三菱電機は、なぜ組織不正からカルチャー変革に成功したのか?

2021年、創業100周年を祝うはずだった三菱電機に大きな危機が訪れました。本来なら社を挙げて祝う節目の年が、品質不正問題の発覚によって暗転。製品の品質不正が次々と明るみに出て、社長や会長が相次いで辞任する異例の事態に。

当時広報部長だった阿部恵成氏(現・常務執行役 CHRO)は、「2年間ほぼ品質不正対応だけに追われる“守りの広報”でした。初回の記者会見で社長、2回目で会長が辞任を表明するなど、思い出すのも嫌なほどの危機的な時期でした」と振り返ります。その苦い経験が、後に人事トップとなった阿部氏に使命感を芽生えさせることになりました。

Profile

阿部 恵成 氏

三菱電機株式会社 常務執行役 CHRO

 

 

品質不正の発覚から、組織風土改革へ

品質不正の発覚により、三菱電機は社外からの信頼を大きく損ねました。それは単なる一工場の問題ではなく、企業風土そのものの欠陥が浮き彫りになった瞬間でもあります。

2021年10月、新たに社長に就任した漆間啓氏は「このままでは企業存亡の危機だ。とにかく会社を変えねばならない」と強い危機感を示し、全社変革プロジェクト「チーム創生」を立ち上げました。

事業本部ごとの縦割り体質や、上司にものが言いづらい空気、失敗を許さないムード──長年染み付いたこうした組織風土を抜本的に改め、社員一人ひとりが主役となる会社へ生まれ変わることが急務だったのです。

「チーム創生」は有識者の助言を得ながら数ヶ月で改革の指針となる“骨太の方針”を策定。「上にものが言える風土」「失敗を許容する風土」「共に課題を解決する風土」という3点を最優先課題に設定しました。これは従来の閉鎖的で硬直した文化を改め、風通しの良い組織へ変えていくためのビジョンです。

そして2022年4月、これらの方針に基づく大規模な組織風土改革が全社でスタートしました。

「新しい現場力」が組織を変える

改革のキーワードとなったのが「現場力」です。従来、日本企業では現場の力が重視されてきましたが、三菱電機は改めて“新しい現場力”を提唱します。それは単に現場任せにするのではなく、現場の一人ひとりが主体的に動き、双方向の対話を通じて組織を変えていく力を指します。

トップダウン一辺倒だった体質を見直し、社員自らが課題解決に動ける環境づくりを進めたのです。具体的な施策も次々と打ち出されました。経営層は自ら全国の事業所を訪れて対話集会を開き、現場の声を直接聞く取り組みを開始。社内では「さん付け運動」と称して、職位に関わらずお互いを「〜さん」と呼び合うルールを導入し、上下の垣根を低くする風土づくりにも着手しました。

部署を超えた交流プロジェクトやワークショップも活発化し、社内のコミュニケーションは徐々に活性化。社員同士が部門の壁を越えて意見を交わす場面が増え、「共に課題を解決する」文化が育ち始めています。 

また、2022年から社員エンゲージメント調査を強化し、改革の効果測定も継続的に行いました。品質不正が発覚した直後、社員のエンゲージメントスコアは61点から54点へ急落しましたが、組織風土改革の開始後は下げ止まりました。スコアが横ばいの時期には、改革推進メンバーの心が折れそうになったものの「風土改革は永続的に続けていくもの。いずれ必ず上向く」と信じて地道な努力を重ねたといいます。

そして粘り強い取り組みの末、直近の調査では60点まで回復しました。これは不正発覚前の水準にほぼ並ぶ数値です。「ようやく元に戻りつつある。しかし我々の目標はさらに高い」と阿部氏は気を緩めません。同社は世界の製造業トップ企業に並ぶエンゲージメントスコア70を目標に掲げています。社内の意識変革には時間がかかるものの、確実に“変化の兆し”が見え始めたことは社員の自信にもつながってきています。

DE&Iの推進と人事評価制度の再構築

組織風土改革と並行して、Diversity, Equity & Inclusion (DE&I) の推進にも本腰が入れられました。三菱電機では長年、技術系を中心に男性社員が多数を占め、女性社員比率は1割強と低水準でした。当然ながら管理職に占める女性の割合もわずか3.1%(2023年度実績)に留まり、グローバル企業として外国籍人材の登用も大きく遅れていたのです。

この状況に阿部氏は強い危機感を抱き、2021年度から女性活躍推進とグローバル人材登用に一気に力を入れました。現在、2030年度までに女性管理職比率を12%へ引き上げることを公式KPIとして社外にコミットしており、母数拡大のための女性採用強化と、有望な女性社員の計画的な育成・登用を進めています。

また海外も含めたタレント発掘によって、経営層に占める女性&外国籍社員を2030年度に30%とする大胆な目標も掲げました。加えて、男性社員の育児休業取得率も大幅に向上し、既に社内目標をクリアしています。「取り組みが遅れた分、これから巻き返す」という強い決意のもと、同社はダイバーシティ経営を加速させているのです。 

しかし、多様な人材が存分に力を発揮するためには、人事評価・処遇制度そのものを変えなければならない。そう痛感した三菱電機は、約20年ぶりとなる人事制度改革にも踏み切りました。わずか1年という異例のスピードで制度設計から導入までを完遂し、2024年4月に新評価制度をローンチしています。

今回の改革では従来の年功的・序列的な要素を徹底的に排し、社員の役割と成果に見合った公正で分かりやすい処遇を実現することを目指しました。具体的には、ジョブ型人事制度をハイブリッド型で採用し、管理職以上および専門職には職務内容に応じた明確なグレードを設定

一方、若手層には柔軟な「ミッショングレード制」を設け、様々な職務に挑戦して成長できる期間を確保しています。これにより社員が新たな職務にチャレンジしやすくなり、将来ジョブ型に移行する土台を築きました。 

評価の在り方も一新されています。業績だけでなくプロセスや行動も評価する仕組みを盛り込み、部署横断での協力や同僚支援、上司への進言といった望ましい行動を正当に評価します。これは社員同士が協力し合い、健全な企業文化を育む狙いがあります。

また、評価結果の理由が明確に伝わるよう制度を簡潔に設計し、納得感も高めました。阿部氏は新制度について「社員の成長実感とエンゲージメントを高め、会社にとっても人材育成につながる“Win-WIn”の仕組みにしたい」と語っています。DE&Iを下支えする評価制度の再構築によって、性別や国籍に関係なく一人ひとりが活躍しやすい職場への変化が期待できます。

「現場発」で築くこれからの三菱電機

2025年現在、三菱電機の組織風土改革は道半ばにあります。しかし、この3年間で芽生えた「現場発」の変化の兆しは着実に広がりつつあります。阿部氏は、初期の改革がトップダウン主導であったのに対し、今後は現場が主体となって改革を深耕していく段階に入ったと強調します。

実際、同社は2025年度から組織風土改革を常態化すべく、全社プロジェクトだった「チーム創生」を発展的に解消し、社内に「カルチャー変革室」を新設しました。経営層がサポート役に回り、各職場での自律的な取り組みを後押しする体制へと移行しています。それはまさに「Start with ME*」(私自身から変わる、の意)のスローガン通り、一人ひとりの“現場力”を信じて未来を拓こうという決意の表れです。

*MEにはMitsubishi Electric(=三菱電機)の頭文字という意味も込められ、一人ひとりが自ら変わることで三菱電機(ME)を変えていこうというメッセージが託されている。

改革の成果は徐々に表れ始めています。社員同士が部署の垣根を越えて協力し合う事例が増え、小さな声も見逃さず拾い上げる風土が社内に根付きつつあります。さらには、若手・中堅社員が主体となって現場の課題解決に取り組むボトムアップのプロジェクトも各所で立ち上がっています。

エンゲージメントスコアの向上だけでなく、品質不正で失墜したブランドへの信頼も回復基調に転じました。「ここまで来れば必ず会社は良くなる」という手応えが広がり、社員の表情にも自信がうかがえます。

阿部氏は最後に「我々は一回、非常にしゃがまなければなりませんでした。そこからのスタートであり、大きな反省のもとで、幹部から社員まで一体になって進めてきました。現場や職場を良くするのは、そこにいる自分たち自身なのです」と力強く呼びかけました。三菱電機の挑戦は、停滞を打破し組織を変えたいと願うすべての企業の人事・経営層に、大きな示唆を与えてくれるに違いありません。

※記載されている情報はインタビュー当時のものです。

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