【前編】なぜ今、風土改革が必要なのか?基礎から学ぶ組織風土改革の全て

今、日本企業においてカルチャーの重要性が再認識されている。カルチャーとは組織風土や文化のこと。これからの時代、企業が持続的に成長し、競争優位を確立するためには健全な組織風土が必要不可欠だ。

では、健全な組織風土はどのようにして生み出すことができるのか。『現場力を鍛える』などの著書がある株式会社シナ・コーポレーションの遠藤功氏を招き、組織風土とは何か、どのように風土の変革をしていけばいいのかについて、話を聞いた。

Profile

遠藤功 氏

株式会社シナ・コーポレーション 代表取締役 

早稲田大学商学部卒業。米国ボストンカレッジ経営学修士(MBA)。三菱電機、複数の外資系戦略コンサルティング会社を経て、現職。2006年から2016年まで早稲田大学ビジネススクール教授を務めた。2020年6月末にローランド・ベルガー会長を退任。同年7月より「無所属」の独立コンサルタントとして活動している。多くの企業で社外取締役、経営顧問を務め、次世代リーダー育成の企業研修にも携わっている。

SOMPOホールディングス株式会社社外取締役。株式会社ネクステージ社外取締役。株式会社Epsilon Molecular Engineering社外取締役。株式会社ドリーム・アーツ社外取締役。株式会社マザーハウス社外取締役。三菱電機株式会社、住友林業株式会社、ソシオークホールディングス株式会社などの顧問を務めている。

「カルチャー」を経営のど真ん中に据える(東洋経済新報社)

15万部を超えるロングセラーである『現場力を鍛える』、『見える化』(いずれも東洋経済新報社)をはじめ、『生きている会社 死んでいる会社』、『現場論』(いずれも東洋経済新報社)、『新幹線お掃除の天使たち』(あさ出版)、『ガリガリ君の秘密』(日本経済新聞出版社)など、ベストセラー書籍多数。

日本企業が成長できない理由

今の日本において、新しいイノベーションを次々と生み出し、右肩上がりで成長を続けている企業はどのくらいあるのだろうか。新しい価値を生み出すことに苦労し、成長が横ばいになっている企業も多いだろう。イノベーションを起こせなければ、組織は成長しない。では、なぜイノベーションを起こせないのか。その理由は、挑戦をしていないからだ。

SOMPOホールディングス株式会社の社外締役、三菱電機株式会社・住友林業株式会社の顧問など、数々の企業の風土改革に携わる遠藤功氏は、日本企業が抱える課題を次のように話す。

「挑戦しない組織は成長できません。なぜ挑戦できないのかというと、挑戦ができない組織になっているからです。挑戦させてもらえない、あるいは、挑戦しようとしても誰も助けてくれない。多くの日本企業がそういう組織になってしまっています。誰もが失敗を恐れ、挑戦する人が増えない。当然、成功することはありません。」(遠藤氏)

挑戦せず、成長ができない組織からは、「こんな会社にいても意味がない」と意欲のある人が離れていく。人材流出につながり、さらに組織の力は低下していくという悪循環に陥ってしまうのだ。では、挑戦できない組織になってしまったのはなぜなのか。遠藤氏はその理由の1つとして、「組織風土に問題がある。」と指摘する。

挑戦しても称賛されない、挑戦した人間が損をする。日本企業の多くでこうした組織の雰囲気、空気になってしまっているのだと思います。この組織風土を変えていかなければなりません」(遠藤氏)

これまで多くの日本企業において、組織風土に対する問題意識は決して高いとは言えなかった。そのため、「組織風土に問題がある」と指摘されても、どう改革していけばいいかがわからないという企業も多いだろう。

こうした企業に対して遠藤氏は、「組織風土の改革は、あれこれ考えてからやるのではなく、上からも下からも、あらゆる手段を講じてやってみることが大事」と言う。

「やれば必ず良くなります。組織にたとえ小さくても風穴が開けば、空気が変わり、組織全体にポジティブな変化が生まれてくるのです」(遠藤氏)

組織の感情が劣化し、活力が枯渇する

そもそも、組織風土とは一体何だろうか。改めて言葉の定義を再認識しておきたい。

組織風土とは、一言で言えば「組織を覆う雰囲気」のことだ。良い雰囲気もあれば、悪い雰囲気もある。目に見えないからこそ醸成するのが難しい。

低迷を続ける組織の風土は重くどんよりとして、働く社員にとっては息が詰まるような雰囲気になっていることが多い。

例えば、上からの一方的な指示を待つだけで、下から上に意見を言うことができない雰囲気があったり、横の連携がなく、他部署が何をしているか無関心だったり。組織全体に活力がなく、「どうせこの会社は変わらない」といった諦める社員もいるだろう。こうした雰囲気は企業だけでなく、もしかしたら日本社会全体を覆いつつあるのかもしれない。

「組織にも人と同じように感情があります。そして、組織の感情が劣化してしまうと、みんなネガティブになり、萎縮して、何もできなくなってしまう。いわば、『活力枯渇病』が今の日本企業に広がっているのです」(遠藤氏)

組織の感情が劣化すると現場が疲弊し、業績にも悪影響が出てしまう。劣化がさらに進めば、不正や不祥事につながってしまうリスクもある。組織が現場に対して「不正に手を染めざるを得ない状態」に追い込んでしまうのだ。

この背景には、日本企業の多くがこれまでトップダウン型で運営されてきたことが挙げられる。遠藤氏は、組織の感情を劣化させる幹部や管理職には「ドブにコマ」の5つの特徴があると言う。

「『ど』は怒鳴る(パワハラ)、『ぶ』はぶれる(意志が弱い)、『に』は逃げる(決められない)、『こ』は細かい(任せない)、『ま』は丸投げ(責任放棄)です。つまり、パワハラを行い、決断がぶれやすくて、細かく口出しするのに最後に責任を放棄する。こうした行動をする上司がいると、組織の風土は傷んでしまっている可能性があります」(遠藤氏)

一方で、成長を続けている企業はどうかというと、軽やかでオープンな雰囲気がある。

例えば、GAFAMと呼ばれるGoogleやAmazonといった企業、アメリカ発のエクセレントカンパニーである3MやP&Gといった企業は、創業初期から組織風土やカルチャーを重視し、成長を続けてきた。

日本企業はカルチャーを軽視してきた

こうした現状をふまえたうえで、今後日本企業がグローバルでの競争を勝ち抜くためには、まずは枯渇している組織の活力を取り戻す風土改革が必要だ。

「重要なのは、組織の主体性を取り戻し、社員が上からの指示を待って動くのではなく自らの意思で動けるようにすること。現場からボトムアップでさまざまな意見やアイデアが出るポジティブな組織風土へと改善していくことが必要です」(遠藤氏)

そのためには、現場の目線、社員の目線に立つことから始めることが大切だ。遠藤氏は「経営トップが社員との距離を縮め、現場で何が起きているかを知ることが大事。そして、トップを含む組織の幹部からの意識変革、行動変容をしていかなければなりません」と話す。

意識改革という点では、日本企業の多くがこれまでも新たな価値を創造する「イノベーション」の必要性と、生産性を高めて経営効率を最大化する「効率性」の重要性を認識し、経営改革に取り組んできた。しかし、思うような結果を出すことができていない企業も多い。

遠藤氏はその理由を、「日本企業の多くが、3つ目の経営テーマであるカルチャーを置き去りにしてきたからだ」と指摘する。

「今までも経営者は『イノベーションを起こせ』『効率を上げろ』と声をあげてきましたが、組織風土やカルチャーを刷新することなくこれらを実現することはできません。日本企業はこれからのグローバル競争で勝ち抜いていけるだけの新しいカルチャーを手に入る必要があります。逆に言えば、健全なカルチャーを持つ組織からはイノベーションも生まれるし、効率化も進むのです」(遠藤氏)

組織風土とは組織の「土壌」である

では、なぜカルチャーが企業の成長に不可欠なのか。

遠藤氏は1本の樹をたとえにあげ、組織風土は組織の「土壌」であると表現する。

「企業が展開する事業はいわば樹の幹です。そして、樹が成長して幹が太くなればやがて花が咲き、実がなります。これが利益や顧客満足です。これらは外から見ることができますが、本当に大事なのは外から見えない土壌の部分。この土壌こそがカルチャーです。土壌が豊かでなければ幹は太くなりません。そして、土の中から養分や水分を吸収する「根っこ」部分が組織のケイパビリティであり、現場力なのです」(遠藤氏)

健全で良質なカルチャーがあるからこそ、ケイパビリティは高まり、事業は拡大し、利益は増えていく。これが健全な企業のあるべき姿であると言える。すべては土壌となるカルチャーから生み出されるのだ。

「日本企業はこれまで幹や花の部分にばかり着目していました。これが、日本企業が成長できない理由です。改めて、外からは見えない土壌にあたるカルチャーを大事することが必要なのです」(遠藤氏)

カルチャーは大事だが、カルチャーを良くすること自体が目的になってはいけない。組織の最終的な目的は競争力を高めることであり、ビジネスの成功だ。カルチャーはあくまでも目的を達成するための手段にすぎないのだ。

カルチャーは、働く環境と働く人間のあり方が双方向に関係して生まれる。働く環境が人に影響を与えることもあれば、働く人が環境に影響を与えることもある。つまり、社員は働く環境を主体的に変えることができるということだ。

自分たちが動けばカルチャーを変えることができるということを、みなさんにぜひ知ってもらいたい。会社や上司が与えてくれるものではないということです。これが大事なポイントです。」(遠藤氏)

組織風土、組織文化、組織能力を1セットで捉える

カルチャーとは組織風土と組織文化を重ね合わせたものだ。組織風土は汎用性、共通性が高く、良い会社には同じような組織風土がある。オープンで風通しがよく、フレンドリーで、コミュニケーションがうまく取れていて、とても協力的だ。

こうした組織風土の上に乗っかるのが組織文化だ。組織文化はそれぞれの企業固有であり、個別的だ。組織文化とは組織が成功するために大切だと暗黙的に信じていることであり、それぞれの組織の成功体験から生まれる。強い会社には健全な組織風土があり、そのうえで会社固有の組織文化があるのだ。

遠藤氏は、組織風土、組織文化を合体させたものをカルチャーと呼んでいる。

組織風土、組織文化の上に乗っかるのが組織能力、つまりはケイパビリティだ。組織が成功するために大切にしている考え方や価値観をみんなで実践する力だ。

「強い会社は土台に自由闊達な組織風土があり、その上に挑戦する組織文化、卓越した組織能力が重なるピラミッドができています。これら3つがワンセットとなり、他社が真似のできない独自の持続的競争優位の確立につながります。」(遠藤氏)

カルチャー変革を進めるには時間がかかる。なぜなら、最終的な目標を意識しながらも、このピラミッドの一番の下から順に積み重ねていかなければならないからだ。一番下の組織風土ができあがっていないのに、組織文化や組織能力を高めることはできない。しっかりと地に足を着け、時間をかけてじっくりと取り組んで行くことが大切だ。

現場こそが競争力のエンジン

また、現場からカルチャーを生み出すためには、組織のあり方を根本的に見直すことも必要だ。多くの組織では現場が下にあり、経営陣がトップに立つというピラミッド型の組織になっている。しかし、現場力の高い組織ではこれが逆転している。現場が最上位に位置付けられ、経営陣がそれを下から支える逆ピラミッド型になっているのだ。遠藤氏は「主役はあくまで現場。現場こそ、競争力のエンジンです」と語る。

企業が成長するためには社員の一人ひとりが主体的に挑戦するカルチャーを醸成することが大切だ。挑戦することが当たり前のカルチャーを生み出すためには、健全で良質な組織風土をつくることがまず必要だ。

「『挑戦しなければおもしろくない』という考え方が飛び交うような組織をぜひ目指してほしい。近年は人的資本経営にスポットライトがあたっていますが、人だけに着目するだけでは不十分。日本企業は以前から『人を大事にする』と言っていました。しかし、『カルチャーを大事にする』とは言ってきませんでした。人とカルチャーをワンセットで捉えることが大事なのです」(遠藤氏)

カルチャーを変革し、主体的に挑戦する社員を1人でも多く増やしていく。そうすることで、組織全体が変わりはじめ、企業の成長につながっていくはずだ。

「なぜ今、風土改革が必要なのか?」本記事では組織風土改革の基礎に触れた。

次記事では、現場からカルチャーをつくり、競争力を高める具体的な手法について、遠藤氏が徹底解説する。

 

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