【実践編】1on1でゼッタイに言ってはいけない言葉、知ってますか?

多くの企業が人的資本経営の推進にあたって1on1ミーティングを取り入れている。しかし、中には形骸化してしまったり、成果に結びつかずに負担だけが増えてしまったりするケースもある。うまくいかない1on1と、成果を出す1on1にはどのような違いがあるのだろうか。
前編に引き続き、後編では株式会社クロスリバーCEOの越川慎司氏に1on1の実践的な手法について話を伺った。リーダーの役割を担うすべての人にとって参考になるはずだ。

Profile

越川慎司 氏

株式会社クロスリバー代表取締役CEO

通信会社などを経て、2005年にマイクロソフトに入社。のちに業務執行役員としてPowerPointやExcelなどの事業責任者。2017年に株式会社クロスリバーを設立。世界各地に分散したメンバーが週休3日・複業(専業禁止)をしながら800社超の働き方改革を支援、企業・公的団体の顧問も務める。フジテレビ「ホンマでっか!?TV」の準レギュラーなどメディア出演多数。オンライン講座は年間400件以上、受講者満足度は平均96%。著書25冊『トップ5%社員の習慣』など日本のみならず世界各地でベストセラーに。

1on1で「よろしくお願いします」と言ってはいけない理由

—1on1を取り入れてもなかなか成果が出ないという企業も多いです。よくありがちな1on1の間違いを教えてください。
良くないのは、いきなり「結果の質」を求めてしまうことです。1on1の場で「なんで結果が出ないのか」と結果ばかりを問い詰めてしまうと、「部下は言われたことだけをやればいい」という受け身姿勢になってしまいます。

大切なのは、1on1は関係性を構築する場と捉え、部下と腹を割って話せるような関係性を築くことです。そして、一方的に結果を求めるのではなく、1on1を通して部下と一緒に目標設定や振り返りを行う「共創関係」を作ることがリーダーに求められます。
「腹を割って話すことができていない」と感じるリーダーは、1on1の形式にとらわれているのかもしれません。1on1ミーティングという言葉から1on1=会議と捉える人は多いのですが、1on1は会議ではなく会話をする場です。

私はクライアント企業に対して、「1on1ミーティングではなく、1on1トークをしましょう」と伝えています。なぜかと言うと、会議にしてしまうと部下側が身構えてしまうから。下手なことは言えない、準備をしなければいけないと部下に思わせてしまうことで、本音を聞くことが難しくなってしまいます。
我々が部下側の約2万4000人を対象に行った調査では、格式張った会議や面談のようになってしまっている1on1の多くで使われていた言葉が明らかになりました。なんだと思いますか?
意外かもしれませんが、「よろしくお願いします」という言葉です。もっと良くないのが、「よろしくお願い“いた”します」という言葉。これは1on1では言ってはいけない禁止ワードだと思ってください。

—つい言ってしまう言葉ですね。なぜダメなのでしょうか?
理由は2つあります。1つ目の理由が、「よろしくお願いします」と言った瞬間に面談や面接になってしまうからです。この一言でフォーマルな雰囲気になってしまいます。
調査結果では、部下の7割以上が「よろしくお願いします」と言った瞬間に、「今日は余計なことを言わずに黙っておこう」と考えていることがわかりました。特に上司のほうが多く話している1on1ほど、「よろしくお願い“いた”します」とより丁寧な表現を使っていることが多い。

2つ目の理由は、「よろしくお願いします」の「よろしく」の意味をいろいろと考えてしまうから。何を頼まれているのか、何か発表を求められるのかなどと部下側は考えてしまいます。すると、1on1の場で一方的な業務報告をしてしまうのです。
1on1は会話を通して関係性を構築する場であり、行動支援をするもの。業務報告は1on1ではなく、別途チームミーティングでやればいいのです。

感謝、労いの言葉が自然体の対話を引き出す

—では、1on1を面談ではなく会話にするためには、どういう言葉でスタートさせるのが良いのでしょうか?
企業の中で成果を出し続けているトップ5%のリーダーの対応を分析したところ、彼らの多くは1on1のときに「よろしくお願いします」とは言わず、その代わりにある言葉を使っていることが分かりました。
「〜してくれて、ありがとう」という感謝や労いの言葉から入るのです。例えば、「先週のイベントに協力してくれてありがとう」といった感じです。
労いの言葉をかけられることで、部下は承認欲求を満たされ、「今日は会議ではなくトークでいいのだな」と分かります。すると、不安なことや良くないことも含めて、自然体で話をしてくれるようになるのです。

また、トップ5%のリーダーが感謝や労いの言葉を伝えるときによく取り入れているのが、第三者の名前を入れること。これを間接承認と言います。
例えば、「人事部の吉田さんが君にすごく感謝してたよ。面談の手伝いをしてくれたらしいね。ありがとう」と言われたら、誰だってうれしいですよね。第三者からの意外な評価を聞いたら喜びますし、上司に対しても「自分のことを見てくれているんだな」と好印象を持つはずです。
1on1の場面でこうした感謝や労いの言葉を投げかけるためには、事前の準備が必要です。では、どんな準備をしているのか。

以前、間接承認をうまく取り入れているリーダーに、「どうやって準備しているのですか?」と聞いたところ、その方は「1on1トークの前に2分間、対象の部下のことを考えるだけです」と答えてくれました。
「勤務表を見たら残業が多いな、この前イベントを手伝ってくれたなと、部下のことを2分ほど考えるだけで、自然と感謝や労いの言葉をまずは伝えたくなるものです」と言うのです。部下に対する興味関心を日頃から持っているから、部下の近況も把握しているのでしょう。
逆に言えば、何も考えずにいきなり1on1をスタートしてしまうから、特に言うことがなくなってしまい、冒頭で「よろしくお願いします」とつい言ってしまうのです。

1on1で「よろしくお願いします」を禁止にし、感謝や労いの言葉で始める。これを実際に取り入れたリーダーの83%が「意外と良かった」と回答し、その効果を実感しています。

成果を出すチームは「ちょっといいですか?」を言える

—成果を出しているリーダーには、ほかにどんな特徴があるのでしょうか?
成果を出すチームには発言内容にも特徴があります。うまくいっていないチームに比べて、ある声かけが断トツで多いのです。
それが、「今ちょっといいですか?」という一言です。
対面でもオンラインでも、「今ちょっといいですか?」と声をかけられたら面倒に感じることもありますよね。逆の立場なら、相手が忙しそうだったら声をかけるのをためらってしまうことも。

その点、チーム同士、あるいは部下から上司に対して「今ちょっといいですか?」という声かけが多いチームは、メンバーの信頼関係が築けていて心理的安全性が高く、時間と精神の余裕があるチームです。会話が多く、悩みや状況を共有し、互いに協力し合うことができるため、成果を生み出すことができます。
1on1を通して「今ちょっといいですか?」と声かけしやすい関係性をつくっておくことで、日々の業務もうまく回るようになります。

—逆に、成果を出せていないチームのリーダーが使いがちな言葉はありますか?
1on1をしておらず、目標を達成していないチームで多いのが、「最近どう?」という声かけです。
仲の良い人同士なら問題ないのですが、まだ関係が構築できていない部下に対して1on1で「最近どう?」と言ってしまうと、部下のテンションが下がってしまうことがあるのです。

我々の調査でも、部下に「上司からどんな声かけをされたら嫌か」という質問をしたところ、断トツ1位だったのが「最近どう?」でした。
なぜダメかというと、答え方がわからないからです。プライベートのことなのか、体調のことなのか、作業のことなのか、何について聞かれているかが分からず、部下は回答に迷います。
考えた結果、「この上司はネタがないから適当に話をしているんだな」という結論に至り、自分に対して興味関心を持っていないということに気がついてしまうのです。

モチベーションは内発的動機づけから生まれます。つまり、相手が自分に興味関心を持っているかどうかが重要です。しかし、「最近どう?」という声かけからはそれを感じることはできません。
もし、「最近どう?」を1on1でよく使っているという心あたりがあれば、まずは禁止してみてください。

1on1は情報共有の場ではなく、感情共有の場

—組織のパーパスや戦略を社内に浸透させるために、1on1はどのように機能するのでしょうか?
組織のパーパスを社内に浸透させるのに適しているのは全社会議です。トップやマネジメント層が自分自身の言葉で想いを語ることが一番社員に伝わります。それをさらにチームミーティングを通して定着、浸透させていきます。パーパスの話は抽象度が高く、社員の立場からすると遠い話になりやすいため、1on1の場ではパーパスについて掘り下げることは基本的にしないほうがいいです。全社会議をふまえ、チームとしてパーパス経営にどう貢献するかをチームミーティングの場でリーダーから発表し、話し合うほうがパーパスの浸透につながります。

一方、1on1は情報共有ではなく感情を共有する場であり、個人に特化した個別最適をする場です。そのために、基本的には部下に7割以上しゃべってもらうことが大切です。
もし、パーパスを1on1のテーマにしたら、ほとんどの時間、上司が話すことになるのではないでしょうか。抽象度の高い話について「どう思う?」と聞かれても、答えるのは難しいものです。パーパスについて話すのであれば、抽象的な話ではなく、個人の行動目標の策定に紐付くような具体的な話をしたほうが良いでしょう。

—上司が多く話してしまうのは、よくある失敗ですよね。部下に多く話してもらうために、リーダーはどのようなことを意識したほうがよいでしょうか?
1つが、返報性の原理を活用することです。まずは自分の意見や感情を吐露し、そのうえで部下に「あなたはどう思う?」と問いかける。すると、部下が話をしてくれる可能性が高くなります。

それでも、あまり意見を言ってくれない部下もいるでしょう。その場合、今後は選択式で質問します。「AとBとC、どれが君の考えに近い?」というように相手に複数の選択肢を与え、答えを選ばせるクローズド・クエスチョンにします。
部下が興味を持ち始めたら、「それはどういう意味?」「なぜそう思ったの?」といったオープン・クエスチョンで掘り下げていく。これが1on1を成功させる対話術です。

あくまでも1on1の主役は部下なので、上司は部下が話したい内容を聞き出す質問の仕方を身につけることが大切です。

—話し方や聞き方で気をつけたほうが良いことはありますか?
相手に興味を持っていることを態度で示すことが大事なので、相手から怒っていると誤解されないように、口角を2cm程度上げて歯を軽く見せるくらいの表情でいたほうが良いですね。
また、成果を挙げているリーダーほど、話を聞くときによくうなずきます。深く、ゆっくりとうなずく。オンラインの場合、画面からはみ出るくらい首が動く人もいます。目安としては、4.5cm〜6cmくらい深く動かすことを意識してみてください。
すると、相手は「話をしっかり聞いてくれている」「同意してくれている」という印象を持ちます。うなずきの深さが共感を生み出すのです。

もう1つ大事なのが、手書きでメモを取ることです。オンラインのときにキーボードでメモを取るとうるさいですよね。「この上司、内職しているな」と思われる可能性もあります。
そこで、最初に「興味あるからメモを取っていい?」と断りを入れ、メモを取る姿を見せます。場合によっては少しわざとらしさはあるかもしれませんが、相手に興味関心を持っていることを示すことにつながります。
上司向けの1on1研修でも、「口角を上げる」「深くうなずいてください」「手書きでメモを取る」の3つのポイントを伝えていますが、9割以上の方が「やってみたら意外と良かった」と答えてくれています。

1on1は対面のほうが効果的

—リモートワークの企業が増えていますが、1on1はリモートと対面、どちらで実施するのが良いのでしょうか?
1on1の役割には「関係構築」と「行動支援」の2つがありますが、特に関係構築のステージにおいては対面で実施したほうが効果は高いです。
理由は、オンラインの1on1だとビデオオンにしない人が多く、顔がまったく見えない状況では感情共有がしにくいから。
また、眉毛や目、鼻、口の小さな動きで感情を読み取ることを「空気を読む」と言いますが、ビデオオンでもそこまで細かくは見えません。対面のほうが表情の細かな変化を読み取ることができ、1on1に適しています。

今、出社を増やすべきか、リモートワークを継続するか悩んでいる企業は多いと思います。「週に何回出社させればいいですか?」という質問を企業からよくいただきますが、まずは「対面のときに何をするか」「対面でしかできないことは何か」を考えたほうがいいです。
そして、対面のほうがより効果的なものの1つが1on1です。オンラインでもできますが、せっかくなら対面で実施したほうがいい。15分程度のカジュアルな1on1であっても共感が生まれやすく、関係構築に役立ちます。

変化へ柔軟に対応し、成果を出し続けるリーダーは、自分で考えて行動させるコーチングスキル、部下の話に耳を傾けるヒアリングスキルを兼ね備えています。
ぜひご自身が日頃行っている1on1を改めて振り返り、うまく活用しながら、部下の自律的な成長支援と自律型の組織づくりに取り組んでください。

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