【大和工業】 グローバル企業トップが語る、事業と組織の成長サイクル
2025.07.25
目次
兵庫県姫路市に本社を持つ大手鉄鋼メーカーである大和工業株式会社。鉄鋼事業を中核に、重工事業や軌道用品事業など、鉄づくりに関わる事業を展開している同社は、グローバルでの事業拡大・キャリア採用の増加など、とりまく環境が変わる中で大胆な組織変革を進めている。
今回は変革を主導する大和工業株式会社 代表取締役社長・小林氏に、改革の背景にある課題意識、新人事制度に込められた想い、そして事業成長のための組織戦略と挑戦について、Unipos株式会社 代表取締役社長・松島が伺った。
Profile

小林 幹生 氏
大和工業株式会社 代表取締役社長
1980年三井物産株式会社に入社。タイおよび米国に駐在し、2009年に鉄鋼海外事業部長に就任。2012年大和工業株式会社に入社。事業開発部長、常務を経て、2017年より現職。

松島 稔
Unipos株式会社 代表取締役社長
2006年株式会社ネットエイジ(現ユナイテッド株式会社)入社。当時子会社のFringe81株式会社(現Unipos株式会社)へ出向し、営業組織開発・新規事業/商品開発等に従事。2013年同社取締役COOに就任。2021年Unipos株式会社代表取締役副社長COOに就任、2025年より現職。
なぜ今、人事制度を刷新するのか? 背景にあるビジョンと現実のギャップ
松島:大和工業は現在、組織・人材戦略において大きな変革を推進されています。2025年4月からは新人事制度を運用開始されたとのことですが、まずは人事制度をアップデートした背景からお聞かせいただけますか?
小林氏: 当社は2030年に向けたビジョンを掲げています。その実現のためには、当然ながら組織力を一層高めていくことが不可欠です。そして、組織力を高める上で最も重要なのは、やはり社員一人ひとりが持つ力を最大限に発揮できる職場環境をつくり、人材を育てていくことだと考えました。
特にここ数年で、社員構成が大きく変わってきています。以前は新卒で入社し、そのまま定年まで勤め上げるというのが大半のパターンでした。しかし、近年はキャリア採用者が増えています。キャリア採用で入社してくれた多様な人材に「ここで長く働きたい」と思ってもらえるような職場にしていかないと、会社として目指す姿を実現していくことは難しいと考えています。
一方、従来の人事制度には、社員自身のキャリアパスが見えにくいという課題がありました。また、評価についても、上司から一方的に評価を伝えられるだけで、「なぜこの評価になったのか」という納得のいく説明やフィードバックが十分ではなかったのです。評価者自身が評価シートの記入に苦労するほど複雑だったことも、その一因だったかもしれません。
こうした背景から、既存制度のマイナーチェンジでは不十分と判断し、人事制度全体を根本的に見直すことにしました。

人事評価は「対話」と「成長」の機会
松島: では、今回の人事制度変更の肝となる部分はどのような点でしょうか?
小林氏: 今回の変更で最も強調しているのは、フィードバックをきちんと行うことです。これまでは評価結果だけが伝わり、被評価者は「なぜこうなったのか」と納得できないことが多かったと捉えています。上司の評価がさらに上の階層で変わってしまい、その理由も分からない、ということもありました。
ですから、新しい制度を作るにあたっては、なぜその評価になったのか、その理由や背景を納得いく形で丁寧に説明するというフィードバックを重視し、強く打ち出しました。評価を「選別する」「順位をつける」というものではなく、社員の成長の機会として捉え直したのです。評価プロセスを通じて、上司と部下が対話し、評価の理由を共有し、納得感を得る。その上で、社員自身が自分の強みや課題を理解し、次の成長に繋げていくことを目指しています。
松島: なるほど。「育成にフォーカスした評価」へ転換しているのですね。
小林氏: はい。評価して終わりではなく、そこからどうやって社員を成長させていくか、そこに繋げていくことが大事だと考えています。社員が「自分の成長が会社の成長に繋がっている」と感じられるような制度になっていけばいいなと期待しています。
また、評価時だけではなく、日常的な対話も非常に重要だと考えています。例えば、週に一度の1on1を通じて、上司と部下がじっくり話す時間を設けられるようにしています。

松島: 新しい制度を実行していく上で、気を付けられたことはありますか?
小林氏:全社員が、制度を変える目的とその先にあるゴールのイメージを理解することが重要と考えています。そのため、「なぜ今、制度を変える必要があるのか」を丁寧に伝え、納得感を持って一丸となって取り組むことを重視しました。
制度改定にあたっては、労働組合と半年以上にわたり隔週で議論を重ね、意見交換を通じて合意形成を図りました。また、社員説明会や個別相談会を延べ60回以上実施し、社員の理解と共感を最優先に進めてきました。
現時点で制度がすべての社員に浸透しているとは言いきれませんが、今後の運用を通じて、実感を伴った理解を促していきたいと考えています。
グループで共創するグローバル人材戦略
松島: 人事制度の変更に先立ち、組織構造にも大きなメスを入れられたと伺いました。
小林氏: はい。私が大和工業に入社した2012年当時、グループ会社の間に「壁」を感じていました。ヤマトスチール、大和軌道製造、そして大和工業と、それぞれが独立した会社として採算責任を持って事業を行っており、さらにそれぞれが独自に人事や経理の機能を持っていました。
それはそれで良い面もあったのですが、例えば大和軌道製造に配属されたらその後はずっと大和軌道製造、ヤマトスチールならずっとヤマトスチールといったキャリアになっており、グループ全体での人材育成や、グループ最適という視点での人材配置が非常に困難であると考えました。各社が各社最適を考える構造になるため、例えば「このスチールの経理の人はすごく優秀だから、グループ全体のために本社で活躍してほしい」と思っても、なかなか出してもらえない、といったことが起こっていたのです。これはまずい、と感じましたね。
この「壁」をなくすため、まずは2021年、人事・総務・財務・経理といったコーポレート機能を各事業会社から本社に集約し、大和工業の所属とする体制を構築しました。2025年現在では、原則として全ての社員を大和工業で採用し、大和工業の社員として各事業会社に出向してもらう形にしています。こうすることで、グループ全体で人材をどう育成し、どこに配置するのが最適か、ということを計画的に考えられるようになりました。特に、グローバルな事業展開に必要な人材を計画的に育成・供給していく上で、この一元管理体制は重要な役割を果たしています。

松島: 人材の一元化は、まさにグループ全体での戦略を進める上での基盤ですね。グローバル人材の育成は、今後の成長にとって特に重要かと思いますが、どのような戦略があるのでしょうか?
小林氏: グローバルでの人材育成は、単に社員を海外に派遣するということだけでなく、海外での経験を日本に帰国した後、しっかり活かせるようなキャリアパスを明確に示すことが重要だと考えています。以前は海外への異動も帰国後のキャリアも、その場の状況でなんとなく決まっているような状況があり、「きちんと人が育っているのか?」という疑問がありました。これからは、海外での経験が次のステップに繋がることを示していく必要があります。
また、入社時点からグローバルな視野を持ってもらうための取り組みも進めています。昨年からは、新入社員を中心に「海外を見たい」と希望する社員を対象とした海外研修を始めました。1回あたり約20名規模で、希望者にはなりますが、アメリカやタイの拠点を見に行ってもらっています。これまでは、海外の業務に関わらない人には海外拠点を目にする機会は全く得られないという状況でしたが、入社早々にグローバルな事業の現場を体感してもらうことで、「大和工業のグローバル展開はこういうものなんだ」ということを肌で感じてもらい、視野を広げてほしいと考えています。姫路の現場で働く技能職の社員も含め、全ての社員にグローバルビジネスへの関わりや貢献を意識してもらうための働きかけも重要視しています。
当社のグローバル事業展開は、現地パートナーとのジョイントベンチャー形式が多いのが特徴です。このスタイルにおいては、電炉事業のビジネスモデルが『地産地消』であるのと同様に、現地の人材をいかに活用するか、いわゆる人材の『地産地消』も非常に重要になります。日本人駐在員は最小限に留め、技術的なアドバイスやサポートに徹する。現地の人間が主体的に会社を回していく。これが、最小限のリソースでグローバルオペレーションを成り立たせる要諦と考えています。
しかし、同時に私たちは海外の拠点から学ぶことも非常に重要だと考えています。例えば、タイの Siam Yamato Steel社やアメリカの Nucor-Yamato Steel Company社など、現地の先進的な取り組みから学ぶべき点は多くあります。ITやDXの推進、フラットな組織構造、サクセッションプランなど、人事・マネジメントの仕組みで我々よりも進んでいる部分が相当あると感じており、そういった良いものを積極的に日本に取り入れていく姿勢も大切にしています。海外の人材を日本に受け入れることも、今後の展望として考えています。
松島: 「海外」を単なる派遣先ではなく、共に事業を創り、学び合うグローバルなネットワークとして捉えられているのですね。

電炉の精神は組織にも? サステナブルな組織のあり方
松島: 人事制度や組織構造の改革といった「ハード面」のほか、社員の意識や企業文化といった「ソフト面」ではどのようなお取り組みをされているのでしょうか。
小林氏: グローバル企業として、年齢・性別・経験・国籍・言語・価値観の異なる多様な人材が同じ目標に向かって取り組むためには、「共通言語」や「共通価値」の存在が重要と考えています。そうした中、創立75周年である2019年に、100年企業を目指す上で必要な要素を考え、ミッション、ビジョン、そしてバリュー(価値観)にあたる「Yamato SPIRIT」を策定しました。
さらに、このYamato SPIRITを日々の業務の中で具体的にどう実践していくかを言語化したものが、2024年に新しく策定した「Yamato Way」です。Yamato Wayには、「マネジメント編」と「コミュニケーション編」があり、就業規則に盛り込むとともに全役員・全社員に研修を実施し、浸透を図っています。
2019年に策定する前も企業理念はありましたが、それを社員にどう浸透させていくかというプロセスがあまり重視されていませんでした。しかし、今は意識的に浸透活動を進めています。先ほどお話しした人事評価制度の変更も、単に評価方法を変えるだけでなく、こうしたYamato SPIRITやYamato Wayの実践を促進することと深く関連していると考えています。制度を通じて、理念で掲げた価値観が日々の仕事の中で実践され、定着することを目指しています。
文化面では、基本的な挨拶や「ありがとう」などのコミュニケーションを大切にする文化を目指しています。こうした基本的なコミュニケーションが飛び交うことで、その先に建設的で率直なフィードバックも行いやすくなると考えています。
一方、以前は、そういった基本的なコミュニケーションがおろそかになりがちな雰囲気があり、アンケートでは「ありがとうが少ない」「言いにくい」という声も出ていました。よりフラットでオープンな関係性に変えていくために、役職名ではなく「さん」付けで呼び合うことを徹底するなど、土台づくりをしています。

松島: 人事制度、組織、文化と多岐にわたる変革を進められている中で、ふと、大和工業様の事業モデルと、人材戦略に共通する思想があるように感じました。電炉事業はスクラップをリサイクルする循環型のビジネスモデルであり、今日の対話の中で重視されている「フィードバック」や「育成による成長のサイクル」という点も、どこか循環的です。また、人口減少が続く日本において、有限である「人的資本」を最大限に活かしていくという点も、スクラップという資源を循環させて価値を創造する事業とリンクするように思えるのですが、いかがでしょうか?
小林氏: 人事戦略とビジネスモデルの関連性について、そこまで意識して制度設計したわけではありませんが、確かに言われてみると、成長のサイクルという点や、限りある人的資源を最大限に活かすという点において、共通する思想があるのかもしれません。
当社の電炉事業は、何十年も前からスクラップの循環を当たり前のようにやってきました。それがここ数年で、資源循環やサステナビリティといった文脈で急に注目されるようになりました。かつては鉄鋼業といえば高炉が中心で、電炉はスポットライトが当たらない存在でしたが、気がついたら時代の最先端になっていた、という感覚です。
人材についても、グローバルな事業展開を拡大していくためには、どのような人材が必要かを考え、育成していくことが不可欠です。当社の海外事業は、現地のパートナーと組んで「地産地消」で人材を育成・活用することを基本としています。現地で育った人材が主体となってオペレーションを回し、日本人は技術的なアドバイスやガバナンスに携わる少数精鋭。このモデルを回すには、高い専門性とグローバルな視点を持ち、多様な人々と協働できる人材が必要になります。
日本人が世界で輝くために。小林社長が語る、グローバルなマインド
松島: 今後の人材育成や採用において、特に日本人材に期待されること、注力していきたい点はございますか?「大和」の名を持つ企業として、日本のビジネスパーソン全般に伝えたいメッセージなどがあれば、ぜひお伺いしたいです。
小林氏: やはり、海外勤務を希望する人には、積極的にチャンスを与えていきたいですね。特に我々よりも進んだ考え方やシステムを持っているパートナーのところで働くことは、非常に学びが多いはずです。そういうグローバルな環境で、多様な人々と対等に渡り合える人間を育てていきたいと考えています。
日本の社員や若い世代には、ぜひ積極的に海外に出て行ってほしいと思っています。留学する学生が減っているという話も聞きますが、それはもったいない。海外には学ぶべきことがたくさんあります。異文化に触れ、異なる価値観を吸収することで、視野が大きく広がるはずです。
私には海外で学び、働いた経験のある息子がいますが、私とは全く違う価値観を持っています。働く上で、「会社が自分の価値をどれだけ認めてくれるか」ということを重視するなど、これは彼がアメリカという環境で多様な価値観に触れたからこそ身についた感覚でしょう。海外に行けば、必ず新しいものの考え方に出会え、自分の可能性も広がります。
大和工業の社員にも、そして広く日本のビジネスパーソンにも、ぜひそういうマインドを持ってほしいと強く思っています。もちろん、全員が海外に行く必要はありませんが、グローバルな視点を持つこと、多様な価値観を受け入れる柔軟性は、これからの時代を生き抜く上で非常に重要になるはずです。
松島: 最後に、組織づくりにおいて大切にされていることやポリシーなどをお聞かせください。
小林氏:当社は、2024年に創業80周年を迎えました。100年企業を目指すためにも、これまでの歴史や伝統に最大限の敬意を払いながら、さらなる成長を実現する組織へと進化させていきたいと考えています。
当社は電炉業界の中でも1980年代後半という早い段階でグローバル展開を決断しましたが、そのグローバル展開を成功させてきた原動力は、創業以来受け継がれてきた「フェア(公正)」と「挑戦」の精神でした。どれだけ時代や社員の価値観が変わっても、社員一人ひとりが「フェア」に、そして積極的に「挑戦」できる会社・組織であり続けたいと思っています。組織づくりにおいても、この精神を大切にしながら、進化を続けていきます。

※記載されている情報はインタビュー当時のものです。
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