【遠藤功氏 対談】カルチャーを形成する因子を理解し、自社のカルチャーの起源を紐解く
2024.06.20
目次
本連載「カルチャー変革のススメ」では、企業の競争力の土壌であるカルチャーを変えるための理論や事例を解説している。
今回は、様々な企業で社外取締役・経営顧問を務め、数多くの著書でも知られる経営コンサルタント・遠藤功氏と、数100社のカルチャー変革を支援する組織コンサルタント・Unipos社COOの松島稔が、カルチャーの起源についてディスカッションした。
「自分たちのカルチャー=”当たり前”がどのように形成されたのか」を紐解き、カルチャー形成を辿ることで、理想とするカルチャーに近づくヒントを得たい。
Profile

遠藤功 氏
株式会社シナ・コーポレーション 代表取締役
早稲田大学商学部卒業。米国ボストンカレッジ経営学修士(MBA)。三菱電機、複数の外資系戦略コンサルティング会社を経て、現職。2006年から2016年まで早稲田大学ビジネススクール教授を務めた。2020年6月末にローランド・ベルガー会長を退任。同年7月より「無所属」の独立コンサルタントとして活動している。多くの企業で社外取締役、経営顧問を務め、次世代リーダー育成の企業研修にも携わっている。SOMPOホールディングス株式会社社外取締役。株式会社ネクステージ社外取締役。株式会社ドリーム・アーツ社外取締役。株式会社マザーハウス社外取締役。三菱電機株式会社、住友林業株式会社、ソシオークホールディングス株式会社などの顧問を務めている。

松島稔
Unipos株式会社 代表取締役副社長COO
2013年、現Unipos株式会社(旧Fringe81株式会社)取締役COOに就任。同社COOとしてプロダクト企画/事業開発/事業提携/営業マネジメントを管掌。2016年、同社の東証グロース市場への上場に貢献。2021年、Sansan社との資本業務提携を主導。2021年、Unipos株式会社 代表取締役副社長COOに就任。現在は、事業/コーポレート/プロダクト全体を管掌し、組織風土/カルチャーに関するセミナーも実施。
カルチャーはどうつくられる?
松島:遠藤さんは『「カルチャー」を経営のど真ん中に据える』に代表されるように、常々「カルチャー変革こそが経営の喫緊の課題である」と説いていらっしゃいます。その中で、「カルチャーがどのように形成されてきたのか」という要素や過程についてはどう捉えていらっしゃいますか?
遠藤氏:多くの人は「カルチャーとは企業の内的な因子からつくられている」と捉えているでしょう。例えばコミュニケーションのあり方、経営者のタイプなどです。しかしカルチャーは、顧客やステークホルダーなど、様々な外的因子からも大きな影響を受けて形成されます。このように、カルチャーとは非常に多面的な要素で構成されているということをまずは正しく認識しなければいけません。
私は様々な企業の経営コンサルティングをしてきた経験から、企業のカルチャーはいくつかの因子から形成されており、その各因子は複雑に相互作用しているのではないか、と考えています。
顧客との関係性がカルチャーに最も強く影響する
遠藤氏:最も強く企業のカルチャーに影響する外的な因子は、「顧客との関係性」であると考えています。
松島:なるほど、顧客との関係性ですか。もう少し具体的に教えてください。
遠藤氏:私は長年製造業のコンサルティングを行ってきたのですが、製造業は一次受け・二次受け・三次受けの中で、納品物のコスト・品質・納期が決まっています。下請け企業が大型の取引先に依存すると、上流の発注主が非常に強い立場になる構造になります。
私はこれを「マスター⇔スレイブ構造」と呼んでいます。このように「絶対的に立場が強い」顧客に依存していると、その顧客との主従関係が、社内のコミュニケーションや価値観にも大きく影響します。
松島:確かに、お客様との取引におけるシェア等によって、社内のコミュニケーションも大きく変わりますね。顧客の立場が強く、高い品質の価値提供と成果を求められると、社内でも「顧客の言うことが絶対」になりがちです。そうなると、「お客さんがこう言っているから」という大義のもと、社内の要求においても無理難題がまかり通るようになってしまうことは想像できます。コミュニケーションが受発注のようになり、現実的に無理な要求に対して「無理です」と言えないことが当たり前になる。要求する/される側という暗黙の上下関係が生まれ、軋轢が生じ、組織は疲弊していく——このようなシーンが実際に生まれていることは、お客様からもよく伺います。

遠藤氏:昨今大企業で頻発している品質不正問題も、根本的にはこの「マスター⇔スレイブ構造」による課題があると考えます。顧客は絶対であり、「NO」が言えないカルチャー。結果、過剰な要求が当たり前になり、現実的に実行が難しいためやむを得ない、といった形で不正や不適切なことに手を染めてしまう人が出てくるのです。
松島:これは、製造業だけではなく、広告代理業などのサービス業の中でも実際に発生していますね。発注側の立場が強い場合には、長時間労働にもなりやすいです。一方、最近では、パートナーを含めたステークホルダーの関係性を問い直す形に変わってきている事例も聞きます。
遠藤氏:実際、顧客の高いレベルの要求に応えようとする中で、品質レベルの基準が上がり、企業の競争力に繋がることもあるため、全てが悪とは言い切れません。しかし、ただ言いなりになるだけの隷属関係は排除していくべきです。
顧客との関係性が組織内に与える影響
松島:「組織の中の決まりごとと実態が乖離している」というお客様の話と、先ほどのお話が繋がりました。人事異動に関して、人事ポリシー等で規定されているものの、規定されているドキュメントと実態がずれているケースをよくお伺いします。
例えば、売上シェアが大きい取引先を抱えており利益を大きく上げているA事業部から異動をさせようとする場合。人事ポリシーでは異動は人事部長権限となっているものの、A事業部長の立場が非常に強く、A事業部長がこの異動に反対すると異動が認められない——というようなことが暗黙の了解になっている、というケースです。
このように、特定の人の立場や意見が絶対になり、制度が形骸化していることはよく起こっていると思います。私は、キース・R・マクラーファンドの著書『ブレイクスルー・カンパニー』の中に出てくる「会社が王冠を被せる」*という表現が好きなのですが、まさにこれに当てはまりますね。会社として決めているマネジメントポリシーと実態がずれ、会社でなく特定の人物がマネジメントポリシーになってしまっている。そうした言行不一致状態が当たり前になって、規範ルールがバラバラになっているという状況が見てとれます。
*キース・R・マクファーランド著、高橋由紀子翻訳『ブレイクスルー・カンパニー 小さな会社が大きく伸びる法則』講談社、2008年
事業環境を紐解くとカルチャーの起源がわかる
遠藤氏:松島さんのおっしゃる通り、取引先との関係性で組織の規範の実態が変わりますね。抽象度を上げて、事業環境とカルチャーの起源の話をさせてください。事業環境は、成長産業に属しているのか/成熟産業に属しているのか、競争環境の激しさ、事業価値の競争源泉はどこかなど、カルチャーの起源に非常に大きく関わると考えます。
松島:なるほど。例えば電力や鉄鋼のような装置産業は、大きな設備投資がそのまま競争優位性になり、新規参入も少ないため、相対的に他業界よりも競合が少なくなります。すると事業的に変化が少なくなり、オペレーションを日々安定的に回すことが重要となるため、結果として組織は硬直化しやすい傾向がある、というようなことでしょうか。
遠藤氏:その通りです。この事情環境は、先ほど挙げた「マスター⇔スレイブ構造」と特に密接に絡みます。競合や新規参入が激しい事業環境や、特定の顧客に売上を依存している状態だと、「顧客の言うことが絶対」がさらに常態化しやすいです。
顧客との関係性・事業環境を踏まえたリーダーの意思決定のあり方も、カルチャーを紐解く鍵となる
遠藤氏:そうした事業環境の中で、過去・現在どのような意思決定をしてきたかも、同様にカルチャーに影響を及ぼします。
まず重要になるのは、組織としての理想の行動の規準を定義することです。その理由を、ホテル経営を営むある企業の例でお話しましょう。
経営としてはホスピタリティを重視していますが、多忙な現場に近くなれば近くなるほどホスピタリティより「とにかく目の前の仕事を早く回せ」というカルチャーが強くなっていました。そんな中、ホスピタリティを発揮しようと、お客様に30分間かけて丁寧に客室に案内したスタッフが「30分も何をしていたんだ」と叱責され、お客様との会話を禁止する・もしくは〇分以内にするなど、ルールを設けようとしたことがあったそうです。
明確にどちらが正しい、という解はありません。ここで必要なのは「良い行動の定義」です。ホスピタリティファーストなのかエフィシェンシー(効率)ファーストなのか、規準を決めるのはリーダーの仕事です。
松島:そうした「目指す姿やそれに基づく良い行動の定義」を行いつつ、カルチャー変革の焚きつけを行うのも経営リーダーの仕事ですね
遠藤氏:その通りです。カルチャーショックを作れるのは経営リーダーしかいません。絶対的に立場が強い顧客に「NO」と言ったり、依存先を分散させたりするのは、経営の胆力と努力に依ります。

絶対的だった顧客の要求をはねのけ、関係性とカルチャーを変えた日本製鉄
遠藤氏:顧客・事業の因子が関わりながら、強いリーダーシップによってカルチャー変革と事業回復を実現した日本製鉄の話は、昨今ニュースでも目にします。
日本製鉄は、特定の顧客への依存度が強く、顧客の言い値を受け入れるしかない状況が続いていました。しかし、大赤字が続き経営危機に。原材料価格高騰を機に、強気の価格交渉に踏み切る決断をしました。当初難色を示していた顧客側も、日鉄が供給ストップという強気の姿勢を示したことで、この値上げを呑みました。橋本社長は、社内で「シェアは追うな。奪われても構わない」と言い続けていたそうです。結果、現在顧客との関係性は「クライアント⇔パートナー」の関係性に転向しました。事業はV字回復を果たし、時価総額も上昇しています。
松島:経営陣が覚悟を持ち、胆力のもと意思決定することで事業面やカルチャーに変化が起こった例ですね。

カルチャーを「振り返る」ことが重要
松島:まずはカルチャーを構成する起源と因子を認識し、過去の系譜を読み解くことで自社理解を深めることが、カルチャー変革の第一歩目だと感じました。
また、私が解説したカルチャー変革メソッド(詳細はこちら)でも、カルチャー変革はトップダウンで始める必要があることを話しています。強いリーダーシップによって推進することが必要なのですね。
遠藤氏:カルチャーを変えるための起爆剤、カルチャーショックを作れるのは経営陣しかいません。染みついたカルチャーは簡単には変えていけないので、時間をかけて取り組む必要があります。
※記載されている情報はインタビュー当時のものです。
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