リーダーに求められる「言語化」とは何か? 3つのステップと型を学ぶ
2025.07.25
目次
「いい感じにやっといて」「もっと主体的に」──。そんな曖昧な言葉が飛び交う職場では、メンバーは何をすべきか分からず、組織のパフォーマンスは著しく低下します。
では、チームを動かし、確実に成果を生み出す「言語化」とは一体何なのか。そして、多忙なリーダーや、それをサポートする人事担当者はどんな点を意識して行動すればいいのでしょうか。
『リーダーの言語化』の著者で言語化コンサルタントの木暮太一氏に、組織を前に進めるために必要な言語化の本質と実践的なアプローチを伺いました。
Profile

木暮太一 氏
言語化コンサルタント・作家・一般社団法人教育コミュニケーション協会 代表理事
富士フイルム株式会社、株式会社サイバーエージェント、株式会社リクルートを経て現職。14歳から、わかりにくいことをわかりやすい言葉に変換することに異常な執着を持つ。学生時代には「資本論」を「言語化」し、解説書を作成。学内で爆発的なヒットを記録した。ビジネスでも「本人は伝えているつもりでも、何も伝わっていない!」状況を多数目撃し、伝わらない言葉になってしまう真因と、どうすれば相手に伝わる言葉になるのかを研究し続けている。企業のリーダーに向けた言語化プログラム研修、経営者向けのビジネス言語化コンサルティング実績は、年間200件以上、累計3000件を超える。著書に『すごい言語化』『リーダーの言語化』など多数。
「言語化」とは何か?ビジネス現場で起きている問題とは
——そもそも、ビジネスの現場で言語化がうまくされていないことで、どのような課題が生じているのでしょうか?
まず、「言語化」とは、単に言葉にすることではなく「明確化」することを指します。しかし、ほとんどの職場で、この意味での言語化はできていません。多くの人が、「言葉で表現すれば伝わっている」と思い込んでいるのです。
その結果、中身が何もないにもかかわらず、指示した側は「言ったつもり」、指示された側も「何となくわかったつもり」になり、それ以上の具体的な会話が続かない。この「わかったつもり」も言語化が進まない要因になります。
例えば、「社内の風通しを良くしよう」といった言葉は頻繁に使われますが、その言葉が「具体的に何を指すのか」を誰も説明できないケースがあります。
その状態のまま人事が「風通しを良くする」プロジェクトを立ち上げても、そもそも「風通しが良い状態」の定義がないまま議論が進み、最終的に「役職を『さん付け』に変える」などといった中身のない結論になってしまいかねません。目的が共有されないまま、何かをやったという事実だけが残ってしまうのです。
このように、言語化不足がもたらす最大の弊害は、メンバーが「何をすべきかわからない」ため、最終的に行動につながらないことです。
他にも、リーダーが「顧客に価値を提供しよう」と言って、メンバーは「わかりました」と返事をしたものの、そもそも「価値」とは何かが自分の中で明確になっていないというケースもあります。そのため、具体的に何をすればいいか分からず、結局何も行動できない、という事態が起こります。
また、行動したとしても、お互いに何を目指しているかわかっていないため、出てくるアウトプットが的外れになります。

——曖昧な指示に対して、「もう少し詳しく教えてください」と質問しにくいのは、なぜでしょうか。
質問すること=よくない行為だという雰囲気があると、当然聞きづらいでしょう。
例えば、「今日のランチは何を食べますか」と聞いて「和食です」という答えが返ってきたら、「和食の中でも具体的に何ですか?」と聞くのが自然な会話ですよね。そのときに「自分で考えろ」なんて答える人はいないはずです。
しかし、職場の場合は「詳しく教えてください」という質問をすると、だいたい「自分で考えろ」「いちいち人に聞くな」と言われます。聞いたら怒られるかもしれないと、質問しにくくなってしまう。
本来は相手が考えていることを明確にするための対話のはずが、正解を聞く行為だと捉えられ、煙たがられてしまうのです。
リーダーが身につけるべき言語化の3ステップ
——言語化が重要だとわかっていても、「部下に細かく指示を出すと、相手の主体性を奪ってしまうのでは」「マイクロマネジメントだと思われないか」と、躊躇するリーダーは多いようです。
そういった声はよく聞きます。しかし、そこには2つの軸で誤解があると思います。
1つ目は、育成の段階を無視していることです。
どんな仕事でも、最初は何もわかりません。いきなり「自分で考えなさい」と突き放すのではなく、まずは基本となる知識や考え方、つまり「型」を教える期間が必要です。企業に蓄積されてきた知見や効率的な仕事の進め方を伝えていくのは、リーダーとして当然の役割です。
そのうえで、部下が慣れてきたら少しずつ指示を減らしていけばいい。最初から「自分で考えろ」というのは、教える側の怠慢です。
もう1つの誤解は、リーダーの役割そのものを取り違えていることです。
スポーツの監督の役割を考えてみましょう。監督は、勝利という目的のために、送りバントやフォーメーション変更といった具体的な作戦を立て、選手に指示を出します 。選手が自由に判断するのではなく、監督が責任を持って方向性を示すのです。
ビジネスはスポーツ以上にゴールが多様で複雑です。だからこそ、リーダーはチームがどこに向かうのかという「ゴール」、どういう経路でそこへ向かうのかという「作戦プラン」、そして、そのために日々何をするのかという「アクション」の3つを明確に言語化して示す責任があるのです。
かつて、リーダーの役割は「何かあったときに責任を取ることだ」とよく言われました。しかし、そもそも何をすればいいかわからないからミスが起き、成果が出ないわけです。
その根本原因を放置したまま、「何かあったら俺が頭を下げるから」というのは、もはや美徳ではありません。「その前に、何をすればいいか教えてくださいよ」というのが、メンバーの本音ではないでしょうか。これは、昭和の時代から続く大きな誤解だと思います。
——では、リーダーが示すべき「ゴール」「作戦プラン」「アクション」をどのように言語化すればいいのでしょうか。
実は、ビジネスで言語化すべきポイントはそれほど多くありません。社内運営であれば、「ゴール」「作戦プラン」「アクション」この3つが言語化されれば、組織は動くんです。この3つには、誰でも実践できるシンプルな「型」があります。
まず、「ゴールの言語化」です。この時、会社で掲げているビジョンを、「誰が、何々できる状態」という形に言い換えてみてください。例えば、「業界のリーディングカンパニーになる」というゴールを、「すべてのお客様が、注文から1時間以内に商品を手に入れられる状態」と表現すれば、チーム全員が目指すべき具体的な光景を共有できますよね。
次に、「作戦プランの言語化」。これは、設定したゴールに到達するために、クリアするべき中間目標を考えるイメージです。
「すべてのお客様が、注文から1時間以内に商品を手に入れられる状態」というゴールを達成するための必要条件は何か。例えば、「在庫管理の最適化」「配送網の確立」「注文プロセスの簡略化」といった要素が出てきますよね。これが具体的な作戦プランであり、KPIです。
そして最後に、「アクションの言語化」です。作戦プランという中間目標を達成するために、「今日、自分たちは何をするのか」という具体的な行動にまで落とし込みます。
「在庫管理を最適化」をクリアするために、まずは「現在の在庫状況をデータ化する」といった、誰が聞いてもすぐに行動できるレベルまで分解します。
この3つの型に従って考えていけば、いきなり100%の正解は出なくとも、ブレインストーミングはできます。
ここで重要なのは、「リーダーが1人で正解を出す必要はない」ということです。むしろ、リーダーはファシリテーターに徹するべきです。言語化の3ステップを「型」として提示し、「うちのチームのゴールを、この型に沿ってみんなで考えてみよう」と、メンバーを巻き込んで一緒に決めていく。そのプロセスを経ることで、メンバーもゴールを自分事として捉え、主体的に動き始めるのです。

言語化力を高める、リーダーの問いかけ術
——チームで議論するときに、メンバーが言いにくいことも言えるようにするには、リーダーからどんな問いかけが必要でしょうか。
メンバーから意見や本音が出てこないのには、2つの要因があると思います。
1つは、そもそも「何を話していいかがわからない」場合。これは、リーダーからの問いかけが漠然としていることが原因です。「新商品のアイデアを出して」とだけ言われても、具体的にどういう目的で、どんなターゲットに向けたものかわからず、考える取っかかりがありません。
そこで有効なのが、リーダーが思考の呼び水となるような「ありえない例」を提示することです。
例えば、新商品のアイデア会議で誰も発言しないときに、あえて的外れな問いを投げかけてみる。すると、メンバーからは「いや、それは無理です」と否定の反応が返ってくるでしょう。そこでリーダーが「じゃあ、どんな商品ならあり得る?」と切り返せば、具体的な対話が自然に生まれていきます。
もう1つは、「こんなことを言ったら怒られる」という不安から「言い出しにくい」場合です。特に、仕事でミスをしたときに、メンバーは事情を話すことを「言い訳だ」と捉えられるのを恐れて口を閉ざしやすくなります。多くのリーダーがやりがちな「何が悪かったと思う?」という反省会のような詰問口調では、メンバーは責められていると感じ、本音を話してくれないでしょう。
こうした状況で大切なのは、リーダーが率先して「言い訳を許容する」雰囲気を作ることです。
「今月うまく成果が上がらなかったけど、言い訳するとしたらどんな感じ? 今月暑かったからやる気が出なかったかな」といった具合に、開き直って言い訳を言ってあげる。「言い訳していいんだ」という前提を作ることで、安心して個人的な事情を話せるようになります。
——他にも、リーダーの言語化力を上げるために必要な考え方はありますか?
特に、リーダーに求められる言語化は、「この場で何を伝えることが目的達成につながるのか」を考える力です。そして、この「何を伝えるか」(What)は多くのビジネスシーンで「型」として存在します。
例えば、「価値を提供する」場面で伝えるべき「What」は「変化」です。RIZAPのCMがわかりやすいですが、彼らが伝えているのは商品のスペックではなく、「この商品を使うと、あなたの体がこう変わります」という、ビフォー・アフターの「変化」ですよね。
つまり、「価値を提供しなさい」という曖昧な指示は、「顧客にどんな変化が起きるかを伝えなさい」という具体的なアクションに言い換えることができるのです。
リーダー研修より、まずは若手に「型」をインストールする
——こうした「言語化」の重要性を、人事としてはどう組織に広めていけばよいでしょうか?
まず、認識すべきなのは、人事部が現場に対してできることは限られているという現実です。人事が何か一つボタンを押せば、現場が一斉に変わるわけではありません。だからこそ、施策を乱発するのではなく、もっとも影響力の大きい一点にリソースを集中させることが重要です。
多くの企業では、組織のコミュニケーションを改善しようとすると、まず「リーダー研修」から着手しがちです。しかし、多忙なリーダーに新たなタスクを課すのは、得策ではありません。
そこで私が提案したいのが、リーダーの負担を増やすのではなく、むしろ「減らす」という逆転の発想です。その鍵となるセンターピンが「若手メンバーへの教育」です。
仕事の進め方がわからない若手社員が一人いるだけで、リーダーはその対応に時間を奪われてしまいます。この構造を変えるには、若手への初期教育で、仕事のベースとなる「言語化の共通ルール」をインストールすることが効果的です。
具体的には、まず「仕事の価値とは、商品やサービスによって誰にどんな変化を与えるかで考える」という大原則を最初に教えます。そのうえで、指示に対しては、「自分は次にこれをします」と具体的なアクションに分解して確認する習慣をつけさせます。そして、もし自分が次にどんなアクションをすればいいかがわからない場合は、必ずリーダーに質問・相談するように指導するのです。
この「言語化の共通ルール」があれば、若手からの質問や相談の質が劇的に向上します。「○○という変化を起こすために、△△というアクションを試しましたが成果が出ません。どこが違うでしょうか」といった具体的な問いが生まれれば、リーダーは的確にアドバイスすることができます。

——最後に、組織づくりや言語化の難しさに悩むリーダーに向けて、アドバイスをお願いします。
まず声を大にして言いたいのは、「あなたのせいじゃない」ということです。
今の40代、50代のリーダーは、自分が若かった頃、「背中を見て学べ」と言われ、何も教えてもらえなかった世代です。だから、いざ自分が教える立場になっても、その方法を知りません。
モデルケースがない中で、上からは成果を求められ、下からは突き上げられる。本当にしんどい状況だと思います。私の元にも、「リーダーになりたくてなったわけじゃないんです」という悲痛な叫びが数多く届きます。
だからこそ、「一人で正解を出そうと抱え込む必要はない」と伝えたいです。これからのリーダーに必要なのは、「正解はわからない」と開き直る勇気です。そして、「だから、この軸でみんなで一緒に考えよう」と、自分もメンバーの一員となってブレストに参加する。そのスタンスでいいと思います。
リーダーが完璧を目指して潰れてしまうことは、会社にとって最大の損失です。正解を知らないことを認め、チームの知性を信じて委ねる開き直りこそが、不確実な時代に組織を前進させるもっとも人間らしいリーダーシップなのかもしれません。
※記載されている情報はインタビュー当時のものです。
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