誰もができる「問いの技術」で組織のコミュニケーション課題を解決

「意見の合わない人と同じチームで業務がやりづらい」「部下を否定せずにフィードバックするのが難しい」……。職場には多くのコミュニケーションの課題が転がっています。

『対話の思考法 相手とぶつからないコミュニケーション』の著者である山野弘樹氏は、組織に不足しがちな対話を引き出すために、「問いの技術」を磨くことを推奨しています。組織に対話が必要な背景と、社員同士が心地よくコミュニケーションをとるために求められる問いの実践方法について伺いました。

 

Profile

山野弘樹 氏

哲学研究者 千葉工業大学非常勤講師

1994年、東京都生まれ。2025年、東京大学大学院総合文化研究科超域文化科学専攻(比較文学比較文化分野)博士課程修了。博士(学術)。専門は哲学(とりわけポール・リクールの思想)。著書に『独学の思考法 地頭を鍛える「考える技術」』(講談社現代新書)、『VTuberの哲学』(春秋社)、『20代からの文章読解 人文学的思考を鍛える「読み方」10講』(大和書房)、共編著に『VTuber学』(岩波書店)など。

企業に不足しがちな「対話」とは?

――多くの企業が社内コミュニケーションや対話の促進に奮闘しています。組織における対話の重要性はどんなところにあるでしょうか?

多くの企業は、優秀な人材を手放さないために、社員が居心地よくいられる環境を整えることを目指しています。そこで重要なのが「対話」です。

他人同士が集まる企業において、相手がどう考えているのか、お互いの考えの違いが何を出どころに生じているのかを知ることは、重要な営みです。

会議でAさんが出したアイデアを一見「あり得ない」と感じたとしても、Aさんの思考プロセスや、これまでの経験について把握していれば、なぜそのアイデアに至ったのかが想像でき、建設的な議論に向かえるでしょう。

これに役立つのが対話です。私は対話を「問いかけを中心とした、知見と経験のシェア」だと定義しています。

例えば、「映画は教育に悪い」と主張した人に対して、「その根拠は?」と妥当性を確認したり、「私はそうは思わない」と単に否定したりすることは対話とは言えません。対話とは「そう思ったきっかけは?」「映画というと、何をイメージしていますか?」と尋ね、その人の経験に耳を傾けることです。

こうしたやり取りは、組織内のコミュニケーションでしばしば不足しがちです。「今日は天気が悪いですね」といった何気ない「会話」か、会議における重々しい「議論」のどちらかに偏ってしまって、その間にあたる対話は意識されていないように思います。

対話は、議論ほど重々しくはなく、会話のような気軽さがある。一方で、ある目的に向かって問いを深められる力強さもあるという点で、会話でも議論でもない「第三の選択肢」として有用なのです。

――具体的に、ビジネスの現場で対話が役立つのはどんなシーンですか?

先述の通り、居心地のよい組織づくりや円滑なコミュニケーションのために役立つのはもちろん、リーダー層は特にさまざまなシーンで必要になります。

というのも、組織を持続的に柔軟にアップデートしていきたいのであれば、リーダーには「メタ認知」が欠かせません。そして、異なる世代やカルチャーに属するメンバーの考えを知ることで、メタ認知を向上できるのが対話です。対話を通して他の人の意見を聞くことで「自分の考えが古かったかもしれない」と認められるかもしれません。

また、会議の中で議論する時にも対話的な問いかけが重宝します。

自分の提案が否定された時、人はしばしば「自分の価値観が否定された」と感じてしまいます。組織によっては「論理的に正しかったらよい」という考えで、バサバサと意見を批判してひどい空気になることもあります。

そうならないためには、意見を出したメンバーに「どういうきっかけでAのアイデアよいと思ったの?」と聞いてみる。そこで「こういう体験をしたから」という答えが返ってくれば、その人の思考の経緯を知ることができます。

背景が分かれば、「確かにそういう経験をしたらAのアイデアが魅力的に見えるかもしれないね」と相手に対する理解を示せます。そのうえで「でもアンケートによるとそういう体験をしている人は少数派で、マスに売るならBの方がよいと思う」といった議論に向かえるのです。

意見を否定された側も、自分の思考プロセスを理解されたうえでのフィードバックなら、前向きに改善策を検討できるでしょう。

――こういった対話の力は、個人の資質やセンスに依るものではなく、誰もがスキルとして習得できるのでしょうか?

もちろんです。対話を成り立たせるのは「問い」の技術です。

「これを尋ねたら、もっとこのテーマを深掘りできるのでは」「こういう質問をしたら、相手のバックグラウンドをもっと知れるのでは」という視点から、うまく問いの形にする。問いの作り方を学んで、実践していくことで、磨いていけるものだと考えています。

問いの技術を磨くために、必要な実践

――では、どのような「問い」が、対話を成り立たせるのでしょうか?

ここでは、相手の経験を理解するために即戦力となる3つの問いを紹介します。

「例えばどのような事態を想定していますか?」「○○という言葉で何を意味していますか?」「何かそのように考えるようになったきっかけはありましたか?」の3つです。

一つ目と二つ目の問いは、互いの言葉のズレを埋めるために必要な問いです。というのも、人は同じ言葉を使っていても、しばしば異なるイメージを持っているからです。

先ほどの例の「映画は教育に悪い」と主張した人は、映画=暴力的な描写のある作品をイメージしているのかもしれません。一方で、聞き手は心温まるヒューマンストーリーを想像するかもしれません。対話者同士がその違いを理解することはきわめて重要です。

三つ目の問いは、相手の思考の前提となっている経験について尋ねるものです。ここまで強調してきたように、対話は他者の経験や思考の経緯に興味を持ち、理解を深めること。それをシンプルに尋ねる問いです。

ただし前提として、問いはバイアスがなく「ニュートラル」であることが大事です。

――ニュートラルな問い、とは?

倫理的な配慮とも言えます。対話においては、その人のこれまでの生き方や価値観に焦点が当たります。言い方を配慮しないと、相手に対して暴力的な問いになってしまうんですよね。

例えば、「子どものころはゲームばかりしていた」と話す人に「子どもは外で遊ぶのが普通なのに、なんでそんなゲームばかりしていたのですか?」と問いかけた場合、たしかに「問い」の形式にはなっていますが、悪口や嫌味に感じられますよね。

これを、ニュートラルな問いに言い換えるなら「外で遊ぶ人もいたと思いますが、そういった中で校庭や公園より室内の方が魅力的だったポイントは何ですか?」となります。

このように、「外で遊ぶのが普通」という自らのバイアスを取り除いて、ニュートラルな問いかけになるように配慮することが大事です。

――なるほど。ニュートラルな問いはどのように身につけられるでしょうか?

問いを作る際に、豊富な語彙がある方がニュートラルな問いが作りやすくなります。というのも、人は考えるときに、知っている言葉を使って思考しているため、その言葉がまとっているイメージに思考が引っ張られていくからです。

例えば、「ビジネスマン」という言葉が染み付いていると、ビジネスをするのは男性であるという思考(偏見)が自然と生まれてしまうでしょう。人はときに、言葉に対する万能な主人として振る舞うのではなく、言葉によって偏見を植え付けられる奴隷として支配されてしまうことがあります。言葉の偏見から距離を取るために、私たちは多様な言葉(概念)をインストールする必要があります。

ですので、日本語話者であったとしても、まるで外国語を学ぶように日本語の語彙を勉強する姿勢がとても大切です。学びは生涯終わりません。あなたがまだ知らない言葉の数々が、世の中にはたくさんあるはずです。

具体的には、小説を読んだり誰かと話したりして、他者の考えに触れる機会を増やすとよいでしょう。「この人は物事をこういう風に語るんだ」「こういう表現があるのか」といった発見を通して言葉を学んでいくのです。いいなと思った言葉を、メモに残してもよいと思います。

――そういった倫理的な配慮を前提としたうえで、よりよい問いのために工夫できることはあるでしょうか?

「よい問い」にもいろいろなものが考えられます。その中でも一つ取り上げるなら「問いかけられた人が自己発見できる問い」は、よい問いだと思います。

つまり、問いを受け取った相手が「そう聞かれたことはなかったな」と感じ、すぐには答えられずに、シンキングタイムを要する問いです。対話において、聞く側が相手を理解することは重要ですが、問われた人自身の自己発見につながるとより有意義な対話になったと言えるでしょう。

このように相手に発見をもたらすような問いをつくるには、「二人称的関心」と「一人称的探究」が大事です。

二人称的関心とは、相手に関心を持ち、そのバックグラウンドに目を向けること。要は過去について尋ねることです。一方、一人称的探究とは「自分はなぜこう考えたんだろう?」と顧みることです。問う側にこの視点がないと、二人称的関心も弱くなります。

「自分はなぜこの商品に魅力を感じるんだろう?」と、自分の思考のプロセスを意識しておくことで、他者と話す時にも「この人はどういう経緯でこの思考に至ったのだろう?」という問いが自然に生まれやすくなります。

組織内で「対話」は推進できる?

――組織の一人が問いの技術を身につけるだけでは、組織全体の対話を推進するには不十分かもしれません。どのように組織やチーム全体に対話の文化を浸透できるでしょうか?

いきなり「対話しよう」と呼びかけるのは、少し不自然かもしれません。対話は議論と違って、自然と始まるものだからです。

とはいえ、社員の皆さんの対話に対する認識があいまいなまま、対話を改善することも難しいでしょう。「そもそも、対話ってどういうもの?」という共通認識を持つためのレクチャーは必須だと思います。例えば、拙著『対話の思考法』を教科書として使いながら研修を行うなど、社員の足並みをそろえていくことが大切でしょう。

そのうえで、対話の実践は会議などの日常の業務の中に溶け込ませるのがよいのではないでしょうか。忙しいビジネスの場では、改めて時間を設けるより、既存の場に導入するのが現実的です。

もう一つ重要なのが、組織の上層部からの導入です。経営者自身が対話の大切さを理解したうえで、各リーダーに対話の重要性を伝えること。人事評価の項目に「問いかけができているか」を入れることも有効だと思います。 

――上司と部下といった上下関係があると、フラットな対話ができないといった悩みをよく耳にしますが、この課題も「問い」の技術で乗り越えられるでしょうか?

権力関係の上の相手には、本音を言うことは難しいでしょう。「求められる答え」を言おうとするからです。権力勾配から一旦距離を取り、フラットに会話するためには、問いに使う「語彙」を徹底的に変えることが大事です。

一例を挙げるならば、「ベテラン」「新人」といった上下のニュアンスを不可避的に伴う言葉は使わない方がいいです。「位置づけられた歴史・地域が異なる一人の他者」として相手に問いかける姿勢が望ましいです。

上司が新入社員に意見を求める際、「新人の君の意見が聞きたい」という問い方ではなく、「●●年代生まれで●●県出身であるあなたの意見をぜひ聞いてみたいのですが」という問い方をすると、まったく印象が変わりますよね。

例えば、チームで新しいゲーム製品を企画しているとして、上司から「参考として、小学生の頃はどんなゲームで遊んでいましたか?」「大学の時はどんなコンテンツに触れていましたか?」という仕方で質問されたなら、おそらく多くの人が率直な体験談や所見を述べてくれるでしょう。そのうえで「そういった観点から見たとき、今回の企画はどのように見えますか」と問いかけたら、「率直に言えば、自分たちのような年代にこの企画は刺さらないと思います」という有益なフィードバックをもらえるかもしれません。

いきなり意見を求められると、人は「よい意見を言わなければ」というプレッシャーを強く感じてしまいます。ですが、「特定の文脈に位置づけられた人物としてどう感じるか」という問いかけを中心に対話を行えば、会社の立場や権力からある程度距離を置いた素直な意見を引き出せる可能性はぐっと高まります。

――最後に、読者に向けてメッセージをお願いします。

職場を働きやすい環境にする一つの鍵が「対話」です。

退職代行サービスが台頭してきていることからもわかるように、今は人材が簡単に職場を離れてしまう時代ですよね。しかし、会社にとって人材を失うことは大きなロス。辞めた人の業務を担う社員の負担もありますし、新たな人材を採用すれば研修のコストもかかります。

社員が快適に長く働ける職場をつくるには、社員同士が心地よくコミュニケーションできる組織を目指すべきです。そういったストレスフリーな環境を整えるうえで、潤滑油になるのが対話だと思います。そして、対話には問いの力が必要です。

社内の人との関係性を良くしたいと願いつつも、「なんで自分はいつもこういう言い方をしてしまうのだろう」と悩むリーダーの方もいると思います。よりよい対話のために、問いの技術を一緒に磨いていきましょう。

そして、問いの技術を磨いていくために、他者の言葉に触れる機会を絶やしてはいけません。組織の上の方にいる人ほど、新たな言葉や概念を学び、自分の考えをアップデートすることが大切だと思います。上が変わらなければ、組織は絶対に変わらないのです。

※記載されている情報はインタビュー当時のものです。

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