AIがあれば新卒はいらない? 下積み仕事が効率化されたAI時代の若手育成
2026.09.01
資料作成、リサーチ、日程調整。これまで新卒社員がOJTを通して経験し、仕事の基礎を身につける機会になっていた業務が、AIエージェントに置き換わり始めている。効率化が進む一方で、若手が実務を通じて学ぶ経験の質も変わりつつある。
では、AIが下積み仕事を引き受ける時代に、新卒社員は何を通じて成長すればいいのか。企業は、若手の育成や人材配置をどう見直すべきなのか。若手ビジネスパーソンのキャリア支援に詳しいキープレイヤーズ代表の高野秀敏氏に、AI時代の新人育成について聞いた。
Profile

高野 秀敏 氏
株式会社キープレイヤーズ 代表取締役
東北大学 特任教授(客員)、文部科学省 アントレプレナーシップ推進大使、適格機関投資家、REALVALUE MAFIAメンバー。 東北大学経済学部卒業後、新卒で株式会社インテリジェンスへ入社。その後、株式会社キープレイヤーズを設立し、人材エージェントとして国内・シリコンバレー・バングラデシュにおいて、80社以上の社外役員就任、アドバイザー支援、エンジェル投資を実行。これまで1万2,000名以上のキャリア面談および面談対策を行い、マネージャーとしてキャリアコンサルタントチームの運営・教育を担ってきた。採用支援の現場では4,000人以上の経営者と面談を実施。LinkedIn Top Voices Japan 2025 第2位に選出され、著書『ベンチャーの作法』(ダイヤモンド社)は5万部を超えるベストセラーに。投資先のうち10社が上場を達成している。
下積み仕事が減る時代、人材育成はどう変わるのか
――AIエージェントの普及で、新入社員が任されてきた仕事にはどのような変化が生まれていますか。
ジュニアレベルの仕事は、AIに置き換わりやすくなっています。たとえば、議事録の作成やリサーチ、日程調整、ミーティングの依頼出しなど、従来は新人が先輩の隣について覚えてきた秘書や事務のような作業です。
こうした業務は、AIのほうが速く、正確にできる場面が増えているため、人が担う必要性は低くなっているのではないでしょうか。一方で、営業のように人とのやりとりが軸になる仕事や、決まった手順のない仕事はAIが普及しても残ります。新人が担う仕事がすぐに全面的に置き換わるわけではありません。
そもそも日本は人手不足が深刻です。AIによって業務の一部は代替されても、人材そのものが不要になるとは考えにくい。むしろ、人が担う仕事の中身が変わると捉えたほうがいいと思います。
例えば、営業でいえば、提案書づくりはAIを使うことで多くの人が得意になりました。ただ、競合も同じようにAIを使えるので、それだけで優位に立てるわけではありません。最終的に顧客と向き合い、課題を聞き出し、合意形成し、クロージングするところは、人間の仕事として残ります。
AIを使ったインサイドセールスのサービスもありますが、それだけで営業活動のすべてが完結するなら、すでに多くの会社が発注しているはずです。そうなっていないこと自体が、人が担う領域が残っている証拠だと思います。
――ジュニアレベルの仕事の一部がAIに置き換わることは、若手の成長にとってマイナスなのでしょうか。
私は、必ずしもマイナスではないと考えています。新人が議事録や日程調整などの下積み仕事を任されてきたのは、その仕事を経験すること自体が目的ではありません。むしろ、その経験を通して知識を身につけ、早く本業に向き合えるようになることが大事だったのではないでしょうか。AIに任せられる作業が増えれば、若手はより早い段階で先輩と同じ業務を担えるようになる。たとえば営業なら、顧客の課題を捉えたり、提案の方向性を考えたりする経験を積みやすくなります。
AIの普及は今後も加速していくため、下積み仕事が減ること自体を惜しんでも仕方がありません。それより、AIを使いこなして早く本業に向き合える人材を増やしていくのが、企業の人材戦略の鍵となります。優秀な若手社員は、下積み仕事をこなさずとも、AIを使いこなすことで成果を伸ばしていくでしょう。
ただし、現状の多くの企業では課題もあります。AIに任せたほうが速く、正確に進められる仕事でも、新人が配属されていれば、上司はその人に仕事を振ろうとします。人がいるから、人に頼む。そうした前提のままでは、AIを十分に活かしきることはできません。
AIを前提に組織を作るのであれば、単にツールを導入するだけでは不十分です。どの業務をAIに任せ、どの業務を人が担うのか。その役割分担に合わせて、人材配置や業務設計そのものを見直す必要があります。

――そうなると、企業は新卒採用そのものを絞るべきだ、という議論も出てきそうです。
短期的には、新人を採用するより、経験のある人がAIを使って業務を回したほうが効率的に見えるでしょう。だからといって、安易に新卒採用を絞るのは危険だというのが私の持論です。
実際に中長期で成長している企業では、新卒で入社した人材が、時間をかけて幹部候補として育っているケースが少なくありません。業務の一部をAIで効率化できたとしても、会社の文化や価値観を理解し、将来の中核を担う人材は、短期間で育つものではないからです。
短期的な効率だけを見て新卒採用を絞りすぎると、数年後、組織を支える中堅層や次世代の幹部候補が育たないという問題に直面する可能性があります。だからこそ、新卒採用は単なる人手の確保ではなく、将来の組織を作るための投資として考える必要があるのです。
「AIにうまく聞く力」の次に問われるもの
――新卒採用の役割は残る一方で、若手が成長する環境は大きく変わります。AIを前提に仕事を進める時代には、新入社員にどのような力が求められるのでしょうか。
先ほど「AIを使いこなす人が成果を伸ばす」と言いました。今はAIに「何を聞くのか」という問いを立てる力によって、差がつく時代です。しかし、この状況はAIの進化によって変わりつつあります。
すでに今でも、「この仕事を成功させたい。どうすればいいか」と投げれば、AIのほうから確認事項や選択肢を返してくれることがあります。今後は、問いを立てること自体もさらにAIが補うようになるでしょう。そうなると、「AIにうまく聞く力」だけで差がつく時代は、長くは続かないかもしれません。
そこで、これからより重要になるのは、「何を実現したいのか」という意思です。AIがどれだけ的確に答えを返してくれても、向かう先が曖昧なままでは、仕事は前に進みません。上司から任された仕事であっても、目的や期待値が曖昧なままだと、AIに何を頼めばいいのかも決まりません。資料作成であれば、「誰に向けた資料なのか」「どこまでの精度が必要なのか」「最終的に何を判断したいのか」を確認しておく必要があります。そこをすり合わせないままAIを使っても、成果にはつながりにくいでしょう。
これは若手個人だけの問題ではありません。組織全体に、「会社として何を目指すのか」「どのような価値を優先するのか」が共有されていなければ、社員は判断の軸を持てません。
――では、企業にはどのような取り組みが必要でしょうか。
AIを前提とした働き方が進むほど、ゴールやパーパス、判断基準を社内に浸透させることが重要になります。
AIによって、一人の社員がチーム規模の仕事をこなすことも可能になっていますが、進むべき方向が曖昧なままでは、その能力を持て余してしまうでしょう。また、いくら高速でも組織にとって誤った方向へ進んでしまっては意味がありません。
社員一人ひとりが目指すべき方向を深く理解してこそ、AIを活用した成果創出が組織の前進につながります。今、企業の人材育成において注力すべきは個人のスキルアップ研修ではなく、パーパスやビジョンの浸透だと考えます。

――現場のマネジメントはどう変わりますか。
AIで資料作成のスピードが上がった分、部下から上がってくる資料の量も増えています。複雑な提案や、相手に合わせた調整が必要な資料では、AIで作ったたたき台を仕事で通用する質まで整えなければなりません。論点の抜け漏れがないか、相手の課題に合っているか、表現や構成が適切かを見ることは、これまでと同じく上司の役割です。
一方で、その確認作業にもAIを使う動きが出ています。誤字脱字、論理の飛び、情報の抜け漏れ、表現のわかりにくさなどは、AIでもある程度チェックできます。上司はAIの指摘も参考にしながら、どこを直すべきか、何を補うべきかを判断して返す。そうすることで、確認やフィードバックにかかる時間を抑えやすくなります。
最終的にその資料で何を伝えるのか、相手にどう受け止めてほしいのか、どの方向に議論を進めるのかを決めるのは人です。AIは修正点を挙げることはできても、仕事の目的や相手との関係性を踏まえた方向づけまでは担いきれません。
成長の基本は、成果に向き合うこと
――これからの企業は若手育成のためにどういった環境を用意すればよいでしょうか。
企業や人事が考えるべきなのは、AIで作業を効率化しながら、若手が判断する経験をどう残すかです。AIを使えば、資料作成や情報整理のスピードは上がります。ただ、その分、何を採用し、何を直し、どこまで仕上げるかを本人が考える機会は減りかねません。
だからこそ、AIに任せる仕事と、若手に経験させる仕事を分けて考える必要があります。失敗できない仕事は、上司が細かく確認する。ある程度試せる仕事なら、AIを使わせながら本人に任せてみる。その過程で、AIの出力をどう判断し、どこを直せば実務で使える水準になるのかを身につけられます。
AIで作業が速くなっても、育成が不要になるわけではありません。むしろ、若手が試し、判断し、フィードバックを受ける機会をどう設計できるかで、若手の育ち方は変わります。

――AI時代に力をつけたい若手社員に向けてアドバイスをお願いします。
ビジネスの地力を鍛えるには、結果を出すことがすべてです。AI時代だからといって、特別なスキルアップ方法があるわけではありません。仕事のゴールに向かって成果を出すという基本は同じです。
ただし、そのゴールは、最初から明確に示されるとは限りません。与えられた仕事をただこなすのではなく、「何をゴールとするのか」を捉え、そこに向かってやり切ることが大切です。
AIがどんなに進化しても、すべての仕事を最後まで巻き取ってくれるわけではありません。資料を作る、情報を整理する、選択肢を出すといったことは、AIがかなり担えるようになっています。しかし、相手を説得する、人を巻き込んで物事を前に進めるといった部分は、やはり人が担う必要があります。
そのため、AIを使いこなせるかどうか以上に、何を目指し、どこまでやり切れるかで差がつきます。これからの若手は、これまで以上にゴールや目的を意識して業務に向き合うことで、自身の成長を加速できるのではないでしょうか。
※記載されている情報はインタビュー当時のものです。
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