褒められることを「圧」と感じる? 若者との世代間ギャップを埋めるための心構え

昨今、多くの企業で取り入れられている1on1。マネジメント層は部下の主体性向上やエンゲージメント向上などに期待を寄せるが、成果を上げている企業はごく僅かだ。なかには、上司に相談しないまま、突然退職する若者も少なくないという。こうした世代間コミュニケーションの課題と向き合い、若手社員の本音を聞きだすにはどうすればいいのか。『静かに退職する若者たち 部下との1on1の前に知っておいてほしいこと』の著者・金間大介氏に、解決のためのヒントを伺った。

Profile

金間大介 氏

金沢大学融合研究域融合科学系教授

横浜国立大学大学院工学研究科物理情報工学専攻(博士)、バージニア工科大学大学院、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)、文部科学省科学技術・学術政策研究所、北海道情報大学准教授、 東京農業大学准教授、金沢大学人間社会研究域経済学経営学系准教授、2021年より現職。主な著書に『静かに退職する若者たち 部下との1on1の前に知っておいてほしいこと』(PHP研究所)や『先生、どうか皆の前でほめないで下さい いい子症候群の若者たち』(東洋経済新報社)などがある。

 

大人向け「テンプレ」で本音を隠す、若者たち

──『静かに退職する若者たち 部下との1on1の前に知っておいてほしいこと』では上司と若手社員のコミュニケーションのズレについて論じられていました。現状、1on1を取り入れている企業はどのような課題と直面しているのでしょうか? 

よく聞こえてくるのは「新入社員と意思疎通できているつもりだったのに、なんの予兆もなく突然辞めてしまった」というネガティブな声です。1on1を実施した翌週に退職代行サービスから連絡が届いた、というケースも少なくないありません。実際のところ、私が101人に実施した「101ヒアリング」では、約7割の人事担当者が「今までに思いもよらない若手の退職があった」と回答しています。

1on1は企業のみならず行政機関や医療機関、大学の現場などでも取り入れられています。若者の主体性を伸ばしたり、エンゲージメントを高めたりすることを目的に導入されていますが、実際、成果を上げている企業はごくわずかではないでしょうか。

──なぜ上司世代と若者との間ですれ違いが起こるのでしょうか?

若者たちが「本音」を包み隠していることが大きな理由として挙げられます。周囲からは一見「まじめでいい子」に映ります。しかし、それは場の空気を読んで「テンプレート」や立ち振る舞いを見せているだけに過ぎません。

ちょっと強い表現でいうと、対大人向けの小さな演技を積み重ねているようなものなんです。「いや、そんなことはない。若手社員からは毎回気持ちのいい返事が返ってくる」と手ごたえを感じている上司の方もいるもしれません。けれども、「その言葉を鵜呑みにしても大丈夫ですか?」と、疑問に感じることは少なくありません。

現在の若者は協調性はあるのですが、仕事に対してはどこか消極的で、会議で意見を提案することもなければ、業務で主体性を発揮することもありません。与えられた仕事はそつなくこなすものの、必要以上の頑張りは見せません。上司からすれば、とらえどころのない人材に思えるはずです。

私はこうしたZ世代によく見られる特性を「いい子症候群」と定義しました。「いい子症候群」の若者はとにかく目立つことを嫌がります。人前で褒められることさえも「圧」だと考えているのです。

若者は「100人のうちの1人」になりたい

──「いい子症候群」の若者は、なぜ目立つことを嫌がるのでしょうか。

自信のなさの表れだと考えています。「いい子症候群」の若者は自己肯定感が低く、自分で物事を決めて、行動に移すことを苦手としています。自身の意思決定に他者が巻きこまれることを考えると、プレッシャーが増大し、強いストレスを感じるのです。

その背景には「組織にいいように使われたくない」という心理が働いている可能性が考えられます。終身雇用制度が崩壊していることを刷り込まれてきた世代ですし、頑張った分だけインセンティブが得られる時代でもない。にもかかわらず、組織は若手社員によるイノベーションや変革を求めがちです。

ここで両者の考えに齟齬が生まれます。「いい子症候群」の若者に「君のチャレンジ精神に期待しているよ」なんて言おうものなら、即アウトです。

大学のゼミ生を見ていると、現在の若者が「平均」や「平均よりやや上」くらいのポジションを重視していることがよくわかります。彼らは暇さえあればスマートフォンでショート動画を観ていたりする。聞けば、筋トレやスキンケアといった同世代に人気のある分野の情報をチェックしているというのです。これは「平均」からこぼれ落ちることへの恐怖心が彼らを突き動かしていることの一例でしょう。

──目立ちたくはないけれど、大学の友人や職場の同期と差が付くのは受け入れがたい。どこか矛盾しているようにも思えますが、こうした特性を把握せずに1on1を重ねていると、やがて冒頭にあるような“静かな退職”を引き起こす、と。

仰るとおりです。ただ、私は若者たちの「いい子症候群」を問題視しているわけではありません。上司世代にとっては不可解な行動に映るかもしれませんが、円滑にコミュニケーションをとるため、組織で自分の居場所をつくるための生存戦略なのです。

上司みずから“武装解除”して、1on1に臨む

──そうした若者の特性を踏まえたうえで、1on1で本音を聞きだすコツを教えてください。

「まずは上司が武装解除すること」が重要です。具体的にいうと、上司自ら腹を割って若手社員と接してください。言葉にすると簡単ですが、これが意外と難しい。なぜなら、1on1の場に立つと無意識のうちに「上司モード」に切り替わってしまうからです。自分が「上司モード」であると察知されてしまったら若者も「対上司モード」のスイッチが入る。そうなってしまっては、本音を聞き出すことは出来ません。

──お互いが壁をつくらないように、まずは上司がさらけ出す必要があると。

おっしゃる通りです。ただ、急に「上司モード」を解除せよと言われて戸惑ってしまう方は少なくないでしょう。なかには、長年に渡り「上司モード」を貫いてきた結果、自分の本音をさらけ出すことに恐怖心を持っている方もいらっしゃるかもしれません。そうした場合、1on1というクローズドな場を利用して、若手社員に「自分の弱さを見せられないこと」を打ち明けることがおすすめです

──部下や後輩に弱みを見せるのは、勇気がいりそうですね。

40代以上の方々は強い抵抗感を抱くと思います。人知れず努力する姿がかっこいいものだと信じてきた世代ですからね。しかし、若者世代は、弱みを見せる上司には親近感を抱く傾向にあります。むしろ強く、ストイックであり続けようとする姿勢に疑問を覚えるようです。

例えば、1on1で上司が次のような心情を吐露したとしましょう。「若いときにもっと挑戦しておけばよかったと後悔している。だから、今から新しいことにチャレンジしようと思っている」。さて、この上司の告白をあなたはどう思うでしょうか。

上司世代の方々にとってはちょっとかっこ悪い印象を受けるかもしれません。ところが、若者はそうは思いません。こうしたモデルーケースを例に挙げて若者世代にアンケートをとったところ、「実績があるのに、1から学び直すなんてすごい!」と好感触でした。

こうしたポジティブな反応が返ってきた理由としては、2つのことが考えられます。

1つ目はこのシチュエーションの主体が「上司」にあること。上司を中心に話が展開しているので、若者がプレッシャーを感じることはありません。

2つ目が若者の貢献意欲が働いたこと。誰かのために何かしたいけれど、何をすればいいかわからない。彼らの中にあるそうした貢献意欲が、上司の武装解除によって開放されたわけです。

上司がお膳立てさえしてくれれば、前向きな姿勢を見せてくれる人はいるのです。人事の面においても、貢献意欲を抱いた若者を見逃さないように注視するべきです。

若者と「向き合う」のではなく「寄り添う」ことが大切

──上司が若者世代とのコミュニケーションを円滑にするためのポイントはありますか?

組織や上司の考えを押しつけて、型にハメようとするのはやめてくださいいくら若者の行動が不可解でも、人の心理を変えようとする行為は傲慢です。そもそも人のキャラクターや性格は矯正できるものではありませんから。

「1on1を重ねても若者の臆病な特性は変わらない」という認識を持ち、彼らに伴走してあげることが大切なのです。真正面から向き合うと、若者が「圧」を感じてしまうので、「寄り添う」くらいのスタンスがちょうどいいでしょう。

また、日頃からこまめにフィードバックしておくことをおすすめします。その裏づけとして、一般社団法人日本能率協会による「2022年度 新入社員意識調査」のデータが参考になるでしょう。「部下が意欲や能力を高めるために上司や人事へ期待すること」という設問に対して、回答者の6割が「成長や力量に対する定期的なフィードバック」と回答。私の経験則とも合致します。

フィードバックを行う上で重要なのは、できるだけ具体的に伝えること若手社員は経験が浅いこともあり、自分の仕事に自信がもてないものです。自分の行動と結果の因果関係を常に知りたがっており、それが「2022年度 新入社員意識調査」のデータにも表れています。上司は、若手社員が「なにができていて」「なにができていない」のかを端的に伝えればOK。業務で積み重ねてきたことが明らかになれば、若手社員の不安も解消されるでしょう。

また、フィードバックの一環として、普段から若者を褒めてあげることも忘れないでください。例えば、会議のあとに会議机を整えている姿を見かけたら、人目の付かないところでさりげなく「ありがとう、助かったよ」と一言。この「さりげなく」というのがポイントで、「おだて」や「期待」などを含ませてはいけません過剰に期待を寄せることは、彼らにとってプレッシャーになってしまうからです。

さりげなく褒めてあげることで「この行いは間違っていなかった」と自信につながります。「会議机を整える」という行いがマニュアルに組みこまれ、次回からは率先して行動する可能性も高くなります。

世代間ギャップは地道な手段でしか埋まりません。上司世代はともに成長するつもりで、若手社員に寄り添ってあげてください。

 

※記載されている情報はインタビュー当時のものです。

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