経営理念は「信念」。ぶれずに実践し続ければ組織は変わる

地方に本社を置く中小企業に、組織づくりやカルチャー変革の取り組みを伺っていく本連載。 

株式会社イマオコーポレーションは、1935年創業、岐阜県に本社を構える機械部品メーカーだ。4代目である今尾任城氏は、リーマンショック後の2009年に社長に就任した。
経営理念には、第一に「社員とその家族の幸せを追求します」と掲げ、今尾社長は「この経営理念が自分の信念になっている」と語る。
この信念のもと組織づくりに注力した結果、エンゲージメントサーベイのスコアは徐々に上昇し、現在も高水準を維持。採用にも良い影響がみられるという。 

今尾社長に、経営理念をぶれずに実践する背景にある想いやポリシー、組織づくりの取り組みの内容を伺った。 

Profile

今尾 任城

株式会社イマオコーポレーション 代表取締役社長

ワンマン経営だった父の時代の組織から脱却すべく、組織づくりに注力 

――今尾社長は2009年に4代目として代表取締役社長に就任されましたが、当時、中長期的に解決したい経営・事業課題はどのようなものでしたか。 

当時は、リーマンショックの影響で会社の業績が低迷しており、立て直しが急務でした。 

当時の売上に占める割合は、自社製品:輸入品が45:55 。経営の安定のためには、円と外貨の為替レートによって利益率が大きく変動する輸入品の割合を下げ、自社製品の割合を上げる必要があると考えました。
また、売上の 95%程度が国内市場向けでしたので、少子化による人口減少が進む日本の将来を考えると、海外市場向けの輸出を増やす必要もありました。 

変化に強い組織をつくり、このような変化を生むためには、自ら考えて行動できる主体的な社員を増やさなければいけない——そのために組織の土壌づくりが必要と考えましたが、当時は指示待ち型の社員が多いように感じていましたね。 

――外部環境の影響が大きかったのですね。当時の組織について、もう少し詳しく教えてください。 

先代社長(3代目)は私の叔父でしたが、私の父である2代目が経営している期間が長かったです。
父は良く言えばカリスマ、悪く言えばワンマン経営者。父が経営している当時、社員が意見してもあまり受け入れられず、結果として社員は受け身になってしまっていると感じていました。心理的安全性は低かったと思います。 

そうなってしまったのはやむを得ない面もありました。創業者の祖父は1935年に「今尾鋳造所」として弊社をスタートさせましたが、当時は下請け工場の色合いが強かったそうです。逼塞感を感じた父は「メーカーになりたい」と考え、標準機械部品の製造・販売を開始し、カタログ作りから自ら行って会社を大きくしました。父はそのような背景から「全部自分でやる」という考えで、優秀な社員が入社してきても任せきることはせず、自分で仕事を回すという習慣になっていたのです。 

トップダウンで組織を動かすことは大切ですが、私は「社員の力を引き出す経営」が重要だと考えていました。
こうした背景から、私が社長になったときは「社員が自ら考えて行動できる組織」――挑戦して失敗するより、挑戦しないことがリスクと考える。挑戦して失敗したとしても、挑戦したことを称賛する組織をつくりたいと思いました。

こうした組織をつくるため、当初は「働きがい(働きやすさ+やりがい)の向上」を目指していましたが、たまたまエンゲージメントというテーマに興味を持ちました。調べてみると「エンゲージメントとは、社員が会社の企業理念に共感し、企業の業績向上のため自発的に貢献したいと思う意欲のこと」「社員と企業とのつながりの強さとも表現できる」ということが分かりました。
弊社にとっては、「働きがいの向上」よりも、
社員と会社の関係性を良くするという意味を含む「エンゲージメントの向上」の方が、目指す方向性にマッチしていると感じ、以降「エンゲージメントの向上」をテーマに据えて組織づくりを推進しています。 

実行したのは人事考課制度と数値目標の撤廃。さらに全社員との面談で現場を知った 

――組織づくりのため、具体的にどのような取り組みを進められたのですか? 

黒字化して少し余裕が生まれたとき、会社の将来のため第一に人材育成に注力することに決めました。人材育成について検討する中で、当時の経営理念と人事制度に一貫性がないことが問題だと気付き、経営理念を刷新。さらに、経営理念を実現するために必要な人材像、社員にその人材像を目指してもらうための人事・給与制度を定めました。

新しい人事制度の特徴の一つに、人事考課制度の廃止があります。人事考課制度を廃止したのは、「人が他人を正しく評価できるのか?」「精緻な人事考課制度を作るよりも、社員全員が協力して良い仕事をして、その結果として増えた利益を社員に還元するほうがよいのではないか?」と考えたからです。 

また、新しい取り組みとして販売目標や利益目標などの数値目標の撤廃も行いました。数値目標を撤廃したのは「やるべきことをやれば結果はついてくるはず。であれば、社員に数字を気にすることなく、自分の仕事やお客様に向き合ってやるべきことをやってほしい」という考えからでした。  

弊社の場合はこうした方法が社風に合っているのか、今のところは上手くいっていますが、例えば人事制度に関しては人事考課をなくすことが目的ではないため、状況に合わせて変えていくことも考えています。 

 

――いきなり数値目標と人事考課制度を撤廃したというのは、なかなか思い切った取り組みですね。他に実践されたことはありますか。 

昔、社長評価制度という取り組みをやっていたのですが、自由記述欄に「評価しろと言われても、社長のことを知らないから評価できない」というコメントがありまして。確かに一度も話したことのない社員もいたので、社員のことを知り、自分のことも知ってもらう機会にできればと思い、全社員との個人面談を行いました。
個人面談では、正社員・パート社員を含めた全員と1時間ずつ面談しました。これはさすがに大変で、1年ほどかかりましたね(笑)。しかしこれが、現場のリアルな状況を知れる良い機会になりました。 

総じて感じたことは、心理的安全性をもっと高める必要がある、ということでした。言いたいことを言えない、と感じている社員が多いことが分かったのです。
背景として考えられたのは、上司とのコミュニケーション不足と、上司のマインドの問題でした。私は、役職は「役割」であると考えているのですが、中には役職がつくと「偉くなった」と考えてしまう管理職もいます。そうした上司が部下の発言や行動を抑えこんでしまうと、部下は「言っても無駄だ」と思ってしまい、次の行動が生まれなくなるという悪循環に陥ります。まさに心理的安全性の低下です。 

また、より定量的に組織状態を把握するため、wevoxというエンゲージメントサーベイを導入しました。
サーベイによって分かったことは、部署によってばらつきがあるということです。
比較的低かったのは現場(製造・出荷など)の方でした。日頃から創意工夫をしながら仕事するというよりは、ミスをせずに業務を回すことが求められる職種なので、避けられない傾向だとは思います。ただ、製造業としてこうした現場が全ての土台であり、そこを無視するわけにはいきません。 

サーベイによって現状把握はできましたが、向上するための効果的な施策を構築するノウハウがありませんでした。それを社内で考えるのは難しいと考え、全社で使えるシステムでありつつ組織変革のノウハウも持っているUniposを2022年に導入しました。 

ちなみに、社員面談は今でも継続しており、現在は私と担当役員が1年ごとに交代で行っています。堅い話ばかりすると身構えられてしまうので、雑談が6~7割、あとの時間で仕事の話をするケースが大半です。個人的には、このような機会を設けることで距離が近くなり、今では本音で話してくれる方が多くなったのではないかと思います。 

良い組織をつくれば業績はついてくる。組織づくりは終わりない活動 

――人事考課制度をなくしてもうまく組織が回っている背景には、社員の生の声を吸い上げられていることがありそうです。今尾社長が、ここまで真剣に組織づくりに投資し、取り組むのはなぜでしょうか。 

経営理念の一つとして「社員とその家族の幸せを追求します」掲げており、その実践が重要だと常々考えています。 

少し哲学的な話にもなりますが、経営者になる前から色々と勉強する中で、「人は幸せになるために生まれてくる」と考えるようになりました。会社もそうで、売上は大事ですが、幸せに働けていない社員はお客様の幸せや満足のために真剣に取り組むことができず、結果として売上に繋がらないと考えています。実際に、「幸福度の高い人はそうではない人より生産性が31%高く、創造性が3倍高い」という研究結果(*)もあるようです。
こうした考えをずっと持っていて、自分が社長になったら「社員の幸せを基点とした好循環をつくること」を実現しようと誓っていました 

*米イリノイ大学心理学部名誉教授エド・ディーナー氏らの論文より。American Psychological Association, 2005. ‘The Benefits of Frequent Positive Affect: Does Happiness Lead to Success?’ https://www.apa.org/pubs/journals/releases/bul-1316803.pdf 

 

――イマオコーポレーション社では「社員とその家族の幸せの追求」を、言葉や想いだけでなく“実践”されているのですね。想いがあっても、なかなか実践に移せない経営者が多いと思うのですが。 

私は、経営や仕事をする上で「正しい努力の積み重ね」が重要と考えています。やっていることが正しければ、結果はついてくるはずです。
先ほど紹介した研究結果のような例も多くあるように、働きやすく働きがいのある良い環境をつくることができれば、業績が上がらないはずはないと信じています。 

社員の皆さんの幸せが基点となり、良い仕事ができるようになればお客様の幸せにも繋がる。そして利益が増え、それを社員へ還元し、それによって社員がさらに幸せを感じ仕事を頑張れる――個人的に、これを「幸せの循環」と呼んでいるのですが、私はこの好循環を実現するために会社経営をやっています 

――カルチャー変革や、組織づくりにかかる時間軸についてはどう捉えていらっしゃいますか。 

 カルチャーは"いつまでに変えられる"ということはないと考えています。会社があり続ける限りは良くし続けなければいけない、本当に終わりのない活動です。  

サーベイにしても、結果が良くなってきたからといって放ったらかしにするのではなく、常に少しずつでも改善したいと考えています。 

経営理念を軸とした組織づくりは、採用面にも好影響 

――そのような日々の活動の成果か、Uniposは導入後2年半経った現在でも、投稿率が6~70%・アクセス率はほぼ100%と、非常に良い利用状況です。どのような工夫をされたのでしょうか。また、取り組みの結果、どのような成果がありましたか。 

やはりトップが背中を見せないと社員はついてこないと思うので、自ら率先して使うようにはしています。導入当初は「最初に投稿したい」と思って日付が変わった瞬間に投稿しました(笑)。毎月社内報で紹介したりもしていますね。 

ただ、それだけでなく、やはり社風に合っていたのだと思います。社員の多くが経営理念に共感してくれているということかもしれません。
採用活動では最初に経営理念を説明しているのですが、説明会後のアンケートでは「経営理念が良かった」という学生さんが多いんですよ。経営理念に共感して入社してくれる社員さんが多いので、こうした取り組みにも積極的に参加してくれるのではないかと思います。 

成果としては、エンゲージメントスコアの「成果に対する承認」の項目は、開始前が60だったところ、開始後1か月で65まで急上昇し、直近2024年7月のスコアが67と、高水準で推移しています(同規模・同業界のベンチマークは58)。  

採用面でも、こうした風土があるからか、ありがたいことに退職後に再入社してくれる社員さんがいたり、社員紹介で採用できていたりします 

社員の主体性をより引き出すというところは引き続き取り組んでいかなければいけませんが、土台となる心理的安全性は醸成できてきたのではないかと思います。 

経営理念は軸であり信念 

――採用にも良い影響が出ているのは素晴らしいですね。近年、地方の製造業では、離職や採用でのお悩みをよくお伺いします。 

「エンゲージメントを上げる」「離職を下げる」など、主語が会社になってしまっていると、社員さんに響かないと考えています。心理的安全性やエンゲージメントを向上させることで離職減少につながり、それは仕事の円滑化に繋がり、社員さんのためになる。
ですので、最初からエンゲージメント向上を目的にするのは少し違うのではないかな、と思いますね。 

 

――なるほど。やはり、そこでも目的は「社員の幸せ」であり、エンゲージメントは一つの手法であり指標である、ということですね。 

はい。繰り返しになりますが、「社員とその家族の幸せを追求する」という経営理念は私の軸であり信念です。口だけじゃないというのは、社員さんも感じてくれているのではないか、と思います。 

経営理念は大抵どの会社にでもあると思いますが、それをいかに実践するかは、社員さんが見ています。実践していたら、社員さんはついてきてくれるはずです。私は、これまで経営理念という軸からぶれずにやってきたつもりですし、これからも実践し続けます。 

※記載されている情報はインタビュー当時のものです。

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