ねぎらいたいのにできない。その環境を変えていくには?

「ねぎらいは大切だ」と思っている。それなのに、職場では思うように伝えられない——。
Uniposが実施した調査では、約4割のマネージャーが「ねぎらいたいと思ったものの、実際には行動に移せなかった」と回答した。必要性は理解している。それでも、実践できない背景には何があるのだろうか。MIMIGURI代表の安斎勇樹氏に、現代の職場でねぎらいが難しくなった理由や、ねぎらいが人や組織に果たす役割、そして自然に生まれる組織づくりについて話を聞いた。

Profile

安斎 勇樹 氏

株式会社MIMIGURI 代表取締役Co-CEO
東京大学大学院 情報学環 客員研究員

1985年生まれ。東京都出身。東京大学工学部卒業、東京大学大学院学際情報学府博士課程修了。博士(学際情報学)。人の創造性を活かした新しい組織・キャリア論について探究している。主な著書に『静かな時間の使い方』『冒険する組織のつくりかた』『問いのデザイン』『新 問いかけの作法』などがある。Voicy『安斎勇樹の冒険のヒント』放送中。

ねぎらうことが必要だけどできていない。それは、見方を変えると希望とも言える

—Uniposの「ねぎらい」に関する調査結果をご覧になって、率直にどのような印象を持たれましたか。

率直に言うと、とても面白い調査結果だと思いました。「ねぎらいが足りていない」「職場で人間らしいコミュニケーションが希薄になっている」という結果は、現代の職場を考えると、ある程度予想はできました。 一方で印象的だったのは、「ねぎらいは必要ない」と考えているマネージャーが多かったわけではないことです。むしろ、「必要だと思っているのにできていない」という部分には希望を感じましたね。組織が変わるときは、「こうありたい」という理想から逆算するよりも、「本当はやりたいのにできない」という矛盾や、もったいなさが出発点になることがあります。つまり、「ねぎらいたい」という思いが、すでに組織の中に存在している。そのポテンシャルが見えたことは、前向きに受け止めていいのかもしれません。

—今回の調査では、「部下をねぎらいたいと思ったものの、実際に行わなかった」と回答した人が約4割にのぼりました。この結果を、組織やコミュニケーションの観点からはどのように受け止められますか。

必要性を感じていながら、実際にはねぎらえなかった人が約4割いるということは、単に「ねぎらう意識が足りない」という話ではないと思います。調査では、「タイミングが合わなかった」「忙しくて伝える余裕がなかった」といった理由が多く挙がっていました。

一方で、30代男性では「恥ずかしさや照れくささ」、40代女性では「上から目線に受け取られそう」という不安が、全体よりも目立っています。つまり、多くのマネージャーは「ねぎらいたくない」のではなく、「ねぎらいたいのにできない」状態にあると捉えられます。忙しさの中でタイミングを逃してしまったり、どう受け止められるかを考えすぎてしまったりして、結果として言葉にできない。そこには、現代の職場ならではの難しさもあると思います。以前よりもコミュニケーションへの配慮が求められるようになり、ねぎらいたい気持ちはあっても適切な言葉や伝え方が分からず、結果として何も言えなくなってしまうこともあると思います。

さらに、その背景には、管理職を取り巻く環境の変化もあると思います。管理職に求められる役割が以前より広がる中で、ねぎらいが後回しになってしまうことも十分にあり得ます。だからこそ、「ねぎらえない人が悪い」と個人の問題にするのではなく、「ねぎらいが生まれにくい構造」を見つめ直すことが大切なのだと思いますね。

—リモートワークやSlackなど、テキストコミュニケーションが増えたことも影響しているのでしょうか。

影響は大きいと思います。そもそも、ねぎらいは成果に対する評価ではありません。出来上がったレポートを評価するのではなく、「遅くまで頑張っていたね」「ここまで試行錯誤していたんだね」という、その人の「プロセス」に対するケアなんです。だから、本来は普段から相手の仕事ぶりを見ている人ほど、自然にねぎらいやすいと思います。
ところがリモートワークでは、提出された成果物は見えても、その裏側にある葛藤や試行錯誤、迷いや工夫は見えづらくなります。つまり、プロセスがブラックボックス化してしまう。観測できないものは、ねぎらえません。「何と言えばいいか分からない」という感覚は、言葉の問題というより、過程を十分に見ることができていないことから生まれているのだと思います。

「ねぎらって欲しい」は承認欲求ではない

—今回の調査では、「ねぎらい不足を理由に転職を考えたことがある」という人が39.6%にのぼりました。この結果はどのように受け止められましたか。

この数字には、私自身、かなり納得感がありました。ただ、これは単に「褒められたい」「認められたい」という承認欲求の話ではないと思っています。ねぎらいって、本質的なことを言えば外から評価されることではなく、自分と直接関係が深い上司や同僚が、「ちゃんと見ていたよ」と伝えてくれることだと思います。先ほど、成果ではなくプロセスをねぎらうという話をしましたが、重要なのはその人が費やしてきた時間や試行錯誤に目を向けることです。だから、ねぎらわれないことへの寂しさは、「もっと褒めてほしい」という気持ちとは少し違います。もっと根源的な、「自分はここにいていいんだろうか」という、存在そのものへの不安につながっていく。私は、それを「存在論的な不安」だと捉えています。

—「存在論的な不安」というのは、どういうことでしょうか。

人は誰でも、「自分はここにいていいのか」という不安をどこかで抱えながら生きています。仕事も同じです。現代の仕事は分業化が進んでいて、自分がやっている仕事が最終的に誰の役に立っているのか、実感しにくくなっています。

例えば、会社としては「世界一のピザをつくる」という立派な理念を掲げていても、働く本人にとっては、「自分は毎日ベーコンを切っているだけ」と感じることがあります。そこで「この会社のピザはおいしいね」と言われても、会社への誇らしさは生まれるかもしれませんが、自分の仕事そのものを肯定された感覚にはつながりにくい。それよりも、「今日もたくさんベーコンを切っていたね。お疲れさま」と、その人が具体的に担った仕事を見てもらえることのほうが、「自分はここにいていい」という感覚につながるのだと思います。

マルクスは「労働の疎外」と表現しましたが、自分の仕事との距離が遠くなるほど、「自分は意味のある仕事をしているんだろうか?」という感覚になってしまう。そんなときに、ねぎらいをもらえることは、とても大きな意味があります。それは成果への評価ではなく、「あなたの時間や努力をちゃんと見ていました」というメッセージだからです。だから、ねぎらいは「ここにいていい」という安心感を支える、とても人間的なコミュニケーションなんだと思います。

私の著書『冒険する組織のつくりかた』でも書いていますが、これまでの組織やマネジメントは、軍隊や戦略といった「戦争のメタファー」の上に築かれてきた側面があります。そうした世界観では、人はどうしても歯車やネジのように扱われやすくなります。だからこそ、成果や効率だけでなく、人として相手を気遣ったり、ケアしたりする「ねぎらい」のようなコミュニケーションを、意識的に取り戻していく必要があるのだと思います。

—若い世代には、「ねぎらわれていないから、自分が役に立っているのか分からない」と感じる人も少なくありません。この傾向についてはどうお考えですか。

あまり世代論では語りたくありませんが、私自身、小学生の娘と話していても、今の子どもたちは「言葉」にとても敏感だと感じます。言った本人にはそんなつもりがなくても、少し表現が違うだけで、「怒られた」「否定された」と受け止めてしまうことがあります。これはSNSやテキストコミュニケーションが当たり前になったこととも関係していると思いますね。昔よりも、「言葉として見えるもの」に対する信頼度が高くなっている。

一方で、上の世代は「言わなくても伝わるでしょう」と考えがちです。ここにはギャップがあります。だから若手には、「マネージャーは何も感じていない」のではなく、「伝えたいけれど伝えられていない人も多い」ということを知ってほしい。同時に、マネージャー側も、「言わないと伝わらない」という前提でコミュニケーションを取る必要があります。お互いが少しずつ歩み寄ることが大切なんだと思います。

—ねぎらいが相手に届くためには、どのような関係性が必要なのでしょうか。

まず、ねぎらいはテクニックではありません。一番大切なのは、相手をちゃんと見ていること。相手を観察して、「最近忙しそうだな」「ここで悩んでいたな」「この仕事、時間をかけていたな」という事実があるからこそ、「お疲れさま」という言葉の意味が深まる。逆に、そのプロセスを見ていなければ、どんな立派な言葉をかけても表面的になってしまいます。だから相手を観察することは非常に重要な要因です。

—アンケートでは、30代男性は「恥ずかしさや照れくささを感じたため」という理由が全体より10pt以上高いという結果もありました。そうした葛藤を乗り越えるには、何が必要でしょうか。

一つは「完璧に言おう」と思わないことです。直接言葉にしなくても、ねぎらいは成立すると思います。

チャットツールのスタンプでもいい。ちょっとしたリアクション一つでもいい。間接的な表現でも、「見ているよ」ということは伝わります。ちなみにMIMIGURIも、スタンプ文化はかなり活発で、ねぎらいに関するスタンプは膨大にありますね。わざわざ言葉にしなくても、スタンプやリアクションを返すことで、「見ているよ」「いいね」「お疲れさま」といった気持ちを日常的に伝えています。ねぎらいは、必ずしも長い言葉で表現する必要はないんです。

もう一つは、日常とは違う「ハレの場」を有効活用することです。例えばワークショップや全社会議のような場では、普段は照れくさくて言えないことも、不思議と言葉にしやすくなります。「文化祭理論」と呼んでいるんですが、例えば文化祭の準備をしているときに、普段話さない友だちと話して仲良くなったり、関係性が変わるっていうことってあるじゃないですか。そういう非日常の場は、関係性を少しだけ更新してくれる。だから、「ねぎらいを言える人になる」のではなく、「ねぎらいを言いやすい場や機会をつくる」という発想も、とても大事だと思っています。

ねぎらうためには「問い方」に工夫する

—先ほどスタンプ文化のお話もありましたが、安斎さんが代表を務めるMIMIGURIでは、「ねぎらい」が自然に生まれるような取り組みはありますか。

私たちはフルリモートだからこそ、プロセスが見えやすい仕組みを意識的につくっています。例えば、社内には放送局のような仕組みがあって、ランチタイムにさまざまな番組を配信しています。その一つが「バックステージ」という社内ポッドキャストです。プロジェクトの成果ではなく、「完成までに何があったのか」「どんな試行錯誤があったのか」という裏側にスポットライトを当てています。ねぎらいは、「頑張って言おう」と意識するよりも、相手のことを知る機会を増やすことで、ずっと自然なコミュニケーションになっていくのだと思います。

—管理職が実践しやすくするための工夫はありますか。

「褒め方」ではなく、「質問の仕方」を学ぶことが大切だと思いますね。

自著『新 問いかけの作法』でも問いかけの重要性に触れていますが、例えば「最近どう?」という質問だと広すぎて、相手も答えに困ります。それよりも、「今やっているA・B・Cの仕事だったら、どれが一番大変だった?」というように選択肢を絞る。すると相手はプロセスを話しやすくなります。その話を聞いた上で、「そうだったんですね。お疲れさまでした。」と返すだけで、十分にねぎらいになると思います。ねぎらいは特別な言葉ではなく、相手の話を聞き、その時間や苦労を受け止めることができれば、それだけで成立するコミュニケーションではないでしょうか。

ただ、マネージャー自身がねぎらわれていないという実情もあります。今の管理職は、上からは成果を求められ、下からはケアを求められ、横との調整もしなければならない。罰ゲーム的な言われ方をすることもありますが、それくらい負荷が高い役割になっています。

—マネージャーが周囲をねぎらえる状態をつくるためには、どんなことが必要なのでしょうか。

まずは、マネージャー自身が自分をケアできることも大切ですね。評価や規範、役割に反応し続けていると、自分が本当は何を大切にしているのかが見えにくくなります。

著書『静かな時間の使い方』では、そうした外側のノイズからいったん離れ、自分の根底にある価値観を見つめ直す時間の大切さについて書きました。マネージャー自身が、自分をただ評価される対象として扱うのではなく、まず自分をケアすることも必要なのだと思います。
また、マネージャー同士が悩みを共有したり、お互いをねぎらったりする場が意外と少ないんです。だから私は、管理職研修も「教える場」ではなく、「話せる場」にしたほうがいいと思っています。

マネージャー自身が葛藤や迷いを言葉にできるようになると、部下との関係も少しずつ変わっていきます。ねぎらいは、一方向では続きません。マネージャーだけが与える側でいるのではなく、お互いに支え合える関係性があって初めて、文化として根づいていくのだと思います。

—最後に、読者である経営者・人事・管理職の皆さんへメッセージをお願いします。

評価制度や報酬制度を整えることはもちろん大切です。でも、それだけでは「この会社で働き続けたい」という気持ちは育ちません。人は、成果だけではなく、「自分の存在を誰かが見ていてくれた」と感じられることで安心できます。だから、ねぎらいは特別なことではなくていいんです。「最近忙しそうだったね。」「昨日遅くまでやっていたよね。」「ありがとう。お疲れさま。」そんな一言で十分です。普段何気なく交わしている「お疲れさま」が、帰り際の挨拶として形骸化してしまっていないか。一度立ち止まって、その言葉が本来持っていた意味を思い出してみる。そこから、職場のコミュニケーションは少しずつ変わり始めるのではないでしょうか。

※記載されている情報はインタビュー当時のものです。

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