本音を聞く必要はない。Z世代と「組織人格」で付き合おう
2024.06.13
若い世代が何を考え、何を望んでいるのか、行動の背景を探る連載企画「新入社員の科学」。初回のテーマは『Z世代』だ。『Z世代化する社会 お客様になっていく若者たち』の著者である舟津昌平氏は、「Z世代は社会の縮図。一見謎に思える彼らの行動は、社会環境の変化によって生み出されている」と語る。Z世代の言動に隠された理由と、彼らと職場で良好な関係性を築くために有効な解決法について話を聞いた。
Profile

舟津昌平 氏
東京大学大学院 経済学研究科 講師
経営学者。1989年生まれ、奈良県出身。2019年京都大学大学院経済学研究科博士後期課程修了、博士(経済学)。京都産業大学経営学部准教授などを経て、2023年10月より現職。著書に『制度複雑性のマネジメント』(白桃書房、2023年度日本ベンチャー学会清成忠男賞書籍部門受賞)、『組織変革論』(中央経済社)、『Z世代化する社会 お客様になっていく若者たち』(東洋経済新報社)など。
他人の目を気にして、空気を読むZ世代
──生まれたときからインターネット環境が当たり前だったZ世代にとって、SNSは日常生活から切り離せないツールです。まずは、SNSの使い方から見えてくるZ世代の特徴について教えてください。
Z世代の多くは「イケてるけれどイタくない自分」になることを目指しています。彼ら彼女らにとっての基軸は「友達」です。若者らしい承認欲求はあって、でも友達の中で浮くのは嫌なので、二つの願望が両立する絶妙な立ち位置を常に探っています。
SNSは一見開かれてみえますが、Z世代はあえて閉鎖的な空間を作り、友達だけでコミュニケーションを図ることを好みます。インスタグラムでは鍵のついた匿名アカウントを作成し、仲間内でだけ見られるストーリーズ(24時間で消えるショート動画)を多用します。
一昔前の作り込んだキラキラ投稿ではなく、日常生活をそれなりに楽しむ「平均よりちょっと上の自分」を演出するのです。逆に他者からアクセスしやすく開放的で、大衆の反応が可視化されるXは人気が落ちています。他人の目をひどく気にするZ世代にとって、自分の意見がバズって注目を集めることは、炎上リスクをふまえても、とても怖いことなのです。

──Z世代は限られた仲間とのコミュニケーションを好むとのことですが、書籍には大学生の本音がたくさん書かれています。舟津先生はどうやって若者の考えを引き出しているのでしょうか。
著書ではざっと50名ほどに話を聞きましたが、Z世代は他人に対しての警戒心が強く、自分の考えを否定される、もしくは意見を押し付けられることに敏感です。またそれ以上に周囲の目を察知して場の空気を読み、相手が望む回答を返そうとします。「本音を聞く」のはかなり難しいことです。
私は職業柄多くの大学生と接しますが、普段から学生にはストレートに尋ねることを心掛けています。意図を隠さない、妙なテクニックを挟まない。例えば講義で、「遅刻しても怒らない上司が増えているそうだけど、どう思う?」と学生に尋ねる。出された回答に対しては肯定も否定もしないで、「なるほど、それで?」と回答理由を掘り下げていく。そうすると、意外と素直に思っていることを話してくれます。
──相手の考えをそのまま受け止めるコミュニケーション方法は、職場での「上司」と「部下」にも有効なのでしょうか?
職場の上司と部下には仕事の成果を求めるという明確な利害関係があるため、より難しくはなるはずです。上司世代には、友人のようなコミュニケーションを取ることで若者と距離を縮めようとする人も多いですが、逆効果に思えます。Z世代からすると上司は生殺与奪を握る存在なので、本音なんてとても話せない。むしろ、積極的に心理的な壁を作られてしまいます。
そもそも上司とZ世代では好むコンテンツが違い過ぎるので、仕事以外の共通の話題で盛り上がれるなどは思わない方が賢明です。それよりは上司側から「自分はこんな人間です」と自己開示して、警戒心をとくことから始めるべきだと思います。相手に合わせるのでなく、自分を開示していく。
Z世代は社会の先駆者。5つのキーワード
──コミュニケーションが敬遠されるとなると、上司はどのようにZ世代を理解していけばいいのでしょうか。
私は、Z世代を、社会の変化を敏感に感じ取る「先駆者」だと捉えています。「炭坑のカナリア」というように、若いからこそ変化への感度が高く、ピュアゆえに社会の影響を受けやすい存在と見るべきです。Z世代の言動は一見すると理解し難いのですが、背景にある構造を知れば、若者がなぜそうした態度を取っているのかが見えてきます。
ですので、この記事で挙げている特徴はすべて、Z世代に強くみられると同時に他の世代でも同様に観測できるものだ、ということは忘れないでください。自分の世代に当てはめてみても、同じように読めると思います。
その点を踏まえた上で、以下の5つがZ世代を理解するキーワードとして挙げられます。
①学級と監視
昨今、就職先の内定式に保護者が出席するなど、Z世代は子ども扱いされ、社会が子離れできなくなっています。人生で一人前になる時期が後ろ倒しになっており、小中高を卒業しても、保護者に見守られ友達とグループをつくる「学級」の枠組みを引きずっています。大学生との会話でも「クラスカースト」「(グループの)一軍、二軍」のような言葉が頻繁に聞かれるほどです。
心を許せる友達を作ること自体へのハードルが高いため新しいグループが生まれにくく、狭いコミュニティの中で互いの行動を監視し合っています。常にSNSの投稿をチェックして、交友関係に動きがないか見張っている。自律していないため小集団に所属して他人とのつながりを求め、つながりの中で決して自由ではない状態に置かれています。
②不安
社会からもグループからも監視される中で、Z世代は自分が他人からどう見られるかを常に気にかけています。人の顔色をうかがったまま社会人になるので、「これは正解だろうか」「周囲から浮いていないか」と自分の考えを出すことを極端に恐れています。
「先生の講義は面白いから出たいけど、友達が行きたがらないから出席しにくい」と言った学生さんもいました。「授業に出る」という行為一つ取っても、友達から真面目に思われてグループから疎外されるのではないかと不安に感じるのです。
③消費の主役
あるシンクタンクはZ世代を「消費の主役」と表現しました。社会経験がないため騙されやすく、周囲と比較して不安を抱きやすい若者は格好のビジネス・ターゲットです。企業やインフルエンサーは、ビジネスチャンスを得るためにもはや手段を選びません。就活に関連するサービスや不安につけこむ情報商材など、Z世代を対象としたビジネスは次々と生まれています。
一方で、Z世代はそれらが虚構だと知りつつも流行りを享受する「賢い消費者」でもあります。「流行は社会によって作られたもの」と気付きながらも、刹那的に消費を楽しむ面も持ち合わせています。
④お客様
③と繋がる部分で、現代社会では、お金を支払えば心地良いお客様体験をすることができます。少子高齢化が進んで若者という存在が貴重になっていることもあり、いつまでも子ども扱いされ、お客様扱いされ、心地良い環境が提供される社会が当然だと思い込んでしまうのでないでしょうか。
しかし会社は、逆にお金を貰って働く場所です。当然、我慢や忍耐を強いられることも増えます。この「お客様扱いされない環境」にZ世代は慣れておらず、困惑して自分にもっと合う仕事や転職先を求め、お金を払ってでも自分に心地良いサービスや助言を求めようとします。お金を支払う側から稼ぐ側への意識変革をいかに行えるかが鍵となっていくでしょう。
気をつけるべきは、それはZ世代が自ら望んでそうなったというより、社会の接し方が変わってきたからだとみるべきです。
⑤インフルエンシー
Influencee、「インフルエンサーから影響を受けている人々」という意味の言葉(造語)です。Z世代は情報源がSNSに偏っており、それまで共有されてきた社会常識や倫理よりも、「推し(好きな人)の考えが正義」という志向を支持してしまいがちです。
インフルエンサーは仮想敵を作ってファンの結束を高めるために「自分の意見に賛同しない者は全て敵」と喧伝する戦略を採っています。その態度に心酔するZ世代は、現実社会や世間で真っ当な観点から叱られても「アンチ(自分にとって不都合な人)の考えは無視しよう」と、極端な思想に傾倒しがちです。

職場でのルールを定め、「組織人格」同士の付き合いを
──組織を運営していくためには、共通の目標に向けて仕事への価値観が異なる世代同士で協力し合う必要があります。上司世代は、考えの異なるZ世代とどのように付き合っていけばいいのでしょうか。
まず、Z世代を「何を考えているか分からない存在」としてよそ者扱いしないことです。5つのキーワードからも分かるように、Z世代の言動は社会環境が生み出したもので、Z世代に属する個々人が特異な考えを持っているわけではない。われわれと同じ社会を生きていて、新しい構造から受ける影響の強弱が違うだけである。ならば、職場においては「従来通り」の指導でも別に良いとも考えられます。

次に、社会人としての常識を大事にして、丁寧に教えることです。Z世代はお客様扱いされることに慣れているので、指摘を受けるだけでも攻撃的になる、もしくはすぐに心が折れてしまうことがある。しかしそれは、経験がなくて、未熟ゆえに無知なだけで、学習によって改善しうるものです。
それを学校や大学で教えきれなくなっているのは申し訳ないことですが、納期を守るとか報連相するとか、社会人として必ず守るべき判断基準を指導し、お客様から社会人への意識変革を手助けするのが上司や先輩世代の役目なのかと思います。
そしてそれは別に昔からそうであって、今に始まったことではないですよね。ところがいつしか「即戦力志向」が強まり、入社してくる若手社員は完璧なはずだ、と会社側が勘違いしている部分がある。
私が挙げた施策のいくつかは、当たり前すぎる、と呆れられると思います。その通りで、呆れるような当たり前のことだけしておけばよいのです。相手はエイリアンでなく、我々もそうだったように、無知な若者なのですから。
最後に、彼らに自己開示を求め過ぎないことです。経営学者のチェスター・I・バーナードは、組織内で働く人間は「組織人格」と「個人人格」を持つと述べています。会社は仕事をする場なので、本来であれば「組織における自分」を表す組織人格同士で付き合えばいいはずです。
ところがZ世代は就職活動や職場で個人人格の開示を強く求められるあまり、組織人格と個人人格を混同している節があります。怒られるのを恐れて仕事の進捗状況やミスをなかなか報告できないのは、個人人格の「素」で仕事に向き合ってしまっているためです。
誰にでも組織で見せる顔と、プライベートで見せる顔があります。会社なのだからビジネスライクな付き合いをして、Z世代の不安な内面に土足で踏み込まないことも大切です。

──舟津先生はイノベーション研究もご専門です。企業がイノベーションをおこすために、Z世代の特性を活用できることはありますか。
神戸大学の松嶋登教授らは「イノベーションを創出する制度の働き」という論文で、シャープの「緊急プロジェクト制度」の事例から、「ルールに拘束されるイメージのある官僚制が、逆にイノベーションの創出を助ける機能を発揮する」という研究結果を発表しています。
「上司が絶対的な権限をもつ」ことは現代で否定的に扱われがちですが、「責任は上司がもつから部下は気にせずやれ」と解釈することもできるはずです。むしろ中途半端に権限委譲してしまうと、責任を気にして新しいことができなくなる可能性もある。
昨今、とかく「若者の自主性」を育てようとしますが、決められたルールに従うという傾向を活かす方法もあるはずです。自由度を上げることに囚われず、「会議での発言は必須」「〇月までに企画案を提出する」など、組織としてルールを明確に示すことも一案です。ルールの拘束が自由度や安心を担保するという逆説は成立するのです。
組織としてのルールは明確に定め、自主性はアイデアの中身で発揮してもらう、といったように使う場面を切り分けると、不安に駆られ他者を気にしがちなZ世代の考えを活かすことができるのではないでしょうか。
※記載されている情報はインタビュー当時のものです。
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