成長を止めない組織をつくる、パーパス起点の1on1

企業が他社と差別化し、事業を継続的に成長させるために不可欠なパーパス経営。近年、パーパスを新たに掲げる企業は増えているものの、実際に働く従業員に浸透しているかというと、必ずしもそうと限らない。組織のパーパスを浸透させ、個人のパーパスと結びつけるためにはどうしたらいいのか?『シリコンバレー式 最強の育て方―人材マネジメントの新しい常識 1 on1ミーティング―』の著者、株式会社サーバントコーチ 代表取締役の世古詞一氏に話を伺った。

Profile

世古 詞一氏

株式会社サーバントコーチ 代表取締役
一般社団法人1o1コミュニケーション協会代表理事

1973年生まれ。千葉県出身。組織人事コンサルタント。1on1ミーティングで組織変革を行う1on1コミュニケーションの専門家。早稲田大学政治経済学部卒 Great Place to Work® Institute Japanによる「働きがいのある会社」2015、16、17中規模部門第一位の株式会社VOYAGE GROUP(現株式会社CARTA HOLDINGS)の創業期より参画。 営業本部長、人事本部長、子会社役員を務め2008年独立。一部上場企業から五輪・プロ野球選手など一流アスリートまでと幅広く、コーチ・コンサルタントとして個人の意識変革から、組織全体の改革までのサポートを行う。著書に『シリコンバレー式 最強の育て方 ―人材マネジメントの新しい常識 1on1ミーティング―』(かんき出版)『対話型マネジャー 部下のポテンシャルを引き出す最強育成術』(日本能率協会マネジメントセンター)がある。

なぜパーパスが必要なのか

昨今、多くの企業が経営方針や組織の価値観を示す「ミッション・ビジョン・バリュー」を掲げている。これらの概念に加えて、新たに注目を浴びているのが企業の存在意義を表す「パーパス」だ。世古氏はこれらを従業員に正しく浸透させるために、以下のように整理する。

「パーパスとは「何のために我々が存在しているのか」という企業の存在意義、つまり『Why』を表す言葉です。ビジョンは企業が未来に向けて目指すべき像、『Where』。ミッションはパーパス、ビジョンを実現するために何をすべきかという『What』。そして、バリューがミッションを何し遂げるための行動指針や価値観であり、『How』と言い表せます」(世古氏)

従来の日本企業では、ミッションの中にパーパス(=存在意義)を定めることが主流だったが、新たに「パーパス」を設定する企業も増えているという。その背景には、2つの社会の変化がある。

1つ目が、企業価値の変化。これまでは投資家の企業価値を判断する際には利益を重視していたが、近年はSDGsやESGへの投資を含め、企業の持続可能な取り組みを評価する傾向が高まっている。

2つ目が人々の価値観の変化。投資家だけでなく、消費者の中でも人種差別や環境問題などに対する企業の姿勢を重視する人が増えている。また、消費者自身もさまざまな企業の従業員でもある。そのため、自分の働く会社がどういう価値観を持っているかを、重視する傾向が強まっている。

これらの変化を受け、「企業としてどうあるべきか」が今まで以上に問われる時代になっているのだと世古氏は話す。

「2016年にLinkedInがアメリカの3000人のビジネスパーソンに行った調査では、『社会に対してポジティブなパーパスを発信する企業で働くのであれば、年収が下がっても構わない』と回答した方が約半数にのぼりました。かつては『仕事内容に興味はないけど、この給料もらっているからいいかな』と、条件を優先している人も多かったかもしれません。

しかし、物欲が満たされた現代では『なぜその仕事するのか』が重視されています。『会社が社会にどういう影響をもたらしているか』『自分にとってこの仕事にどういう意味があるか』といったパーパスが、働き方や生き方の選択に影響を与えているのです」(世古氏)

従業員と企業のパーパスが一致していないと、従業員の働きがいや生産性の低下や、離職率の向上といった問題を引き起こすと、世古氏は続けて指摘する。

「従業員の多くが「この業務が好きだから」「報酬が高いから」といった「What」を理由に仕事を選んでいる場合、仕事内容や人間関係が変わったり、他社から高い報酬を提示されたりした場合に転職してしまう可能性が高くなります。また、従業員の働きがいが低下することで、離職率の向上だけでなく、生産性の低下を引き起こし、組織の持続的な成長を妨げる要因にもなり得ます」(世古氏)

情報交換ではなく、個人の対話が大事

では、こうした問題を避けるためにどのような手立てがあるのだろうか。まず取り組むべきは、組織内のコミュニケーションを見直すことだという。

組織において「人材」は成果を出すためのリソースだが、業務上のコミュニケーションだけが重視され、個人の対話が減ってしまうと、従業員は「別に自分がやらなくてもいいのでは」「なぜ自分はこの企業にいるのか」「自分がやりたいことはなんだったのか」といった疑問を感じるようになってしまう。すると、やがて自分が代替可能な存在に感じてしまうのだ。

こうしたモヤモヤを抱くことなく、能動的に考え、自律的に働く従業員を育てるためには、「個人としてどう思っているか」を引き出していくコミュニケーション、つまり「パーパス起点のコミュニケーションを行うこと」が必要だと世古氏は語る。そして、それこそが、自律成長型の組織を作る基盤になるのだという。

「昔は会社の上司や同僚と飲みに行くことが多く、お互いのパーソナリティに触れてどんなことを考えているか知る機会がありました。かつてはそこで個人の成長や感情に焦点をあてて話をすることが多かった。しかし、近年はそうした飲みニケーションが消えつつあり、業務内容そのものや短期的な成果、効率良く生産性を上げるための情報交換のコミュニケーションに重きを置かれるようになってきています。

必要なのは情報交換のコミュニケーションではなく、対話です。以前のような飲み会での交流が少なくってきた今、本人の考えや思いを引き出していく対話ができる場こそが、1on1だと思います」(世古氏)

パーパス起点の対話で組織は強くなる

1on1を取り入れている企業は多いものの、「何を話せばいいのか、上司も部下も認識していないケースが多い」のだという。では、組織の成長につながる「パーパス起点の1on1」とはどういうものなのか。

まず、対話ですりあわせるべき内容は、大きく分けて「業務」「個人」「組織」の3つ。仕事を覚え、業務がルーティン化するとこの3つの要素は離れていってしまう。すると、個人として成長実感が湧かなくなり、仕事がつまらなくなり、上司や会社に不満や疑問を感じるようになる。この3つの要素を対話によってすりあわせることが、1on1における対話の目的なのである。

さらにそれぞれを「過去」「現在」「未来」の3つの時間軸とかけ合わせ、9つのテーマについて話をしていく方法を世古氏は推奨する。

業務レベルでは「振り返り」「業務不安」「業務改善」、個人レベルでは「パーソナリティ」「ライフスタイル」「将来のキャリア」、組織レベルでは「理念・制度・カルチャー」「人間関係」「組織方針」のテーマに分けられる。

この9つのテーマを「パーパス」でつなげながらすり合わせていく。

9つのテーマがつながることで、従業員の中にストーリーが生まれていく。すると、「この業務を行うことで自分の能力が開発される」「この業務をすると自分の将来にこうつながっていく」といったように、個人にとって大切なことと組織のパーパスが独立することなく連動していく。それが働きがいやモチベーションを高めることにつながるのである。

また、この方法のメリットはそれだけではない。理念から組織方針がつくられ、組織方針から個人の達成すべき目標がつくられ、業務に落ちていく。これらをパーパスを起点に結びつけることで、業務を行っていく中で迷いや不安が起きたとき、立ち返るべき指針が生まれるのである。中でも意識すべきは、組織レベルの話をすることだ。

「1on1を実施している企業でも、目先の業務や個人のパーソナリティの話が多くなりがちで、組織レベルの話が圧倒的に不足していることがあります。実際、私が研修をしている企業にアンケートを取ると、組織レベルの話はあまりできていないと回答する方が多い。頻度は多くなくとも、この点を意識して対話していくことが大切です」(世古氏)

1on1は個人から組織に問いかけるもの

より効果的な1on1を実施するためには、上司、部下の双方が明確な目的意識を持つことが重要だ。

目標設定や評価査定、進捗確認を目的とする従来型の面談は企業目線のコミュニケーションになってしまう。対して、信頼関係づくり、継続的成果、成長促進、モチベーションの向上などを目的とするパーパス起点の1on1は、より個人の目線にフォーカスした対話が求められる。この違いを認識しておかなければならない。

「例えば、『働きがい』に着目して1on1をする場合、『充実感を得られているか』『今の充実感は10点満点中、何点?』などと話ながら、個人の感情にフォーカスを当てていきます。また、『成果』に着目する場合であっても、『これについてどう思う?』『このサービスの2年後はどんな展開が考えられるか』など、その人自身の考えや思いを引き出していくことが大切です」(世古氏)

こうしたコミュニケーションを重ねることで、従業員の中に「1on1は上司から部下に問いかけるものではなく、部下から組織に対して問いかけるもの」という意識が芽生えるのである。

パーパスへの共感を生む1on1のテクニック

また、大前提として上司、部下ともにパーパスへの理解度を上げることも欠かせない。そのためにはパーパスから具体的な言葉を抽出しながら「対比を考えること」が有効だと世古氏は語る。

「『クリエイティブとは何か? その逆は?』など、自分たちがやるべきことや重視する価値観、逆にやってはいけないことなどを対比して整理し、『それに対してどう思うか、感じるか』を掘り下げていきます。すると、自分たちがやるべきことがより明確になっていく。1on1ではこうした切り口で対話し、個人の考えを引き出していきます」(世古氏)

もう1点、「上司がストーリーを語ること」も重要だ。上司が率先して『なぜこの会社に入ったのか』『何のために働いているのか』といった自分自身のストーリーを語ることで、対話が深まっていくのだという。

「自分自身の言葉で語れなければ共感は生まれません。上司だからと気構えずに、自分の考えを飾らずに伝えればいいと思います。『実は第一志望の会社に落ちて滑り止めで入社をしたんだよね』といった話でもいい。大事なのはその後の経験や価値観を具体的なストーリーで話すことです。

パーパスのような抽象度の高い話をするとき、人は頭ではなんとなくわかったような気になりますが、そこに共感できる具体的なものがないとイメージが湧きにくい。自分のストーリーを具体的に語ることが重要です」(世古氏)

対話をする上で重要なのは、決まった「場」があることだ。定期的な1on1を活用していくことで、組織の持続的な成長につながっていくはずだ。また、企業のパーパス(=Why)と同時に個人の「Why」を語ることも忘れてはならない。「なぜこの会社に入ったのか」「大切なものは何か」といった個人の「Why」を掘り下げていくことで、組織のパーパスとの接点を見出すことが出来るのである。

「1on1は部下にとっては上司から、上司にとっては部下からの話を聞ける貴重なチャンス。会議などのかしこまった場では聞けない本音も聞くことができます。

企業のパーパスと従業員の接点を探す対話を重ねることで、お互いの理解が進んでいく。理解が深まると、そこには共感が生まれます。つまり、この対話の場こそがパーパスへの共感を生み出していく道筋なのです」(世古氏)

※記載されている情報はインタビュー当時のものです。

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