
【2023年11月最新】「人的資本経営フレームワーク」徹底解説
2023.11.16
法改正によって2023年3月期決算から全上場企業へ人的資本開示が義務化され、政府が掲げる「人への投資」と相まって各企業での取り組みが加速している。一方で、人的資本「開示」にばかり注目が集まり、本質的な人的資本経営の議論のポイントがわかりづらくなっているという声も多い。
Unipos代表・田中弦は、以前より人的資本開示を独自調査する中で、真の「人的資本”経営”」について解説してきた。今回は、田中が考案し無償提供している最新版「人的資本経営フレームワーク」について解説する。
Profile

田中 弦
Unipos 代表取締役社長CEO
1999年にソフトバンク(株)インターネット部門採用第一期生としてインターネット産業黎明期を経験。その後ネットイヤーグループ、コーポレートディレクションを経て、2005年ネットエイジグループ(現ユナイテッド社)執行役員。2005年アドテクとインターネット広告代理店のFringe81株式会社を創業。2013年3月MBOにより独立。2017年6月に東証マザーズへ上場。
2017年に社内人事制度「発⾒⼤賞」から着想を得たUniposのサービスを開始。2021年10月に社名変更し、Unipos株式会社 代表取締役社長として個人の人的資本を発見し組織的人的資本に変えるUniposの提供を中心に活動。
「人的資本経営専門家」として経営戦略と人事戦略を紐づけるための「人的資本経営フレームワーク(田中弦モデル)」の公開や3500以上の人的資本開示情報を読み込んで導き出した独自の見解を数多く発信。多くのメディアから注目を集め、新聞・雑誌・テレビなどへの出演多数。「心理的安全性を高める リーダーの声かけベスト100(ダイヤモンド社)」著者。
これまでのUnipos代表・田中弦の「人的資本経営」解説記事
最新・2023年3月決算の2325社の有価証券報告書を分析/解説
・Unipos代表が300時間かけて2325社の人的資本情報を分析「開示充実度は“とても低い”」
人的資本”開示”に関する基礎解説・旧版フレームワーク紹介
・【前編】人的資本開示で押さえておきたい「3つのポイント」と「4つのNG」
・【後編】先行事例から導き出した!推し開示と議論のためのフレームワーク
人的資本経営・2つの重要なポイント
人的資本情報の有価証券報告書への記載が義務付けられるようになり、企業では開示に向けた準備が進んでいる。一方で、多くの企業の人的資本開示ないしは人的資本経営は、まだまだ不十分であるのが現状だ。
Unipos代表・田中弦はこれまで3500以上の開示をリサーチしてきた中で、人的資本経営の重要なポイントは下記の2点であると指摘する。
①人的資本とは従業員個人が所有するものであり、人的資本経営とは「個人の持つ人的資本を十分に発揮するための土台を再構築し、組織的人的資本を創出する経営」のことを指す
②人的資本の理論は1950年代から唱えられているが、人的資本経営は不確実かつ人材不足が明らかな現代に適した経営理論である
「人的資本」とは新しい概念ではなく、1950年代からある考え方で、従業員個人が持つスキルや能力とされてきた。そして、人的資本「経営」とは、個人の持つ人的資本を十分に発揮するための土台を再構築し、組織的人的資本を創出する経営のことだ。
また、組織的人的資本とは、自社独自の「個人の力を最大限発揮して生まれる共創力」・「競合優位性を生むため競争力」を合わせたものと田中は定義する。
これまでの同質性が高い従業員を育成し能力開発を行う日本的経営は、安定した時代には最適な経営だった。一方で、これから到来する未曽有の人手不足かつ不安定な時代には、より個人の才能を発揮できるような環境や土台が必要になる。
このことを踏まえ、人的資本経営を実行する思考の手順として考案されたのが下記のフレームワークだ。
このフレームワークは、個別施策ごとにバラバラになりがちな人的資本経営に関する議論に対し、①から⑤のプロセスを行うことで、人的資本経営の思考・整理を促進することを企図したものだ。
このフレームワークに沿って議論することで、企業の経営戦略と人事戦略を強く連動させ、それに紐づく投資について整理し、社内での共通認識や市場からの理解・共感を得やすくすることができるだろう。
以下、各プロセスについて解説する。
STEP①:パーパス・ミッション・中期経営計画などの中長期的な理想・大義を設定する。
STEP②:①の理想と現状とのギャップを定義することで、課題が明確になる。
STEP③:課題を解決するために人的資本投資を行う。人的資本投資には、個人能力を引き出す投資と、カルチャー・集団への投資という2種類が存在する。カルチャー・集団への投資は、例えば心理的安全性が向上するなどの個人の人的資本を最大限発揮させる土台構築に繋がり、組織的人的資本が創出される。
STEP④:インプット・アクションによる良い変化が事業活動の中で生まれる。自社の理想や課題に沿った独自指標と、他社と比較可能な指標という2つの視点で変化を分析する。
STEP⑤:事業成長などのアウトカムにつながり、それが①の中長期的な理想・大義の達成へと循環していく。
本フレームワークは、現代の新たな著作権ルールとして政府や自治体なども活用している「クリエイティブコモンズ」を使用している。下記の手順で、無償での活用・商用利用も可能である。
▼利用方法
ご利用の際は、下記のクレジットを表記ください。
人的資本経営フレームワーク(田中弦モデル)/Unipos株式会社提供
※コモンズ証はこちら:https://creativecommons.org/licenses/by-sa/4.0/deed.ja
3500以上の人的資本開示を調査した結果「開示充実度は“とても低い”」
田中は、開示義務化以前に先行開示していた企業の統合報告書957社、海外企業330社、2023年3月末決算企業の有価証券報告書2325社を独自に調査。膨大な開示情報から現状や共通項を見出し、日本の人的資本経営に対して大きな危機感を持っている。
調査の結果として、ほとんどの企業が女性活躍・男性育休・有給取得率など比較可能指標を掲載しているのみであり、開示が充実している企業は上場企業の11%に過ぎない(※1)という事実が明らかになった。
一方で、2040年には日本の労働人口は1100万人不足すると言われる(※2)深刻な社会問題に立ち向かうには、人的資本経営に本格的に取り組む必要がある。
(2023年11月時点の最新の人的資本開示 解説記事はこちら)
このような課題感に対し、Unipos社や田中が持つ知見を最大限活用できるように公開したのが、本フレームワークである。
このフレームワークは、自社の人的資本経営の現状を整理し、本質的に経営戦略と人事戦略と連動させて考えるための一助となるはずだ。
フレームワークの内容は、今後の日本の人的資本経営の推進状況を見て随時進化させていくことを想定されているため、継続的に注目したい。
※1:田中独自の基準。開示充実度を6段階で評価し、4(人的資本に関する独自指標の開示・目標の設定がある等)以上の企業が11%
※2:リクルートワークス研究所「 Works 177 未来予測 労働力はどれだけ足りなくなる?」参照
【人的資本経営コンサルティングサービスについてのご案内】
Unipos社では、独自の人的資本経営コンサルティングサービス(有料)をご提供しております。
「人的資本経営専門家」として、本フレームワークの公開や、3500社以上の人的資本開示情報を読み込んで導き出した独自の見解を数多く発信する田中弦より、人的資本経営の最新情報とノウハウをインプットしつつ、経営戦略と人的資本の研修/ワークショップの実施や、ご要望に応じて独自KPI策定・統合報告書作成サポートなどをご支援します。
なお、開示のコンサルティングではなく「人的資本経営」のコンサルティングとなります。対象は経営層および、IR・HRご担当者様です。
下記リンクのフォームより資料をダウンロードいただけます。
この連載の記事一覧