【旭化成】メンバーシップ型企業のDXを成功に導く「全従業員デジタル人材化」

「終身成長」と「共創力」を人財戦略に掲げ、「みんなで学ぶ」をコンセプトに人財育成に力を入れている旭化成。同社では2024年以降を「デジタルノーマル期」と位置づけ、国内外の全従業員を対象にした「4万人のデジタル人材育成」を掲げている。

同社がなぜデジタル人材育成に力を入れているのか。そして、どのように全従業員のデジタル人材教育を進めているのか。デジタル共創本部 DX経営推進センターの秋本みつ氏に話を伺った。 

秋本みつ 氏

旭化成株式会社
デジタル共創本部 DX経営推進センター デジタルタレント戦略室 室長

全従業員を対象としたデジタル人材を育成

——最初に、旭化成がデジタル人材育成に力を入れている背景について教えてください。

旭化成では2021年に「Asahi Kasei DX Vision 2030」を策定して全社DX推進を加速させてきました。

2022年からは「デジタル創造期」と位置づけ、DXによる経営革新を実現する足場固めに取り組んでいます。近い将来、誰もが当たり前にデジタルデータを活用して仕事をする時代が必ずやって来る。人材育成はその際の重要な要素の1つとして位置づけています。

そして、2024年以降は「デジタルノーマル期」と位置づけ、国内外の従業員全体がデジタル技術の活用を前提としたマインドセットで働けるようになることを目指しています。

——「4万人のデジタル人材育成」を推進しているとのことですが、なぜそれほどまで多くの社員を対象にデジタル人材育成を行っているのでしょうか? 

4万人という数字よりも、私たちが実現したいのは「みんな」を対象にすることです。

現場でデジタルを活用した変革を実現するためには、すべての社員が「デジタル活用人材」となり、「デジタルプロフェッショナル人材」と共に職場全体で変革に取り組める状態をつくることが必要だと考えています。

ここで言う「デジタル活用人材」とは、DXの目的や手法をある程度知っている人。「このツールを使うとこんなことができる」と知っていて、あらかじめセットされたデジタルツールを使って業務の変革に挑戦できる人のことです。一方、「デジタルプロフェッショナル人材」は高度なデジタルスキルを活用し、データの分析や考察を通して業務変革をリードする人のことです。

データ活用によってできることやデジタル技術について「知らない」という人がいたら、無意識のうちにそれがDXを否定する要素になってしまうこともあるでしょう。組織に両方の人材が混ざり合った状態になったときに、「みんなで新しいことにチャンレンジしよう」という組織風土が生まれ、現場で変革を起こすことができるようになります。その状態をつくるのが、人材育成の役割です。

メーカーは、非常に多くの機能組織が協力しあって1つの製品を作るので、緻密に計画を立て、全員が合意してから進むことが必要になります。それは強みであり特長である一方で、アジャイル的な動き苦手になり勝ちです。しかし、それでは変革や挑戦がなかなか進みません。既存の文化は大切にしつつも、デジタル変革を通して「まずはやってみて、ダメだったら修正しよう」という考え方も根づかせていきたいと考えています。

「自分もデータをつくる当事者」と思ってもらいたい

——具体的に、デジタル人材育成のためにどのような施策を行っているのですか?

2021年からデジタル人材育成のプログラムとして、「旭化成 DX Open Badgeプログラム」を全社員に向けて展開しています。「IT」「データ駆動型」「データ基盤開発」「ビジネス・デザイン」の領域で難易度別にeラーニングのコンテンツを公開し、テストに合格した社員にはオープンバッジを付与。スキルの可視化につなげています。

レベル1〜レベル5まであり、レベル1〜2はデジタルの基礎知識や日常の業務と絡めてデジタルについて学べる内容です。レベル1は「AIはArtificial Intelligenceの略です」というような本当に基本的な知識からはじまります。

たとえば、工場勤務でパソコンを使わない人であっても、現場の記録をタブレットに入力することはよくあります。そのときに、元素記号をアルファベットで書く人とカタカナで書く人がいると後々データとして使えなくなってしまう。そういう細かなことから、データを管理することでこういう活用ができるといった内容まで、幅広く伝えています。

こうした内容を学ぶことでデジタルを活用することの背景や目的を理解することができれば、仕事のレベルが上がると思いますし、自分たちが変革の当事者になることにもつながっていくと思います

中には「会社はDXなんて言ってるけれど、自分たちには関係ない」と思っている人もいるかもしれません。そうではなく、「一人ひとりがデータをつくっている当事者なんだ」ということを実感してもらいたい。「自分はデジタルと無縁」と思っている人が「無縁ではない」と思えるところまで行けたら、変革を実現する大きな一歩だと思います。

完全にジョブ型の組織であれば、「自分には関係ない」で済むのかもしれません。しかし、旭化成や他の多くの日本企業のようなメンバーシップ型組織の場合、全社を巻き込んで変革していかなければならず、そのためにみんなが最低限の知識を持つ必要があります。

——レベル3以降はどのような内容を学ぶのですか?

レベル3は「デジタル活用人材」到達の目安しているレベルで、11のコースのなかから、自分の仕事に関係する内容、興味をもって学びたいと思った内容を選択して学んでもらいます。

レベル1〜3は誰でも受講可能ですが、「デジタルプロフェッショナル人材」に該当するレベル4以降は業務の現場でデジタルを活用するスキルを身につけてもらう高度な内容となるため、今後デジタル技術の活用が求められる業務に実際に取り組んでいる人に応募してもらい、上司の承認をもらったうえで受講してもらいます。半年かけて専門家の伴走の下で学ぶコースや、学習の後に自分で作製した成果物の審査をもって認定されるコースもあり、社内専門家の支援をうけながら業務時間を使って学ぶことができます。

なお、レベル4、5の「デジタルプロフェッショナル人材」はデジタル活用によって変革を進める人材という考え方設定しています。たとえば、ノーコードアプリで開発できる人をデジタルのプロ人材と呼ぶのかというと、会社によって考え方は異なるかもしれません。旭化成では、自分たちの職場や業務の課題を発見して、デジタルを活用しながら組織を巻き込んで解決に向けて進めていける人材を「デジタルプロフェッショナル人材」と呼んでいます。

——これまでにどのような成果が出ていますか?

コースによって難易度が異なりますが、レベル4、5のバッジを取得した社員は約270名ほどいます。特に2023年にデジタルマーケティングのコースをリリースしたところ、興味を持って受けてくれた方がたくさんいました。

現時点では、レベル1~3までのバッジを取得しているのは、国内社員の6割です。これから先さらに受講者を伸ばしていくためには、デジタルへの興味関心の低い人・学びの意欲が高くない人にも受講をしたいと思ってもらうための施策が必要です。

たとえば、工場勤務の社員の中には1人1台のパソコンを持っていないケースもあります。その環境で業務時間前後でeラーニングを受けるのは難しいですよね。そこで、1人ではできなくても、みんなでだったらできるという考えのもと、工場休転を活用した集合型研修にも取り組んでいます。

一人ひとりのアップスキリングによって現場から変革を起こす

——デジタル人材の育成はしばしばリスキリングの文脈で語られることが多いですが、旭化成の場合はデジタルスキルを身につけて職種を変えるケースもあるのですか?

一般的にリスキリングはジョブチェンジを前提とした話ですが、旭化成で考えているDXはあくまで今の業務を変えていくこと。つまり、アップスキリングをして現場の業務で活躍できるデジタル人材の育成に取り組んでいます。

これまでは会社が導入したシステムを言われた通りに使う側だった社員が、自分でツールを使ってワークフローの改善に取り組むようなことがすでに現場で起きています。

たとえば、営業所のバックオフィス業務を担当してる社員がノーコード開発を学び、業務を改善するアプリを立ち上げ、営業所間で共有してケースも生まれていると聞いています。会社全体で見れば小さな変革かもしれないですが、きっと本人のモチベーションはすごく上がっているはずです。

「自分が変革の担い手になる」という意識を持つと、今取り組んでいる仕事がもっと面白くなると思います。こうした小さな変革をたくさん起こしていくことで、旭化成全体の活性化につなげていきたいです。

一方で、多様なキャリア形成を支援するという点では、アップスキリングの結果としてジョブチェンジができるルートをつくることも今後は必要だと考えています。

旭化成は事業の幅が広いため、各ドメインでの専門知識を極める傾向があり、特にエンジニアはジョブローテンションの幅が狭まってしまうケースが多いと思っています。こうした現状を変える1つの糸口がデジタルだと思います。デジタルスキルはどのような事業でも応用しやすいので、積極的に学ぶことで仕事の幅を広げるチャンスになるはずです。

課題としては、スキルの客観評価が難しいことが挙げられます。どのように評価するかは今後検討が必要ですが、何らかの形でデジタル分野のタレントマネジメントを機能させていきたいと考えています。

多様な人材が主体的に学んでいくことで、一人ひとりが目の前の業務からイノベーションを起こすことができるはずです。旭化成では全従業員のデジタル人材化を実現し、今後もビジネスの変革を加速させていきます。

 

 

 

※記載されている情報はインタビュー当時のものです。

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