求職者は外から見えない「組織文化」をどう見抜く? 自分に合う企業選びのヒント

転職が当たり前の選択肢となり、キャリアの可能性が広がる一方で、求職者の中には入社後にカルチャーのミスマッチに悩む人も多くいます。スキルや条件は満たしているはずなのに、いざ働いてみると組織の風土や価値観と合わず、早期に再び転職を余儀なくされてしまうことも――。こうした事態を防ぐためには、条件やスキルのマッチングだけではなく、「組織のカルチャーが自分に合っているか」という視点が欠かせません。

納得のいくキャリアを築き、長く活躍できる環境と巡り合うためには、選考段階で何を見極め、入社後にどのように組織と向き合うべきなのでしょうか。今回は、転職エージェントとして数多くの転職希望者のキャリア支援をしてきた株式会社morich代表の森本千賀子氏に、カルチャーフィットの重要性や、自分に合った企業を見抜くためのポイント、入社後のギャップを乗り越えるためのマインドセットについて伺いました。

Profile

森本千賀子 氏

株式会社morich代表

獨協大学卒業後、リクルート人材センター(現リクルート)入社。転職エージェントとしてCxOクラスの採用支援を手がける。全社MVPのほか受賞歴は30回超。現在は、株式会社morich/株式会社morich-To/株式会社and morich代表として、転職エージェント事業の支援のほか、社外取締役/顧問/NPO理事などパラレルキャリアを体現。NHK「プロフェッショナル~仕事の流儀~」「ガイアの夜明け」にも出演。日経新聞「人間発見」に連載されるなどの各種メディア、『1000人の経営者に信頼される人の仕事の習慣』『本気の転職』等の著書の執筆、講演も多数。二男の母。

 条件・スキルより、カルチャーフィットが大事な理由

――入社後のミスマッチを防ぐためには、カルチャーフィットが大事だと言われています。改めて、その理由をお聞かせください。

もちろん、スキルフィットも大事ですが、入社した後に長く働き続けられるか、活躍できるかという点を左右する重要な要素は、やはりカルチャーフィットだと考えています。

なぜかというと、スキルは後天的に身につけることができるからです。個人の価値観や行動原則といった根幹の部分が企業と合っていれば、多少スキルの面で期待値とのギャップがあったとしても、ご本人の努力や学習でそのギャップを埋めながら成長していくことができます。

一方で、カルチャーフィットに関しては、「後から馴染もう」「合わせよう」と思っても非常に難しいのが現実です。自身の価値観や考え方そのものを変える必要が出てくるため、合わない部分ががあるとストレスを抱えてしまう方がとても多いのです。

実際、企業側の採用基準もこうした実情に合わせて変化しています。そもそも、すべてのスキル要件を完璧に満たす人材を採用するのは至難の業です。だからこそ、多くの企業が「カルチャーフィットは大前提」とし、スキルについては「最低限のライン」さえクリアしていれば、あとは入社後のポテンシャルに期待するようになっています。

――実際、「カルチャーが合わない」という理由で退職する人はどのくらいいるのでしょうか?

非常に多いですね。特に、入社から半年以内の早期離職に関しては、その3〜4割が「社風や価値観の不一致」を理由に挙げていると言われています。ただ実際には、「会社の雰囲気に馴染めない」「人間関係がうまくいかない」といった形で語られることも多く、私のこれまでの支援経験からすると、表現は違えど、実質6〜7割はカルチャーのミスマッチが根本にあると感じています。

また、表向きの理由は「給与」であっても、深掘りすると「評価への納得感がない」「会社からの期待値とズレている」といった、本質的には組織との関係性の問題であることがほとんどです。

条件面だけで転職先を選んでしまうと、入社後にこうした壁にぶつかってしまうリスクが高まるのです。

 選考段階で企業のカルチャーを見抜くヒント

――では、就職活動の際に自分に合うカルチャーの会社を見つけるために、意識すべきことを教えてください。

まずは、「自分がどういう環境なら心地良く働けるのか」という自己理解を深めることが大切です。このときに気をつけてほしいのが、アンコンシャス・バイアス(無意識の偏見)。よくあるのが、今の職場への不満が強いあまり、無意識に「すべてが逆」の環境を求めてしまうケースです。

例えば、「今の会社がルールでガチガチに管理されている」という理由で、「自由なスタートアップに行きたい」と転職する方がよくいます。しかし、入社後にカオスな環境で「全部自分で決めて」と言われた途端、「やっぱり、ある程度仕組みがあったほうが働きやすかった……」と気がつくことも少なくありません。

なので、「今の環境の何が嫌で、本当は何を変えたいのか」「自分にとって好ましいカルチャーはどんなものなのか」を突き詰めて言語化することが重要です。

ただ、こうしたメタ認知を自分ひとりで行うのは意外と難しいものです。そこで、転職エージェントなどの第三者を活用して整理することをおすすめします。

――求人票や応募要項から、組織のカルチャーを見抜くヒントはありますか?

求人票に書かれている言葉にはカルチャーを知るヒントがたくさんあるので、「翻訳」して読み解きましょう。

例えば、「変化の激しい環境です」とあれば、それは「スピード重視で、まだ社内ルールや仕組みは整っていない状態である」という意味かもしれません。

「自走できる方を求めています」と書かれていれば、手厚い教育体制はなく、「自己裁量でどんどん進めていく自走力」が求められている可能性が高い。

「アットホーム」や「心理的安全性が高い」という言葉は、裏を返せば「ウェットな人間関係」や「上下関係がしっかりしている」ことを指している場合もあります。

「仕組み化」や「改善」といった言葉があれば、オペレーション重視の文化であることが推察できます。

もちろん必ずしもそういう文化だとは言えませんが、一見ポジティブに見える言葉でも、自分にとってそれが本当に働きやすい環境なのかどうか、冷静に読み解く必要があります。

――ほかに、リアルな情報を得るためにできることはありますか?

情報は「人」から取るのが一番です。私たち転職エージェントは、経営者や人事、現場担当者と直接やり取りをして、求人票には書けない「社内の実情」や「課題」を把握しているケースが多いです。

例えば、欠員補充の求人であれば、前任者がなぜ辞めたのかという「本当の退職理由」まで確認していることもあります。こうしたリアルな情報は、エージェント経由で聞いてみるのが近道です。

次に「口コミサイト」も役立ちます。ただし、口コミサイトは実際の声が得られる一方、辞めた人の投稿が多くネガティブに偏りがちです。全体の傾向なのか個人の問題なのかを客観的に見極めることが必要です。

また、「カジュアル面談」の活用もよいでしょう。ただしこちらも、企業側の魅力付けの場で、課題は語られにくい点に注意が必要です。現場社員や中途入社の人に会わせてもらい、実際のギャップや大変さを直接確認するほうが実態をつかめます。

――次に、面接の際に、チェックしたほうがいいポイントを教えてください。

面接官が複数人出てくる場合はチャンスです。

例えば、部長と課長が同席する場合、2人の関係性をよくチェックしましょう。「うちはフラットな組織だよ」と言いながら、部下が上司の顔色ばかり窺っていたり、上司を過剰に立てていたりするなら、強いヒエラルキーがある可能性があります。言葉よりも、そうしたノンバーバル(非言語)な情報にこそリアルが隠れています。

逆質問のチャンスがあれば、「意思決定の基準」や「判断軸」を聞いてみるのはいいと思います。

また、組織内の一貫性を確認するために、現場のマネージャー、部長、役員、社長と、選考が進む中で出会うレイヤーの異なる人たちに、あえて同じ質問を投げかけてみるのも手です。

「御社が大切にしていることは何ですか?」「今の課題は何ですか?」と聞いてみて、答えが一貫していればカルチャーやビジョンが浸透していると考えられます。逆に、言っていることがバラバラだったり、「スピード感」を掲げながら選考スピードが遅かったりする場合は要注意です。

そして、「ネガティブな情報」も聞いてみましょう。課題があること自体は悪いことではありません。むしろ、「ここが課題だから、あなたに入社して改善してほしい」と正直に話してくれる企業のほうが信頼できます。課題をどう捉え、どう解決しようとしているか。その姿勢にこそ、企業の本当の価値観が色濃く表れます。

 入社後にカルチャーに適応するための心構え

――選考の段階から、いろいろなヒントを得ることができるんですね。続いて、実際に入社したあとにカルチャーに馴染むための心構えを教えていただけますか。

どんなに事前に情報を集め、納得して入社したとしても、実際に働き始めてみると「思っていたのと違う」と感じる場面は必ず出てきます。大切なのは、そのときにすぐに「合わない」と切り捨てるのではなく、この会社とご縁を結ぶと決めた以上、良いところだけでなく課題も含めて引き受ける覚悟が持てるかどうかだと思います。

例えば、業務連絡のチャットの返信スピードはどうか、「了解しました」というスタンプだけで済ませていいのか、丁寧に文章で返す文化なのか、会議の進め方はトップダウンか議論型かなど、会社ごとに考え方や業務の進め方は異なります。

些細なことですが、これらを無視して自分のやり方を通そうとすると、周囲から「あの人は空気が読めない」というレッテルを貼られてしまいかねません。まずは周囲の人の言動をよく観察し、カルチャーに適応する姿勢を見せることで、組織に早く馴染むことができるでしょう。

そのためには、社内の教育担当やメンターをうまく頼ることです。メンター制度がある会社なら、その方をフル活用して何でも聞いてください。

そうした制度がない場合は、自分自身でメンターのような存在を見つけることが大切です。直属の上司とは別に、何でも聞けるような先輩とランチに行くなどして仲良くなり、「この会社の暗黙のルールはありますか?」「あの人にはどういうコミュニケーションを取るのが正解ですか?」と聞くのが近道です。

――中途入社では即戦力として期待されている分、「早く成果を出さなければ」と焦ってしまい、周囲の人になかなか相談できない人もいると思います。

気持ちはわかりますが、焦るのはよくありません。「成果を出す」ということは、裏を返せば「現状を変える」ことでもあります。まだ信頼関係ができていない新参者がいきなり何かを変えようとすると、受け入れる側は「過去を否定された」と思ってしまいかねません。

まずは既存のメンバーやこれまでの経緯をリスペクトし、組織に馴染むことを最優先にしてください。最初の3カ月はお互いを知り、合わせる期間だと割り切って、焦らずに丁寧に関係性を構築していくことが、結果として長く活躍するための近道になります。

 【企業側】良いところも課題も、正直に伝えることが「良いご縁」の第一歩

――最後に、カルチャーの合う人材を採用するために、企業側が意識すべきことについてもアドバイスをお願いします。

ミスマッチを防ぐために、企業側は自社のカルチャーや実態を良いことも悪いことも含めて包み隠さず伝えることが大切です。企業が成長フェーズで大手のような制度が出来上がっていない状態だとしても、現状の課題を含めてありのままに開示してください。

良い面だけを伝えて入社してもらったとしても、ギャップがあれば早期離職につながってしまいます。それは、企業にとっても、候補者にとっても不幸なことです。

――自社の情報をオープンにすることでミスマッチを防ぐ一方で、企業側が候補者を見極める精度を上げるにはどうすればよいでしょうか? 

面接でのパフォーマンスだけでは見抜けない「日常の働きぶり」や「周囲との関係性」を知るためには、リファレンスチェックが有効です。一緒に働いたことがある第三者からの客観的な情報は、候補者の実際の姿を知る有益な情報となります。

あるリファレンスチェック会社の調査によると、候補者自身が指定した推薦者であっても、約14%のケースで「この人とは二度と一緒に働きたくない」「マネジメントには向かない」といったネガティブな回答が返ってくるそうです。

短い面接でのやりとりだけでは、どうしても候補者の資質を見抜けない部分があります。だからこそ、こうした客観的な情報を組み合わせて判断することが、ミスマッチを防ぐ有効な手立てになるはずです。

そして、採用後に早く馴染んで活躍してもらうためにも、オンボーディングをしっかり整えましょう。どれほど優秀な人材でも、新しい環境では孤独や不安を感じるものです。採用して放置するのではなく、組織全体で歓迎し、些細なことでも質問しやすい心理的安全性を担保してあげることで、入社後の定着率は大きく変わるはずです。

採用のゴールは「入社」ではなく、その先にある「定着」と「活躍」です。企業と候補者が互いにカルチャーフィットという視点を持ち、正直に向き合い、歩み寄る。そうした誠実なプロセスの積み重ねこそが、不幸なミスマッチをなくし、双方が幸せになれる「良いご縁」を増やすことにつながっていくはずです。

※記載されている情報はインタビュー当時のものです。

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