
無理なく楽しく自然に組織を巻き込む「行動デザイン×仕組みづくり」とは?
2023.03.30
2009年の創業以来、デジタルモノづくりに従事し続けている、株式会社ガラパゴス。
「1年間で従業員数が2倍以上」になるほどの急成長を遂げており、年間の採用応募者数はなんと、7,000名越え!
その成長を支える組織づくりの秘訣とは何なのか?
代表の中平健太氏と人事総務部・人事企画チームマネージャーの千葉洋祐氏の話から、ガラパゴス流組織づくりを紐解いていく。
Profile

中平 健太 氏
株式会社ガラパゴス 代表取締役
早稲田大学理工学部卒業後、インクス(現ソライズ)にて大手製造メーカーのプロセス改善コンサルティングに従事。その後2009年にガラパゴスを創業。
100を超える大規模スマホアプリ開発を通して、デザイン産業のアナログな構造に起因するペインを痛感。ペイン解消に向けて、AIを活用した広告クリエイティブ制作・改善サービス「AIR Design」(https://airdesign.ai/)をリリース。
ICC スタートアップ・カタパルト 準優勝、G-STARTUP 優秀賞、B-SKET DemoDay MVT(最優秀チーム)、JSSA 最優秀賞、JAPAN STARTUP SELECTION 2021「ベスト経営チーム賞」受賞、Mizuho Innovation Award 受賞、ICCサミット KYOTO 2022「カタパルト X B2Bソリューション特集」優勝。

千葉 洋祐 氏
株式会社ガラパゴス 人事総務部 人事企画チームマネージャー
筑波大学大学院数理物質科学研究科を修了後、2010年にマルハニチロ株式会社に入社。
研究開発部門にて味の可視化や代謝物解析などを約8年、その後人事部門にて組織開発や働き方改革などに約3年従事。
2021年4月にガラパゴスに入社し、現在は人事企画チームにおいて人事労務や各種制度設計など、全社の仕組みづくりを推進。
「3つの『感』」それぞれに基づく施策
―――「貢献感」は感謝・称賛の流通が生み出す
「貢献感」は感謝・称賛などを通じて実感できるというのが、ガラパゴス社の考えだ。
そうした考えの元、かつて中平氏は「感謝・称賛を全社で流通させたい」と、月に1回感謝・称賛のメッセージを投票箱に入れてもらうという独自の制度を実施。
「独自に貢献を表出化する仕組みをやったんですけど、全然浸透しない。それでも僕はなんとか感謝・称賛を流通させようとしたんですが、やっぱりうまくいかなくて。そんな時に、Uniposという『貢献の可視化が得意な』 サービスと運命の出会いをしました。Uniposを導入し、ガラパゴス独自の『ガラポ』という名称で運用することにしたんです。」(中平氏)
(Unipos:社内のだれもが見られるオープンなタイムライン上で、少額のポイントとともに感謝・称賛のメッセージを送るWebサービス)
このような経緯で運用が始まった「ガラポ」。なんと一日に100通以上もの感謝や称賛のメッセージが飛び交ってるという。
「全社イベントで、ガラポを送る時間があったんですが、ある社員が『素晴らしい会社を作っていただきありがとうございます!』というメッセージを送ってくれたんです。こんなこと言われたことないですよ。Uniposでは、これが表に出てくるってことなんですよ。この20文字くらいって本当に力がある。これ見ただけで『頑張ろう』と思えるわけじゃないですか。こういうことが日常的に当たり前に行われているっていうことだと思うですよね。感謝とか称賛って表に出すべきだと思ってるし、今でもガラパゴスのメンバーはUniposでメッセージを送り合っていて毎日100件とか普通に流れてるんですね。それって傍から見ててもいいなって思うし、もらった人はもっと嬉しいっていう状態ができています。」(中平氏)
ガラパゴスは現在フルリモート。対面で顔を合わせて仕事をしている時よりも、感謝・称賛を伝えづらくなり「貢献感」が感じてもらえないという課題感もあった。働く場所が離れていても、一人一人の貢献がオンライン上で見られるUniposは、その課題解決にも一役買っている。
―――「報酬上がる感」評価制度をないがしろにしない
「報酬上がる感」を高めるために取り組んだのは、「目標・期待の可視化」と「評価/報酬への連動性(MBO)」である。
中平氏は評価の仕組みの重要性をこう語る。
「特にスタートアップ企業が軽視してしまいがちなんですが、評価の仕組みは大切です。従業員目線で憑依(ガラパゴスが大切にしている価値観)してみると、自分の頑張りがどう評価されるのか?って大切だし、分からないとやる気も起きないと思うんです。」(中平氏)
こうした経営陣と人事チームの考えもあり、「報酬上がる感」に関する施策は優先的に着手。
「 目標設定・MBOみたいなのがそもそもなくて、半年間にやったことだけを評価するだけだったんですけど、まず目標立ててそれに対してどれくらい自分ができたという成長感を感じつつ、ちゃんとそれに見合った体系がいいよねということで、整備しました。(千葉氏の)入社前から聞いていた課題感でもあったので、優先度は高かったですね。」(千葉氏)
「自分がどう評価されるのか。そしてその評価が報酬にどう連動しているのか?」が明確であるからこそ、目の前の仕事に納得感を持って取り組むことができる。
そうした基準を従業員一人一人に対して明確に「可視化」されていることにも、「科学的な人事」というポリシーが垣間見える。
―――社内の出来事をジブンゴト化する「カジュアルコミュニケーション施策」
先述の3つの感を最大化させるための施策のほかに、社内に対して積極的にメンバーの情報を発信する、カジュアルコミュニケーション施策も実施している。
「対面していないフルリモートという環境下でも『ここは自分の居場所であり、こんな人が一緒に働いているんだ』と感じてもらえるような施策は細かいんだけど、たくさんやっています。」(中平氏)
具体的な取り組みの一つが、週に1回・お昼の時間に実施する社内ラジオの「がらぱじお」。人事がパーソナリティーを務め、様々な部署のメンバーをゲストに招いた発信している。
また、社内報「Galapagos Magazine」。部署や事業部ごとの取り組みを紹介する内容で、毎週一本以上のペースで更新を続けている。
出しっぱなしでは終わらせないのがガラパゴス社の組織づくりが前進する秘訣だ。全員に読んでもらえるようSlackで呼びかけ、存在を見える化するなど、情報を相手に届けるところまで徹底してやりきっている。
組織づくりを支える、ガラパゴス人事が大切にしている3つのこと
このような変化をもたらした仕掛け人である、ガラパゴスの人事が使命として捉えていることが2つある。
それは、「行動デザイン」とその為に「仕組みを作ること」。
この「行動デザイン・仕組みづくり」こそ、ガラパゴス社人事最大の強みであり、組織づくりがうまくいっているポイントの重要な要素でもある。
千葉氏はこう語る。
「行動デザインのイメージはコンビニのレジの前の足跡。レジの人が『並んでください』と言わなくてもみんな並ぶじゃないですか、自然と。それを人事施策を実行する上で、いつも目指していて。どうやったらみんなが自然と行動してくれるか、強制感なくやれるのか。時には強制感を持ってやらなくちゃいけないこともありますけど、常に無理なく楽しくどうやったらやれるかを考えていますね。」(千葉氏)
施策を企画・実行する際、「始めます!」と組織全体に説明するだけで終わってしまう企業は多い。「施策を始めたものの、メンバーがなかなか動いてくれない」と悩んだ経験がある人事担当者も少なくないのではないだろうか。
「無理なく、楽しく自然に動いてもらうためにはどうすればいいか?」を従業員に憑依して問い続け、それを仕組みまで落とし込んだうえで実践する。これを徹底的にやり抜いていることこそ、ガラパゴス社人事最大の武器である。
では、行動デザインと仕組みづくりは、実際の場面で、どのように組織で活用されているのか?
「バリュー浸透もその一つ。ガラポの中でもバリューハッシュタグ付きの投稿を自然に使ったりだとか。『バリュー使ってください、唱和しましょう』とかって嫌じゃないですか。だから自然にバリューを感じてもらうための仕組みづくりをしています。
例えば、毎週のMTGでボードメンバーが自分にとってのバリュー体現ってこうだよねと伝える。その内容も、『こういう行動をしなさい』という強制感のあるメッセージではなく、バリュー体現するとこんないいことがあるんだよという風な伝え方をしてもらっています。
他にも、ガラポの中でもバリューハッシュタグ付きの投稿を自然に使ったり、バリュー体現するとアワードで表彰されたりすることで、バリュー体現するといいことがあるんだよということを示していくと、それを見ているメンバーの行動が自然に変わる。メンバーの行動の変化が、会社にとってもいい影響を与えることに繋がっていくと思うんです。」(千葉氏)
また、「人事よがりにならないこと」も大切にしている。このことを強く意識するようになったのは、メンバーからの声がきっかけだ。
「人事よがりで施策を進めることによる反発は一定数感じたことはあります。人事が何かを変えますという発信をしたときに、『なんでこれやるの?』『よく分からないのが来たな』みたいなのってあるじゃないですか。自分自身も過去、そのように感じたことがあって、それこそが人事よがりってことなんだと思うんです。人事の目線では一般常識かもしれないけど、社員からすると『そんなの知らないよ!』ってことはよくあるので、そこを丁寧に説明することって大事だなと感じています。何か人事として施策を発信する時は、『これが変わることで具体的にこういう変化が生まれ、最終的には皆さんにとってプラスにもなるし、会社の成長にもつながるんです。だから一緒にやっていきましょう!』というメッセージを常に意識していますね。」(千葉氏)
また、人事よがりにならないように説明する際にも、先述の「人事ポリシー」が役立っているという。
「人事ポリシーを最初に作ったのはすごくよかったと思うんです。人事内でもそうだしメンバーに対しても、『この施策は、人事ポリシーのこの部分をやっている』とか『人事は何を考えているか』っていうのを伝えるときに最初にまず人事ポリシーを伝えるんですよね。そういうコミュニケーションを取ることで、メンバーも人事の考えていることが分かりやすくなるし、人事としても伝えやすくコミュニケーションしやすいという点で、人事ポリシーはすごく強力なものとなっています。」(千葉氏)
組織づくりに取り組むは人事だけではないし、人事だけではうまくいかない。なぜなら、組織は人事だけで成り立っているわけではないからだ。だからこそ、組織全体を巻き込む工夫が必要不可欠である。
経営陣の組織づくりに対する理解と発信、メンバーのフォロワーシップを生み、組織全体を組織づくりに巻き込む「行動デザインとその仕組みづくり」。
その両輪がガラパゴスの組織づくりの肝なのではないだろうか。
人事施策を積み上げていく中で起こった変化
様々な人事施策の実施は、着実に組織に変化を与えている。
定量面の変化としては、wevoxのエンゲージメントスコアの向上が挙げられる。
コミュニケーションから個人の成長実感まで幅広い設問があるサーベイで、主要項目がいずれも上昇。
現在では、同様の規模・業種の中で上位20%というハイパフォーマンスな数値を記録している。
「Unipos導入後には、感謝や貢献、横のつながりに関する項目のスコアが上がっており、Unipos導入の効果を実感しています。」(千葉氏)
また、冒頭にも触れたが同社の年間の採用登録者数は、7,000名超!事業の成長性、フルリモートという勤務形態など様々な魅力に加えて、組織づくりに注力していることも、ガラパゴスの人気を支えている重要な一つの柱である。人事候補者の中には、人事ポリシーに惹かれて応募される方もいるのだという。
「求職者の方が数社の企業から内定をもらっている中で意思決定をする際に、報酬面で他社に劣るケースもあります。そうした場合でも、事業の成長性やフルリモートということに加えて、中平さんの魅力や組織に対する考え方を含めたトータルで選んでくださる方がいらっしゃるという意味では、(組織づくりへの注力が)企業力の一つになっているのではないかと考えています。」(千葉氏)
定性面の変化として大きいのは、働くメンバーたちの「声」である。
「『いい人がたくさんいる』『人事からのサポートがありがたい』といった言葉を様々な場面でいただいています。そうした声をもらえることはとてもありがたいことだなと思っています。」(千葉氏)
一方で、その変化から「卒業」という選択肢を取るメンバーも。
「特に長くいた方は、強く感じたのではないかと。変化の中で『自分は合わないな、卒業だな』と辞めた方も一定数という認識なので、その行動を生むくらい変化が生まれたんだと思っています。会社の変化ともに価値観のズレが生じることは当然あるし、そこに違和感を覚えたまま働くのはお互いにとって良くないことだととらえているので、卒業が悪いことだとは考えていないです。」(千葉氏)
こうした働くメンバーの声や行動に、組織の変化が如実に現れている。
変化は、毎月第三木曜日に開催されている、全社MTGの雰囲気にも表れている。
オンラインで開催される1時間半MTG中に、チャット欄に1,000ものコメントが流れるというのだ。(現在ガラパゴスの従業員数は、約200名。平均して一人が1時間半の間に5コメント以上発信していることになる。)
もともとチャット欄の盛り上がりがなかったわけではないが、ここまでの量のコメントが流れることはこれまでなかったという。
「この盛り上がりの背景には、もともとのメンバー一人ひとりの人柄に加えて、人事施策を通じて高まった『心理的安全性の高さ』があるのではないか?と考えています。」(千葉氏)
これまでの人事施策の積み重ねによって、「心理的安全性が高い組織」に成長した結果、誰もが発言しやすい環境と、積極的に発言しようという当事者意識が社内に芽生えたのだ。
それゆえに、フルリモート環境でも組織の一体感が作られている。
メンバーの当事者意識の強さが表れている例は、他にもある。
その一例が、「カジュアルコミュニケーション推進委員会(CCC:カジュアルコミュニケーションコミッティ)」。人事がオーナーとなり、各事業部の有志数名とともに、先述したカジュアルコミュニケーション施策を実施するという取り組みである。この業務は、本業とは全く別の取り組みである。それにもかかわらず、施策の盛り上げや運営がもっとスムーズになる仕掛けなどを積極的・自発的に実施してくれるというのだ。
「ガラパゴスには、『チームドリブン』というバリューがあります。CCCの取り組みに様な行動が現れているということは、そのバリューが浸透しているからではないのかなと考えています。このバリュー浸透には、ガラポ(Unipos)でのバリューハッシュタグ付きの投稿も一役買ってくれています。」(千葉氏)
ガラパゴス「らしさ」とともに進む、これから
千葉氏に、「ガラパゴス『らしさ』を3つあげるとしたら何ですか?」という質問をしたところ、次の3つを挙げてくれた。
1.変化を楽しむ
2.徹底的にこだわる
3.可視化・構造化
「変化を楽しむ」「徹底的にこだわる」、この二つはガラパゴス創業からの文化であり、それが脈々と受け継がれ現在も大切な価値観として浸透している。
組織が目指すゴールであるミッション実現の土台となっている「企業文化」、そしてそれらをメンバー一人ひとりが「可視化・構造化」という形で表現していることが、コアバリューである「プロセスハック」そのものであり、これがガラパゴスの成長を支えているのではないだろうか。
「可視化・構造化」を通じて、現状を正しく把握しつつ、常にその時点で最適な施策を実行。施策を実行する際には、「行動デザイン」を意識し、自然とメンバーが動いてくれるような「仕組みづくり」を大切にした設計。
完璧ではないかと筆者は感じるが、千葉氏をはじめとした人事メンバーは、さらに先の未来を冷静に見据えている。
「これから300人・500人と組織が拡大し、状況が変化していく中で、今のやり方は通用しなくなる。現に、1年前にやっていたことが今はもう通用しないと思うんです。だから都度アップデートして、新しいコミュニケーションの方法や仕組みを模索し続けていきたいと考えていきます」(千葉氏)
「日本一科学的な人事で、安心して長く活躍し続けられる会社を作る」を軸に据え、さらなる成長に向けて、ガラパゴスの組織づくりは進化を続けていく。
※前編はこちらから
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