なぜ話が伝わらない? 7つの表現を言い換える「SPECIALの法則」が、共感型コミュニケーションを生む
2025.05.22
組織風土改革において、欠かすことのできない「コミュニケーション」。フリーアドレスや1on1を実施して従業員間の交流を促す企業も多いが、深い対話にはつながらず形骸化する事例は後を絶たない。組織の一体感を高め、変革を動かすコミュニケーションの極意とは。『世界最高の話し方』の著者でありエグゼクティブのスピーチコーチを務める岡本純子氏に、リーダーやメンバーが実践できる共感を生む話し方について聞いた。
Profile

岡本純子 氏
コミュニケーション戦略研究家/エグゼクティブ・スピーチコーチ/株式会社グローコム代表取締役社長
読売新聞経済部記者、電通PRコンサルタントを経て、現職。1000人超のトップエリートの家庭教師として、独自のコミュ力メソッドを活かしてプレゼンやスピーチ等のプライベートコーチングに携わる。2022年次世代リーダー向けの「世界最高の話し方の学校」を立ち上げる。15万部突破した『世界最高の話し方』(東洋経済)ほか、著書多数。早稲田大学政経学部政治学科卒業。英ケンブリッジ大学国際関係学修士。米MIT比較メディア学元客員研究員。
「伝える」で止まっている日系企業のコミュニケーション
──組織風土改革において、「コミュニケーション」はどのような位置付けなのでしょうか。
私は、組織風土改革の「風土」に当たるのがコミュニケーションだと考えています。身体を組織、コミュニケーションを血管と例えると、身体である組織を機能させるためには血管というコミュニケーションによって酸素や血液を組織の隅々まで行きわたらせなければなりません。言い換えればコミュニケーションがなければ、組織改革は進まないのです。
──日系企業におけるコミュニケーションの課題について教えてください。
日系企業のリーダーやマネジャーは、コミュニケーションを誤解している人がとても多いです。コミュニケーションには「伝える」「伝わる」「つながる」という三段階があるのですが、彼らはこの中で最初の段階である「伝える」で止まってしまっていることが多い。上司が連絡事項や言いたいことを伝達するだけで、部下が話の意図を理解して動けると未だに思っている。相手が聞いてメリットがあると思えるような内容に変えて話さなければ、話を受け止めてもらえません。
大量生産・大量消費のものづくり時代である昭和なら、上司の指示に従い全員が同じ行動を取っていれば上手く回りました。しかしイノベーションが求められる令和では、個人の考えや行動を引き出すためによりレベルの高いコミュニケーションを取る必要があります。また、コロナ禍以降リモートワークが増えたことにより、数少ない交流機会であった飲みニケーションも減少しているため、実質職場でのコミュニケーション機会は非常に少なくなっているのです。
──職場でのコミュニケーションを活性化するために1on1を実施する企業も増えていますが、効果的に活かせている企業は少ない印象です。
基本的な関係性ができていない状態で1on1を行ってもうまくいきません。コミュニケーションは一カ月に一回やればいいものではなく、日常的に行うものだからです。案件の進捗確認を行う、日常業務のフィードバックを行うなど、関係性ができたうえで明確な課題設定があれば1on1は効果的に働きます。しかし実際にはコミュニケーションの質も量も不足しているため、1on1が形骸化している事例が後を絶ちません。企業は意図的に心が通い合うコミュニケーションの機会を創出していく必要があります。
──コミュニケーションの三段階「伝える」「伝わる」「つながる」の定義についても教えてください。
「伝える」は、一方的に自分の言いたいことを言っている段階です。自分が言いたいことを言葉にすれば相手は受け止めてくれるだろうという一方的なコミュニケーションです。日系企業では、それ以前の段階で「言わなくても分かるだろう」と考え、伝える努力すら怠っているケースも多いです。
「伝わる」は、話した内容を相手に理解してもらえた段階です。ただ相手が理解しただけなので、未だ一方通行のコミュニケーションであることに変わりはありません。
最後の「つながる」が、真のコミュニケーションにあたります。相手に話の内容を理解してもらったうえで、さらに相手からも話が返ってくる、双方で会話のキャッチボールが行えている状態を指します。この段階になって初めてお互いの信頼関係が築かれます。

7つの表現を言い換える「SPECIALの法則」
──相手とつながるコミュニケーションを行うために、効果的な話し方はあるのでしょうか。
「つながる」段階に至るためには、私は「共感する力」と「共感させる力」が重要だと考えています。前者は相手の気持ちに寄り添う力、後者は感情を揺さぶる力です。例えばマネジャーから「この書類を16時までにやっておいて」と淡々と言われると距離を感じますが、「今、忙しいですよね」と相手の状況に共感し、「この書類は16時までに提出だから、一緒に頑張りましょう」と同じ目線に立った発言をしてくれれば、親近感を覚えます。指示命令型コミュニケーションは恐怖で人を動かすものですが、共感型のコミュニケーションは心の琴線に触れるため、相手が自主的に動いてくれる、エンゲージメントが高まるなど、メリットは多くあります。
──共感を得る話し方をするための具体的なテクニックはありますか。
単なる伝達から深い対話へと発展させるためには、7つの言い換え表現を用いる『SPECIALの法則』の活用がお勧めです。

コミュニケーションは「感情」があってこそ成り立ちます。これだけ情報が溢れている時代に、ロジックや数値などのデータは人の心を動かしません。感情と感情が通い合うことで心がつながり、信頼関係が生まれるのです。
──ハラスメントやコンプライアンスを気にして、褒め方に悩むマネジャーも多いです。
褒めるというと良い点を見つけなければと気負う人は多いのですが、うわべだけの表現は相手には響きません。「認める」「共感する」「褒める」「感謝する」という四つの視点を意識することが重要です。
相手を細かく観察し、「朝早く来て掃除してくれていたね」と変化を認める。「無理しないでね」と相手の置かれた立場に共感する。商談が成果に結び付かなかったとしても、「資料が上手くまとまっていたね」と結果でなくプロセスを褒める。そして感謝は、必ずパーソナルな言葉で伝える。才能や成果よりも、具体的なアクションに注目してください。

コミュニケーション力は後天的に習得できるスキル
──組織風土は変えにくい印象がありますが、どれ位期間を要すれば変わるのでしょうか。
変革の速さは、企業の中で働く人たちの思いの強さに比例します。若い世代が中心で、現状を変えたいという思いが強い企業はすぐに変わります。逆に現状を変えたいという強いモチベーションがない企業ではとても時間がかかります。ただ人手不足の時代に昭和型コミュニケーションを引きずっていては時代に取り残されてしまうため、どの企業も早急に変えざるを得ないというのが現状です。
──コミュニケーションで組織風土が変わった事例があれば教えてください。
全社的なコミュニケーション改革に取り組んでいたある会社では、トップ層、次世代リーダー、マネジメント層と毎年階層を変えて研修を実施しました。その中で最も成果が見られたのは、40~50代の中間層です。昭和の根性論を令和の共感型コミュニケーションにアップデートしたことで、「上司の反応が変わった」という声が部下から多数寄せられました。一般的に管理職世代は変わらないと見られていますが、研修の受講者からは「自分が20代の頃に受けたかった」という声がよく聞かれます。昭和世代は新しいコミュニケーション手法について知らないだけで、気付けば誰でも変わることができるのです。
──最後に、企業のビジネスパーソンが「伝え方で組織を変える」ためのメッセージをお願いします。
コミュニケーションを「学ぶ」ことです。説明能力や雑談力といったコミュニケーションスキルは生まれつきの才能ではなく、語学のように後天的に習得することができます。上達するためには、本や動画で学んだことを実践して、恥をかきながら覚えていくしかないのです。
日系企業ではフリーアドレスやコミュニケーションアプリなど制度から入るケースが多いですが、実際の対話までいきついていないのが現状です。大切なのは、コミュニケーションの実践の場を持つこと。「人から拒絶されるのでは」「非難されるのでは」という自分の不安に打ち勝ち経験を積み重ねることでしか、コミュニケーション力は磨かれません。自信がついたらコミュニケーションが変わるのではなく、他人とつながる経験をすることで自信が生まれるのです。
※記載されている情報はインタビュー当時のものです。
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