
【実践事例】「企業風土・文化」の改革、鍵は「対話と心理的安全性」
2023.03.30
2013年に、日本のNo.1No.2の会社が統合してできた、アルミニウム業界の国内トップシェアを誇る株式会社UACJ。
統合後の危機的状況脱出のために、同社が取り組んだのが「構造改革」。
その6つの柱の一つには、「企業文化・風土」があった。
UACJという組織において、「企業文化・風土」への取り組みはどのような意味を持つのか?そして、どのような取り組みを実際に行っているのか?
この取り組みの中心を担う、「新しい風土をつくる部」のお二人に話を聞いた。
Profile

斎藤 和敬氏
株式会社UACJ 新しい風土をつくる部 部長 兼 構造改革本部
IT、教育・介護サービス企業を経て2016年4月UACJ入社。広報IR部、経営企画部に従事、2020年4月より現職。UACJらしい企業理念を作りたいという思いから、2019年2月より1年かけて国内外の若手から幹部まで100名以上の取材を実施。旧古河スカイ、旧住友軽金属の大事にする信条を踏まえた上で、現在の企業理念体系に再定義。現在、これまでのよい風土を生かしながら、新しい風土をつくる活動を実施中。

太田 万里氏
株式会社UACJ 新しい風土をつくる部
2012年に古河スカイ(現UACJ)へ入社。工場・本社にて経理業務に従事後、現在は新しい風土をつくる部で、新企業理念・ビジョンの浸透、従業員エンゲージメントの向上を目指している。経営者と従業員の理念対話会、アンバサダーの設置等を実施しつつ、 2021年4月以降、事務局としてUniposの導入を推進。100年を超す歴史をもつ日系素材メーカーにて、理念浸透・称賛文化・心理的安全性の醸成のため奮闘中。
なぜUACJは組織課題に向き合うことにしたのか?
―――危機的状況脱出のための構造改革。鍵は「企業風土・文化」。
2013年に古河スカイ株式会社と住友軽金属工業株式会社が統合してできた、株式会社UACJ。統合前の両社の歴史から数えると、100年超の歴史がある企業だ。
国内シェアトップ2社の技術力・経営資源などを融合させ、「世界的な競争力を持つアルミニウムメジャーカンパニー」となることを目的に統合を実施したものの、ビジネスモデルの特性上嵩みがちな先行投資による借入金の増加や海外の競合メーカーの台頭など様々な課題が顕在化し、徐々に収益率が低下。
そうした危機的状況を脱却すべく、2019年7月~構造改革(Reborn)をスタートさせた。
この構造改革の6つ目の柱が、「企業風土・文化」である。「企業風土・文化」を柱の一つにした理由について、斎藤氏はこう語る。
「業績が厳しくなってきて、不採算事業を整理したり、役員構成を変更したり、目に見える部分は変えていくということはもちろん必要です。でも、会社って人でできているので、人のマインド、心など目に見えない部分も変えないと、目に見える部分だけ変えて組織改革するって言っても『仏作って魂入れず』状態なんですよね。箱だけ作っても魂が入ってこないので、魂の部分(目に見えない部分)もやらないといけないなということになって、『企業風土・文化』を一つの柱として実施することになりました。」(斎藤氏)
「企業風土・文化」という目に見えない部分に投資することに関して、トップはどう捉えていたのだろうか?
「石原さん(代表取締役 社長執行役員)自身が初めから『目に見えない部分』をすごく重要視していたということが大きいですね。目に見える部分・設備だけでなく、人のマインドセットも変えていこうという考えがもともとあったので、石原さんの想いは大きいと思います。」(斎藤氏)
「石原さんは、『目に見える部分の改革だけではなく、みんなが一丸になって頑張れる目標がないと前向きに仕事をしていけないから、文化など目に見えない部分で組織全体の方向性を揃えていくために、「企業風土・文化」への投資が必要だろう』ということをよく話してますね。」(太田氏)
「企業風土・文化」という目に見えない部分に投資する重要性について、トップ、そして現場の担当者双方の理解と納得があった上で、UACJの組織改革は始まった。
「企業風土・文化」の構造改革スタート
―――「新・企業理念体系」の作成と「新しい風土をつくる部」の創設
実は構造改革が始まる少し前、2019年2月にスタートしていたのが、「理念再定義」のプロジェクト。この「理念再定義」のプロジェクトとともに、「企業風土・文化」の構造改革はスタートした。
このプロジェクトの旗振り役が、当時経営企画部に所属していた斎藤氏。「アルミニウム業界の国内リーダー企業2社が統合して大きな一つの会社になったものの、UACJとしての軸が確立されていない」という課題感を持っていた。そこで、斎藤氏は現場のリアルを知るために、国内外100名以上へのヒアリングを実施。
「2019年4月ごろから、最初は身近なところから『UACJの強みって何?』『UACJらしさって何?』ということを聞いていったんですよ。理念を作るんだったら、いろんな人の意見を聞きたいなという想いがあったので、片っ端から意見を聞こうと考えていました。5人、10人、15人、20人、30人とヒアリングを進めていくうちに、だんだんパターン化していくのが分かったんですね。UACJとして大切にしている価値観として、『誠実さ』や『モノづくり』、『国内No.1の設備がある』、『技術力』などがある一方で『海外に対してはまだまだだよね』『多様性の尊重はイマイチだよね』ということも出てきました。そこで国内だけに偏ってはいけないなと感じたので、ヒアリングが50人ほどに達した時に、海外にも話を聞きに行くこと決めたです。世界中に社員がいるので、日本人だけじゃなく、いろんな方に話を聞きたいという想いがありましたね。」(斎藤氏)
このヒアリングやアンケートから引き出した数百名以上の従業員からの声と、経営陣とのディスカッションを経て、2020年2月に完成した「新・企業理念体系」が上図だ。この「新・企業理念体系」がUACJの組織づくりの軸になっている。
また、この「新・企業理念体系」の成立後、理念の発信と浸透施策の実施が主な役割である「新しい風土をつくる部」を創設。実はこの部署名、もともと「風土改革推進部」という名称の予定だった。「これまでが悪いわけではない。今までの良いものを残しつつ新しい風土をつくっていこうという期待を込めたネーミングにしよう。」という社長からの提案により、親しみやすさも込めて「新しい風土をつくる部」に。社内では、「ふどつく」という親しみを込めた名称で呼ばれている。
―――「新・企業理念体系」を礎とした組織改革施策
「ふどつく」は、再定義した「新・企業理念体系」を軸として、3つの角度から組織改革施策を実行してきた。
まず1つ目が、社内の対話・交流を増やすための取り組みだ。中でも特徴的なのが、理念・Vision2030対話会という名称で、社長・部門長などの上位マネジメント層と従業員の対話会を開催していること。普段話すことない、製造部門職員や若手・中堅層と上位マネジメント層の直接対話の機会を提供することが目的だ。この対話会、社長・部門長自らがそれぞれの拠点に直接足を運んでいる。この対話会の反響について斎藤氏はこう語る。
「『これまで自分自身の仕事の意味を考えることなく、ただ黙々と作業のことだけをやってたんだけど、一度理念に紐づけて考えてみると、自分の仕事はこういう意味があったんだということに気付けた』という声はいただきますね。ほかにも、『他の部署の業務以外の話を聞くのは初めてだったので、すごくよかったです。』という感想ももらうことが多いです。このように業務以外の場で対話する機会を作るということは、エンゲージメント向上の肝になるのではないかと考えています。」(斎藤氏)
こうした対話会を実施している中で生まれた施策もある。その一つが「ふどつくフレンズ」という施策だ。
「『ふどつくフレンズ』という名前で、理念・ウェイのアンバサダーをグループ全社から募集しています。これは2021年7月から始めた取り組みですが、現在40名ほどが集まり、ワークショップ・社外交流・勉強会といった活動を行っています。対話会を各地で開催したことで、『仕事に対する熱い思いややってみたいことを抱えているが、表現する場がない』と悩んでいる社員がいることが分かったです。そういう人たちを『縦・横・ナナメ』で繋げてネットワーク化し、少しずつでも化学変化を起こしていくことが目的です。アンバサダー従業員の『やりたいこと』を支援し、活躍の場を増やす取り組みになればと思っていますね。」(太田氏)
また、WAVE(イントラブログ)の整備や目安箱の設置を通じて、常に社内の誰もが意見を発信できるような仕組みを作り、そこで吸い上げた意見を施策に反映させている。
次に理念・WAY・風土づくりに関する継続的な発信が2つ目の要素だ。理念浸透に向けて発信をし続けることは欠かせない。一度周知しただけで終わりにせず、Reborn通信や社長メッセージ動画、ブランドウェイ・ウェイブック・事例集の作成などを通じて、理念・WAY・風土に関する発信を続けている。
3つ目は、制度・仕組みの観点からの変革だ。この変革の背景には、理念浸透による変化を持続させるためには制度を変えていくことも必要であるという考えがある。「一過性ではなく、持続させる」ということを重要視した施策を実行していることがUACJの組織づくりのポイントの一つだ。360度評価へ理念に関する項目を組み込んだり、理念に即した社長表彰を実施したり、人材開発研修へ理念・WAYに対する研修を織り込んだりするなど、制度面からも理念が形骸化しない仕組みを整えている。
施策を進めていく中で見えた「心理的安全性」という課題
このような施策を実行していく中で、見えてきた課題がある。それが「心理的安全性」だ。理念対話会や目安箱でも上図にあるような意見が寄せられた。
そうした課題を解決するための施策として導入したのが、「Unipos」(社内のだれもが見られるオープンなタイムライン上で、少額のポイントとともに感謝・称賛のメッセージを送るWebサービス)。目安箱で「社員同士が褒め合える仕組みがほしい」という意見が出たことをきっかけに、このサービスにたどり着いた。
「対話会などいろんなコミュニケーション方法がある中でも、Uniposは心理的安全性向上のためのツールだととらえています。『称賛する・感謝する、そんなの仕事だから当たり前。褒める必要ない。』という声もまだまだ根強くあるんですが、褒めるだけでなく、エールを送るって重要なことだと思っています。Uniposを使えば、『一緒に頑張ろう』というエールも伝えられるじゃないですか。ポジティブな仕事だけじゃなくて、辛い仕事をやっている人も結構いるわけで。そういう人に向けて『みんなで一緒にこの難所を切り抜けよう』というエールを送る役割もUniposは担ってくれていると思ってます。」(斎藤氏)
「製造業という性質上、地道で地味な仕事、やって当たり前の仕事もかなりあるので、すごく真面目な人が多いんですね。だから、あえて(Uniposを使うことで)フランクでポジティブなコミュニケーションを増やしていけたら、組織が活性化すると思っています。エンゲージメントの向上や、称賛文化を作るツールとしても捉えていますね。」(太田氏)
また、新しい理念を浸透させる手段としても、他施策と組み合わせながらUniposを活用している。
「Uniposを理念・WAY・SDGsの浸透にも活用したい思いがありまして、ハッシュタグ付与機能で、理念やWAYの言葉をデフォルトで設定しておいて、自然に親しんでもらえるように工夫しました。またUniposWAY賞を創設し、WAYに即した素晴らしい行動を表彰したり、受賞に至らなくても組織にはたくさんWAYを体現した行動があるので、一つ一つの行動に対してコメントしながらイントラなどで公表しています。」(太田氏)
こうしたイントラの発信を通じて、Unipos未導入の部署の方から「導入を検討したい」という声が上がることもあるという。
太田氏はUniposへの期待についてこう語る。
「Uniposを通して、普段当たり前のように業務こなしている人や、褒められたり称賛されたりすることが少ない部署の人が目立つようになればいいなと思っています。今まで厳しく育てられた人や、称賛される経験を積んでこられなかった人がポジティブに使ってくれるようになったらいいなと思ってUniposの取り組みを進めています。」(太田氏)
組織改革施策の全体像
これまで取り組んできた施策の全体像について、太田氏はジョン・コッターの8つのステップになぞらえて上図のように整理してくれた。
危機意識を高める(①)という意味で、構造改革を全社に向けて発表。次にその構造改革を中心として担う部署を立ち上げ(②変革推進チームを作る)、すべての軸となる理念・WAYを再定義(③適切なビジョンを作る)。そして、理念対話会で対話の機会を創出、Reborn通信・社内イントラ記事・Uniposのハッシュタグ機能を通じて、変革のビジョンを周知徹底(④)。また、ふどつくフレンズというアンバサダーの設置や、制度の変革を通じて、従業員の自発的な行動を促し(⑤)、短期的な成果を生む(⑥)。この自発的な行動をさらに促す土台となるのが、心理的安全性。このような施策を改善しながら継続することを通じて変革を根付かせること(⑦・⑧)を目指している。
変革の軸となる「新・企業理念体系」の作成とそれを礎にした施策の継続的な実行、その実行の土台となる心理的安全性。これが、UACJの組織づくりの重要なポイントである。
※後編はこちらから
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