成果に結びつくパーパス経営とは。たどり着いた3つのポイント

全国におよそ1700教室の個別指導塾「明光義塾」を中核の事業としている明光ネットワークジャパン。同社は「明光義塾」事業の深化と新規事業の多角化に伴い、2021年にパーパス『「やればできる」の記憶をつくる』を掲げ、人材組織改革に取り組んでいます。

「対話」を重視した活動を通じ、パーパス策定から3年という短期間で社員のエンゲージメントと業績の向上を実現。同社の「パーパス経営」の取り組みと成功要因、そして取り組みを通じて得られた独自の組織論について、明光義塾事業本部長補佐の奥村直城氏に伺います。

Profile

奥村 直城 氏

株式会社明光ネットワークジャパン 明光義塾事業本部長補佐

2010年に同社に中途入社し、明光義塾の教室長・エリアマネージャーを歴任し、教室運営とマネジメントを経験。営業企画などの経験を経て、21年~24年3月まで社内大学である「明光アカデミー」の責任者として、社員の育成プログラムや、パーパス浸透を通した組織開発に従事。24年4月より現職。

100年企業を目指して、新たなパーパスを策定

――明光ネットワークジャパンは2021年9月に『「やればできる」の記憶をつくる』というパーパスを発表しました。どのような背景から、パーパス経営に取り組みはじめたのでしょうか。

100年企業を目指すうえで、人材組織改革を推進するためです。弊社の基幹事業「明光義塾」が成長期から新たなステージへ突入し、事業を深化させていく必要がありました。
一方、保育事業、日本語学校事業、人材・研修事業といった新規事業に加え、M&Aも含めて現在はグループ全体で17の会社を展開するグループとなりました。

弊社には「個別指導による自立学習を通じて 創造力豊かで自立心に富んだ 21世紀社会の人材を育成する」という教育理念があります。これは明光義塾の「創業の精神」であり、市場に"個別指導と自立学習"というイノベーションを起こした原点でもあります。この理念を根幹に据えて、後発で立ち上がった新規事業にとっても共通の価値観となり、社会的存在意義となるような「価値基準」となる新たなパーパスを策定しました。

――事業の深化にあわせたアップデートだったのですね。 

加えて、当時は組織と人の関係そのものの変化が求められている状況でした。弊社はもともと創業者を始めとする経営陣が、理念や価値観を大切にリードしてきた、ハイコミットメント型の組織でした。人を重視した経営管理をすることによって、組織の一体感を醸成し、業績につなげてきました。しかし、事業の多角化によって、横断的なコミュニケーションは希薄となり、縦割りの組織になっていきました。

そこで、事業が新たに増え、多様性に富んだ組織になっても、明光グループとしての一体感をボトムアップ型で作っていく必要があると考えたのです。

社内から主体的にアイデアが生まれ、挑戦する風土をつくるために、「コミュニケーション活性化」をパーパス経営の短期的な目標としました。そして、パーパスの浸透を通じて、社員に仕事の意義や社会貢献性を感じてもらい、そこからイノベーションを生み出せる人と組織に変化していくことを長期的な目標としました。

成功の鍵は「トップダウン」と「ボトムアップ」両軸のコミットメント

――パーパスを浸透させるために、どのような取り組みを行っているのでしょうか。

パーパス経営には「認知」「理解」「共感」「自分ごと」「実践」というステップがあります。21年から現在までの3年間は、まずパーパスを認知してもらい、必要性を理解し、共感してもらうための期間でした。

浸透させるにあたり、例えばこのような工夫や施策を仕掛けました。

まず、パーパス浸透プロジェクトは手挙げでアンバサダーを募りました。「組織を変えていきます」と伝えるだけではなく、実際に意志を持った社員が参加でき、挑戦できる場が整っていることが重要と考えたためです。公募すると毎年40名~50名の手挙げがあり、3年間で約150名以上のアンバサダーがパーパス浸透プロジェクトに関わって活動してくれました。

また、経営陣が全国各地を訪問、現場社員と直接対話し、お互いの価値観を共有する「タウンホールミーティング」を実施しました。1回あたり約25~30か所を回ることになるので、年に2~3回開催となると、のべ150回以上は開催していることになります。2021年当初は経営と現場に距離があり、中には「パーパスって何?」という反応もありました。しかし、パーパス策定までのストーリーを共有し、創業者や社長が原体験や想いなどをストーリーテリングしていきました。明光ネットワークジャパンが大切にしたい価値観や、"らしさ"をトップ自ら伝えていき、それについて社員にも「あなたはどう思う?」というダイバーシティ・コミュニケーションを大切にしていきました。

さらに、私たちが大切にすべき価値観や行動が組織文化となるよう、評価・表彰制度の改定を行いました。人事評価システムにパーパスやバリューを反映し、業績だけでなく、価値観に基づく行動を、上司と部下で共有する仕組みにしたのです。人事評価シートは「バリューを発揮した出来事」という質問に答えてもらい、そのストーリーを元に上司との1on1で対話を行ったことは効果的でした。表彰制度の面でも、業績だけでなく、定性的に「パーパスやバリューをどう体現したか」も表彰する仕組みにしました。

また、パーパスを視覚的に表現するムービーを制作し、パーパスの世界観をイメージで共通認識できるようにしました。実際の社員や顧客の声を聴くと、自分たちの仕事の社会的価値がダイレクトに伝わってきますよね。パーパスやバリューに関するエピソードも社内報で特集を組んだり、声の社内報として「Connect Radio(コネラジ)」という社内ラジオもスタートさせました。視覚や聴覚情報を通じて、より具体的に私たちの社会的存在意義を実感してもらうための取り組みを行ってきました。これらの取り組みは、すべて3年間で関わってもらったアンバサダーの意見を形にした結果です。パーパス経営を宣言してから3年で「共感」のステップまでは進めたと感じています。ただ、この先もっと多くの社員が「挑戦行動」に移せることが肝。現在は、改めてパーパスをテーマに、「貢献実感」や「成長実感」を発見してもらい、社員の行動変容につながるような施策をアンバサダーと一緒に検討しています。

――組織やカルチャーという目に見えないものを変革するにあたって、社内から反対の声が上がるケースは少なくありません。社員の方々からはどのような反応がありましたか。

弊社も、最初は苦労しました。中には「パーパスって本当に必要なの?」「パーパス云々より、効率的に成果を上げられるHowが欲しい」という反応も少なくなかったです。

そこを突破できたのは、トップが熱量を持ってコミットメントしたことが一番の要因だと考えています。長期的かつ本気で組織を変革させようという姿勢をトップが示したことで、私を含めた多くの社員に伝播していきましたトップが本気度を示さなければ、組織を変えていくことは困難です。タウンホールミーティングでの「対話」もその一例ですが、それ以外にも朝礼で繰り返し伝えるなど、社長は必ずといっていいほど、パーパスの世界観を話題にします。こうしたパーパス浸透活動へのフォロワーシップも発揮してくれることで、アンバサダーは心理的安全性が高まり、ボトムアップのコミットメントとその「見える化」が徐々に社員へ伝播していったと思います。

さらにいえば、創業者が理念の重要性を説き続けていたこともあります。弊社の提供しているサービスは、有形の価値ではなく、「人」が起点になり生み出される無形の価値です。だからこそ、社員を資源ではなく、資本として捉え、社員の価値観や想いが事業をスケールさせるために必要と認識していたのだと思います。そうした意識が現在の経営陣にも引き継がれているため、強いコミットメントにつながっています。

ですから、パーパス経営のカルチャーをつくるには、トップダウンとボトムアップのどちらも重要です。階層関係なく熱量高くパーパスに向き合っていたことが、上手くいった要因と考えています。

パーパスの浸透により「業績向上」「エンゲージメント向上」を実現

――これらの施策はどのような成果に結びついたのでしょうか。

「業績」と「ワーク・エンゲージメント」において目に見える成果が得られました。

基幹事業である明光義塾は全国1700教室展開(2024年12月時点)しており、そのうち直営が265教室、フランチャイズが1435教室あります。パーパス策定後の3年間で浸透に取り組めたのは直営教室でしたが、直近までに直営教室を中心に業績を伸ばしているのです。具体的には、平均在籍生徒数が昨対比10%程度増加しました。このことから、弊社では「パーパスと業績は明確に関係がある」という考えを持っています。パーパスを基点にした対話が活発になることで、自発的な発言や改善提案が増えるなど、自分たちのサービスを"より良く"しようというカルチャーにつながっていると捉えています。

また、社内で行っているエンゲージメントサーベイでは約85%の社員が「理念やビジョンに共感」と回答しています。毎回全スコアの項目で一番が高い結果が出ています。

さらに特徴的だと感じたのは、離職に関するデータの変化です。パーパス策定後のデータを見ると、短期的な離職率は増加していますが、長期的な離職率は低減しています。これは、パーパスの価値観にフィットしないと感じる方が組織を離れる一方、深く共感してくれる人材の定着率が向上した結果であると考えています。私は、組織全体でカルチャーフィットが進んだ上での健全な変化と捉えていますね。

「パーパス浸透組織」3つの構成要素

――組織づくりを行う上で、奥村さんが大切にしている考えはありますか。

組織の成長の起点となるのは「人」です。私は明光義塾の教室長時代に、講師の成長や教室の成長を見て、そうした考えの素地を学びました。

業種・業界を問わず、社員が離職してしまう理由の多くはコミュニケーションの不全や、社内の人間関係によるものだと言われています。だからこそ、「この仲間と働けてよかった」「○○のおかげで成長できた」と感じられる環境をつくるために尽力しなければなりません。

私の持論では、パーパス経営が浸透している状態は、2つの要素で定義しています。自組織には「自分の居場所」があり「貢献したい」という組織コミットメントと、「この仕事が好き」で「誇りがある」というワーク・エンゲージメントの両者が高い状態こそが、「パーパス浸透組織」であると定義しました。それが組織と社員の双方にとって理想的だと考えています。

組織コミットメントだけが高い「求心力組織」は、会社への忠誠心が強いゆえに、組織に同一化しようとします。社員の離職可能性は低いものの、ときには仕事に充実感を得られずに生産性が低下してしまいます。「会社に言われたらやる」といった受け身なカルチャーでは、仕事における個々の意思決定は会社や上司に依存し、パーパス経営と言えないからです。

一方で、ワーク・エンゲージメントだけが高い「遠心力組織」は組織への帰属意識が低く、社員がやりたい仕事だけに取り組む傾向が強くなります。こうした環境下では、より労働条件の良い会社へ転職を考える可能性が高まるでしょう。

「パーパス浸透組織」を実現するために組織コミットメントとワーク・エンゲージメントの2つの要素に加え、最後の3つ目の要素は、「ホスピタリティ(感謝の心)」です。組織は人と人との関係性で成立しますから、対話を通して本音を言える、というような心理的安全性を高める上で重要な要素となります。このホスピタリティは、関係性作りのあり方であり、健全かつ生産性の高い対話を行う上で欠かせない要素となります。
ちなみに、弊社では、従業員の約65%の439名がアソシエイト・ホスピタリティ・コーディネータ(※日本ホスピタリティ推進協会)としての資格取得者となっています。

ここまで述べてきたすべての活動は、POP50(Progress On Purpose 50)という「対話」を軸としたプロジェクトです。当社は昨年40周年を迎えましたが、次の50周年に向けてもパーパスを起点とした対話のカルチャーを大切にしていきたいという思いを込めています。対話を通じて「貢献実感」「職務満足感」「成長実感」「関係性」を発見することが組織パフォーマンスへのドライバーになっていくと考えています。

「対話」によって、組織コミットメント、ワーク・エンゲージメント、ホスピタリティマインドを高め、社員一人ひとりが働きがいを感じ、結果的に業績につながる、そんなパーパス浸透組織を実現したいと考えています。

 

――最後に、今後の取り組みや展望について教えてください。

これまでは「対話」というインターナルコミュニケーション施策が中心だったかと思います。「対話」によるカルチャーづくりはまだまだ深めていく必要がありますが、今後は広報・PRの観点で積極的に外への発信を強化していきたいです。組織の内と外へのコミュニケーションが相乗効果となり、企業価値を高めていくと考えます。
また、ここまでの3年間で本格的に取り組めなかったフランチャイズ教室へのパーパス・理念浸透も取り組んでいきます。

パーパス経営は、言葉の浸透がゴールではなく、その先にある行動変容を促し、成果へとつながるものでなければなりません。日本財団の18歳意識調査による国際比較から、日本人は自身や将来への期待が低いと言われています。政治や国に期待していない若者が多いというのはやはり悲しいですし、日本の将来を考えても不安だなと思いますよね。そういう社会課題解決に向き合っているのが、明光ネットワークジャパンです。

パーパス『「やればできる」の記憶をつくる』を起点とし、人の可能性を拓くことに向き合うこと。その意味では、日本の"未来を創っている"ナショナルブランドという矜持を胸に、まずは自社で挑戦できる人と組織カルチャーの醸成を進めていきたいと考えています。

※記載されている情報はインタビュー当時のものです。

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