なぜ日本のエンゲージメントは低いのか? ギャラップ社のスコアから読み解く、日本型エンゲージメントの課題と可能性
2025.03.03
目次
第二回では、「日本型経営の功罪を歴史と理論で振り返る:大正~令和における変遷と課題」というタイトルで、日本の歴史を100年ほど遡りながら「日本型経営」と呼ばれる新卒一括採用・終身雇用・年功序列の仕組みを解説しました。その中で、「日本のエンゲージメントが低い」と言われる理由として、「組織的公正さ」が要因にあるのではないか、という提唱をしました。
今回は、「エンゲージメント」についてクローズアップしていきます。
Profile

松島 稔
Unipos株式会社 代表取締役社長
2006年株式会社ネットエイジ(現ユナイテッド株式会社)に入社。同年、当時子会社のFringe81(株)へ出向し、営業組織開発・新規事業/商品開発・事業アライアンス等に従事。Fringe81が親会社からのMBO後、2013年7月より同社取締役COOに就任。事業/新規事業を統括し、2017年の同社の上場に貢献。2021年6月にUnipos株式会社代表取締役副社長COOに就任。2025年1月より現職。
「日本のエンゲージメントは低い」は本当か?
「日本の従業員のエンゲージメントは、世界的に見ても著しく低い」。
ビジネスニュースや人材関連の記事で、このようなフレーズを目にする機会は少なくありません。そして、その根拠として頻繁に引用されるのが、アメリカの調査会社ギャラップ社のエンゲージメント調査です。
ギャラップ社の調査では、「エンゲージしている」と回答する人の割合(エンゲージメント率)が「エンゲージジメントスコア」になり、日本はその数値が最低水準といわれています。実際、日本のエンゲージメント率は、2009年のデータ収集開始以来 一貫して低いままで、4%から8%の間を推移しています。他の高所得国や地理的・文化的に類似する近隣諸国と比べても、低水準に留まっています。2022年、日本のエンゲージメント率は、他の経済協力開発機構(OECD)加盟国の平均18%を大きく下回るだけでなく、東アジア地域(平均17%)と比較しても低水準でした。
このデータを見るたびに、「なぜ日本はこんなにもエンゲージメントが低いのだろうか?」という疑問を抱かざるを得ません。
しかし、この「エンゲージメントが低い」という評価を鵜呑みにする前に、立ち止まって考える必要があると考えます。ギャラップ社が測定している「エンゲージメント」とは、一体何なのでしょうか? そして、そのスコアが示す日本の現状を、私たちはどのように解釈すべきなのでしょうか?
このあと、ギャラップ社のエンゲージメントスコアが示す「エンゲージメント」の定義を明確にするとともに、日本のエンゲージメントが低く現れる理由を多角的に分析します。特に、
・ギャラップ社のエンゲージメントスコアは「ワークエンゲージメント」を指している
・日本企業が重視してきた「組織エンゲージメント」との違い
・スコアに影響を与える「回答バイアス」の可能性
という3つの視点から、日本のエンゲージメントの現状を掘り下げていきます。
ギャラップ社のエンゲージメントスコアは「ワークエンゲージメント」を測るもの
まず、ギャラップ社のエンゲージメントスコアが、具体的に何を測定しているのかを確認しましょう。ギャラップ社は、従業員のエンゲージメントを測る指標として「Q12」という12の質問項目を用いたアンケート調査を実施しています。
実は、Q12は「組織エンゲージメント」ではなく、「ワークエンゲージメント」を測定するためのものなのです。ワークエンゲージメントとは、一言で言えば「仕事そのものに対する熱意」のこと。従業員が仕事にどれだけ熱心に取り組み、没頭し、活力を感じているかを測定する概念です。
Q12の質問項目を見てみましょう。
・自分の仕事に何を期待されているか知っている
・仕事をうまく行うために必要な材料と機材が与えられている
・毎日、得意なことをする機会が与えられている
・この7日間に、仕事で認められ、称賛された
・上司または職場の誰かが、自分の成長を気にかけてくれているようだ
・職場に、自分の意見が尊重される雰囲気がある
・会社の使命や目的意識が、自分の仕事を重要に感じさせてくれる
・仕事仲間や同僚が、質の高い仕事をすることに熱心だ
・職場に親友がいる
・この6ヶ月の間に、職場の誰かが自分の進歩について話してくれた
・この1年間に、仕事で学び、成長する機会があった
・この1年間に、仕事について話した
これらの質問項目を見ると、個々の従業員が日々の仕事の中で「期待されているか」「必要な資源が与えられているか」「自分の能力を活かせているか承認や成長の機会があるか」「意見が尊重され、仲間と協力できる環境か 」といった、仕事内容や職場環境に対する充足度に焦点が当てられていることがわかります。
つまり、ギャラップ社のQ12は、従業員の心理的なワークエンゲージメントレベルを測定するものであり、組織全体への愛着や一体感を測る「組織エンゲージメント」とは異なる概念なのです。

日本企業が重視してきた「組織エンゲージメント」との違い
一方で、日本企業はこれまで、終身雇用や年功序列といった雇用慣行・独特の企業文化などを通じて、従業員の「組織エンゲージメント」を高めることに重点を置いてきました。
「組織エンゲージメント」とは、企業理念への共感、組織目標へのコミットメント、組織への忠誠心、組織への帰属意識など、組織全体への愛着や一体感を指す、より包括的な概念です。
日本企業は、組織エンゲージメントを高めるために、例えば以下のような施策を積極的に行ってきました。
・社内イベントの開催(運動会、社員旅行、忘年会など、従業員間の親睦や連帯感形成を目的としたイベント)
・充実した福利厚生(社宅、保養所、カフェテリアなど、従業員の生活全般を支援する制度)
・企業理念の浸透活動(朝礼での企業理念朗読、社歌斉唱、経営陣によるビジョン共有など、組織の一体感を高める活動)
これらの施策は、従業員の組織への帰属意識や忠誠心を高め、組織全体の目標達成に向けて一体となって取り組む企業文化を醸成する上で、一定の効果を発揮してきたと考えられます。
しかし、組織エンゲージメントを高めるための施策が、必ずしもワークエンゲージメントの向上に直結するとは限りません。
例えるなら、組織エンゲージメントは「家族愛」、ワークエンゲージメントは「仕事への恋」のようなものです。
日本企業が長年重視してきた組織エンゲージメントは、組織への忠誠心や一体感を高める効果がある一方で、必ずしも従業員一人ひとりの仕事に対する熱意や没頭を引き出すとは限らないのです。

※参考資料:ZENTech社の資料はこちら
スコアに影響を与える「回答バイアス」の可能性
さらに、ギャラップ社のエンゲージメント調査はアンケート形式であるため、回答者の心理状態や文化的背景による回答バイアスの影響を受ける可能性も考慮する必要があります。回答バイアスとは、調査への回答が、真実とは異なる方向に歪んでしまう傾向のことです。特に、国際比較調査においては、各国の文化的特性が回答バイアスに影響を与える可能性があります。
日本の文化的特性には、例えば下記のような傾向があるといえます。
・謙虚さ(自己評価を低く見積もる)
・自己主張を控える傾向(ポジティブな回答を控え、平均水準に回答を集中させる)
・ネガティブな表現を避ける傾向(肯定的な質問に対して消極的に回答したり、否定的な質問に対して回避的に回答する)
・現状維持を良しとする考え方(変化を嫌い、現状を維持しようとする)
これらの文化的背景から、ギャラップ社のQ12のようなアンケート調査において、日本人は実際のワークエンゲージメントよりも低めのスコアを回答する傾向があると考えられます。
例えば、Q12の質問項目は、ポジティブな内容の質問が多いため、謙虚さを美徳とする文化においては、肯定的な回答を控えめにしがちです。また、「現状維持を良しとする考え方」が強い場合、「変化や成長」を促す質問に対して、現状維持的な回答を選ぶ可能性もあります。
回答バイアスの影響を考慮すると、ギャラップ社のエンゲージメントスコアは、日本人のワークエンゲージメントの「絶対値」を正確に示しているとは言い切れません。スコアの低さの一部は、日本人の回答傾向によるバイアスが影響している可能性も否定できないのです。

多角的な視点と日本型エンゲージメントの再考
ここまで見てきたように、ギャラップ社のエンゲージメントスコアは、日本のエンゲージメントの一側面を示しているに過ぎません。スコアが低いからといって、日本企業の全てが間違っていると断定するのは早計な判断です。
日本企業が長年培ってきた組織エンゲージメントの強みは、依然として貴重な企業文化の基盤であるといえます。組織への深い帰属意識や集団の力は、困難な時代を乗り越え、組織全体の目標達成に貢献する力となります。
しかし、グローバル化が加速する現代において、ワークエンゲージメントの重要性が増していることもまた事実です。変化の激しい時代の中で組織が持続的に成長していくためには、従業員一人ひとりが仕事に情熱を持ち、自発的に革新に取り組む姿勢が不可欠です。
今後の日本企業は、組織エンゲージメントとワークエンゲージメントの両方をバランス良く高める施策を検討していく必要があるでしょう。
エンゲージメントを改善するためのマクロ的な打ち手、セグメントごとのミクロ的な打ち手
今回は、ギャラップ社のエンゲージメント率の定義・調査の詳細、日本人特有の回答バイアスを解説しながら、安直に「日本はエンゲージメントが最低」と言説することは危険なのではないか、ということを提唱してきました。
とはいえ、依然としてエンゲージメント率を改善する必要はあります。その上で私は、「マクロ的な打ち手」と「ミクロ的な打ち手」の2つを整理するとよいと考えています。
「マクロ的な打ち手」は、前回もお話した「組織的公正さ」を高めるという王道の打ち手です。世代間の賃金格差・男女間の賃金格差を是正することを行うべきでしょう。評価制度・報酬制度を是正すること、そして、フィードバックや称賛すべきことを称賛する企業カルチャーづくりは、企業活動の根幹になるため、優先して投資すべきです。
それとは別に、「ミクロな打ち手」とりわけ「個別のセグメントごとの打ち手」も重要です。
例えば、Z世代と呼ばれる若手に対する打ち手が考えられます。次回は、このZ世代にどう対応していくかにフォーカスを当てて考えていきます。
※記載されている情報はインタビュー当時のものです。
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