頃には、全社員が自ら企業理念に基づいた行動を起こせる状態になることを目指しています。2023~24年は管理職と一般職で企業理念の理解と認知を深める段階、2025~26年に具体化を進め、そして2027年以降に実行と成果を確認するフェーズです。
――かなり長期的な計画ですね。
そうですね。このような活動は1年や2年で成果が出るものではありません。少なくとも5年単位で計画し、中長期的な視点で取り組む必要があります。この期間を設定できるのは、しっかりとした計画を立て、理念浸透とビジネスの両輪を回すことができるからです。
理念浸透活動は、2030年度までの中長期経営計画とも連動しています。理念浸透がうまくいかないと、この計画も達成は難しいでしょう。人の成長と社のマテリアルの整備がセットで進むことで、はじめて結果が出ます。
――単年ごとの投資ではなく、中長期的な構造改革として企業理念が重要な役割を果たしているのですね。
石辺氏:当社は、供給量を大幅に伸ばすという大きな意思決定をしました。しかし、成長と膨張は違います。ただ規模を拡大するだけではなく、本質的な成長を目指さなければなりません。そのためには、自分たちがどうあるべきかを明確にし、行動に移す必要があります。
過去のビジネスモデルに固執するのではなく、新しい視点で市場に価値を提供することが重要です。過去にも、新しい製品を次々に生み出し、生産キャパシティを拡大してきました。このような大きな挑戦に対応するためには、組織変革が不可欠です。
齋藤氏:持続的な成長を実現するためには、製造資本・知的資本・財務資本など、さまざまな資本を最大化・効率化し、さらに投資していくことが重要です。
その一つが人的資本です。理念浸透の取り組みや制度・教育の整備も、この人的資本への投資の一環です。その中で、企業理念が軸として機能すると考えています。

理念浸透が生んだ、現場コミュニケーションの変化と採用への好影響
――理念浸透によって、現場ではどのような変化が見られていますか?
齋藤氏:コミュニケーションの質が大きく変わってきました。軸ができたことでディスカッションしやすくなり、ゴールに向けての道筋も立てやすくなりました。
例えば、商品開発の際に、以前は「自社らしさ」という感覚的な基準だけで進めることが多かったのですが、企業理念が明確になったことで、具体的な基準をもとに議論できるようになりました。新商品を開発する際に、「この商品は私たちのバリューである『POP uniqueness』や『POP innovation』に合致しているか」という視点で検討できるようになったのです。
過去の商品を振り返る際にも、どの部分が弱かったのかをバリューやパーパスの観点から分析できます。同じ方向を向いて、共通の言葉で話せる環境が整ってきたことが、成果に結びつきやすくなっている要因です。
――生産現場の方々とのコミュニケーションにおいては、どのような変化がありますか。
石辺氏:これまでは、生産現場では、直接お客様と接する機会が少ないため、製品の品質や顧客志向についての意識が薄かった部分もありました。しかし、理念浸透により「自分たちの仕事が最終的にお客様にどのように届くのか」という意識が強まりました。その結果、品質に対する意識が格段に向上し、意思決定や対応のスピードも速くなりました。
今では、生産現場のメンバーが自発的に改善提案をしてくれるようになりました。全ての業務が最終的にはお客様に繋がっているという意識が根付いてきたのだと思います。
――採用活動への影響はいかがでしょうか。
齋藤氏:採用活動においては、非常に大きな変化を感じています。面接の際、「御社のパーパスに賛同しました」という声を多く聞くようになりました。この1年、採用活動を進める中で、応募者の多くが弊社の企業理念に共感し、それが志望動機となっていることがわかりました。
例えば、最近入社したメンバーは、企業理念に強く共感して入社を決めてくれました。彼らは自分の経験を活かして、会社のビジョンに貢献したいという明確な意志を持っています。そのため、入社後の適応も速く、活き活きと業務に取り組んでいます。企業理念に共感した上で入社しているため、自分の役割をすぐに理解し、成果を出すまでのスピードも速いのだと思います。

組織を本質的に強くする「人」と「企業理念」の可能性
――最後に、組織づくりにおいて大切にしていることやポリシーについて教えてください。
石辺氏:私のポリシーは、カルビー時代から一貫して「正しいことを正しく行う」という一点に尽きます。どんなに大きな壁に直面しても、最終的にそれを乗り越えられるのは、正しいことを続けてきた結果だと信じています。
たとえば、取引先との関係でも、買う側と売る側という立場の違いがある中で、最終的に重要なのはお客様に対して何を提供するかです。安く仕入れて利益を得るだけではなく、お客様にとって価値のあるものを届けることが本質だと思います。これは顧客志向の根幹であり、私の過去の経験からも、正しいことを貫いた結果が最終的に利益につながることを実感しています。
組織も同じです。組織は様々な人が集まって成り立つものです。だからこそ、本質である企業理念が重要です。これさえ外さなければ、組織や事業は必ず良い方向に進むと信じています。
齋藤氏:私も同じく、「人」を大切にすることが組織づくりの根幹だと考えています。
当社は約8割が中途採用の社員で構成されています。それぞれが異なる経験や知識を持っていることは、一見するとバラバラに見えるかもしれません。しかし、企業理念が明確になったことで一つの目標に向かって結びついたとき、組織の力は非常に強くなります。全員が同じ方向を向きながらも、それぞれの個性や強みを活かせる環境づくりをしていきます。

※記載されている情報はインタビュー当時のものです。
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