【遠藤功】勝ち続ける組織のカルチャーとは?なぜ、あなたの会社は変われないのか
2023.11.17
目次
多くの企業で人的資本経営の重要性を認識し、教育制度や評価の仕組みの見直しを進めている。しかし、「それだけでは企業は成長できない。重要なのはカルチャーだ」と語るのは、株式会社シナ・コーポレーション代表で、数々の企業で社外取締役や経営顧問を務める遠藤功氏だ。
企業が持続的に成長していくために、どのようにカルチャーの変革に向き合えばいいのか。遠藤氏に話を伺った。
Profile

遠藤功 氏
株式会社シナ・コーポレーション 代表取締役
早稲田大学商学部卒業。米国ボストンカレッジ経営学修士(MBA)。三菱電機、複数の外資系戦略コンサルティング会社を経て、現職。2006年から2016年まで早稲田大学ビジネススクール教授を務めた。2020年6月末にローランド・ベルガー会長を退任。同年7月より「無所属」の独立コンサルタントとして活動している。多くの企業で社外取締役、経営顧問を務め、次世代リーダー育成の企業研修にも携わっている。SOMPOホールディングス株式会社社外取締役。株式会社ネクステージ社外取締役。株式会社ドリーム・アーツ社外取締役。株式会社マザーハウス社外取締役。三菱電機株式会社、住友林業株式会社、ソシオークホールディングス株式会社などの顧問を務めている。

「カルチャー」を経営のど真ん中に据える(東洋経済新報社)
15万部を超えるロングセラーである『現場力を鍛える』、『見える化』(いずれも東洋経済新報社)をはじめ、『生きている会社 死んでいる会社』、『現場論』(いずれも東洋経済新報社)、『新幹線お掃除の天使たち』(あさ出版)、『ガリガリ君の秘密』(日本経済新聞出版社)など、ベストセラー書籍多数。
組織の品質は劣化する
人的資本経営に取り組むにあたって、教育の仕組みを強化し、評価制度を見直すことは重要だ。しかし、それよりももっと大事なことは、一人ひとりの従業員が本当に力を発揮できる環境が整っているかどうかだ。
よくあるのが、「研修ですごくいいことを学んだが、現場に戻った途端、相変わらず旧態依然とした雰囲気で学んだことを発揮できない」というケース。これではせっかく教育の機会を増やしても「受けっぱなし」の状態になってしまい、意味がない。
遠藤氏は「個の力を発揮する環境がない、というのはおかしな話ですよね。こうした課題の背景にあるのは、カルチャーへの無関心です」と語る。
カルチャーを日本語で表すと、組織風土、組織文化と言い換えることができる。
多くの日本企業に共通する経営テーマに「イノベーション(新たな価値創造)」「エフィシェンシー(経営効率の最大化)」がある。この2つは多くの経営者が認識しているテーマだが、「カルチャー(風土・文化の刷新)」を経営課題として捉えている経営者は少ない。経営改革を進めるためには、この3つのトライアングルを意識して取り組むことが大切だ。

「以前、スリーエムに勤めている友人から『アメリカのCEOがカルチャーを一番大事にしていて、ずっと言い続けている』という話を聞いたことがあります。その話を聞いて私は、日本の経営者で『カルチャーが大事』と言っている人に会ったことがないと思いました。
なぜ日本企業の経営者はカルチャーに目が向かないのか。理由としては、終身雇用で同質的な経営をしてきたことから、自分の会社のカルチャーは大丈夫だと思っているからかもしれません。もしくは、そもそもカルチャーにまったく関心がないのかもしれません。目先の業績ばかりを見ていてカルチャーを大事にしてこなかった日本企業の多くは、今大きな課題に直面していると言えるでしょう」(遠藤氏)
長らくカルチャーを重視してこなかった日本企業。今多くの企業で不祥事が起きているのも、その結果なのかもしれない。遠藤氏は企業が不祥事やトラブルを起こす背景に「組織の品質劣化」があると指摘する。
組織の品質劣化はなぜ起こるのか
企業が不祥事やトラブルを起こしてしまう背景にある「組織の品質劣化」とは、どういった状況なのか。
たとえば、上からの一方的な指示や通達ばかりで、下から上にものを言えない上意下達の組織。あるいは、横の連携がなく、無関心やあきらめ感が蔓延している組織。中間層が疲弊し、チャレンジする人がいない組織。自責ではなく他責にする人が多い組織。こういった組織は全体的に活力が乏しく、現場がファイティングポーズを取ろうとしない、あるいは取れない傾向が強い。「人間と同じように、組織にも感情があります。高揚感のない組織で個人が本来の力を発揮できるわけがありません」と遠藤氏は指摘する。
では、なぜ組織風土が劣化してしまうのか。遠藤氏は企業を魚にたとえ、「魚が頭から腐っていくように、組織も頭から腐っていく」と話す。
「企業の不祥事はトップの不適切な言動が起点となっているケースがよくあります。トップダウンで物事を決め、現場が上からの答えや指示を待つような会社だと、現場で働く人は主体的に動かなくなってしまいます。
また、魚は弱いところから腐り、1カ所が腐ると他のところも腐ってしまいます。企業も同じです。不正を起こすのは儲かっている部署ではなく、たいていは競争力のない赤字部門。上から『業績をなんとかして黒字にしろ』と言われてプレッシャーにさらされている部門です。追い詰められ、孤立化し、不正に手を染めざるを得なくなってしまう。そして、1カ所でそうしたことが起きれば、他の部署や拠点にも伝染してしまいます。これが組織の品質劣化です」(遠藤氏)
組織の品質が劣化するきっかけとなるのが、遠藤氏が「どぶにこま」と呼ぶ経営幹部の言動だ。
「まず、『どなる』のはパワハラですよね。意志薄弱で言動が『ぶれる』、自分で決めずに『にげる』、部下に任せず指示が『こまかい』、責任放棄して『まるなげ』する。こういった5つの言動をする人が上にいると、当然のことながら組織風土は悪くなります。このことを経営幹部はしっかりと認識する必要があります」(遠藤氏)

カルチャーを変革し、現場力を高める
企業が成長し、業績を上げていくためには、サービスの品質や業務の品質を高めるように、組織風土も見直して適切に管理していかなければならない。これがカルチャー変革だ。だが、遠藤氏は「カルチャーを良くすること自体が目的になってはいけない」と指摘する。
「大事なのはカルチャーを変革することによって、現場で働く人々に力を発揮してもらい、それを組織の力にまとめあげ、競争力を高めて業績を向上させることです。そうすれは従業員の給料も上がり、会社の価値も向上し、この国のステータスも上がっていくはずです」(遠藤氏)
では、カルチャーというのは経営においてどのような意味を持っているのだろうか。遠藤氏は経営を1本の木にたとえて解説した。
「木の幹にあたるのが事業、花や実にあたるのが利益、それらを支える根がケイパビリティであり、現場力です。そして、根が広がり、木が大きく成長するためには何よりも豊かな土壌が欠かせません。この土壌にあたるのがカルチャーであり、土壌を耕すことがカルチャー変革なのです」(遠藤氏)

現場力を高めるためには、良質な組織風土があることが絶対条件だ。しかし、組織風土が良くなれば必ずしも競争力が高まるわけではない。組織風土は働く環境や雰囲気をさすものであり、会社によって大きな違いはない。「成果を出し続ける組織をつくるためには、良質な組織風土を築いたうえで、企業独自の組織文化や組織能力が必要」と遠藤氏は語る。
「組織文化とは、成功するためにみんなが大事だと信じていることであり、組織の歴史の中から生まれるものです。そして、組織能力とは、大切だと信じていることをみんなで実践する力のことです。組織風土、組織文化、組織能力を3段重ねの跳び箱のように積み上げることで、強い組織をつくることができます。他社の真似ができない独自のものをつくりあげるまでには時間がかかりますが、日本企業はここにチャレンジなければなりません」(遠藤氏)
独自の組織文化、組織能力を積み上げ、成功している組織の一例として遠藤氏が紹介したのがトヨタ自動車だ。
「トヨタの組織文化を一言で言うと、改善文化です。文化と言えるまでに改善を磨き上げ、愚直に改善をやり続けることでトヨタは世界一に成長しました。一方で多くの企業で改善をやり続けないのは、成功体験がないからです。続けることで結果が出たという成功体験を持つことで、『これは大事だ』『やらなければいけない』と現場は体感し、独自の組織文化になっていくのです」(遠藤氏)
現場からカルチャーを創造する
では、カルチャーを変革し、しっかりと根付かせるためにはどうすればいいのだろうか。遠藤氏は、「組織風土、組織文化、組織能力の3つはトップダウンでは生まれません」と語る。
「トップが旗を振ることは大事ですが、組織風土、組織文化、組織能力の3段跳び箱をつくるのは現場です。『自分たちで変えるんだ』と主体的に行動する人を現場に増やしていかなければなりません。そして、まずは組織風土を変え、組織文化を高め、現場力という組織能力をもう一度磨きあげる。その先に、持続的な競争力を得ることができるのです」(遠藤氏)

現場の主体性を高めるためには、失敗を恐れず積極的に挑戦する風土をつくっていくことが必要不可欠だ。「挑戦しなければ失敗しない。何もしないのが一番いい」と従業員が思っているような会社は、決して成長することはできない。
遠藤氏は、「カルチャーは小さな行動の積み重ねでつくられます」と語る。きちんと挨拶する、何かをしたもらったら「ありがとう」と伝える、がんばっている人をたたえる、困っている人がいたら助ける、間違っていたら謝る。こういった何気ない行動を従業員の一人ひとりができるかどうかが、組織風土を変える第一歩となる。
「人間には3つのタイプがいます。良いカルチャーをつくる人、良いカルチャーを壊す人、そして良いカルチャーを無視する人です。一番厄介なのが無視する人で、組織の中にも多くいます。組織風土を変えるためには壊す人、無視する人を良いカルチャーをつくる人に変えていかなければなりません。そのためにも、小さなことから積み上げていくことが必要です。
今、日本企業の多くが主体性を発揮できない組織になっています。企業が成長するためには、主体的に行動してチャレンジする従業員を増やし、彼らが活躍できる環境をつくっていかなければなりません。他社がまねできないような独自性の高いカルチャーをつくり、現場力を高めていくことが再生のためには不可欠です。」(遠藤氏)
※記載されている情報はインタビュー当時のものです。
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