【事例編】メルカリの組織文化を支える“自由すぎる”1on1、なぜ成立する?

社内のコミュニケーション促進や人材のスキルアップなどを目的に1on1を取り入れる企業が増えている。しかし、1on1を取り入れたものの成果に結びつかない、社内に浸透しないといった課題を抱える企業も多い。1on1をうまく活用している企業では、どのような取り組みを行っているのだろうか。
今回は、独自のカルチャーを社内に浸透させながら組織を急成長させてきたメルカリの事例をピックアップ。
同社のオーガニゼーション&タレントディベロップメントチームで人事や組織開発を担当している岸井隆一郎氏に、メルカリで取り組んでいる1on1や、その背景にあるカルチャー、組織や人に対する考え方について伺った。

Profile

岸井隆一郎 氏

株式会社メルカリ オーガニゼーション&タレント デベロップメントマネージャー

新卒で入社した株式会社ポーラで、人事領域の業務を広く担当。その後、PwCで組織・人事領域のコンサルタントとして、戦略策定、制度設計、M&A関連業務などに携わる。事業会社で人事責任者を歴任後、メルカリへ転職。オーガニゼーション&タレント デベロップメントのマネージャーとして、組織開発・人材育成を担当。

必要なときに、話したい人と、自由に1on1をする

—早速ですが、メルカリではどのように1on1を取り入れているのですか?
メルカリは会社全体、チーム、個人間のそれぞれにおいてコミュニケーションを非常に重視している会社です。
個人間のコミュニケーションにあたる1on1は、半期ごとにマネージャーが各メンバーと1on1を設定して半期の振り返りや目標設定、キャリアの相談をすることは定めていますが、それ以外は基本的にルールは特になく、各自が自由に1on1を設定していいことになっています。

1on1の相手は必ずしも直接の上司とは限らず、誰と話すかは自由。タイミングも、フォーマットも、アジェンダも自由です。「1on1をしたいです」と対象となる相手に伝えて、スケジュールを調整していきます。

—社員が必要に応じて能動的に1on1をしているのですね。どのような内容を話すことが多いのでしょうか?
本当に人それぞれです。例えば、「全体集会で出た話について気になることがあるので1on1で話をさせてほしい」というケースや、入社して間もない方から「会社のいろいろなポジションの方がどんな仕事をしているのか知りたいので、挨拶を兼ねて1on1をしたい」というケースもあります。また、私自身、異なるチームのメンバーから、「人事について聞きたいことがある」と1on1を打診されることもよくあります。

全体集会で触れられた話題や、チームのミーティングで出た業務の話題について、よりカジュアルな1on1で理解を深めたり、相談したりするケースは多いですし、直接の上司に相談しにくいことを各部門のHRBP (Human Resource Business Partner)に相談することも可能です。

—企業によっては、1on1の実施回数がノルマになっているケースや進め方が定められているケースがありますが、メルカリの場合はものすごくカジュアルな雰囲気ですね。
そうですね。1on1はメールやチャットなどで「ちょっと今いいですか?」と相談するくらいのカジュアルなコミュニケーションの1つになっています。
例えば、メルカリでは社内コミュニケーションにslackを使っていますが、文章だけではわかりにくい内容があったときに、相談したい人のスケジュールを確認して、空いている時間に1on1の予定をぱっと入れるケースはよくありますね。

メルカリは創業から10年ほどの会社ですし、IT業界ということもあって、1on1のカルチャーはメンバーに浸透しています。それに加えて、新入社員のオンボーディングが終了後、次にやることのtipsの中に「1on1で自己紹介をする」というのが入っているので、入社してすぐにメルカリ流のカジュアルな1on1に慣れる環境が整っている点も特徴だと思います。

—「1on1のルールは定めていない」とのことでしたが、推奨している進め方はありますか?
1on1に限らずですが、メルカリでは基本的にミーティングの時間は30分単位に設定して、クイックに進めることを大切にしています。30分に刻んでスケジュールを組むので、中には1日に1on1やミーティングの日程をまとめるタイプの人は1日十数件入っているような人もいますが……。慣れると、非常に効率の良いコミュニケーション方法だと思います。

30分単位でミーティングを行うために、メルカリではアジェンダを事前に書き起こしてメンバー間で共有することを徹底しています。1on1の場合も、事前に相談したい内容、それに対する自分の意見をドキュメントにまとめておきます。資料を共有されたメンバーも事前に目を通しておき、質問やコメントを追記しておきます。準備ができなければ、日程を再調整することもあります。
こうした事前準備をしておくことで、ミーティングが始まったら提案内容や情報共有の部分は飛ばして、質疑やディスカッションからスタートすることができます。参加者全員が情報を整理したうえでミーティングにのぞめるので、個人的にも良い文化だと思っています。

また、オンライン、オフラインのどちらで1on1を実施するかについては、チームごとに最適なマネジメント方法でやってもらえればいいというのが原則です。ただ、リモートワークをしているメンバーも多いため、対面で会える機会は貴重です。オンライン、オフラインの使い分けをしっかりして取り組もうという考え方を大切にしています。

3カ月に1回、チームごとにオフサイトミーティングを開催

—メルカリではコミュニケーションを大切にする文化があるとのことでしたが、1on1以外に、会社全体やチームのコミュニケーションにおいてはどのような工夫をしているのですか?
まず、会社全体のコミュニケーションとしては、それぞれの事業ドメインごとに全社員が参加するオールハンズミーティングを毎週1回、1時間かけて実施しています。ここには必ず組織のリーダー陣が参加し、オンライン、オフライン、ハイブリッドなど様々な形式で実施します。人数が多い事業部では参加者が400人を超えるケースも。どうしても参加できなかった人はあとからアーカイブを見てもらいます。
なぜこうした全社会議を毎週しているのかというと、メルカリの場合は短期間で大きく方針が変わることもあるので、直近で経営陣がどんなことを考え、何をしているかを社員一人ひとりがキャッチアップしていかないと追いつけなくなってしまうからです。

また、全社会議ではメルカリのバリューを体現したプロジェクトやメンバーを表彰するイベントも実施してます。バリューを体現した成功事例を共有し、どの部分がバリューの体現につながっているのかを紐解いて議論することで、会社の考え方を理解する機会にもなっています。

このように、経営陣の考えやカルチャーを発信し、社員に浸透させていくという点で、全社会議は重要な場となっています。

—チームのミーティングにおいて大切にしていることはなんですか?
チームごとのミーティングの運営方法は各チームに委ねられています。定例ミーティングを開催しているチームもあります。
メルカリならではの施策としては、3カ月1回程度、オフサイトミーティングの開催を推奨していることです。経営陣からも「オフサイトミーティングをどんどんやっていきましょう」と奨励しており、力を入れているマネージャーも多いです。
期の終わりなどにチームメンバー全員が集まり、日常業務から離れて振り返りや次の期に向けた目標設定などを行い、しっかりとメンバー同士で対話をする機会となっています。

開催場所やスタイルはチームごとにさまざまです。外部会場を使うチームもあれば、全メンバーのスケジュールを1〜2日すべて抑えて徹底的に対話をするチームもあります。直近のアジェンダだけではなく、未来に向けたアジェンダに対して各自が思っていることをオープンに語り合うこともあり、どのチームもすごく大事な機会と捉えています。
他社ではなかなかないほど、メルカリではオフサイトミーティングに対してコストと時間をかけていると思います。

バリューを体現するために対話を重視する

―メルカリがこれほどまでに社内コミュニケーションを重視し、手間と時間、コストをかけてでも対話する機会をもうけている背景には、どのような考え方が根付いているのでしょうか?
メルカリの大きな特徴として、メルカリとメンバーが大切にしている価値観やポリシーを言語化した「Culture Doc」を作成しています。これは創業初期から作成しており、会社のフェーズに合わせてブラッシュアップを重ねてきました。
その中で、「Go Bold(大胆にやろう)」「All for One (全ては成功のために)」「Be a Pro(プロフェッショナルであれ)」という3つのバリューを定めています。

また、3つのバリューの土台となる考え方の1つに「Trust & Openness(信頼と透明性)」を掲げており、相互の信頼関係を醸成して一人ひとりの自発的な思考や行動を促すためにも、対話を非常に重視するカルチャーが浸透しています。こうした背景から、メルカリにおいて対話を深めることは、コミュニケーションコストをかけてでも取り組まなければならないものであると考えています。

メルカリではこうしたバリューを体現することを非常に重視しています。何より、経営陣をはじめとしたリーダー層がメルカリのバリューやカルチャーの体現を徹底的に追求し、それをメンバー全員に浸透させることにコミットしており、労力を惜しみません。
オールハンズミーティングを毎週開催するのは、カルチャーを浸透させるためには経営陣が社員に直接メッセージを伝えることが重要だからです。また、チームのオンサイトミーティングや各自の自由な1on1を推奨しているのも、メンバー同士が向き合って対話することを大切にするカルチャーが根づいているからです。

—メルカリのバリューの体現をしていくために、採用や人材育成においてどのような指針を持っているのですか?
採用において大事にしているポイントは3点あります。1つは、カルチャーフィットをすごく大事にしている点。メルカリのバリューを体現できる人かどうかを重視しており、採用面接の際の質問などにも反映しています。

2つめは、リファラル採用に力を入れている点。実際、多い時は新入社員の4割くらいがリファラル採用で入社しています。3つめに、リファラル採用とつながる部分がありますが、「自分より優秀な人を誘う」という点です。これは、最高のチームをつくり、パフォーマンスを最大限に発揮するためには、自分と同じくらいの人ではなく、自分よりも優秀な人を集めてくる必要があるという考えからくるものです。

また、人材育成や研修において大事しているのは、「キャリアのオーナーシップは自分自身」という考え方です。なんでも会社がサポートするという考えはなくて、現状では次のリーダーとなる人材を育てる、新入社員のオンボーディングを丁寧に行うなど力を入れる部分を絞ってアップデートを続けています。

そのうえで、メンバー一人ひとりが成長していくために会社として大事にしているのが、「メルカリでの仕事を通じた経験」です。その人が、どういう環境で、どういうミッションを持てば、よりチャレンジができるのかを考え、成長を促すためにタフアサインメントをしていきます。

メルカリではマネジャーは1つの役割という考え方で、昇進とは別物であると切り離しています。そして、成長のためにマネジメントに挑戦してもらい、次のタイミングではマネージャーを別な人にお願いして、また別な機会を考えていく、ということも頻繁にあります。組織の成長、メンバーの成長を考え、配属に意志を込めて組織を動かしていくことをメルカリでは大切にしています。

毛細血管のように、1on1を通して組織にカルチャーを浸透させる

―メルカリの場合、カルチャーを浸透させるために社内コミュニケーションを大切にしていて、その中に全体会議、チームミーティング、1on1があるということで、すべてが1本につながっているんですね。
そうですね。メッセージを発信することに対して経営陣が一切手を抜いていない、というのが大前提としてあります。オールハンズで経営陣が方針を伝え、さらには各マネージャーがメンバーとの対話を繰り返すことで、カルチャーや戦略を浸透させていく。

それでも1000人を超える社員がリモートを中心にして働いているメルカリでは、追いつけなかったり、違和感を感じてしまう社員も出てきます。そういった部分を補うコミュニケーションラインとして、毛細血管のように1on1が張り巡らされているというのが、今のメルカリです。

しかし、1on1だけをやっていてもカルチャーの浸透はできません。現場のメンバーが会社全体の大きな文脈が見えなくなる、経営陣が現場の状況がわからなくなるといった状況を避けるためにも、全社、チームごと、個人間でしっかりとコミュニケーションをとることが大切です。

全体会議で経営陣のメッセージを発信して1on1でかみ砕いていくこともあれば、1on1を通して寄せられたメンバーからの意見に対して全体会議で会社の考え方を伝えることもあります。どれか1つではなく、すべてにおいて手を抜かずに取り組むことで、カルチャーが浸透し、強い組織に成長していくのだと思います。

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