「企業文化は戦略に勝る」を体現する、アイルの経営哲学
2025.04.07
目次
Profile

岩本 亮磨 氏
企業の経営力向上をITで支援するアイル(東証プライム上場)にて、IR体制や人事制度の整備など、全社的な組織改革を推進。階層別の全社研修プロジェクト実施など、「一体感を持ち、協力し合える組織」づくりを目指す。
企業文化は戦略に勝る。拡大する組織でカルチャーを最優先するわけ
――アイル社は組織づくりに非常に注力されていますが、きっかけはあったのでしょうか。
岩本氏:背景は2つあります。
1つは、会社の規模が拡大する中で、企業文化の維持の重要性が増してきたこと。私が入社した2011年当時は社員数が300名程度でしたが、今では1000名を超える規模になっています。さらに、リモートワークの普及による働き方の変化もあり、企業文化をどう継承し進化させるかが課題となっていました。
2つは、私個人の役割であると考えている点です。もともとアイルは創業当初から企業文化を大切にする会社であり、それが会社の成長にもつながるということが代表(※編集注:創業者である岩本哲夫氏。岩本氏の父) の考え方でした。代表自ら企業文化の重要性を語り続け、取り組んできたため、その流れを継いでいくことが私のミッションの一つだと考えています。
――なぜ、そこまで企業文化を重視されているのでしょうか。
岩本氏:代表がよく口にするのは、ピーター・ドラッガーの言葉として有名な「企業文化は戦略に勝る」ということです。経営において戦略や計画ももちろん大切ですが、それ以上に大切なのがカルチャーや価値観だと考えています。
また、「人は感情で動く」という考え方を大事にしています。例えば、好きなラーメン屋やアーティストのことは、お金をもらわなくても自然と友人に紹介しますよね。それと同じで、会社のことを心から好きでいられる環境をつくることが、組織づくりの鍵だと考えています。社員が会社を好きになり、それが顧客にも伝わり、結果的に良いサイクルが生まれるというのが理想の形です。

さらに、私たちは『FREE, LOVE&DREAM』というポリシーを掲げています。これは、個々の社員が自由に個性を活かしながら、信頼や愛情を持ち、夢を持てる社会を実現するという理念です。一言で言えば、「優しい社会をつくる」ことを目指しています。
まずは会社をそうした環境にすることが重要だと考えています。自分たちの会社が個性を押しつぶしたり、働きにくい環境だったりするようでは、良いサービスを提供することはできません。
――アイル社のように拡大し続けている組織においては、どのようにカルチャーを維持・進化させるのでしょうか。
岩本氏:弊社の文化の核になっているのは、「社長所感」と呼ばれる代表のレポートです。これには、代表が考えていることや、アイルの目指す方向性、大切にしている価値観が詳細に記されています。毎月5~6枚ほどのレポートが発行され、それを全社員に共有することで、組織の一体感を保つ仕組みになっています。
採用面でも、一風変わったカルチャーがあります。新卒採用では、代表自らが会社説明会で話をします。しかも、1時間半から2時間くらい、台本なしで話すんです。また、業務内容の説明がほとんどありません。代わりに、働くことの意義や人生において大切な考え方を中心に語ります。結果として、学生の皆さんは「この会社、面白そう」「この社長、熱いな」と興味を持ってくれます。
――それは面白いですね。会社の事業内容よりも、働く意味を伝えることを重視しているのですね。
岩本氏:そうなのです。説明会を終えた後に面接にくる学生たちの中には「アイルって何をしている会社ですか?」と聞いてくる人もいるくらいです。ですが、それでいいと考えています。まずは弊社の考え方に共感してもらうことが重要です。だからこそ、熱量を持って伝えることを大事にしています。
会社のホームページもあえてIT企業というよりも人の温かさが伝わるようなデザインにしており、見る人に「これ、何の会社?」と興味を持ってもらうようにしています。
「無駄の合理性」――感覚的価値を重視する経営
――代表がビートルズ好きと伺っていますが、それが企業文化にも影響しているのでしょうか。
岩本氏:間違いなく影響しています。代表はもともと音楽を本業にしたいと考えていたほど、アーティスト気質が強いです。そのため、ビジネスというより、何か創造している・表現活動をしている感覚が強いのだと思います。『FREE, LOVE&DREAM』に表現されるような、自由や夢を大切にする考え方も、ビートルズの影響を受けていると思います。
――経営では、論理性を求められることが多いです。どうバランスをとっているのでしょうか。
岩本氏:先ほども申し上げたように、基本的に、人は感情で動くものだと考えています。理論的に正しいことだけでは、人の心は動きません。だからこそ、感覚的な部分やアート思考を大事にするのが弊社の方針です。ただ、IRなどの面ではどうしても定量的な説明が必要なので、その部分は難しいですね。
――感覚的な価値をどう定量的に伝えるかは難しいですよね。
岩本氏:そうですね。私は、短絡的に費用対効果を数字で証明しようとするアプローチに違和感を持つことが多いです。例えば、弊社では全拠点の社員が一堂に会する創立記念式典を毎年開催しています。利益に直結はしませんが、 こういった投資が企業文化につながっていることは確かです。
弊社では「無駄の合理性」という言葉をよく使います。一見すると無駄に見えることでも、実は組織の一体感を生み出したり、社員のモチベーションを高めたりする重要な役割を果たしていることが多いのです。
――規模が大きくなってくると、部署間の関係が希薄になっていくこともあると思いますが、その点いかがでしょうか。
岩本氏:おっしゃる通り、課題として認識しています。特にリモートワークが進み、部署間のつながりが弱くなりやすい状況になっています。
また、弊社の強みとして業界特化型の営業やSEがいるのですが、それが逆に人材の流動性を下げてしまう面もあります。例えば、食品業界に特化したメンバーをアパレル業界に異動させるのは、どうしても難しい。そこで、ジョブローテーションをどう設計するか、組織の運営をどう最適化するかを、今まさに考えているところです。
部署間のつながり向上のためには、例えば、新入社員が入社1年目に色々な部署を経験できるプログラムを導入する話が出ています。仕事体験というだけでなく、さまざまな部署の人と関わることで、顔を広めてもらう狙いもあります。
さらに、2年ほど前から階層別の「社内研修」を本格的に始めました。
具体的には、もともと社外向けに研修を行っていたチームがあり、そのチームの社員が講師を担当することで、 ノウハウを社内向けに活かす形をとっています。その結果、部署を越えたつながりが生まれ、横の交流が増えるという効果がありました。今では、社員同士が主体的に学び合う環境が整いつつあります。

――施策を重ねる中で、苦労したことやうまくいかなかったことはありますか。
岩本氏:うまくいかないことは山ほどありますね。一方、「苦労している」という感覚はあまりないです。私は飽きっぽい性格なので、いろいろ試して、うまくいかなかったら次に進むというスタンスなのです。基本的に「数を打って勝負する」タイプなので、失敗してもあまり気にしません。もちろん、すぐに共感を得られないことも多いですが、それでも「これはやるべきだ」と思ったことは、強引にでも進めます。
――社内で反対意見があった際は、どう対応していますか。
岩本氏:時には反対されることもあります。しかし、必ず賛同してくれる人がどこかにいるので、そういう人を探して巻き込んでいくことがポイントだと思っています。一人でやろうとすると辛くなるので、賛同者を増やしながら進めることを意識しています。
企業文化は、私たち経営陣がリードしていかないと変わりません。だからこそ、「これは今やるべき」と思ったことは、後悔しないようにやり切るようにしています。
今ある良い企業文化を維持するためのカルチャー投資
――これらの取り組みによる変化は感じられますか。
岩本氏:横のつながりが増えたことは実感しています。例えば、研修を通じて知り合ったメンバー同士で業務の相談をし合うケースも増えました。
ただ、今回の取り組みは、「課題を解決するため」だけではなく、「今の良い文化を維持するため」という目的も大きいです。多くの企業は、離職率の上昇やエンゲージメントの低下をきっかけに改革を進めますが、弊社は「良い状態を保つために/さらに良くするために」という視点で取り組んでいます。
――「課題があるから」取り組みを始める会社が多く、「今ある良い文化を維持するために」投資を続ける会社は少ないと感じます。
岩本氏:それだけ企業文化に対する代表の想いが強いのだと思います。15年ほど前は、代表の想いと現実にギャップがあり、それが離職にもつながっていました。でも、会社が社長の考えに追いつく形で変わっていき、結果的に離職率も低下しました。
変化のきっかけとして最も大きいのは、役員の交代です。2009年頃に役員が変わり、創業メンバーや外部から迎えた経営陣から、社内で育ったメンバーが役員になったタイミングで、会社の雰囲気が大きく変わりました。特に、新卒1期生・2期生のメンバーが役員になったことで、代表の想いをよく理解し、それを現場に伝えられるようになったのが大きいと感じます。
――組織づくりと事業成長の関係性については、どのように捉えていますか。
岩本氏:先ほどもお話しした通り、私たちは「企業文化が戦略に勝る」という考えを大事にしています。業績アップの何%が企業文化によるものかを数値で表すのは難しいですが、今の良い業績があるのは、間違いなく企業文化が根付いているからだと思います。
例えば、離職率を見ても、現在3.4%と業界平均と比べてもかなり低い水準を維持できています。離職については企業によって考え方が異なるかもしれませんが、私たちは「人が辞めることはネガティブな要素になりやすい」と捉えています。もちろん、前向きな退職もありますが、やはり残されたメンバーへの負担は避けられません。特に私たちのようにお客様の業務を深く理解しながらシステムを構築する仕事では、担当者が辞めることでお客様への影響も大きくなります。

――なるほど。「離職をどう捉えるか」は企業ごとに異なる部分ですが、顧客との関係性を重視する企業では特に大きな影響があるのですね。
岩本氏:はい。私自身も以前「ある程度の人材の入れ替わりがあることは、組織にとって健全なのでは?」と考えたことがありました。しかし、代表から「それは人が辞めていた時代を知らないから言えることだ」と言われたのです。当時は現在の3倍以上の離職率で、その悲しさや組織へのダメージは計り知れないものだったといいます。今は私自身、実際に経営を経験してみて、人が辞めることの影響の大きさを強く実感しています。
企業文化を体現し、成長し続けることがリーダーの条件
――組織づくりの観点から、今後の課題としてどのような点を考えていますか。
岩本氏:1つは、先ほどお話した、部署間でのつながりをどう増やしていくか。
2つは、次世代のリーダー育成です。私を含めて、次の役員や幹部をどの年代からピックアップしていくのかを考えていかなければなりません。
次世代のリーダーとして重要なポイントはいくつかありますが、最も重要なのは、企業文化を深く理解し体現できることです。それに加えて、トップに対しても率直に意見を言える人であることが重要です。トップに物申せる人がいなければ、健全な組織運営は難しいですから。

――ご自身が組織を動かす上で大切にしているポリシーや原動力についてお聞かせください。
岩本氏:私のポリシーは「かっこよく生きる」です。子供たちにもよく話しているのですが、「かっこいいか、かっこ悪いか」で判断すると、意外とシンプルに決断できるんですよね。
代表も「社員たちは上をよく見ている」と言っています。私たちがバレていないと思っていることでも、実はしっかり見られているのです。
だからこそ、行動に示すことが何より大事だと思っています。リーダーの行動がカルチャーをつくるため、私自身が率先して成長し続けることを意識しています。
※記載されている情報はインタビュー当時のものです。
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