生成AIで変わる人事の仕事。現場での活用のポイントをプロが伝授
2025.04.07
ChatGPTをはじめとした生成AIの登場から約2年。人事領域においても生成AIの活用は広まっている。
具体的に生成AIは人事の業務でどのように活用され、どんな変化をもたらしているのだろうか。そして、今後人事は生成AIとどう関わっていけばいいのか。
人事領域のAI活用や企業事例などを研究するビズリーチ WorkTech研究所の友部博教所長に、人事と生成AIの現在地とこれからを聞いた。
Profile

友部博教 氏
株式会社ビズリーチ ビズリーチ WorkTech研究所 所長
2004年、東京大学大学院で博士号(情報理工学)を取得後、名古屋大学、産業技術総合研究所で、コンピューターサイエンス領域の学術研究に取り組む。その後、2008年より、東京大学で助教として研究・教育に携わる。2011年、株式会社ディー・エヌ・エーに入社し、アプリゲームやマーケティングの分析部署のマネジメントや、人事でピープルアナリティクス施策を担当。その後、株式会社メルカリの人事で、ピープルアナリティクス施策を担当。2019年11月、株式会社ビズリーチに入社。人事本部タレントマネジメント室でのピープルアナリティクス施策の担当などを経て現職。
生成AIで変わる人事の仕事
——現在、人事領域で生成AIはどのように活用されているのでしょうか。
生成AIは、人事のあらゆる領域で活用できると思います。現時点で実現できていることと、まだ実現できていないことはありますが、「こんなことができたらいいな」と人事が思っていることや「めんどくさいな」と感じている業務については、近い将来、生成AIでほぼ解決できる可能性があります。
具体的に活用が進んでいる例として、まず人事業務の効率化が挙げられます。
たとえば、研修プログラムの作成やセミナー企画の立案などに、生成AIをすでに活用している人事担当者は多いです。
この領域は、セキュリティ上のリスクが低いため、使われやすいです。新入社員向けのマナー研修のような一般的な内容であれば、社内の個人情報を用いる必要はありません。
社内に適切なセキュリティ環境が整っていれば、エンゲージメントサーベイの分析にも生成AIを活用できます。サーベイツール自体にAI機能が組み込まれていて、問題点を提示してくれるサービスも登場しています。
また、採用要件や求人票の作成業務でも活用されはじめています。採用要件を作成するためには、社内にどういうポジションがあり、その業務にはどんなスキルやマインドが必要なのかを考えなければなりません。しかし、人事担当者がすべての業務内容を把握し、求人票にまとめる作業には膨大な工数がかかります。
生成AIを使うことで、業務内容とスキルの紐付けや求める人材の要件に基づいて求人票の生成などを自動化することが可能になります。
当社でも生成AIを活用した社内スカウトサービス「社内版ビズリーチ by HRMOS」を提供しています。ビズリーチで蓄積されたデータを学習した生成AIを搭載し、社内のポジションや、社員レジュメを自動生成し、高精度な人材検索とレコメンデーションを通じて、社内人材と社内ポジションの最適なマッチングを実現するものです。今後、こうしたツールはどんどん出てくると思います。

生成AIで「どんな課題を解決したいか」を考える
——人事領域で生成AIを活用するにあたっての注意点を教えてください。
大前提として、AIに対して「期待しすぎないこと」。それと同時に「軽視しすぎないこと」が重要です。
「ChatGPTを触ってみたけど、それほどでもなかった」と言う人がいますが、それは単に使い方に慣れていないからかもしれません。適切に使えば、現時点でもほぼすべての業務で活用できる可能性があります。
ただし、生成AIが出す結果は必ずしも正解ではないので、鵜呑みにしないことが大切です。AIはあくまでも意思決定するための補助ツール。最終的な判断は人間が行わなければなりません。生成AIは判断の精度を上げたり、意思決定にかかる工数を減らしたりするために活用するべきです。
人事特有の注意点としては、プライバシーとセキュリティの問題があります。生成AIツールを使う場合、会社の機密情報や個人情報をどこまで活用していいのかという点は厳重に考える必要があります。
たとえ社内ツールであっても、「そのツールを誰が管理しているのか」を考慮すべきです。特に人事評価データなどのセンシティブな情報を扱う際には、その環境が本当に人事だけが見られるものになっているのか確認が必要です。
——うまく活用するためのポイントは?
最初のうちは「小さく始めること」からスタートするのがいいでしょう。たとえば、面談の記録などのフリーコメントから個人情報や機密情報を除いたうえで生成AIに分析させてみるなど、セキュリティリスクの低いところから始めてみてください。
また、「目的ベースで考える」ことも大切です。最近よく企業の方から相談されるのが、「経営層からAIを活用しろという指示が降りてきたが、何をしたらいいかわからない」というケース。しかし、大事なのは「何のために生成AIを使うのか」という目的をはっきりさせることです。具体的に「今人事で困っていること」や「めんどくさいと思っている作業」をAIでどのように解決できるかを考えるアプローチが効果的です。

——人事評価では「気が利く」「人あたりがいい」など定量化が難しい情報も重要だと思いますが、こういった情報も生成AIで可視化できるのでしょうか?
私は可能だと考えています。たとえば、「ハイパフォーマー」という概念について考えてみましょう。
組織内で100人に「ハイパフォーマー」の定義を聞くと、「100点満点中90点以上の人」「50点以上の人」など回答はバラバラになると思います。しかし、ある程度のデータを集めて標準化することで、自社における「ハイパフォーマー」の特徴を明確にしていくことが可能になります。たとえば、組織内で「ハイパフォーマー」についての言及があるテキストデータが蓄積されれば、その会社における「ハイパフォーマー」の基準を確率的に導き出せるようになるでしょう。
もし、十分なサンプル数がない場合は、まず社内で言葉の定義を言語化することから始めます。各自が「ハイパフォーマーだと思う人」を挙げ、なぜそう思うのかを共有し、曖昧な表現を具体化していきます。
このように学歴や売上のような数値だけでは測れない要素も丁寧に言語化し、基準や条件を明確にすることで、生成AIにも理解できる形に変換していくのです。
ただし、人事データは常に変化し、組織構成も変わります。設定した基準が翌年にはそのときの組織の状況とズレている可能性もあるため、定期的に見直していくことが大切です。
生成AIによるデータ分析が人事の当たり前になる
——人事のデータ活用が進む一方で、データサイエンティストの確保が難しいという課題があります。こうした中で、生成AIはどのような可能性を持っていますか?
私自身、もともとはデータサイエンティストなのですが、生成AIが進化するにつれて「自分の出番は少なくなるかも」と思っています。なぜなら、生成AIとデータサイエンティストの一部役割が似ており、生成AIで補える部分があると感じるからです。
たとえば、人事から「若手エンジニアが何かモヤモヤを抱えているようだ」と相談されたとき、データサイエンティストは年齢層やエンゲージメント状態を調べ、問題の要因を探ります。その結果を人事に返すと、さらに詳細な要望が返ってくる。このやり取りを繰り返すのです。
同じことが生成AIでも実現できます。人事が分析の依頼を生成AIに投げ、結果を見て「このポイントをもっと深掘りして」と指示を出すことで、データサイエンティストとのやり取りを再現できるのです。
生成AIを使うメリットは、何回同じ質問をされても感情的にならずに回答してくれる点。また、人間だと少なからずバイアスがかかってしまうのに対して、生成AIは客観的にデータを分析して回答してくれます。
データサイエンティストという職種は市場での需要が高く、供給が足りていない状況です。限られた人材を配置する際、人事よりも事業部門が優先されるでしょう。そこで、人事領域におけるデータ分析の支援ツールとして重要な役割を果たすのが生成AIだと考えています。
——今後、進化を続ける生成AIと人事はどのように付き合っていくべきでしょうか。
生成AIは変化のスピードが早く、完全に追いつくのは難しいかもしれません。しかし、何もしなければ間違いなく置いていかれます。まずは、興味を持って試してみて、自分なりの活用法を研究してみてください。
そのうえで、社内で活用事例やプロンプトのフォーマットを共有するなどして、生成AIとのより良い付き合い方を模索してみてください。
人事部門は業務が多岐に渡るため忙しく、従業員の声をすべて拾い上げて対応することは難しく、優先順位が高いものから対応している状況だと思います。生成AIを活用して業務の効率化が格段に進めば、こうした状況も変わっていくはずです。
業務効率化により、たとえば、従業員エンゲージメントの詳細な分析や個別フィードバックへの対応、キャリア開発支援の強化、組織内の潜在的な課題の早期発見など、これまで手が回らなかった領域にも力を入れられるようになるのではないでしょうか。その結果、従業員の状況がより深く理解され、エンゲージメントの向上や組織全体の環境改善につながっていくはずです。

今後は生成AIの活用を前提として人事の仕事が進んでいく可能性があります。その一方で、人間ならではの役割も残り続けると思います。
人間は相手の表情や態度、その場の雰囲気など多様な情報を五感でインプットして判断や推論をしています。生成AIが扱えるのは主にテキストや画像の情報で、意思決定に必要な情報の一部にすぎません。人事としての直感も重要な情報であることは変わりないのです。
生成AIと人間がそれぞれの強みを活かし、補い合いながら、多様な働き方や価値観に対応した組織づくりを進めていくことが大切だと思います。
※記載されている情報はインタビュー当時のものです。
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