【旭化成】人材育成は、団体競技。「みんなで学ぶ」で大企業にチャレンジ精神を再び

企業の成長を支える根幹は人材だ。しかし、近年は人材の流動化が進み、企業にとってエンゲージメントの高い社員をどのように育成していくかがますます重要になっている。

こうした中、「終身成長」を掲げ、学び合う組織づくりを進めているのが旭化成だ。旭化成ではどのような人財戦略を描き、どんな施策に取り組んでいるのか。同社で人材育成を担当する三木祐史氏に話を伺った。

Profile

三木祐史 氏

旭化成株式会社
人事部 人財・組織開発室 室長

「終身成長」「共創力」を掲げる旭化成の人財戦略

──旭化成では人財育成においてどのような課題があったのでしょうか?

旭化成は2022年に創業100周年を迎えた素材メーカーです。化学肥料や再生繊維などのマテリアル領域からスタートし、その後、住宅やヘルスケア領域へと進出。ポートフォリオを変革しながら成長してきました。

順調に成長を継続していることと、「さん付け」文化に象徴される社内の風通しのよさもあいまって、組織も人も落ち着いてしまっていることが、変化の激しい昨今の経営環境の中では課題になってきました。

旭化成では「人は財産、すべては人から」という考えが根付いており、グループバリューとして「誠実、挑戦、創造」を掲げています。

しかし、近年では「誠実」ではあるけれど、「挑戦」や「創造」が少し弱くなってきているという声が社内で聞こえてきました。大企業化する中で従業員一人ひとりに焦点が当たりにくくなり、イノベーティブな風土が弱くなってきたのだと思います。

 

——こうした課題をふまえ、旭化成ではどのような人財戦略を掲げているのでしょうか?

今は変化が激しい時代であり、人的資本経営の重要性も高まっています。こうした中で、旭化成が受け継いできた「挑戦」と「創業」のDNAを呼び起こし、イノベーションができる会社になろうという考えから、2022年の中期経営計画で人財戦略骨子として旭化成スピリット「A-Spirit」を掲げました。

「A-Spirt」では、「挑戦」と「創造」をもう一度盛り返すために必要な要素として、高い目標を掲げて果敢に挑戦する「野心的な意欲」、目標にコミットメントを持ち、成果創出にこだわる「健全な危機感」、スピーディかつ大胆に次の一手を打つ「迅速果断」、既存の枠組にとらわれず、物事の新しいあり方を作り出す「進取の気風」の4つを掲げています。

旭化成がこれまで培ってきた誠実性、事業や人財の多様性、自由闊達で風通しが良い風土をさらに磨いて活かしていくためには、「A-Spirt」を持つ人財を育成していくことが必要です。そのための人財戦略として掲げているのが、挑戦や成長を促す「終身成長」と多様性を促す「共創力」です。

——「終身成長」と「共創力」ですか。

この2つのキーワードは実は人事が掲げた言葉ではなく、経営陣と職場の代表者が一緒に取り組んだプロジェクトから生まれました。あるチームから、「これからは社員一人ひとりの成長を支援する会社にならなければいけない」という意見が出たんです。そこから「終身成長」という言葉が生まれ、人事戦略の中心に置くことになりました。

社員一人ひとりのウェルビーイングを実現するためには、仕事での達成感や職場でのつながりが大切です。会社から言われたから仕事をするのではなく、自分の人生の幸せのために本気でキャリアを描いてもらいたい。それができて初めて、仕事にやりがいを感じられるはずです。そして、会社は従業員のキャリア形成や成長を全面的に支援し、個の力を引き出していく。これが「終身成長」に込めている意味です。

「共創力」については、社員のウェルビーイングを向上し、旭化成が魅力的な会社となるために不可欠なものです。一人ひとりが自律的なキャリアを描くことで、その人の専門性が高まり、個性を発揮できます。

そういった社員が増えることで旭化成の多様性が広まり、多様な人材がつながることで新しい何かが生まれていきます。そして、つながりが増えて風通しが良くなることで、「自分ももっと成長したい」と思うはず。そういうサイクルを回していくことが重要です。

「終身成長」によって従業員のウェルビーイングと働きがいを向上し、多様性をつなげて「共創力」を高めていくことで、旭化成の競争力向上につながっていくと考えています。

社員に広く学びを提供するプラットフォーム「CLAP」

——具体的にはどのような人財育成の施策を行っているのですか?

素材メーカーはもともと労働集約型産業です。工場でみんなでものづくりをするため団体戦という感覚があり、公平かつ誰も取りこぼさないようにする意識が強い文化があります。こうした背景や様々なメンバーとの議論を経て、「みんなで学ぶ」というのが旭化成らしい学びだと考えました。

それを実現したのが、2022年12月から開始した旭化成独自のラーニングプラットフォーム「CLAP」です。社員一人ひとりの志向に応じた専門性強化と自律的なキャリア形成を支援することを目的とし、国内約2万人の社員から展開を始めています。

提供コンテンツは、学びの幅を広げてキャリア形成に活かしてもらえるよう、外部パートナー提供のeラーニングコンテンツを導入。約1万1000以上のコンテンツから自由に学ぶことができます。

一方、深く学んで専門性を高めるためのコンテンツとして、社内知見を活用したオリジナル教材、コースの開発も進めています。現時点で立ち上がっているコンテンツは200弱ほどで、各部が主体的に取り組んでいます。

たとえば、購買物流統括部のカリキュラムでは業務の流れや業務に必要な知識を体系的に学ぶことができます。今まではおもに購買物流統括部で社員の育成に活用していたのですが、将来的には受講したい社員は誰でも受けられるようにしていくことも視野に入れています。特定部門だけでなく、広く学びの機会を社員に提供していこうという考えです。

——「CLAP」導入後の社員の反響はどうでしたか?

驚いたのが、当初想定したよりも多く社員が「CLAP」を活用して学習してくれたこと。スタートしたときに社内で積極的にプロモーションしたこともあって、スタートから3カ月でログイン率が81%、何かしらのコンテンツを完了した社員が64%に達しました。

社内コンテンツの内容もどんどん充実してきているので、今後は学習継続を促す施策を行っていきたいと考えています。

——高い学習完了率ですが、社員の学習意欲を高めるために何か工夫していることはありますか?

具体的に学習意欲を高める仕組みがあるわけではないですが、2022年7月に「CaMP」というタレントマネジメントシステムを導入しました。社員が自分のキャリアの志向を入力して、上司が面談した結果を入力し、検索できる仕組みです。

以前からキャリア面談を実施していましたが、「CaMP」導入によって社員が自分のキャリア形成をより考えるようになり、上司もそれを理解したうえで日々の仕事をマネジメントできるようになりました。これによって、自分のキャリア形成を意識したうえで今どんな学びが必要かを考え、行動する社員が増えたのだと思います。

また、個人と組織の成長を可視化するために、独自のエンゲージメントサーベイ「KSA」を活用しています。「KSA」は大阪大学の開本教授の「活力と成功循環モデル」をベースにしたものです。「①上司と部下の関係や職場環境」「②部下の活力やワークエンゲージメント」「③成長につながる行動」の3指標を確認し、結果をもとに職場で対話してもらいます。これによって上司側も組織の健全度や自身の部下への接し方を振り返ることができます。

職場での対話を支援するために準備した任意参加の「KSAファシリテーション講座」などの研修受講人数は2023年度までの3年間で681名達し、対話の実施率は導入初年度の2021年の54.7%から2023年度の73.9%へと大幅に上昇しています。

また、現在は新しく部長になった人向けの研修ではKSAを足掛かりに自組織の課題を考えてもらい、コーチングを受けながら組織改善につながるアクションを支援する仕組みを導入しています

学び合うコミュニティを形成し、主体的に学ぶ社員を増やす

——「CLAP」導入をはじめとした人財育成施策の手応えを教えてください。

最初に「終身成長」というキーワードが出たときより、今では主体的に学ぶことが前提になっている人が増え、少しずつ社内の文化として定着してきたように感じています。

「CLAP」が目指しているのは、単にeラーニングコンテンツを受講してもらうことではなく、主体的に学び続ける社員を増やし、「みんなで学ぶ」組織をつくることです。

「みんなで学ぶ」とは、「他者と学ぶ」「他者から学ぶ」「学習したことを業務に活かす」こと。これを実現するためには、従来の一律型の研修ではなく、自律的に学び続けるための支援するラーニング・コミュニティが必要だと考えています。

これをふまえて実施したのが、2023年度の新卒社員向け研修です。これまでの新卒研修は2週間で終了していたのですが、2023年度は5月から翌年2月までの9カ月間にわたってフォローするコミュニティ活動をスタートしました。新卒社員に、旭化成の「みんな学ぶ」文化を体感してもらい、「面で育てる」ことをやってみようと考えたのです。

具体的には、前半で自身の志向に合ったゼミを選択してもらってビジネススキルを身につけてもらい、後半は主体的にコミュニティを運営し、日常的な学び合いを行います。

学び合いを支援するコミュニティ活動を推進したことで、学習時間は前年度の新入社員の約3.5倍になり、「みんなで学ぶ」ことの有効性が確認できました。これは今まで取り組んできた人財育成施策の中でも一番手応えを感じています。

新卒社員研修以外でも、職場単位で学びの時間を取っているチームも増えており、取り組みの成果が出ていると思います。

——今後はどのような取り組みを進めていく予定ですか?

今後は中堅層の育成プログラムもリニューアルする予定なので、学び合いのコミュニティを取り入れたプログラムを構築していきたいと考えています。

大事なのは、いかに組織として「みんなで学ぶ」ムーブメントを継続的に生み出していくかです。一次的なもので終わってしまっては意味がありません。

近年は人の流動性が高まり、会社にいる意味が問われるようになりました。社員から「旭化成で働き続けたい」と思ってもらえる組織づくりをしなければなりません。

「CLAP」を始める前は、「なぜ会社がここまで個人のキャリア支援をしなければいけないのか」という意見もありました。みんなで議論して辿りついたのは、旭化成には学びが止まらない環境があり、学びを仕事で実践することで成長できるという実感が社員にあることが大事だということ。そして、個人の成長やエンゲージメントの向上が組織の活性化につながっていきます。こうした個人と組織のwin-winの関係性を築くことが大切です。

社員がいきいきと新しいことを学んで、実践し、成功したというサイクルが事業成長にもつながっていくはず。そういう集合体が増えていくことで、組織は活性するし成果も高まっていきます。

旭化成ではこれからも、社員の主体的な学びを後押しするムーブメントをつくり、持続的な成長につなげていきたいと考えています。

※記載されている情報はインタビュー当時のものです。

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