【秋田夏実】なぜ〈みずほ〉の社員は「ワクワク」仕事をするようになった?
2023.11.30
目次
人的資本経営を推進するためには、経営戦略と人事戦略を連動させながら、カルチャー変革を進めていくことが必要だ。では、成果を挙げている企業では具体的にどのような取り組みを行っているのだろうか。
「EXの向上なくしてCXの向上なし」と語るのは、みずほフィナンシャルグループ 執行役 グループCPO兼グループCCuOを務める秋田夏実氏だ。同社ではどのような考えのもと、カルチャー変革を推進しているのか。秋田氏に話を伺った。
Profile

秋田 夏実 氏
みずほフィナンシャルグループ 執行役 グループCPO兼グループCCuO
〈みずほ〉のCPO兼CCuOとして、グループ全体の組織開発、人材開発、健康経営、多様な人材の活躍の推進、カルチャーの改革、コミュニケーション活性化、ブランド価値の向上等を担う。〈みずほ〉入社前は、米国IT企業のアドビの日本法人副社長として、⽇本のマーケティングおよび広報を統括すると共に、DEIの推進、自由闊達な組織風土の醸成に取り組む。それ以前は約20年に渡って金融業界に身を置き、マスターカードの日本地区副社長、シティバンク銀行デジタルソリューション部長などを歴任。東京⼤学 大学院総合文化研究科・教養学部 諮問委員。
EXの向上がCXの向上につながる
コロナ禍でリモートワークが広がるなど働き方が変化し、個人の意欲、価値観の多様化も進んできた。みずほフィナンシャルグループ 執行役 グループCPO兼グループCCuOの秋田夏実氏は、「多くの人が自分の人生における働く意味を考えるきっかけになった」と語る。
こうした変化は内閣府が出している「令和4年度国民生活に関する意識調査」からも読み取れる。「収入と自由時間、どちらを増やしたいか?」という質問に対して、18〜29歳の47.3%は「自由時間が大事」と回答。前年度から増えており、自由時間を重視する傾向が年々高まっていることがわかる。一方、30〜39歳は「自由時間が大事」と回答した人が40.6%。若い世代のほうが上の世代よりも働き方に対する意識が大きく変化していることが読み取れる。

組織と個人の関係性にも変化が起きている。今は不確実性の高いVUCAの時代と言われているが、これはつまり、過去の延長線上に未来がないということだ。秋田氏は次のように語る。
「以前は過去を振り返れば正解がありました。しかし、今は過去から未来に対する処方箋を見つけることが難しくなった。こうした中だからこそ、企業は主体的、自律的に考え、行動できる人材の育成と確保が急務となっています。
少し前まで、新卒で採用した社員が定年まで働くことを前提としていて、企業側には多少の楽観があったと思います。しかし、今は社員と組織の関係性は『囲い込み』から『選び選ばれるもの』へと変わりました。
選ばれるためにはEX、つまり社員体験の向上が不可欠です。従来型の管理する人事から、社員と対話し、寄り添い、支援する人事に変わっていかなければなりません」(秋田氏)
人事の変革が必要な背景として秋田氏が注目しているデータが、米・ギャラップ社が行った世界各国の企業を対象に行った従業員のエンゲージメント調査だ。
この調査によると、日本は2017年時点で「熱意あふれる社員」の割合が6%で、調査した139国中132位という結果だった。一方で、企業内に問題をもたらす「周囲に不満をまき散らしている無気力な社員」の割合は24%、「やる気のない社員は」は70%という結果に。この傾向は改善せず、2022年の調査では「熱意あふれる社員」の割合は5%に低下し、直近2023年の調査でも5%と世界最低水準となった。

「この結果は由々しきことだと思います。これだけモチベーションが高まらない、熱意をもって取り組めないのはなぜなのか」と秋田氏。さらに、「多くの事例からも、EXの向上が顧客体験の向上につながり、それが高い成果につながっていくことは明らかです。社員が幸せであってこそ、お客様に満足していただけるのだと思います」と続けた。
社員の声から生まれたパーパス
では、〈みずほ〉ではEX向上やカルチャー変革のため、どのような取り組みを行っているのか。
同社では2023年5月に企業理念を再定義し、パーパスを制定した。きっかけは、〈みずほ〉を良い会社に変えたいという想いを持ったメンバー150名が自主的に立ち上げたワーキンググループだった。「経営理念を再定義したほうがいいのでは」という声がメンバーから上がり、約半年にわたって経営陣に対して素案をぶつけ、議論を重ねそれを全社員に公開。それに対して社員がフィードバックするのを繰り返し、「ともに挑む。ともに実る。」というパーパスを制定した。
「我々は挑戦という言葉を常に胸に刻んでいます。2023年に〈みずほ〉は第一国立銀行の設立から数え150周年を迎えました。創業に関わった渋沢栄一はいかに日本の経済を発展させるかを考え、挑むマインドセットを持った人でした。その脈々と続くDNAを大切にしながら、我々は次の時代につないでいかなければならない。その想いをパーパスに込めています」(秋田氏)
パーパス制定に先立ち、同社では2023年4月にカルチャー変革の専門組織としてコーポレートカルチャー室を立ち上げた。CPO(チーフ・ピープル・オフィサー)とCCuO(チーフ・カルチャー・オフィサー)を兼務する秋田氏の役割は、カルチャーの変革、人事制度の変革、プロセスの変革だ。兼任している背景には、「人事制度改革とカルチャー改革は一体不可分」という考え方がある。
〈みずほ〉では新しい人事の枠組み〈かなで〉を2024年度から本格ローンチするという。「社員が自分らしくあることを実現し、〈みずほ〉で働く意義を実感できるようにするための環境や仕組みを整え、取り組みを今後加速させていきます」と秋田氏。

秋田氏がカルチャー変革を進めていく中で特に重視しているのが、全国の拠点を回って現場の従業員と対話をすることだ。
「現場に足を運ぶことなくカルチャーは変えられません。現場で働く社員のみなさんと対話をする中で見えてくることはとても多い。先日はコールセンター業務を担う拠点を訪問しました。そこでの対話を通して、社員のみなさんが少しずつではあるけれど会社の変化を感じているのが伝わってきました」(秋田氏)
また、みずほフィナンシャルグループでは中期経営計画でエンゲージメントスコアやインクルージョンスコアの目標を掲げている。「現状の数値からはギャップがありますが、あえて高い目標数値を掲げて、ここに向かって頑張っているところです」と秋田氏は展望を語った。
社員が自分らしくあるために。カルチャー変革に向けた〈みずほ〉の施策
〈みずほ〉が掲げる「社員が自分らしくあるための取り組み」とは、具体的にどういう内容だろうか。
まず、多様な人材の活躍に向けて、キャリア人材の強化に取り組むほか、社員の副業も解禁。その結果、2022年度のキャリア採用者数は679名、副業者数は606名だった。「外で得た知見や体験を〈みずほ〉の中に取り込んでもらいたい。そして、イノベーションにつなげていってもらいたいという考えがあります」と秋田氏は背景を語った。
ほかにも、女性経営リーダー育成に向けて役員メンタリングを実施。20数名の女性リーダー候補一人ひとりに対して役員が一人ずつメンターとなり、6カ月のプログラムを行った。双方から好評だったため、今後も規模を拡大して実施する予定だという。また、社長や頭取に対して20代の若手がメンターとしてつくリバースメンタリングという取り組みも行っている。
次に、組織を活性化するための取り組みとして、〈みずほ〉では社内におけるデジタルコミュニケーションを重視している。Delveで自身の情報を開示し、Viva Engageでつながりをつくり、Teamsを活用して気軽にコミュニケーションを取れる仕組みを構築。現在、Viva Engage の利用者数は1万8000人以上となり、230以上のコミュニティが立ち上がっているという。「業務に関係なく、自分たちが好きな話題でコミュニティを立ち上げています。業務では関わることのない社員がつながるコミュニケーションの場として活性化しています」と秋田氏。
同社の取り組みのユニークな点の1つが、社員のコミュニケーション促進のために社内に設置した「ともに挑む。ともに飲む。自販機」だ。2名が同時に社員証をかざし10秒以内に選択すると、好きな飲料を1本ずつ受け取れるという遊び心のある仕組みで、社員が会話するきっかけを生み出している。
「導入前は『パーパスをもじった名称にしていいのか?』と言われました。しかし、本来パーパスは社員に身近なものとして感じてもらうことが大切です。額縁に入れて高いところに飾って、みんなで唱和するものではないはずだと思いました。この施策以降、『ともに挑む。とも食べる。』など、いろいろな名称にパーパスを取り入れることが社内では割と普通になりました」(秋田氏)
組織開発の取り組みとしては、まずは人事グループが被験者となり、どうしたら組織の課題やコミュニケーションの課題を克服していけるかをトライ&エラーで試し、それをグループ全体に広めていく方法で実施している。
具体的には、「『人と人の関係性』に働きかけて、組織内のあらゆる『協働のプロセス』を発揮することで、組織全体の社員エンゲージメントと組織パフォーマンスを向上させていく部店主体のアプローチを行っている」という。
こうした取り組みはどのくらい効果が現れているのだろうか。施策の1つである組織開発個別支援プログラムに参加した社員に「職場の雰囲気やメンバーの行動に変化を感じたか?」と質問したところ、参加した75%が「変化を感じた」と回答。「自分の組織を良くしていくんだという実感を持った」「さまざまな気づきがあり、拠点マネジメントに活かせている」といった声が寄せられるなど、ポジティブな結果につながっている。

〈みずほ〉では、役員に対して働き方の見直しに向けた意識変革を目指す研修も実施。
「研修では、『7時間以上の睡眠が大事』『勤務間インターバルをしっかり取ることが大事』といった内容を伝えています。『良い話を聞いた』で終わってしまわないように、役員には研修後すぐに『自分の部門の社員が目指すべき働き方は?』『そのために辞めるべきことは?』というコミットメントを書いてもらい、発信してもらいます。さらに、役員同士でディスカッションする動画を撮影し、全社に公開。こうした取り組みによって、社内全体でカルチャー変革に対する理解が深まっていると感じています」(秋田氏)
このほか、アルムナイ・ネットワークの強化にも力を入れている。現在は1200名を超える〈みずほ〉のOB、OGがネットワークに参加し、今後も拡大していく見込みだ。「外とつながり、そこから刺激を受けることで、より良い方向にかわっていけると考えています」と秋田氏は語る。
社員を巻き込むために、ワクワク感や遊び心も大事
秋田氏がカルチャー変革を推進するにあたってもう1つ大事にしていることが、「社員を巻き込むために、ワクワクすること、一緒にやろうと思えるような遊び心のあるアプローチを絡ませること」だという。
「トップが継続的にメッセージを発信すること、ワクワク感と当事者意識を持てる施策でボトムアップで巻き込んでいくことが重要です。
もう1つ、社内向けの情報発信だけでは認知が進まないことがあるため、社外からの評価や社外からの報道を通して社員が知る機会を得られるように、社内外で継続的に情報発信をすることを心がけています。どんなに良い取り組みをしても、認知されなければ存在していないのと同じです。
そして、効果検証をしっかりと行うことも、カルチャー変革において重要です。
カルチャー変革の取り組みはまだ始まったばかりですが、これからも注力して取り組んでいきたいと考えています」(秋田氏)
※記載されている情報はインタビュー当時のものです。
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