創業138年の老舗企業が「組織のスピードを4倍」にした組織改革を公開
2024.04.05
目次
現状の組織に課題があり、組織風土改革の必要性を感じていても、なかなか実行に踏み切れなかったり、成果につなげらなかったりする企業も多い。組織変革を成功に導くためにはどのような視点を持つことが大切なのか。
創業138年の老舗企業カクイチもかつては古い体質が残っていた企業だったが、2014年に代表取締役社長に就任した田中離有氏のもと、大規模な組織変革を実行。「やろう。誰もやらないことを」をスローガンに、現場からチャレンジが次々と生まれる組織風土をつくりあげた。カクイチではどのように組織変革に取り組んできたのか。田中氏に話を伺った。
Profile

田中離有 氏
株式会社カクイチ 代表取締役社長
縦割り組織、指示待ち文化を変えるために
創業138年の老舗企業であるカクイチ。ガレージ事業から始まり、農業用資材製造事業、MaaS地方創生事業、ホテル事業、太陽光発電事業など多岐にわたる事業を展開。社会の変化に対応しながら自社のカルチャーをアップデートし、イノベーションを生み出し続けている。
代々事業を拡大させてきたカクイチだが、2014年に田中離有氏が5代目代表取締役社長に就任して以降は、古い体質が残っていた社内の改革を加速させてきた。当時のカクイチが抱えていた課題について、田中氏は次のように話す。
「当社はもともと製造業から始まった会社ということもあり、昔ながらの体質が残っていました。危機感がなく、スピードが遅い。縦割り組織でルール、指示、前例に従うことが当たり前。『言われたことだけやっていればいい』という空気感が社員にありました。また、情報伝達は紙やFAXが多く、現場で今何が起きているかがわからないという課題もありました。当社には9つの事業があり、全国に工場や営業拠点が分散しています。また、パート従業員も多い。そのため、全社での情報共有がうまくいかず、会社の実態が見えにくく、コントロールが難しい状況になっていました」(田中氏)
「このままでは変化が生まれない。風土を変えなければまずい」と考えた田中氏は、2018年に組織の大改革を決意した。
「商品をつくるのも、売るのも、マネジメントするのも、すべて人が行うこと。人を育てていくことが自社の持続的な競争優位性につながると考えました。そして、従業員一人ひとりが自ら考え、自主的に行動し、助け合いながら、新しいことに挑戦できる組織をつくろうと決意。組織変革において何より重要なのは、まずはトップが覚悟を持って決意することだと思います」(田中氏)
では、どのように変革を進めていったのか。そもそも「経営」という言葉は仏教用語が起源であり、「経」は布でいえば縦糸にあたり「筋道を通すこと」の意があり、「営」は横糸にあたり「筋道に沿って日々営んでいくこと」の意があるという。
田中氏はこの考え方に則して改革を進めていった。「組織改革とは緩んだり、張りすぎたりしている縦糸、横糸を組み直すことで、1枚の強靱な布をつくることだと思います」と田中氏は語る。

社員が主役のスローガンをつくり、挑戦する文化を醸成
まず、田中氏が取り組んだのが会社のスローガンをつくりなおすことだった。現在同社では以下のようなスローガン、ミッション、バリューを掲げている。
スローガン:やろう。だれもやらないことを。
ミッション:こたえのない問いにこたえ続ける。
バリュー:一人ひとりがつながり輝く。
「夢を持つことで人は元気になる。会社からのメッセージとして、『夢を持って新しいことをやっていこう』『一人ひとりに輝いてほしい』という想いをスローガンに込めています。また、これは後付けですが、『カクイチ』という社名を『各一』と捉えなおして、『各々が一番に』という意味づけをしました」(田中氏)
こうした考え方を反映している同社のスピリットには、「夢を語るホラ吹きであれ」「正しいよりも、面白い」「変えるな、代わり続けることを」といった12の行動指針が掲げられている。
「『やろう。だれもやらないことを』というスローガンは会社の考え方を示すキラーワードとして非常に効果的で、組織変革の後押しとなりました。また、夢は口にしなければそもそも叶えられませんし、前例や正解にとらわれずにアイデアを出して行動しなければイノベーションは生まれません。こうした考えをスピリットに込めています」(田中氏)
ミッション、ビジョン、バリューを考えるときに、どうしても「会社の」という枕詞がつきやすい。これに対して田中氏は、あくまでも「主役は従業員一人ひとり」という考え方を大切にした。「従業員一人ひとりが夢や目的を持って行動することで、組織全体も変わっていくと考えました」と田中氏。

新しく策定したスローガンやスピリットを社内に浸透させるために、カクイチでは動画を作成し、従業員の目に留まる機会を頻繁に設けた。また、社歌を作成して毎朝流すなどの取り組みも行ったという。
「ひたすら会社のメッセージを伝える動画を流しました。従業員が毎日のように見聞きして、自分自身の言葉として染み込んでいく環境をつくることが必要だと思いました」(田中氏)
すべての情報をオープンにし、チャレンジの波及を生み出す
会社の「横糸」である日々の営みを改善するために田中氏が取り組んだのが、成長機会の提供とコミュニケーションの改善だ。
「働きがいを得られるようするためには成長機会を提供しなければなりません。そのためにも現場に情報を与え、人と人がつながる環境をつくることが大切です。管理することで会社の秩序を守るのではなく、情報が広がりやすい組織をつくることで現場のエネルギーを高めようと考えたのです」(田中氏)
コミュニケーション改革のために、カクイチでは2019年にパートや工場の従業員も含めた全従業員に社用スマートフォンを配布。さらに、Slackを導入し、一部の機密情報をのぞいた社内のほぼすべての情報を全社員で共有できる仕組みを整えた。Slackのスレッドは基本的にロックをかけることを禁止し、誰でも見られるようになっているという。「全社員へのスマートフォン配布は予算的に難しい」と言う企業も多いが、田中氏は「1台5000円くらいでできる。ようは本気かどうか」と語る。
「私は全従業員が同じメディアを持ち、いつでも、どこでも、誰でも、社内の情報にアクセスできる環境を整えることが重要だと考えています。例えば、当社では以前経営会議を密室で行っていましたが、今はzoomでオープンにしており、興味のある従業員は自由に経営会議を閲覧できます。それを見た社員同士で意見を交わす光景もよく見かけます。経営会議が経営陣の考えを発信する放送局の役割を持つようになったことで、会社の状況や方向性がすぐに社内に広がるようになりました」(田中氏)
また、会社として新しい挑戦を応援し、社内の情報をオープンにすることで、Slackや社内SNSには従業員の取り組みが次々とアップされるようになった。その結果、「あの取り組み、面白いね」「あの人すごいね」と共感が広まり、同じ想いを持つ人がつながりやすくなったという。「社内コミュニケーションにおいて『過去の報告』ではなく、『未来の相談』が増えたと感じます」と田中氏は語る。
「情報をオープンにすることで、挑戦した人の取り組みやそれが評価されていることを知る機会が増え、『自分もやってみたい』と思うようになる。1人のチャレンジが全社に波及していく良いサイクルが生まれました。情報共有して助け合う文化も生まれ、現場のエネルギーも向上しています」(田中氏)

タスクチームをつくり、現場を経営に巻き込む
会社の「縦糸」の改革として田中氏が取り組んでいるのが、ミドル層の改革だ。
現場の従業員に自主性やチャレンジ精神が生まれたことで、管理職の役割は変わった。従来は部下への指示やモチベーション管理、業務の管理が主な役目だった管理職の仕事は減ってくる。現場力が上がったことで、トップやミドル層の役割は「管理すること」から、「夢やビジョンを語ること」にシフトできるようになったのだ。
また、従業員が新しいことをやろうとしたときに社内で意見の対立が起きたり、矛盾が生まれたりすることがある。これらを解決することを管理職の新たな役割として明確化した。
さらにミドル層の改革と合わせて田中氏が取り組んでいるのが、トップダウンでの経営ではなく、現場で経営してもらう形に変えることだった。そのために、従業員やミドル層を巻き込んだタスクチームをつくり、経営課題に取り組む仕組みを構築した。
「まず、社長と役員でタスクとゴールを設定します。メンバーは組織を横断して5名選定。3カ月かけて取り組み、定期的に成果をプレゼンしてもらいます。課題に対する取り組むだけでなく、チームビルディングも評価の対象です」(田中氏)
タスクチームのテーマとしては、「退職金改革プロジェクト」「もう一度行きたくなる楽しい工場見学」「棚卸の合理化」「決算業務の単純化」「有給所得率を改善する」など多岐にわたる。中には、「ちょい悪おやじになる」という遊び心のあるテーマや、健康診断で再検査になった人が禁煙と減量に挑むというテーマもある。
「タスクチームをつくって課題解決に取り組むことで、『やればできる』という文化が生まれました。入社2年目でリーダーを任されることもあり、人材の発掘や育成にもつながっています」(田中氏)
さらに、タスクチームを発展させた取り組みとして「準役員」という仕組みを導入。経験や役職問わず応募でき、手当が付いて1年間経営会議に参加できる仕組みで、事業計画の策定やタスクチームのファシリテートなどに携わることができる。
「若いうちから経営視点を養ってもらたいと考えてスタートしました。ミドル層に経験を積ませてトップ層に引き上げていく機会となっています」(田中氏)

現場力が高まり、組織のスピードが4倍に
ここまで紹介してきた組織変革に取り組んだ結果、カクイチでは従業員一人ひとりのモチベーションが高くなり、「やらなければいけない仕事」だったのが「やりたい仕事」へと変化。すぐに行動する文化が定着し、現場発でさまざまなチャレンジやイノベーションが生まれている。
「中間管理職が情報をまとめて報告するというステップがなくなり、情報の伝達スピードは2倍になったと感じます。現場の情報がダイレクトにトップにも伝わるので、意志決定のスピードも2倍になったようなもの。つまり、組織のスピードが4倍になったと言えます。また、『こんなことをやってもいいんだ』『見ているだけではなく、自分もやりたい』という雰囲気が生まれ、企業の風土が良くなったと感じています」(田中氏)
カクイチが組織変革が成功している要因の1つに、会社が目指す方向性を全員が理解し、個々がやるべきことにしっかりと向き合える環境をつくったことが挙げられる。
「どんなスポーツでもチームの中にスター選手が1人いるだけでは勝てません。チームとしての戦略が明確であることに加え、メンバー同士で助け合える雰囲気があることが重要です。組織づくりもこれと同じ。一人ひとりが活躍できる土台を整えることで、組織として成長していけるのだと思います」(田中氏)
長い歴史のある会社や規模が大きな会社ほど、今ある組織風土を変えることは難しい。しかし、変化していかなければ企業として成長し続けることはできない。
田中氏は「風土を変えるのすごく難しいですが、変わるときは一気に変わるものです。やらなければいけないことを明らかにしたら、あとは本気で取り組むだけです」と最後に締めくくった。

【詳細・お問い合わせは下記をクリック】
※記載されている情報はインタビュー当時のものです。
この連載の記事一覧
