組織の"当たり前"を変える 「カルチャー変革メソッド」解説
2024.01.26
目次
理念/MVV(ミッション・ビジョン・バリュー)浸透などの風土改革施策を実行しても社員に浸透しない、形骸化してしまう——そうお悩みの経営者、人事責任者は多いのではないだろうか。その理由は、組織の基盤となる現場のカルチャーが変わっておらず、施策が空中戦に終わっているからである。しかし、カルチャーを変えるためには多大な労力と時間、知識と経験を要する。
そこで今回は、Unipos社が考案した「カルチャー変革メソッド」について、Unipos社COO・松島が解説する。抽象的な「カルチャー」とは何なのか、何を実行すればカルチャー変革が実現できるのか。数100社のカルチャー変革支援実績と、約5,000の人的資本経営リサーチ実績から実証されたメソッドの全体像を紹介する。
Profile

松島 稔(まつしま みのる)
Unipos株式会社 代表取締役副社長COO
2013年、現Unipos株式会社(旧Fringe81株式会社)取締役COOに就任。同社COOとしてプロダクト企画/事業開発/事業提携/営業マネジメントを管掌。2016年、同社の東証グロース市場への上場に貢献。2021年、Sansan社との資本業務提携を主導。2021年、Unipos株式会社 代表取締役副社長COOに就任。現在は、事業/コーポレート/プロダクト全体を管掌し、組織風土/カルチャーに関するセミナーも実施。
カルチャーとは何か
まず、「カルチャー」という形のないものについて、みなさんはどう定義しているでしょうか。当社は、「カルチャー」とは【組織や集団の中の「当たり前の規準」であり、人の行動に最も影響を与える環境要因のこと】であると考えています。有名なものに、トヨタ社の「カイゼン」というカルチャーがあります。従業員たちが自ら作業の工程などをより良くなるように変えていくボトムアップの活動である「カイゼン」のカルチャーは、現場まで深く根付き、トヨタ社の生産性を支えています。
このようにカルチャーを企業にとって望ましいものへ変えていく「カルチャー変革」とは、【企業の中長期的な方針を実現するため、「当たり前とされている行動/判断基準」を望ましい形に変え、当たり前の基準を変えること】といえます。
カルチャー変革メソッドの全体像
一方で、カルチャーは目に見えないものであり、「当たり前とされている」だけに変えることが困難です。トヨタ社のようにボトムアップで回るようなカルチャーを作ろうと「意見を挙げてほしい」と現場に言っても、なかなか発言が生まれなかったという経験をしたことがある方もいるのではないでしょうか。
我々Unipos社は、「Unipos」の提供と浸透支援、および約5000例以上の人的資本経営の実態をリサーチした実績と、組織心理学/経営学/行動科学などの文献を元に、カルチャー変革を再現性高く実現するメソッドとしての考え方を整理しました。
カルチャー変革プロセスの全体像は、下記画像の通りです。レベル/プロセス/変革対象と行動という形で整理しています。

カルチャー変革プロセスは、リーダーシップ論の第一人者であるジョン・コッターが提唱する「変革のための8段階プロセス*」より着想を得ています。いきなり施策を始めるのではなく、組織内でチーム組成と方向性の決定を行ってから実行フェーズに入り、短期的な成果を生みながら変革を常態化させていく、というサイクルを回します。
以下、プロセスとStep別に解説していきます。
*ジョン・P・コッター『リーダーシップ論』ダイヤモンド社、1999年
カルチャー変革プロセス① 方向性の決定
【Step1:現場の現実を直視し危機感を高める】
メインで実施する担当者:経営チーム、人事
本Stepでは、「カルチャーレベル」のメソッドを使用します。

カルチャーとは、前述の通り「組織や集団の中の『当たり前の規準』」と言うことができ、それによって企業のカルチャーレベルが分けられます。このStepは、自社の現在地および目指すレベルの認識をステークホルダーで合わせることを目的としています。当たり前に起きている行動の段階に分け、各チーム並びに組織全体の平均値がどのカルチャーレベルに属するか考えてみましょう。
カルチャーレベル1で当たり前に起きている「保つ行動」は、例えばあいさつをする、嘘をつかない、感謝をするなど、今ある環境を保つことに効果を発揮する行動が主です。
カルチャーレベル2で当たり前に起きている「よりよくする行動」は、保つだけでなく改善するための提案/活動を指します。例えば、社員自ら生産性向上のための施策が提案・実行されるなどです。
カルチャーレベル3で当たり前に起きている「新しいものを生み出す行動」は、イノベーションやコラボレーションの創出など、高度なものです。
このStepで陥りがちな落とし穴は、定量的なエンゲージメントサーベイ等のみを根拠にすると役職や役割で自社のカルチャーレベルの認識に差異が生まれてしまうことです。
もちろん定量的な情報は非常に重要ですが、レベルを判断する上で重要なのは、その「当たり前の行動」が主体的に発生しているか/やらされているかという観点です。例えば、製造業で「改善活動は行っている」のは当たり前で、「改善活動の表彰をしている」ことも多いでしょう。しかし、現場が「やらされている」という感覚である場合、カルチャーレベルは0とします。この主体性に基づくか否かという点が、最も現場と経営陣の認識の差分が生まれやすい部分です。プロアクティブ(主体的)なのかリアクティブ(受動的)なのかといった点は、現場の行動観察を通じて共通認識を得る必要があります。プロアクティビティとは、自己の将来を展望し、より望ましい将来の実現に向けて、自律的に現状に変化を作り出し、そのための行動をとる指向性を意味する概念です*。
さまざまなクライアント様とお話をすると、殆どの企業様の認識でレベル0であるという認識をされており、そのような認識からカルチャー変革の危機感を持つほうが健全であるといえます。
経営チームとしては経営戦略的にはレベル3を目指したいですが、カルチャーは上記の通り、暗黙的に認識されている当たり前の基準です。イノベーションが定常的に起こるカルチャーは、プロアクティブ行動の延長線上による、市場や顧客の先読みを行った上で現状を否定し変えていくという行動が必須であり、変えていくためには非常に壁が高いです。経営陣自ら現場に赴き会話をし、現場の解像度を上げたうえで、ステークホルダー内で現在地の認識と危機意識を合わせることをお勧めします。
*山口裕幸『組織と職場の社会心理学』ちとせプレス、2020年、155頁
【Step2:変革推進チームを作る】
メインで実施する担当者:経営チーム、人事
次のステップでは、変革のためのチームづくりを行います。ここでの要点は、階層型責任役割と現場社員のネットワークを組み合わせたチームづくりです。
チームにおいて、最終結果責任者は社長である形にすべきでしょう。カルチャーの責任は究極的に誰に属するか機能分解が難しく、社員をはじめとしたステークホルダーから見た際、最終的には社長が責任を持っているという形が社としてのコミットメントにつながるためです。
プロジェクト全体のオープン性を高めるため、アドバイザーに社外取締役など中立的な立場の人を入れるケースも増えています。当たり前を疑いアップデートをしていくためには、客観的に自社をとらえることは不可欠です。
また、手挙げ制でチームに社員を参画させるケースも多くあります。計画段階から社員に参加してもらうことで、現場の共感を高められる上、環境の複雑性を現場の現状を上位階層者が把握すことができ、社員にカルチャーを自分事として捉えてもらうきっかけにもなるというメリットがあります。
このStepで陥りがちな落とし穴は、現場を巻き込むチームになっていないことです。人事主導ではなく、人事は事務局/ファシリテーションが構築できる仕組みを設計する役回りを担うことが重要です。自社のカルチャーを理解した上で、現場を巻き込めるメンバーのアサインを考えましょう。
【Step3:適切なビジョンを作る】
メインで実施する担当者:経営チーム、人事
本ステップでは、「人的資本経営フレームワーク」を使用し、カルチャー変革のビジョンを設定します。
経営陣は、株主・顧客・社員やその家族・金融機関・地域社会など多岐に渡るステークホルダーに対し、一貫性を持ったコミュニケーションを行う必要があります。一貫した戦略をストーリーとして提示できなければ、ステークホルダーからの共感や協力を得られないからです。ここで重要なのは、パーパス・ミッション実現に向けた経営目標達成のために解く必要がある「課題」を透明性高く打ち出すことです。
メソッドとして、当社代表・田中弦考案「人的資本経営フレームワーク*」を使用します。本フレームワークは企業が人的資本経営を実行する思考の手順として考案されたものですが、カルチャー変革のビジョンを固める手順としても最適と考えています。
フレームワークに当てはめ、経営戦略・中期経営計画とカルチャー戦略のつながりを思考すると、①理想・大義の設定→②カルチャー経営の課題を抽出→③アクションを整理→④アウトプットのKPI化、というステップで整理することができます。

*フレームワークの詳細はこちらの記事をご参照ください。https://unite.unipos.co.jp/1916/
組織的人的資本を最終的なアウトカムに繋げるためのアウトプットは、従業員1人1人の行動を通じて創出されます。これをストーリーとして接続することで、理想・大義への達成へとつなげることができます。
カルチャー変革プロセス② 変革の実行
【Step4:変革ビジョンを周知する】
メインで実施する担当者:経営チーム、人事、事業部管理職
Step3で設定した変革ビジョンを社内に周知していきます。ここでは、経営チームと人事が社員全体に伝わるストーリーを構築する必要があります。また、現場に近い事業部管理職の協力も必要になります。管理職は、各現場が理解・共感できるように、時には言葉を変えたり事例を出したり、噛み砕いて伝えていきます。
ここで陥りがちな落とし穴は、社員が「抽象的で手触り感がない」「自分事ではない」という知覚になってしまうことです。この課題を解消する方法については、次のStepで詳しく説明いたします。
【Step5:社員の自発的な行動を促す】
メインで実施する担当者:経営チーム、人事、事業部管理職
理想・大義のためという長期的・未来志向である経営陣と、直近の事業成果の創出を求められている現場では、時間軸のズレが発生します。例えば、経営方針を「イノベーションを生み出す・挑戦する風土をつくる」と定義したとします。これをそのまま現場に周知しただけでは、現場からの反応は「イノベーションと言われても、日々の目標達成に忙しい。これに加えて新しい挑戦は無理……」というものになってしまうでしょう。変革の方向性を自分ごと化していくために、とりわけ事業長など部門の管理職が会社の全体方針を受け、自身の管掌領域に伝わるようにコミュニケーションを促進していくことが求められます。
「推奨行動」を言語化する目的はもう一つあります。現場の社員の自己効力感を保つ/高めるという目的です。経営陣は「未来と現状のギャップ」を課題とします(未来志向)が、現場の社員は「今」を否定されていると捉えてしまう(現在志向)可能性があります。そこで、今起きている行動も承認・称賛する本Stepが効果を発揮します。
ここからは具体的なメソッドを紹介します。「推奨行動フレームワーク」は下記画像で表しました。

まず、Step1で解説したカルチャーレベルにおける3つの段階の行動(①保つ行動、②改善する行動、③新規価値を創出する行動)を、「今起こっている行動」と「これから生み出したい行動」に分けて言語化します。さらに、より具体性を持たせるため、各部門や職種で各行動を言語化することも必要になります。
言語化を進める上で、過去・現在・未来の時間軸を踏まえ、「未来のために変えなければいけない事/やめなければいけない行動」だけではなく、「今まで培ってきてこれからも維持・向上させたい行動」も含めて整理することをおすすめします。


留意したいことは、企業理念のレベルに近い③の行動だけではなく、①②の行動の集積が重要であるということです。①の行動を称えることで社員の自己効力感を高め、②③の行動を増やしていくことを目指します。「現場で起きている良い行動を発見し、表出化すること」こそが、カルチャー変革の肝といえるでしょう。
このStepでは、経営と現場をつなぐ立場として管理職の巻き込みが重要になります。管理職に「推奨行動を見つけること」をミッションとして課すこと、CHROを筆頭とした人事が管理職を支援する体制を作ることも同様に必要です。
【Step6:短期的な成果を生む】
メインで実施する担当者:経営チーム、人事
このStepでは、短期的な成果を上げ、成功体験を生むことを目的とし、メソッドとして「行動表彰」を提唱します。
「行動表彰」とは、起きた推奨行動を対象にした表彰制度(バリュー/行動指針に対する表彰に近しい)です。Step5で定義した推奨行動を行う人も、いきなり全員が変わっていくことを期待する必要はありません。シェリングの限界質量モデル*に示される通り、3割が変われば全体が変わっていきます。まずはこのポジティブな3割を生み出すことを目標に取り組みましょう。
特に管理職や経営陣は、トップメッセージを受け取って行動を変えようとしている人に注目し、その行動に光を当てます。
多くの企業で行っている「成果を出した人」に対する表彰は、定量的な成果を出した人(営業部など)しか表彰されない・成果をあげるまでのプロセスで生まれた良い行動を取り上げられないといった課題が生まれがちです。「行動表彰」ではこのような課題を回避できるほか、具体性の高い行動を取り上げることで、「推奨行動」の認知・理解を深めることができます。
表彰対象の行動に対して、経営チームからの解釈を添えたコメントを送ったり、対談を行ったりすることも有効でしょう。
* 限界質量モデル:経済学者のシェリングが提唱した。個人の行動が他者の行動によって左右されることを前提とし、組織内の秩序や規範の崩壊する臨界点(限界質量)を明らかにしようとしたもの。
カルチャー変革プロセス③ 変革の常態化
【Step7:さらに変革を進める】 【Step8:変革を根付かせる】
メインで実施する担当者:経営チーム、人事、事業部管理職
Step6まで実行して生まれた小さな成果を根付かせ、変革の常態化を目的とするのが最後のStepです。
第一に、カルチャー変革の成果測定が必要です。エンゲージメントサーベイ/アンケートなどによる定量的な振り返りと、フィードバック収集などによる定性的な振り返りを行い、プロジェクトの成果測定を行います。
定期的な振り返りによってカルチャーレベルの現在地を見直し、必要があれば目的やビジョンを再設計しましょう。カルチャーレベルはチーム単位で違うため、振り返りもチーム単位で行います。良いチームの事例は全社に周知し、学び合える機会を提供することで横展開させるなどの環境を整えることも重要です。
また、このStepでは業務マネジメントのオペレーションへの反映も行います。例えば、1on1設計に組み込んで社員個人の行動を振り返る仕組みを整えるなど、通常オペレーションに取り入れることで、変革を常態化させることを目指します。
カルチャー変革プロセスは短期間では実施できず、年単位で行う取り組みになります。しかし、ここまで推進すれば、少しずつカルチャーレベルが上がってきた手応えを持てるはずです。次のレベルを目指した施策実行と振り返りを繰り返すことで、最終的に理想とするカルチャーの実現につながります。
おわりに
今回の記事では、カルチャー変革プロセスの概要と落とし穴、それを解消するためのメソッドを具体的に解説しました。
2040年には、日本の労働人口は1100 万人不足する*といわれ、誰も経験したことのない未曽有の人手不足時代が到来します。こうした不安定な時代には、より個人の才能を発揮できるような環境や土台が必要です。そして、その環境や土台づくりの肝が企業のカルチャーであると我々は考えています。
現場のカルチャーはすぐには変わらないため、長期的な変革になるでしょう。しかし、このメソッドを実行することで、確実にカルチャーは変わってきます。カルチャー変革に悩む経営者・人事担当の方々が「これをやればいいのか」と、変革に前向きになっていただければ幸いです。
* リクルートワークス研究所「 Works 177 未来予測 労働力はどれだけ足りなくなる?」参照
※記載されている情報はインタビュー当時のものです。
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