未来が見えない時代に若手社員を育てる、「マイテーマ」とは?

若い世代が何を考え、何を望んでいるのか、行動の背景を探る連載企画「新入社員の科学」。第二回では、大学でのキャリア教育支援や企業の社員教育支援を行うOriginal Point 代表・高橋政成氏に取材した。新入社員を始めとする若手世代をどのように育成し、企業の事業成長と社員個人のキャリアをどう重ね合わせていけばいいかについて話を聞いた。

高橋政成 氏

Original Point 株式会社 代表取締役社長

 

 

10年先の未来ではなく、今ある関心から「マイテーマ」を設定する

──高橋さんは、企業での新人育成事業や大学でのキャリア教育などを通じて多くのZ世代と関わりがあります。Z世代のキャリア観について感じることをお聞かせください。

弊社では仕事柄Z世代と触れ合う機会が多くありますが、Z世代はキャリアを短期的に捉えている印象があります。

ある会社で、入社二年目の社員に「自社で働くことに誇りを持っていますか?」と尋ねたところ、6割が「誇りに思う」と回答しました。一方で「会社の未来を背負いたい」と思う人は4割しかいない。今働いている会社が嫌というわけではないが、中長期でコミットするかは分からない。「この会社でずっと働いていく」という明確なキャリアプランを持てなくなっているのです。

──人材の流動化が進む現代において、若者が明確なキャリアプランを描くためには、どうすれば良いのでしょうか。

私は『マイテーマ』を見つけることを推奨しています。今の自分が好きなことや興味関心があることから現時点での目標を仮設定し、仕事をしていくうえでの環境変化や経験値に応じてその都度目標を軌道修正していくキャリア形成手法です。

従来は10年後など遠い未来のビジョンに向けて目標を設計していましたが、変化の激しい現代において社会や企業の10年先を見通すことは難しくなっています。加えて日本式の新卒一括採用では、配属や仕事の目標は組織主導で決まります。5年後に自分がどんな仕事をしているかも分からない中で10年後のビジョンを要求されても、若者が戸惑うのは当然です。

特に新入社員は、キャリアを重ねていく中で仕事の解像度が上がります。あるメーカーで新入社員のマイテーマ形成を担当した際にも、入社してから時間が経つにつれてマイテーマの内容は具体化されていきました。三カ月、半年、一年と働く中で自分たちが顧客へ提供する価値に気付き、マイテーマの内容も磨かれていったのです。最初に立てた目標に固執するのではなく、自分の軸は何なのか仕事をしながら考え続ける方が今の時代には適しています。

──一方で、企業の目標と個人の目標が乖離する、入社した会社や配属された部署で思い通りにいかないという「リアリティショック」の問題もあります。企業はどう対処していけば良いのでしょうか。

「リアリティショックは必ず起きるもの」と考えておくことです。Z世代はまず組織の現実にぶつかり、モヤモヤしながら組織に課された役割をこなす消極的適応を経て、自身のキャリア観を再構築して仕事のやりがいに気付きます。長への転換期にもなるので、リアリティショックが起きる前提で備えておくことが重要です。

あるメーカー(※)では、配属前に、新入社員を育成する意欲の高い部署が自分たちの部門についてプレゼンを行う「マッチング会」という新入社員向け説明会を開催します。仕事内容をよく知らないまま人事部主導で配属されると「希望通りではない」と落胆する人が出てきてしまいます。しかし各部門について知る機会を設けることで「この仕事も面白そうだ」と興味の幅が広がり、従来なら偏りがちだった配属希望も分散したそうです。人事部のアドバイスなどはあるものの、結果的に全員が第三希望までの部署に配属されました。

仕事の奥深さを伝える「上司」や「先輩社員」の存在が大切

──「企業と自分の価値観が合わない」と、会社を見切って早期離職する社員もいます。働き手不足の中でせっかく育ててきた社員に辞められてしまうことは企業としても大きな損失ですが、何か対策はあるのでしょうか。

若手社員の早期離職では、「仕事をやり切った」と思って辞めることが多いです。でも実際には数年働いた段階での判断なので、まだ仕事の魅力に気付いていないケースも多いです。

退職の決断を覆すのは容易ではないので、辞める前の段階で表面的ではない仕事の面白さに気付かせることが大切です。例えば入社3年目の社員を対象に行った研修では、職場の問題を解決するプロジェクトに取り組んでいただき、最終的にはそのプロセスと結果をプレゼンしてもらいました。解決策を考える過程で若手社員は今の自分にもできることがあると気付くため、早期離職の防止につながります。

また「利他意識を持つ人は会社へのコミットメントが高いが、利他意識の低い人は会社へのコミットメントも低い」という弊社での調査結果があります。自分以外の同僚やお客様など、誰かのために働くという思いが強い人ほど会社への愛着がわきます。

利他意識はすぐに醸成されるものではないので、上司が新入社員の利他意識を育てることが大切です。これからやる仕事は誰のために行うものなのか、今この仕事を行うと社会にどんな影響を与えるのかなど、上司が仕事の意味や目的について説明することで、部下の利他意識が醸成されていくという調査結果が出ています。業務支援を行うだけでは早期離職を引き留める効果はないので、上司が個人の内的キャリア開発支援にまで気を配ることがポイントです。

──若手社員にとって上司の存在が大きいのは意外ですね。

新入社員はまだ社会で働くイメージを具体的に持っていないので、ロールモデルを求めています。2010年頃より大学でのキャリア教育の実施が義務化されているため、Z世代は早い段階から自分のキャリアについて考えているのです。上司自身が仕事の軸や未来について語ると、新入社員にも「自分はこうなりたい」というイメージが生まれます。上司自身が未来や仕事の軸を言語化できるようにするなど、上司のキャリア開発支援も必要です。

また、先輩社員の存在も若手社員に影響を与えます。ある会社では若手社員を対象に、先輩社員が自身のキャリアとマイテーマの変遷についてプレゼンを行いました。自分のキャリアと絡めて、年度ごとに仕事観やマイテーマがどう変化したのかを語ってもらったのです。ハイパフォーマンスを出せるカッコいい先輩社員の話は若手社員も聞きたいと思っていますし、身近で働く先輩社員のリアルなキャリアの話は普段はなかなか聞けないので、とても刺激になったようです。

Z世代にイノベーションを望むなら、会社側の覚悟も問われる

──「若者ならではのイノベーションに期待したい」という企業も多いです。若手社員の視点や発想は、どうすれば自社のビジネスに活かせるのでしょうか。

難しいですね…。今の若手社員は、実業は一定こなしつつ、副業で個人の自己実現やチャレンジをしようとする人もいます。つまり、チャレンジ意欲が高い人は一定存在するので、彼らが副業に持つ意識や割けるリソースを、どれだけ社内に向けさせるかが鍵です。

ただし、会社が若手社員にイノベーションを望むなら、本当に彼らのやりたいことを実現させる覚悟が会社にもあるか、会社や上司が若手社員の育成にどれだけコミットメントできるかが問われます。私たちが提唱するマイテーマも、個人の思いが起点になっています。普段から社会に関心を持ち、何かを成し遂げたいという強い意思があるからこそ、イノベーションも生まれるのではないでしょうか。

──最後に、企業や上司がZ世代のキャリア開発を行う際に心掛けるべきことについてお教えください。

メディアではZ世代の特徴がよく取り上げられていますが、世代で捉えるのではなく個人を見ることが大切です。Z世代のキャリア観は千差万別で、一つの傾向で語れるものではありません。企業や上司が一人一人の社員と真剣に向き合うことが最も大切だと考えます。

※記載されている情報はインタビュー当時のものです。

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