組織を前向きにする「愛嬌力」とは? 育て方と評価のヒント
2025.08.22
なぜか周囲から可愛がられている人や、なぜか意見が通りやすく、周りを巻き込んで成果を上げていく人。あなたの周りにもこうした“愛されキャラ”がいるのではないでしょうか。専門知識の量やスキルが突出しているわけではないのに仕事ができて、組織の中で重要なポジションを担っている——。そんな人材が持つ力を「愛嬌力」と名付け、体系化したのがリョウ氏です。
『仕事ができる人は知っている こびない愛嬌力』の著者であり、大手メーカーで約4000人の組織開発を担うリョウ氏は、「愛嬌力は単なる処世術ではなく、むしろ自分の信念を持ちながら相手の心を動かし、敵をつくらないための高度なコミュニケーションスキル」と語ります。
企業の組織づくりにおいて「愛嬌力」が必要な背景と、人事やマネジメント層が「愛嬌力」のある人材をどう育成し、活用していけばいいのかについて伺いました。
Profile

リョウ 氏
国家資格キャリアコンサルタント
老舗金融機関の営業にて5年連続表彰され最年少で出世。その後、大手メーカーに転職し人材・組織開発の責任者を務める。1000社超えの経営者を含む延べ1.3万人以上と営業で面談し、現在は約4000人に人材・組織開発を推進する中で、仕事ができる人には「愛嬌力」が共通していることに気づく。Xでは日々ビジネスパーソンに向けて最強の対人スキルの磨き方を発信中。
組織効力感の鍵となる「愛嬌力」
——まず、リョウさんが提唱する「愛嬌力」とは、具体的にどのようなものなのでしょうか? よくある「媚び」や「八方美人」とはどう違うのですか?
「愛嬌力」とは、「相手の心にすっと入り込んで、相手の心を掴んで、相手の心を動かすことまでできる力」です。みなさんの周りにも、なぜか誰からも愛される人がいると思います。自然と周りに人が集まってくる人、なぜか評価されてどんどん出世が早い人、会議の場で意見がするする通る人——。
こうした人々の共通点を探ると、単にスキルがあってロジカルに話せるというだけではない、周りを納得させ、自然と巻き込んで一体感を生み出す力があると気づきました。それを表現したのが、「愛嬌力」という言葉です。
愛嬌と聞くと、「ゴマすり」「誰にでもいい顔をする八方美人」といったネガティブなイメージを持つ人もいるかもしれません。
しかし、私が提唱する「愛嬌力」はまったくの別物です。書籍のタイトルを『こびない愛嬌力』としたのも、「相手の意見に迎合するわけではない」という点を強調したかったからです。むしろ、自分自身の信念をしっかり持ち、相手に伝えるべきことは伝える姿勢こそが欠かせません。
そしてもう一つ、「愛嬌力」がある人の共通点は、敵をつくらないことです。
組織では味方づくりに必死になる人もいますが、味方を増やそうとすればするほど、意図せず敵もつくってしまうことがあります。そうではなく、分け隔てなく誰とでも良好な関係を築ける人。上司の顔色を窺うだけでも、部下の意見に偏るのでもなく、両方の目線に立てる人は、組織の潤滑油として非常に貴重な存在なのです。
ここで勘違いしてはいけないのは、誰にでも当たり障りなく良い顔をする訳ではなく、“周りの意見を受容した上で自分の信念を持って意見をすることができる”ということです。
「愛嬌力」はあらゆるビジネスパーソンにとって普遍的に必要な力です。
若手であれば、可愛がられることで先輩から何度も教えてもらえる機会が増えます。中堅やリーダーであれば、「あの人が言うなら」と周りを巻き込んでプロジェクトを成功に導けるでしょう。そして、経営層であっても、社員を対等なパートナーとして尊重する謙虚な姿勢があれば、組織は社員からの信頼と求心力を得て、より強固なものになるはずです。
——「愛嬌力」を持つ人がいると、チームや組織全体にはどのような良い影響がもたらされるのでしょうか?
私が人材開発と組織開発に携わる中ですごく感じているのが、株式会社Momentorの坂井風太さんが提唱している「組織効力感」の重要性です。
「組織効力感」とは、個人における「自分ならできる」という自己効力感の組織版で、「このチームならきっとやり遂げられる」とメンバーが互いを信頼しあっている状態を指します。この感覚が醸成された組織は変化に柔軟で、恐れることなく変革していくことができます。
そんな「組織効力感」の源泉となるのが、「愛嬌力」を持つ人が発揮する「ネガティブをポジティブに変換する力」です。
たとえば、何か課題が持ち上がったときに、「そんなのできるわけない」「無理に決まっている」という重い雰囲気が漂い始めることがありますよね。
そんなとき、「でも、こういう視点ならいけるかもしれない」「こう捉えれば前向きに進められるよね」と、ポジティブ変換ができる人がいると、だんだん「なんとかできるかもしれない」という空気が生まれ、組織が後ろ向きな状態から前向きに変わっていきます。このように“できない理由”を探すのではなく、“できる方法”を探り提案できる人を増やしていくことは強い組織づくりに欠かせない要素になります。
また、「愛嬌力」を持つ人は、自分の意見を率直に伝えつつ、相手の意見も否定せずに受け入れる「受容する姿勢」を持っています。この姿勢がチームの一人ひとりに浸透すれば、お互いが安心して発言できる心理的安全性の高い状態がつくられ、建設的な議論が活発になります。

「愛嬌力」を形づくる9つの要素
——「愛嬌力」には具体的にどんな要素があるのでしょうか?
「愛嬌力」には大きく分けて9つの要素があります。
まず、すべての土台となる基本的な姿勢として重要なのが次の3つです。
一つ目が「表情の豊かさと笑顔」です。当たり前だと思うかもしれませんが、自分では笑顔でいるつもりでも、暗い表情になっている人は意外と多いものです。
二つ目が「礼儀正しさ」。お礼や挨拶を欠かさない、約束を守る、相手に配慮ができる——こうした行動ができる人は、「どうしたら相手が安心できるか」を考えているため、周囲からも信頼して仕事を任せてもらえます。
三つ目が「素直で謙虚であること」。周囲への感謝の気持ちを忘れない人の周りには、何かあったときに協力してくれる人が自然と集まります。人からのアドバイスや意見にも真摯に耳を傾ける素直さがある人には、周囲がサポートしたいという気持ちになるものです。
次に、内面的な心構えに関する三つの要素があります。
四つ目は「平和主義」。いつも不機嫌だったり、ねたみや悪口をよく言う人から人が離れていくのは当然です。「○○すべき」「普通は○○」といった一方的な「あるべき論」は対立を生みやすいため、相手の価値観を受け入れて建設的な議論をすることが大切です。
五つ目が「健全な自責思考」。物事を誰かのせいにせず、まずは自分にできることはなかったかを考える習慣です。自分でコントロールできることとできないことを冷静に線引きし、相手に原因がある場合は相手の感情に配慮しながら、双方が納得できる着地点を探します。
そして、六つ目が「信念があり、自分の意見を持つ」こと。相手の考えを受容したうえで、自分の意見も率直に伝えることが大事です。こうした信念がある人は、自分だけでなくチームの目標にも責任を持つため、信用につながっていきます。
最後に、行動や振る舞いに関する三つの要素です。
七つ目が「努力を人に見せない」こと。人は自慢話には興味を示しません。自分の成果を声高にアピールするのではなく、努力は見せずに実績を出していく。そうすれば影で努力する姿勢に人々は共感して、その頑張りを評価してくれるでしょう。
八つ目が「問題に柔軟に対応する」力。「できない」で終わるのではなく、「どうすれば解決できるか」を考える。ポジティブな発想ができる人は、愛嬌力がかなり高いといえます。
九つ目が「ユーモアがある」こと。人の魅力は、どこか憎めない人間味にこそ現れます。自分の弱みをときにはさらけ出すだけでも、周囲の雰囲気は和やかに変わるはずです。

人事・マネージャーによる「愛嬌力」の育て方と評価のヒント
――リョウさんは人材・組織開発の責任者として、社員に「愛嬌力」を身につけてもらうために、実際にどのような支援をされているのですか。
経営層へのアプローチや、社員一人ひとりへのアプローチなど、いくつか施策を行っています。
まず、経営層に対してですが、経営層という立場上どうしても日々の数字に追われていると、周りから「冷たい」「結果や数字にしか興味がない」といった、本人の意図とは違うもったいない印象を持たれがちです。
そこで、まずは本人にその「もったいない印象」を持たれている可能性を伝え、合意を得たうえで、人間的な側面を見せる場を意図的につくる提案をしています。たとえば、NG質問なしの意見交換会を企画して、普段は見せないような一面に触れてもらう機会を設ける、といった支援です。
もう一つ、全社的な施策として力を入れ始めているのが、キャリア自律をテーマにした研修でのアプローチです。社員一人ひとりが自分の1年後、3年後、5年後にどうなりたいかを真剣に考えてもらうのですが、ここでのポイントは、いきなり「愛嬌力や人間力が大事だ」と正論を説かないことです。それでは「そんなことは当たり前だ」と聞き流されてしまうだけだからです。
そのため、研修では「モデリング」という手法を使います。まず、参加者一人ひとりに「あなたの尊敬する人は誰ですか? その人のどんな点を尊敬していますか?」「その人は普段どんな行動や振る舞いをしていますか?」と問いかけ、深く言語化してもらうのです。
すると、みなさん例外なく、その人のスキルや実績だけでなく、「いつも謙虚」「誰に対しても態度が変わらない」など人間性に関する要素を挙げます。そこで初めて、社員は自らの言葉で「なりたい自分になるためには、スキルだけでなく人間性が不可欠なのだ」と気がつくのです。
この気づきが生まれた絶好のタイミングで、「では、そうした愛される人間になるためには、どんな要素があるでしょう?」と問いかけ、尊敬している人のように自分も周りから愛される人材になるべく「愛嬌力」の話を展開していきます。この順番でアプローチすることで、社員は「愛嬌力」の重要性を自分事として深く理解してくれるのです。
――「愛嬌力」は定量的な評価が難しいスキルである一方、組織の円滑な運営に貢献するスキルだと思います。うまく実践しているメンバーを人事やマネージャーはどのように見出し、評価すればよいでしょうか。
おっしゃる通り、評価が非常に難しいというのが大前提です。しかし、工夫できる点はあります。
まず一つ目は、「チームとしての成果」で評価すること。個々の人間力、つまり「愛嬌力」が発揮されたからこそ、チーム全体の成果が生まれたのだと捉える視点が大切です。
チームの中には、自ら意見をどんどん出せる人もいれば、意見を引き出すのが得意な人、分析が得意な人、まとめるのが得意な人など様々なタイプがいます。そのチームのメンバー構成を見て、チームの中で足りない役割を客観的に見極め、その役割を自分が担うといった潤滑油のように立ち回れるカメレオンタイプの人も貴重です。そうした目に見えない貢献をマネージャーが見逃さずに評価することが重要です。
二つ目は、先に話したように「組織効力感を高めた貢献」を評価すること。チームが停滞ムードに陥ったとき、それを前向きな雰囲気に変えたキーパーソンが間違いなくいるはずです。
そして三つ目が、もっとも具体的な「発言の質」による評価です。
私はよく「愚痴と意見は紙一重」と話すのですが、両者の違いは明確です。批判だけで終わるのが「愚痴」。その批判に「こうすれば良くなる」という「提案」をプラスできれば、それは「愚痴」ではなく、価値ある「意見」になります。発言は記録に残り、誰もが聞くことができるので、「提案までできているか」という点は非常に評価しやすいポイントだと思います。
さらに、提案するだけでなく、周りを巻き込んで「行動に移せる人」はより高く評価できます。

目指すべきは味方づくりではなく、敵がいない状態
——組織づくりを引っ張るリーダーやマネージャーは、「愛嬌力」をどう捉えて活かしていくべきでしょうか。
もっとも意識するべきことは、味方づくりのために八方美人に振る舞うのではなく、「いかにして敵がいない状態をつくるか」だと思います。
よく聞く「2:6:2の法則」では、2割は自分のことを好意的に思ってくれる人、6割は自分のことを好きでも嫌いでもない中立的な人、2割は自分のことを嫌う人がいるとされています。
問題なのは、自分のことを嫌う2割が健全な組織づくりの障壁になる可能性があることです。その2割が悪い意味でのインフルエンサーになったり、組織内に否定的な空気を蔓延させたりすると、自分がどれだけ頑張っても推進力は大きく削がれてしまいます。
そこで、行動の「矢印の方向性」を常に意識することをおすすめします。
矢印が自分に向いている人は、どうしても「私がやりました」「私の成果です」と「私」を主語にしがちで、「出世のためにアピールしている」と見なされ、意図せず敵をつくってしまうことがあります。
そうではなく、矢印を常に周囲に向けることが大切です。「私たちがチームで上げた成果です」「その中でも特に、〇〇さんが頑張ってくれたおかげです」と、心から言えるかどうか。
主語を「私」から「私たち」や「他者の名前」に変えることで、周囲に敵をつくらず、本当に信頼されるリーダーシップのもとで、強い組織文化を育んでいけるのではないでしょうか。
※記載されている情報はインタビュー当時のものです。
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