「ポジティブフィードバック」、やってみませんか? 人と組織を育てるための4つの承認プロセス

マネジメント層にとって、重要な業務である部下へのフィードバック。しかし手法を間違えると部下のやる気は失われ、組織に停滞感をもたらす原因になる。部下を認め、正しく導くフィードバックはどのように行えばいいのか。

『国際エグゼクティブコーチが教える人、組織が劇的に変わる ポジティブフィードバック』の著者・ヴィランティ牧野祝子氏に聞いた。

Profile

ヴィランティ牧野祝子 氏

株式会社グローバル・キャリアデザイン代表取締役 国際エグゼクティブコーチ

米コロンビア大卒、仏INSEADビジネススクールMBA修了。DiSC® Certified Practitioner。イタリア・ミラノ在住。国内外10ヵ国にて多業種でキャリアを積み、戦略構築、現場の実働、女性のシニアマネジメント、後輩社員のメンターなどに従事。2022年に国際エグゼクティブコーチとして独立し、企業研修やコンサルティング、グループ面談、セミナーなどを行う。2023年TEDxにて「The power of Positive feedback(ポジティブフィードバックのパワー)」をテーマに登壇。著書に『国際エグゼクティブコーチが教える 人、組織を劇的に変える ポジティブフィードバック』(あさ出版)、『結果を出してサクッと帰る 神速時短』(すばる舎)。

 

日本企業が「フィードバックが苦手」な3つの原因

──日本の組織ではフィードバックを行う機会が少なく、機能していないように見受けられます。原因は何だとお考えですか。

3つ考えられます。ひとつ目は「教育方針」です。日本ではできていないところに目を向ける傾向がありテストで70点を取ったらあと30点をどうやって伸ばすかを考えます。

これに対して英語圏などの一部の海外ではできているところに目を向ける傾向があります。70点を取った状態を「良し」と考え、テスト勉強などの準備を含めてうまくいったところを本人に尋ねるなど、良いところに着目します。

2つ目は「文化」です。経営思想家のエリン・メイヤーは、著書『異文化理解力』で、各国での文化の違いを可視化しています。日本を始めとするアジア圏は、相手の表情や空気を読むハイコンテクストな文化です。「こんなことを言ったら悪いかな」と遠慮して、不満があっても相手にはっきり伝えないため、フィードバックを行う習慣がありません。

一方アメリカやオーストラリアでは、自分が考えていることは全て伝えるローコンテクストな文化です。責められることもある反面、すごく細かいことでも称賛される。日本の“察する”文化は素晴らしいですが、ビジネスの観点から見るとフィードバックができていないことにつながってしまいます。

3つ目は「働き方」です。昭和時代、若手社員は仕事の現場で先輩の「背中を見る」こととで仕事への姿勢を学びました。しかしコロナ禍を境にリモートワークが増え、飲み会も減少しました。昔のようにコミュニケーションを取る機会が少ないため、「背中を見て学ぶ」手法が通用しなくなっているのです。

──ヴィランティ牧野さんの提唱する「ポジティブフィードバック」とは、どのようなものなのでしょうか。

まず、フィードバックは自分の意見をぶつけるためではなく、相手の成長のために行うものです。良いフィードバックを行うためには、相手に興味関心を持ち、相手のことを観察することが必要です。

ポジティブフィードバックでは、「4つの承認」を行います。

まず業績や仕事の成果を認める「結果承認」。数字目標の達成、新規契約の獲得など、本人の努力が実を結んだタイミングで惜しみなく称えます

結果につながらなくても、努力の過程や事実を褒める「行為承認」。「提案書を丁寧に作成してくれて助かったよ」「早速アクションを起こして偉いね」など、プロセスに目を向けましょう。

「存在承認」は相手を一人の人間として大切に思っていることを伝える承認です。朝の挨拶など日々の声かけやコミュニケーションを通じて、メンバーそれぞれの存在価値を認める言動を心がけます。

最後に、相手の更なる成長ポテンシャルに期待していることを示す「可能性承認」。ネガティブなフィードバックでもその人の可能性を信じているからこそのメッセージだと伝われば、前向きに受け止めてもらえるでしょう。

外資系企業などは結果承認だけが求められるイメージがありますが、実際にはこれらの4つの承認が行われているのです。

──ポジティブフィードバックを行うと、組織や部下にはどんな変化があるのでしょうか。

組織では、エンゲージメントが向上します。あるチームでは、チーム内でお互いに声を掛け合う習慣がありました。心理的安全性の高いチームでは、「こんな発言をしたら嫌われるかも」など不必要な心配をせず、仕事に集中できます。

結果的にメンバーがミーティングで気兼ねなく自分の思いを伝えられる、建設的なディスカッションができるなど職場の風通しが良くなり、仕事の生産性や効率性も上がりました。

別のチームでは、月次ミーティングでメンバーの強みを持ち回り制で言う機会を設けました。言われる本人がうれしいのはもちろんですが、メンバー側も他人の良いところを思い浮かべることでわくわくした気持ちになります。メンバーの良いところに気付けることで、チームの距離も縮まりました。

また、現場の社員のモチベーションアップにもつながります。私が研修先で「褒められたり、認められたりした時にどんな気分になりますか?」と尋ねると、キャリアを問わず「嬉しい」「やる気が出る」と回答があります。自身の存在が承認されると人は安心し、やる気が出るのです。

ポジティブフィードバックの鍵は「即時性」と「具体性」

──日本では、フィードバックすることに慣れていない人が大半です。ポジティブフィードバックを行うにあたって、大切なことは何ですか。

2つあります。ひとつ目は「即時性」です。とにかく気軽に声を掛けるような気持ちで、小さいことでかまわないので口に出してみることです。すぐにフィードバックを行えば、相手は言われた直後からフィードバックの内容を活かすことができます。

組織内のコミュニケーションにおいては、内心は良いと思っていても本人へ伝えないケースが多々あります。その場で一言「良かったよ」と声をかける、もしくは「発言してくれてありがとう」と言うだけでも相手の受け取り方は変わります。時間が経つとお互いにその時の気分や臨場感を忘れてしまうため、メールやSlackなど手段を問わずすぐに行うことがポイントです。

2つ目は、「具体性」です。上司から「良かったね」と褒められても、「本音で言ってくれているのかな?」と疑ってしまう部下もいます。「昨日の会議は参加者が多くてピリピリした雰囲気だったけれど、あなたのアイスブレイクで会場が和んだね」など、上司ができるだけ具体的な状況を挙げて伝えれば、部下は自分のどこが良かったのかを理解することができます。

──良い表現がうまく思い浮かばない場合は、どうしたら良いのでしょうか。

アンテナを張って相手を観察すること、また褒める機会を作って慣れることです。話し下手な人でも、ポジティブフィードバックは可能です。例えば師弟関係のある職場では、寡黙な職人から「これ、いいね」とボソッと言われたことが嬉しかったという声がありました。相手のためを思ったコミュニケーションであれば、思いは伝わります。

──とは言え、バリエーションやボキャブラリーが貧困だと、「いつも同じことしか言わない」と思われてしまいそうです。

承認のバリエーションを持つことも大切ですが、フィードバックには話し方や場の雰囲気も影響します。あるベンチャー企業のCEOは、会社の業績が良いのに離職率が高いことに悩んでいました。話を聞いてみると「より成長するためにメンバーを鼓舞しなければ」と思い込み、厳しい顔でミーティングに挑んでいたため、部下が委縮していたのです。意識的にニコニコとジョークを交え、柔らかい表情で「よく頑張った」と承認するようにしたところ、暗い雰囲気が劇的に変わりました。

笑顔で挨拶、相手の努力を認めるなど、小さなところから

──日常の何気ないコミュニケーションと、1on1のようなフォーマルな場でのコミュニケーションで、違いはありますか。

コミュニケーションを堅苦しく捉えすぎているように感じます。日常のコミュニケーションにおいては、たった一言や数秒でも記憶に残るようなやり取りは可能です。廊下でマネジャーがすれ違う際に笑って挨拶してくれたなど、ささいなコミュニケーションでも効果はあります。

また上司と部下の関係においても、上司は部下のポジティブな面を探さなければと1人で気負い過ぎています。1on1で話す内容が見つからなければ、部下の話を聞く場所と捉えてはどうでしょうか。「最近、頑張ったことは何?」と部下に尋ね、回答に対して「それ、すごくいいね」と承認する。良い1on1とは上司の独断場ではなく、部下が問題の解決策を自分自身で見つけられるように上司がサポートすることです。

──改善点を指摘するなど、ネガティブなフィードバックを行う際にはどこに気を付ければいいですか。

普段から相手と良好な関係性を築けていれば、苦言を呈されたとしても相手はありがたく受け止められます。私も海外の企業で働いていたとき、厳しい叱責を何度も受けましたが、信頼関係を築いていたので素直に受け入れられました。

また、「サンドイッチ形式」でフィードバックするのもお薦めです。ポジティブなコミュニケーションを行った上で、「ポジティブ、ネガティブ、ポジティブ」とサンドイッチ構造で指摘を行う。

ポジティブなコミュニケーションを行っていれば厳しい話も受け止めやすくなります。その際も「ここができていないけれど、どうすればできると思う?」など、前向きな発言を意識することが大切です。

──上司が多方面に気遣いを求められて「寄り添い疲れ」に陥るケースも増えています。

表面的なコミュニケーションだとハラスメント扱いされてしまいます。例えば昔のように「今日の髪型素敵だね」と外見を褒めると、センシティブな捉え方をされてしまう。これは、真の意味での対話ができていないからです。

また、上司側も承認される場面が少なく、自分の役割に不安を感じています。そのため、同僚から「おはようございます」とニコニコ挨拶してもらう、部下から「この間は相談に乗っていただいてありがとうございました」など、存在を承認されるというれしいものです。お互いに組織内でポジティブフィードバックを行っていけば、伝染して風通しの良い職場になるのではないでしょうか。

──組織全体にポジティブフィードバックを根付かせるために、経営層は何から取り組めばいいですか。

まずは経営層自身が、ポジティブフィードバックを受けてください。ポジティブフィードバックを受けた経験がなければ、効果や良さが分からず、体験者の気持ちが分かりません。ポジティブフィードバックの価値を感じてから、制度に組み込む、承認文化を作るなど組織に波及させていくとスムーズに浸透します。

ポジティブフィードバックは感染力が高いので、実施すれば想像以上に組織内に効果が波及します。心理的安全性が高まって周囲の人もポジティブループが回るようになり、パフォーマンス向上にもつながります。ぜひ、実践してみてください。

 

※記載されている情報はインタビュー当時のものです。

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