組織の文化をどう受け継ぐ?老舗企業3社が語る「事業承継」の課題と対策とは
2025.06.24
目次
企業風土改革、社内の反発、人材の獲得など、事業継承には避けて通れないいくつもの壁が立ちはだかる。100年続く老舗企業は、それらの課題をどのように乗り越え、組織を拡大させてきたのだろうか?
小平株式会社、株式会社カクイチ、株式会社佐々木総研、3社から、4名のキーマンが集結。それぞれの事業継承のストーリーから、「代替わり」を成功させ組織変革を実現するまでの道のりを語り合った。
Profile

小平勘太 氏
小平株式会社 代表取締役社長

池田亮平 氏
小平株式会社 副社長取締役 CHRO

鈴木 琢巳 氏
株式会社カクイチ 執行役員

佐々木 大 氏
佐々木総研 グループ代表
企業の精神を引き継ぐ「対話」の重要性
――事業承継のポイントを伺うにあたり、みなさまがどのように事業を引き継がれたのかをお聞きしたいと思います。
鈴木:カクイチは現在5代目となる承継企業ですが、会社が大きく動いたのは1,3,5代目の時です。
初代は銀行の設立や町政にも関与するなど、多方面で活躍し、企業の礎を築きました。そして三代目は「右手に論語、左手にそろばん」を体現し、四代目に経営を引き継いだ後も実権を握り長期にわたって組織を率いていました。そして現在は四代目の弟にあたる現社長・田中離有が2014年に五代目を承継しています。
佐々木:同族経営ならではの難しさを感じることはありますか?
鈴木:いえ、特にありませんね。求心力のあるリーダーがトップに立つことは組織において重要です。むしろ先代の意思や信頼を継承できる点では強みになりうると思います。
――佐々木さんはどのように先代から引き継がれたのでしょうか。
佐々木:当社は一筋縄ではいきませんでしたね。私が父の跡を継いで間もない頃、「喫茶店事件」が起きたんです。私の代で人事制度を刷新しようと考え、父に理解を求めるために喫茶店で話し合ったのですが、こちらの提案を聞いた途端、機嫌を損ねて、そのまま店から出ていってしまったんです(笑)。
その後和解し、無事に人事制度を改定することができましたが、「制度的な承継」と「精神的な承継」は全く別のものだと痛感しました。

小平:おっしゃる通りですね。私も自身の経験から事業継承においては「形式」「経営」「ソース(源)」という3つを段階的に引き継いでいかなければならないと実感しました。
形式とは株や代表権、経営とは理念や戦略策定における実務のこと。これらはイメージがしやすいと思うのですが、ポイントとなるのはソースの継承です。ソースとは組織が何かを成し遂げようとする際にエネルギー、その根源となるマインドのことです。形式や経営とは違って抽象的なもののため、これを継承するのは簡単ではありません。
私は2012年に4代目社長として就任したのですが、父である会長が実質的な経営をしていました。実質的に事業を継いだと感じられたのは2022年のことです。

――ソースの継承にあたり、具体的にどのような取り組みを行っているのでしょうか?
さまざまな取り組みを行っていますが、MVVの策定プロセスが象徴的かもしれません。役員合宿でミッションとビジョンを作成したのち、全社集会で発表したときはソース継承の大きな区切りであったと思います。バリューの策定には各事業部から社員の参加者も募り、1日がかりのワークショップを経て16個のバリュー(大項目、中項目、小項目と1:4:4の3層構造)を策定し紙の冊子を配布しました。また、小平113年の歴史を巻物にまとめて、これまでの長い歴史とこれからの道筋を視覚的に体感する試みもありました。
佐々木:先代との並走期間はどのくらいでしたか?
小平:並走期間は実質2年ほどですね。その期間に父が地ならしをしてくれていたので、代替わり直後からスタートダッシュが決められたのだと思います。

池田:勘太社長は先代に「僕らを信じて、見守ってほしい」としっかり伝えていましたね。そうした対話があって初めて、承継が果たされるのだと感じました。
生え抜きか、引き抜きか。優秀な「番頭」との出会い方
――小平株式会社は池田さんが副社長に就任されてから組織変革が加速したと伺いました。優秀な組織の番頭を見つけるためにはどのような方法が効果的でしょうか?
池田:まずは求める条件を明確にすることをおすすめします。求めるマインドやスキルセットを整理し、それに見合う人材と接点を持つことが大切です。生え抜きの方だと、どうしても社内に意識が向きがちで、組織に「最適化」されすぎてしまう側面があります。そういった意味では、外部の人材を活用するのも選択肢のひとつだと思いますよ。
コロナ禍以降、働き方の価値観も変化し、多拠点生活を支援する「アドレス」や、都市と地方をつなぐ人材サービス「チイキズカン」が誕生しました。私たちのように地方に拠点を置く企業はこれらのサービスを通じて、東京のプレイヤーと接点を持つのも効果的です。普段から幅広い人材との関係を築いておき、いざというタイミングでアプローチする。このステップを踏むことで、人材獲得の確率は上がるのではないでしょうか。
鈴木:条件を明確にすることは必須ですね。カクイチの番頭には共通する3つの条件があります。1つ目は強い愛社精神があること。2つ目は外部の情報を積極的に収集し、社長に提供できること。そして3つ目は経営のバランス感覚が備わっていること。
社長というのは、基本的に「ドリーマー」であることが多いものです。そんな夢追い人のビジョンを具体的な道筋に落とし込み、形にしていくことが番頭に求められる素質です。そうした条件を満たす人材となると、当社では内部育成が最も適していると考えています。

佐々木:当社は先代の右腕として活躍していた番頭さんが引き続き経営を支えてくれていますね。そのため、引き抜きや育成の必要性を感じることがありませんでした。ただ、彼もいつかは第一線を退く日がやってきます。そう考えると、経営者だけではなく「番頭の承継」についても考えなくてはいけませんね。
組織変革に欠かせない「翻訳家」とは?
――経営の代替わりや組織変革を進める際、社内から反発や抵抗の声が上がることもあるかと思います。そうしたハレーションとはどのように向き合っていますか?
鈴木:当社では、社員がほぼすべての社内情報にアクセスできる環境を整えています。その結果、それまで情報をコントロールしていた中間管理職の役割が大きく変わり、一部の社員からは「前の方がよかった」という声も上がりました。
しかし、会社が大きく変わるときには、社員の働き方や在り方も変わるものです。現状維持を望む気持ちも理解できますが、そこにとどまるわけにはいきません。ときには思い切って振り切ることも必要です。
小平:課題解決のための施策に対する反発ならば「この課題を会社の伸びしろに変えていこう」と伝え、社員に理解を促すようにしていますね。また、日頃から社長の構想や価値観を発信しておくと、社員の足並みも揃いやすくなると思います。
とはいえ、新しい環境に馴染めない人も当然出てきます。そういった人が離れてしまうこともありますが、反対意見に過度に忖度していては、いつまでも行動を起こせません。トップが強い意思を持って決断することが重要ですね。
池田:社長や経営陣が直接動こうとすると「経営層vs従業員」という対立構造が生まれやすい。だから、両者の視点に立って情報を伝えられる「翻訳家」のような人材がいると、社内の理解が得やすくなります。

投げ縄漁のように、全社員を一気に巻き込むことはできません。新しい体制に順応できる人材、活躍できる人材に目星をつけてリソースを投入することが必要です。そのために、会社全体の底上げを目指すのではなく、ロールモデルとなる人材を育成するという意識を持つことが重要だと思います。例えば弊社がUniposを導入した際は、若手社員を「Uniposアンバサダー」として登用しました。これも一種の「翻訳家」の役割ですね。
「人」は組織のOS。時代に合わせてアップデートせよ
――人的資本経営が注目されている中、各社人材投資に取り組んでいらっしゃいます。「人材」に対する考え方、その重要性についてお聞かせください。
小平:組織変革や人材への投資は、企業の存続そのものに関わる重要なテーマです。当社の主戦場であるガス業界は今、大きな転換期を迎えています。大手企業であっても、競争に勝ち残れるとは限りません。だからこそ、人材への投資は最優先事項です。
資金調達の手段は数多くありますが、優秀な人材を確保する方法は限られており、一筋縄ではいきません。そのため、ROI(投資対効果)を細かく測るより、「今できる最善の投資をする」というスタンスで取り組んでいます。
池田:人材とは企業におけるOSのようなもの。時代遅れのOSでは、新しいソフトウェアが動かせないように、企業も新しい価値観を持った人材を獲得していく必要があると思います。

鈴木:社員の成長が組織の成長に直結している以上、「人」への投資は必須です。「やる気の度合い」は人それぞれ異なりますが、誰しもが大なり小なり内に秘めたものを持っている。それを引き出してあげることで、少しずつ好転していくものだと思います。
そのためには、あえてカオスな環境を生み出すのも一つの手です。尖った人材に投資すれば、その勢いや意欲が周囲の社員にも伝播していくでしょう。社内に適度な刺激を与えながら、組織全体の活性化を図るようにしています。
佐々木:「人」に投資するのは、至極当然のことです。そうしなければ、企業の成長は見込めませんし、経営陣も、社員も最終的に幸せになれませんから。もちろん、理想論では語れない部分もありますが、「人」を蔑ろにする選択肢は取るべきではありません。
人材採用においてはUniposの導入がいい方向に働いています。面接の際、求職者から「御社には『ありがとう』を贈り合う文化があるそうですね」と聞かれることが増えました。
社員を大切にし、働きやすい環境をつくることが採用においても大きなプラスとなることを改めて実感しましたね。
文化を守り、伝えていくことで組織は継承される
老舗企業3社の歩みから見えてきたのは、「形式」「経営」だけでなく、組織のエネルギー源となる「ソース」の継承こそが重要だということだ。
事業継承とは単なる株や代表権の移譲ではない。事業そのものだけではなく、そこに宿る文化や精神を対話によって次世代に伝えていくこと。それが事業承継の本質と言えるだろう。
時代に合わせて「組織のOS」をアップデートしながらも、先代の意思を尊重し、自らの手で新たな歴史を紡いでいく。組織の文化は守るだけでなく、創造し、伝えていくものなのである。
※記載されている情報はインタビュー当時のものです。
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