【鼎談】カルチャー変革に成功した企業の共通点は「遊び心」
2023.12.22
目次
企業のカルチャー変革は何か1つ施策を実行したらすぐに変わるといった簡単なものではなく、多様な施策を継続して続けていくことが大切だ。チャレンジする文化を組織に根付かせていくためには、どのような意識を持って変革に取り組んでいけばいいのだろうか。
『「カルチャー」を経営のど真ん中に据える』の著者である遠藤功氏、アース製薬CEOの川端克宜氏、みずほフィナンシャルグループ グループCPO兼グループCCuOの秋田夏実氏の3名に、実際にカルチャー変革に取り組んできたからこそわかる「カルチャー変革のリアル」をテーマに、ディスカッションしてもらった。

遠藤功 氏
株式会社シナ・コーポレーション 代表取締役

川端克宜 氏
アース製薬株式会社 代表取締役社長CEO兼グループ各社取締役会長

秋田夏実 氏
株式会社みずほフィナンシャルグループ 執行役 グループCPO兼グループCCuO
遊び心を取り入れ、社員に自分ごと化してもらう

遠藤氏がみずほフィナンシャルグループ、アース製薬の両社のカルチャー変革が成功した要因の1つとして挙げたのが「遊び心」を取り入れることだ。
みずほフィナンシャルグループではトップが継続的にメッセージを発信し、社員がワクワク感と当事者意識を持てる施策を実施。トップがリアルな言葉で考えを伝え、社員と対話していくことで、カルチャー変革を加速させている。
また、アース製薬では中期経営計画を社員に理解してもらいやすいようにマンガにして配布する取り組みなどを行っている。
「トップが堅苦しくて、過剰にフォーマルな雰囲気がある会社だと、カルチャーを変えようとしてもなかなかうまくいかないと思います。カルチャー変革を成功させるためには、トップが肩の力を抜き、社員目線に立って共感されやすい取り組みをしていくことが必要です」(遠藤さん)
では、アース製薬ではどのようにして中期経営計画のマンガ化というアイデアが生まれたのだろうか。
アース製薬の川端氏は、「アイデア出しは私自身も行います。人任せにせず、自分ごととして考えることを意識しています。また、みんなで会議をしていると『こんなことを言ったら怒られるのでは』と萎縮してしまったり、通り一辺倒のアイデアしか出なかったりすることがあります。そこで、社員にわかりやすいものにすることだけを条件にし、自由に意見を出し合うようにしました」と振り返った。
みずほフィナンシャルグループの秋田氏は、前職では外資系企業の日本法人で副社長の任に就いていた。そこで、会社の未来を自分ごと化することの必要性を実感したことが、みずほフィナンシャルグループでCCuOの仕事をするうえでも活きているという。
「前職では年度初めに全社のキックオフ会議があったのですが、社員みんながその会議をお祭りのように捉えていてワクワクしていたのです。これって、会社の未来を自分ごと化していたからだと思います。その中でずっと考えていたのは、どうすればこの『ワクワク成分』を日本企業に取り入れることができるのか、でした。
アメリカのIT企業のカルチャーを日本企業にそのまま取り入れたら、アレルギー反応が起きるかもしれない。大事なのは、それぞれの会社の業態やステージなどに合わせて少しずつ調合を変えて取り入れることです」(秋田氏)

自社の常識にとらわれず、外から新しい考えを取り入れる
こうした経験をふまえ、日本の伝統的な企業の1つであるみずほフィナンシャルグループで、現在カルチャー変革に取り組んでいる秋田氏。「当社がカルチャー変革に踏み出すことができたのは、変わらなければいけないという切迫感があったから。自分たちの常識は世の中の常識ではないのかもしれないと気づいたことで、『それならば、外から新しいものを取り入れよう』とオープンな雰囲気が生まれたのだと思います」と語る。
こうしたポジティブな変化を推進する1つの要因となっているのが、年間600名以上いるキャリア採用のメンバーだ。外から来た人間だからこそ、中の人が気がつかない部分に気がつくことができる。
「私自身、入社後に驚いたのが、困っているときに驚くほど丁寧に教えてくれたり、私がこれまで経験してきたことに対して興味を持ってくれる社員が多いことでした。キャリア採用で入ってきたメンバーにも聞いてみたら、みんなみずほで同じような経験をしていることがわかりました。
こうした自社の良い点をプロパー社員に伝えると、『いえいえ、それって普通じゃないんですか』という反応でした。中にいると、自分たちの良さにはなかなか気がつけないもの。だからこそ、外から来た人が自社の良い部分を見出し、社員の自信に繋げることができるのではないでしょうか」(秋田氏)
秋田氏の話を受けて遠藤氏は、「カルチャー変革とは、ある意味で自分たちの良さを再発見する旅のようなものなのかもしれません」と答えた。
「埋もれている自社の良いところをもう1回探すことが、カルチャー変革につながります。もちろん変えなければいけない点もあるはずです。『変える』と『再発見』を同時に取り組んでいくことが大切です」(遠藤氏)

「やる理由」ではなく、「どうしたらできるのか」を考える
秋田氏が人材育成に取り組むなかで社員によく伝えているのが、「『やらない、できない』と諦めるのではなく、やる前提に立ち、『どうしたらできるのか』を考える」というメッセージだ。
「私自身の過去の経験なのですが、あるブランドの担当をしていたときに、『マーケティングリサーチとPRも担ってほしい』と言われました。仕事が3倍になり、未経験の業務もあるので、最初は『無理だ』と思いました。なら、どうしたらできるのか。そこで、ほかの方に依頼できる業務は渡し、未経験の業務には伴走してくれる人をつけてもらうように会社と交渉するなどしました。
やる前提に立ってできる方法を考えることでアプローチの仕方は変わってきます。社員のみなさんにも、こういった意識を持ってチャレンジしていこうと伝えています」(秋田氏)
秋田氏の話を受けた遠藤氏は、「『どうしたらできるのか』を考える会社はチャレンジングな風土があり、伸びていきます」と語る。遠藤氏によれば、多くの企業が『なぜやるのか』という議論に時間や労力を使ってしまい、実際にやろうとしたときにうまくいかないのだという。
「『なぜやるのか』『やることに何の意味があるのか』をいくら議論したところで前には進んでいきません。理由に腹落ちしないと納得できないというのはわかりますが、私からすると不毛の議論です。やる理由なんて、『やると決めたから』でいいと思います。こういうカルチャーはやっぱり変えていったほうがいいと思います」(遠藤氏)
挑戦してうまくいかなかった場合は、方法を変えればいいし、うまくいかなかったという結果から学べることもある。何もしなかったのと比べても建設的だといえる。「まだ一歩踏み出すことができていない人も、コンフォートゾーンを飛び出して挑戦してみることを大事にしてほしい」と秋田氏は述べた。
トップがチャレンジする姿勢を見せていく
アース製薬の川端氏は代表就任後、約10年かけて“昔ながらの日本企業”だったアース製薬のカルチャー変革に取り組んできた。「社名も、扱っている商品も変わっていませんが、会社は180度くらい大きく変わりました」と川端氏。
川端氏が社員に日頃から伝えていることが、「チャレンジしないことが一番ダメ」ということ。このメッセージを徹底して伝え続けることで、文化と呼べるものになった。
同社のチャレンジする文化を象徴しているのが社内公募制度だ。この制度を利用して異なる部署に異動する人も多いという。
「1つの部門でずっとキャリアの階段をのぼっていくケースはあまり多くないですね。研究部門のトップが営業出身といったことが頻繁に起こります。当然部門が変われば目先の仕事が変わるので、ノウハウを覚えなければいけません。しかし、組織の中でやることは基本的には同じ。本人の希望を聞いてマッチングし、新しいチャレンジができる環境をつくっています」(川端氏)
トップ自身が新しいチャレンジをしていく姿を見せることは、社員に対してすごく良い刺激となる。結果として、組織全体にチャレンジする風土が育まれていく。
社員の挑戦にブレーキをかけず、現場の気づきが上がってくる仕組みをつくる
また、川端氏は、「チャレンジというのは、自分の身近なことを含めてもっと良くしたいと考え、小さな変化を起こしていくこと。変化を生み出そうとする意識を社員一人ひとりが持つことで、会社のカルチャーも少しずつ変わっていきます」と語る。
川端氏の発言を受けて遠藤氏は、「カルチャーは目に見えないものだからこそ、小さくてもいいので目に見える変化をつくることが大事。変化が自然に生まれたものではなく、『誰かが行動した結果として変化が起きた』と取り組みのプロセスや結果を可視化する。それが社内に広がっていくことで、変えることが当たり前のカルチャーが生まれます」と語った。
変化を生み出そうとする意識がアース製薬の社内に浸透していることは、毎日のように商品開発アイデアが寄せられることからも明らかだ。同社では部門に関わらず商品アイデアを出すことができる。
「中には実現が難しいものもありますが、余計な知識や先入観がないからこそ出てくるアイデアもあり、そこから商品開発のヒントをもらうこともあります。
大事なのは、『声を挙げても無駄』という雰囲気をつくらないこと。『ダメ』と言ってブレーキをかけるのではなく、社員が生活者目線で築いたアイデアを挙げやすい雰囲気をつくることが必要です」(川端氏)
現場の気づきが自然と上がっていく仕組みができている組織は健全であり、理想的なあり方だと言えるだろう。
みずほフィナンシャルグループ、アース製薬の取り組み事例からは、チャレンジするカルチャーをつくるためのヒントを多く得られる。これからカルチャー変革に向き合っていく企業にとっても参考になるはずだ。

窓を1つ開けただけでは、風通しは良くならない
さまざまな企業の経営に関わり、カルチャー変革に取り組んできた遠藤氏は、「カルチャーを変えるためには、あの手この手を使って継続していくことが大切です」と述べた。
「みなさんが窓がすべて閉まった部屋にいるとします。風通しが悪く、空気が重たいとき、窓を開けますよね。でも、窓を1つ開けただけでは風は通りません。2つ、3つと窓を開けて、ようやく風が通ります。カルチャー変革もこれと同じ。何が効果的なのかはやってみなければわからないので、とにかくいろいろな施策をやってみることが大切です。
中には窓を閉めようとする人も出てくるかもしれません。そしたら、また開ければいいんです。とにかく、窓を開ける人がいなければ空気は変わりません。そして、それを継続していくことでカルチャー変革につながっていくのです」(遠藤氏)
顧客から選ばれる会社となるためには、社員に選ばれる会社でなければならない。そのためにも、カルチャー変革はマストで取り組む必要がある。
「アメリカの企業経営者と話していると、どうやったら社員の帰属意識を高められるかをすごく意識しています。『この会社で働けて幸せだ』と感じてもらうために、経営者は努力をしなければなりません。日本企業でもこうした意識が高まっていってほしいと思います」(遠藤氏)
※記載されている情報はインタビュー当時のものです。
この連載の記事一覧