【Unipos Bridge 2025】意思こそが人間の本質的価値。「AI時代の働く」を考える
2026.04.30
目次
AIの進化、人材不足、人的資本経営への注目の高まりなど、企業を取り巻く環境は大きく変化している。そんな変化の時代にあって私たちは組織と人の関係性をどのように捉え直すべきなのか。
「Unipos Bridge 2025〜人と組織の熱が動かす日本企業の未来〜」では、元マイクロソフト業務執行役員であり株式会社圓窓 代表取締役の澤円氏とUnipos株式会社代表取締役会長の田中弦氏が「AI時代における働く」をテーマに対談を行った。
スキルの陳腐化、若手の台頭、個の時代の到来――これからの時代を生きるために必要な「意思」と「決断」について、白熱した議論の様子をお届けする。
Profile

澤 円 氏
株式会社圓窓 代表取締役
立教大学経済学部卒。生命保険のIT子会社勤務を経て、1997年、大手外資系IT企業に転職。情報共有系コンサルタントを経てプリセールスSEへ。最新のITテクノロジーに関する情報発信の役割を担う。2006年よりマネジメントに職掌を転換し、ピープルマネジメントを行うようになる。直属の部下のマネジメントだけではなく、多くの社内外の人たちのメンタリングも幅広く手掛けている。数多くのイベントに登壇し、プレゼンテーションに関して毎回高い評価を得ている。2015年より、サイバー犯罪に関する対応チームにも参加。2019年10月10日より、(株)圓窓 代表取締役就任。企業に属しながら個人でも活動を行う「複業」のロールモデルとなるべく活動中。また、美容業界やファッション業界の第一人者たちとのコラボも、業界を超えて積極的に行っている。テレビ・ラジオ等の出演多数。

田中弦
Unipos株式会社代表取締役会長
1999年ソフトバンク(株)インターネット部門一期生としてネット産業黎明期を経験。経営コンサルティングファーム・コーポレイトディレクション(CDI)にて事業立ち上げ支援や戦略策定に関わる。その後ネットエイジグループ(現ユナイテッド社)執行役員。2005年Fringe81(株)を創業。独立後2017年東証マザーズ上場。 同年Uniposのサービス開始。2021年10月にUnipos株式会社に社名変更し、個人の人的資本を発見し組織的人的資本に変えるUniposの提供を中心に活動。 「人的資本経営専門家」として経営戦略と人事戦略を紐づけるための「人的資本経営フレームワーク(田中弦モデル)」の公開や約5000の人的資本開示を読んで導き出した独自の見解を発信。メディアへの出演多数。「心理的安全性を高める リーダーの声かけベスト100(ダイヤモンド社)」著者。
AI時代の到来により誰もが「初心者」に戻る
「大学の同期からは就職に失敗したと揶揄されることもあったんですよ」。
1993年、文系出身ながらプログラマーとしてマイクロソフトに入社した澤氏は、自身のキャリアのスタートをそう振り返る。インターネットがごく一部の人にしか知られていない時代、マイクロソフトという企業の知名度も同様に低かったのだ。
当時としては王道ではない選択に、本人も不安があったという。しかし、1995年に「Windows 95」が発売されるとインターネットが一般家庭へ爆発的に普及することになり、状況は一変した。「インターネットが社会的に注目を浴び始めて何が起きたかというと、全員初心者になったんですよ。パソコンが普及し、通信技術が急速に進歩する。当然、働き方も変わる。なのに、インターネットに明るい人はほとんどいないといった状況です。どんなに優れたエンジニアであってもインターネットを知っている人なんてほんの一部でしたから」(澤氏)

パソコンを所持しているだけで先行者特権が得られたような時代、澤氏はローンを組んでいち早くパソコンを購入。周囲よりも一歩早くインターネットの波に乗り、次第に働くことが楽しくなったという。澤氏は、当時の状況は急速にAIが台頭した昨今の流れと非常によく似ていると指摘する。
「近年、AIが注目を浴びるきっかけをつくったのはChatGPTのようなチャットAIツールの登場でしょう。その後、生成AIツールがどんどん登場し、急速にビジネスの現場に取り入れられていきました。そのインパクトはみなさんも実感しているところだと思いますが、今後数年であらゆるビジネスが抜本的にアップデートされていくことは間違いありません」(澤氏)
澤氏のエピソードを受け、田中が深く頷いた。つい先日、知識が「あっという間に陳腐化する」という体験をしたのだ。
田中は、近年リサーチ業務の効率化のため、自身でUdemyでPythonの講座を購入し、データを抽出する方法を学んでいた。しかし、AIエージェントに同様の作業を依頼したところ、プログラミングコードの開発、データソースの提案、ダッシュボードの作成までがあっという間に完成した。
「AIに日々触れる中でその進歩は実感していましたが、コンサルティングビジネスにとっては革命的な変化が訪れた。同時に、僕が学んだスキルは一瞬にして陳腐化してしまったんです」(田中)

この話を聞いた澤氏は、プログラミングは対価を得ることができる「スキル」から、「教養」に変わったのだと指摘する。AIによって誰もが簡単にプログラムを組むことができるようになる。しかし、プログラミングを学ぶことが無駄なのかというと、決してそうではない。
「ベースとなる知識を持っていることは無駄ではないんです。プログラミングに限らず、あらゆるものがAIによって自動化されていく時代においては、『なぜやるのか』『何のためにやるのか』を見極める力が求められるのだと思います」(澤氏)
AI時代に人間がやるべきは、自分の幸福を追求すること
これまで身につけたスキルが一瞬のうちに陳腐化していく時代に、どのようなマインドを持つべきか。田中の問いに、澤氏は自分の意思がどこにあるのかを問い直すことが重要だと続ける。
「自分の意思を確認することをどれだけ習慣化できるかが重要です。多くの人が『我慢は美徳』というパッケージの中に自分の意思を閉じ込めてしまっている。会社の肩書きやポジション、勤続年数を横に置いて、自分自身が何をしたいのか、どういう時に幸福を感じるのかを問い直すことが必要です。自分がその仕事で達成感を得ていないのに続けているということは、自分に嘘をついているということですから」(澤氏)
会社の肩書きやポジションが中心になると、それらに紐づくスキルが陳腐化した時に自分を支える基盤が崩れてしまう。しかし、自分の意思を持ち続けることができれば、変化を乗り越えられるという。
田中も自身の経験を振り返る。人的資本に関する開示が法律で義務化された流れを受け、「これは世の中が変わる」と確信して、統合報告書や有価証券報告書を読み漁り、国内外のビジネスリサーチに取り組んだ。
「もちろん、業務上必要なことではあります。しかし、僕がなぜこれを続けているのかというと、本質的には『好きだから』でしかないんですよね。意思というのは、結局そういうものなのかもしれません」(田中)
根源的な自分の意思を知ることこそが、AI時代を生き抜くための鍵なのだ。

経営者の仕事は「やめる」を決めること
田中は2025年に20年務めたUnipos株式会社の社長職を退き、会長に就任した。その決断には、新しいレピュテーション経営にコミットしたいという明確な意思があった。
「社長とレピュテーション経営の両立は難しいと判断しました。捨てたというより、選択したということ。その選択をしなければ、今やりたいことは実現できないのだろうと感じました」(田中)
この話を受けて、澤氏は経営者の仕事について持論を展開する。経営者の仕事は「人と会うこと」と「何かを決めること」の2つだけだと断言したうえで、これからの時代、経営者に求められるのは「やめることを決める」ことだという。
「世の中の情報が増え、競合が増え、あらゆるものが複雑化していく中で、自分のリソースをどこに投下するか。その配分こそが重要なのです。『どちらでもよいこと』をどれだけやめられるか。突き詰めれば、やめることを決めるのが経営者の仕事です」(澤氏)
田中は昨年公共交通機関での移動をやめ、車移動に切り替えたという。車の中をミーティングや資料作成といった業務時間に割り当てるためだ。
「ドライバーサービスの契約は出費になりますが、これは費用ではなく投資だと考えました。時間が得られれば、その時間を他のことに配分できる。もはや時間以外に配分するものはないと考えています」(田中)
1日24時間、1年365日、そして人生は1人あたり1回だけ。その限られた時間の割り当てをどうするかが、すべての意思決定の基盤になる。

チャレンジが評価される「個」の時代が到来する
ディスカッションの終盤、組織レベルでの変革はどのように実現できるか?と田中が問いかけると、澤氏はWebの進化の歴史を振り返りつつ「今後は究極の個別最適化に向かう」と口を開いた。
Web1.0は通信とPCの時代。Web2.0は巨大プラットフォーマーが様々なサービスを提供し、そのプラットフォームを皆が利用する時代。そして、現在訪れたWeb3.0は「個」の時代。
経営とは、組織を「個」のレベルまで分解し、その個がいかに快適につながっていけるかを考えていくことだ。属性や勤続年数でセグメンテーションしてマネジメントするという時代は終焉を迎えている。澤氏はUniposの事業を「個の時代が訪れることを先読みしていた」と高く評価する。
「人は人から認められた時に喜びます。それをサービスにしているということは素晴らしい。承認は人間にとって最もやりがいになることです。個が活躍する邪魔をどれだけ取り除けるか。それが、これからの組織に求められることです」(澤氏)
澤氏は、失敗を恐れずにチャレンジすることの重要性を強調する。個人のレベルで失敗したところで、世界は何も変わらない。小さな企業であれば経営にダメージを与えることはあるかもしれないが、失敗から学びまた挑戦すればいい。そうしたマインドが必要なのである。
「チャレンジした結果の失敗経験は、転職市場において宝物になります。その人のチャレンジが受け入れられる会社を探せば、その人が飛躍的に成長する可能性が見えてきます。少し上を目指す、あるいは斜め上の部分に挑戦してみる。そのくらいの欲を持って取り組むことが重要です」(澤氏)
全く失敗がないということは、チャレンジを全くしていないということ。そんな人材は、どんな環境でも大きな活躍は期待できないと評価されてしまう。そう力強く語り、澤氏は来場者にエールを送った。
「まずは世の中を面白くするための主役になること。他人事にしないことが絶対に大事です。やるのは皆さん、ここにいる一人ひとりです。これからは個の時代ですから」(澤氏)
スキルが教養へと変容し、知識が一夜にして陳腐化する時代。しかし、それは決してネガティブなことではない。AI時代に求められるのは、会社の肩書きやポジションを抜きにして、自分自身が何をしたいのか、どういう時に幸福を感じるのかを問い続けること。そして、その意思を持って行動し続けることなのかもしれない。
※記載されている情報はインタビュー当時のものです。
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