百年企業の「攻め」の組織改革

人的資本経営を推進するためには、経営戦略と人事戦略を連動させながら、カルチャー変革を進めていくことが必要だ。では、成果を挙げている企業では具体的にどのような取り組みを行っているのだろうか。
虫ケア用品などを扱うアース製薬では、「過去の成功で飯は食えない。常に新しいことをやろう」という考えのもと、事業創出や生産性の向上を目指して、従業員が働きやすい環境をつくるためにさまざまな取り組みを実践している。
アース製薬株式会社 代表取締役社長CEO の川端克宜氏に、同社のカルチャー変革の取り組みやビジョンについて語ってもらった。

Profile

川端 克宜 氏

アース製薬株式会社 代表取締役社長CEO

1971年兵庫県生まれ。1994年に近畿大学商経学部(現・経営学部)卒業後、同年アース製薬株式会社に入社。広島支店長、大阪支店長を経て、2013年3月取締役 ガーデニング戦略本部本部長。2014年3月代表取締役社長(兼)ガーデニング戦略本部本部長。2015年8月代表取締役社長(兼)マーケティング総合戦略本部本部長。2017年1月代表取締役社長 アースグループCEO。2021年3月代表取締役社長CEO(兼)グループ各社取締役会長。

成功に留まることなく、新しいことをやっていく

約1400名の社員が在籍し、グループ全体では4000名以上の社員を抱えるアース製薬。殺虫剤を「虫ケア」という呼び方に変えて商品を販売し、シェアトップを誇っている。かつては売上の多くを虫ケア商品が占めていたが、現在は全体の3割程度に。虫ケア用品以外にも入浴剤、掃除用品、オーラルケアなど幅広く商品を展開しており、2005年に上場して以来、継続的に成長を続けている。
2014年に同社代表取締役社長CEOに就任した川端克宜氏は、この10年さまざまな社内変革に取り組んできたという。

「私は初めてのプロパー出身の社長です。社員の時代から『ここは変えたほうがいいな』と感じていたことを、社長になって少しずつ変えてきました。これまで実現できたのは、一緒になってやってくれる社員や前任者である現会長の理解があったことが大きいと感じています。
会社を変えていくというのは、前任者を否定することになるんですね。『全然あきません』と言ってしまうと喧嘩になるので言わないですが、やんわりと、でも180度変えるようなことをやっているわけです。そこをお互いに受け入れる風土があったからこそ、なし得たことだと思います」(川端氏)

幅広く商品を展開している背景には、会社の未来を見据えた戦略があったという。川端氏が常々口にしているのが、「過去の成功で飯は食えない。常に新しいことをやろう」という言葉だという。

社員のエンゲージメント向上が事業成長につながる

もともとはトップダウンの会社だったというアース製薬。川端氏は「どちらかと言えば、風通しが悪かったと思います」と振り返る。では、どのように組織風土を変えていったのだろうか。

「人は感情の動物です。そこから避けて通ることはできません。だからこそ、さまざまな社員が働きやすいと感じる制度や福利厚生を導入してきました。良い会社には良い人材が集まります。当然人件費は上がりますが、それでいいと思っています。人の力こそが会社を支えていきますし、そうでなければなりません。人件費が高いというのは当社にとっては喜ぶべきことなのです」(川端氏)

給料の水準を上げるだけでなく、社員が働きやすい職場をつくるため、同社では幅広い施策を実行した。
たとえば、働き方という点では、在宅勤務や時差出勤、直行直帰などのさまざまな勤務形態を設けたほか、従来は2年で消滅していた有給の未消化分を病気や育児介護などで利用できるように、最大50日の積立有給制度を設置。また、最近新しく、アース製薬を退職してももう一度戻れる制度を取り入れた。

「私自身も経験がありますが、誰でも新しいことをやってみたい、違う会社を見てみたいと思うことがあるはずです。だったら、一度辞めてみてもいいと思うんです。そして、外を見た結果、またアース製薬で働きたいと思ったときに戻ってこれるチャンスを提供する。このように、アース製薬の働き方や福利厚生をどんどん変えているのが現状です」(川端氏)

社員のモチベーションを高めながら、新しい事業をつくっていくための取り組みとして、新規事業の法人営業を募集、マーケティング部門のSNS担当を募集といった社内公募による部署異動制度も導入した。現在までに約30部門で実施されているという。

社員同士のコミュニケーションを向上させるために、さまざまなクラブ活動も実施。サッカー、野球、ゴルフ、テニスなどの運動系のクラブだけでなく、e-スポーツや麻雀クラブもあるという。「麻雀はあまり健康的なイメージがないですが、社員がやりたいことがあって、それが明日への活力になるのであればいいということで、麻雀クラブはできました」と川端氏。

また、社員が快適に働けるオフィス環境整備にも力を入れているという。ゆったりと休憩できるようにオフィス内にカフェをつくったり、社内にシミュレーションゴルフができる部屋をつくったりなど、各拠点にリフレッシュできるスペースを用意。

いずれも一見すると事業と関係性がないように思えるが、「速効性はないですが、社員同士のコミュニケーションが増え、エンゲージメントやロイヤリティが高まれば、最終的に会社の事業につながっていくという考えで取り組んでいます」と川端氏は語る。

中期経営計画は社員のもの。社員の理解なくして前進なし

会社経営を航海にたとえると、経営理念とは道しるべであり、ビジョンは理想の到達目標、ミッションはそのために成すべきこと、そして戦略が、目的地に到達するための航路であり到達方法だ。

「この戦略にあたるのが中期経営計画です。会社が中期で目指すあり方と現状のギャップを埋めるための計画であり、長期の経営ビジョンを実現するために3〜5年でやるべきことを示すものです。そのため、私は売上や目標値などの定量的な数字よりも、我々がどこに向かっていて、どんな方法で到達しようとしているかを社員と共有することが大事だと考えています」(川端氏)

こうした考えから、アース製薬では社員一人ひとりが同じ方向を向けるように、中期経営計画の内容をわかりやすく全社員に伝え、理解してもらうための工夫として、中期経営計画の骨子をストーリー化し、マンガにして配布したという。

「中期経営計画は複雑な数字や専門用語が並び、一般社員にとっては馴染みの薄いものになりやすいですが、社員一人ひとりに会社が進むべき方向性と、そのために自分が何をすべきかを理解してもらいたい。そこで、マンガにして配布しました。」(川端氏)

全部で5話まで作成し、読んだ社員からのアンケートも回収。「分かりやすく、方向性が明確になった」という回答が大半を占め、子や行動規範についての理解が広がっている手応えがあるという。「中期経営計画は社員のためのものでなければなりません。社員の理解なくして前進なし。その点はこだわっていきたいと考えています」と川端氏は今後もこうした工夫を続けていく考えを示した。

マンガの中には、「Unipos」を活用するシーンも登場。川端氏自身、導入前は「本当に使うか」「50代以上の社員は抵抗があるのでは」と考えていたそうだが、「経営者として、まずは場は用意しよう」と導入を決意。導入から1年以上経ち、85%以上の社員が「使って良かった」と回答するなど、社内コミュニケーションの促進に役立っているという。

過去を否定し、前向きに挑戦していくプライムベンチャーに

2025年に100周年を迎える老舗企業のアース製薬。老舗は歴史がある一方で、古くて昔ながらの企業というイメージがどうしてもついてくる。アース製薬ではこうした老舗の歴史のうえにベンチャー精神を取り入れることを重視している。

「社員には常にベンチャーの気持ちで、挑戦を続けてほしいと伝えています。自らファーストペンギンとなり、失敗を繰り返しながら、リスクを恐れずに前向きに攻めていってほしい。もはや社内でファーストペンギンという言葉を知らない人はいないくらいに言い続けています」と川端氏。ただのベンチャーではなく一流のベンチャーを目指すという意味を込めて、『プライムベンチャー(※略してプラベン)』という言葉をつくり、商標も取得した。

ここまで紹介されたアース製薬のさまざまな施策を実践してきた根底にあるのは、社員の自主性を重んじ、挑戦した結果が成功しようと失敗しようと高く評価をするという風土だ。逆に、リスクを考えすぎて挑戦しないことは良くないという考え方が社内に浸透している。

「挑戦しないで現状を維持することは、衰退の始まりです。当社では『成功の反対は失敗ではなく、何もしないこと』という考え方があります。失敗してもいいから1mmでもいいから成長しようということを、社内では言い続けています。
挑戦したことが無謀だったのか、果敢だったのか。答えは後にならなければわかりません。失敗したらどれだけ良いことをしても無謀と言われるでしょう。だからやらないのではなく、まずはやってみることが大事。そうでなければ前に進むことはできません」(川端氏)

社員が誇りを持てる会社に

人件費をいとわず、今後も「人がすべて」という考えで、失敗を繰り返しながら人的資本への投資を進めていくというアース製薬。

「企業は人なり」という言葉があるように、アース製薬では社員がお互いのリスペクトを忘れずに、会社の目標や自分の役割を理解して、自主性を持って取り組める環境をつくることを何より重視している。それは、一人ひとりの挑戦の先に大きな結果があると考えているからだ。

「『アース製薬って何が有名な会社ですか?』と言われたときに、商品名を挙げてもらえるのもうれしいですが、やっぱり『社員が一番』と言ってもらえる会社になりたい。そして、社員が誇りを持てる会社になりたい。これからもそうした人的資本経営を目指していきます」(川端氏)

※記載されている情報はインタビュー当時のものです。

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