【後編】加熱する人材争奪戦を勝ち抜くために必要なこと。人的資本時代の人事力
2024.10.25
企業経営における大きなトレンドとなった人的資本経営。各企業が導入に向けて模索しているなかで、人事のありようにも変化が訪れている。果たして、人事戦略に注力している企業にはどのようなカルチャーが根づいているのか。そして、その旗手となる人事担当者にはどのようなスキルやメンタリティなどが求められているのか。
今回は、内資系・外資系を問わずさまざまな企業の人事を担当してきた青田努氏へのインタビュー第二弾。「人的資本時代の人事力 採用力」と題して、組織力の強化に欠かせない「採用活動」について語っていただいた。

青田 努 氏
Cast a spell合同会社 代表
リクルートおよびリクルートメディアコミュニケーションズに通算10年在籍し「リクナビ」の学生向けプロモーション、求人広告の制作ディレクター、自社採用などを担当。その後、ドリコム、アマゾンジャパン、プライスウォーターハウスクーパースでの人事マネージャーを経験。2015年からは人事向けメディア「日本の人事部」にて、人事・人材業界向け講座、人事の交流会・勉強会組織などの運用に携わる。2017年にLINE入社。人材支援室副室長を務めたほか、マネジメント層の成長支援プロジェクトのリード、採用・タレントマネジメント関連のさまざまなプロジェクトを推進。LINE在籍中の2021年にCast a spellを設立。採用担当者勉強会「採用を体系的に学ぶ会」、大学生向けの講義を社会人向けにアレンジした「組織行動論おすそわけ勉強会」、3400人の匿名相談コミュニティ「人事のへや」などを運営。
組織図を人事戦略のロードマップとする
――人事戦略を考える際、最初に着手すべきことはありますか?
「X年後の組織図」をベースにディスカッションすることが重要です。組織図には、従業員の配置や各部門・部署の関係性、指揮命令系統などが具体的に記載されているほか、リーダーがあと何人くらい必要かなど分かりやすくなります。。もちろん、仮の組織図でかまいません。人事戦略というと抽象度の高い話になりますが、空中戦のふわっとした議論で終わらないようにするためには、あくまでも具体的に見据えることが大切です。

組織図をもとに全体像を把握することで、戦力が偏っている部門やうまく機能していない部署などが洗い出され、自社に欠けている要素が明確になります。未来の組織図を描くことにより今後必要になってくる機能が整理され、人事戦略における担当者の認識のズレも解消されやすくなっていきます。将来の組織像に対する認識を揃えるための施策はほかにも考えられますが、意思疎通を図るためのツールとしては組織図は最も身近で実用的です。
1年後、5年後、10年後……と、短期から長期にかけての事業計画が投影された組織図は、事業を進めていくうえでの土台となる「組織のロードマップ」となります。例えば、数年後の組織図に倣って「営業部門をこの状態にしていくためにはこの営業部をまとめるリーダーがあと〇人必要だ」とか「この人はあと2年もすればシニアマネージャー昇格が見込めそうだから、いまのうちに後継者を決めて育てておこう」「それまでに現状の離職率のままでは厳しいので育成とあわせてリテンション施策も強化しなくては」といった、組織力を強化するための対策が打てるようになります。もし、もちろん、環境変化は常にありますので、組織図の内容は定期的にアップデートしていく必要があります。

“採用に強い会社”に見られる共通点
――昨今は多くの企業が人材不足に悩まされています。青田さんにとって“採用が強い会社”と“採用が弱い会社”を分けるポイントはどこにあると思いますか?
まずはシンプルに「採用活動にどこまで重きを置いているのか」が、両者を分ける大きなポイントになります。言うまでもなく、“採用に強い会社”ほど採用活動の優先順位が高い。採用活動に注力している企業とそうでない企業とでは明確に「採用活動」に対する優先度に大きな差があるように感じます。
どの企業も自社にフィットする人材が欲しいことに変わりありません。しかし、そのわりに採用担当者を増員するわけでもなく、採用活動の予算を増やすわけでもない会社も多々あります。経営陣から「あとは人事のほうで上手くやっといて」と丸投げされている担当者も多く見てきました。
こうした非協力的な経営陣や現場は、採用活動への投資を「経費」だと捉えているきらいがあります。お金が出ていくので経費のように見えることは理解できますが、あくまでも採用にかかるお金や従業員の時間は「投資」です。必要な投資もしていないのに成果が得られるわけがありません。世の中には人材獲得に関するTIPsや小ワザがあふれていますが、そのようなテクニック論よりもまずは採用活動の優先順位を上げる、つまりお金と人(従業員の採用活動にかける時間)ことからはじめていただきたいです。

――“採用の弱い会社”は採用活動を根本から見直す必要があるわけですね。
大手企業ですら人材獲得に苦戦する時代です。ただ待っているだけの企業には、優秀な人材が訪れることはまずないでしょう。前編でも話しましたが、自社の現状をよく知る人事担当者が経営陣に進言し、採用活動に対する意識を変えていかなくてはなりません。「うちもなにか手を打たなくては勝てませんよ!」と、採用がうまくいっている企業の実例を引き合いに出して、相場感を理解してもらう必要があります。「前にも一度伝えたことがあるけど無理だった」ではありません。何度でも折に触れてしつこく言い続ける必要があります。
中には、採用戦略や改善策を考えるだけの時間がつくれないとお困りの人事担当者もいるでしょう。日々の業務に終われて、採用面接をルーティンのようにこなすだけで手一杯という状況というのは想像に難くありません。しかし、手を動かしている時間が多いほど、戦略や改善策を練る余裕がなってしまいます。
緊急度の高い業務に忙殺されて、重要度の高い業務が疎かになる、いわゆる「木こりのジレンマ」というやつです。これは採用活動の優先順位が低い言い訳にも使われやすいですね。

もちろん、緊急度の高い業務を疎かにしていいわけではありません。そのため、いつまで経っても忙殺されている状態が続くようでしたら採用チーム内に重要度の高い業務だけを担当する役割を設けてもいいでしょう。私自身のキャリアを振り返ってみても、そのような立場で採用活動に携わることもありました。チーム全体の生産性向上や成果向上のための分析などを担う役割で、面接やエージェントへの連絡などの日常的なオペレーションを持たず、改善活動を担う役割に徹することができる人がいると、改善スピードは圧倒的にはやくなります。
――あえて、手を動かさない参謀役を立てる。採用活動に注力してこなかった企業にとっては、大きな決断ですね。
簡単ではないですが、それで採用人数が増えるならば、決して損はありません。採用活動はとにかく「Do」が多いものですその大量の。Doを無駄にしないためにも、しっかりとプランを練ることが大事です。
面接には自社のエース人材をアサインする
――採用面接において、優秀な人材を獲得するための秘訣などはありますか?
面接官には極力エースをアサインしてください。なぜならば、優秀な人材は優秀な人材に惹かれるからです。自社のエースとひき合わせることで、候補者のモチベーションが上がり「このような人と一緒に働きたい!」という動機づけにつながるでしょう。このときに採用した人材がエースに成長すれば、次世代の人材を引きこむきっかけになります。そして、このときの人材が次の次の世代の人材を引きこんでいく。このサイクルを上手く繰り返すことができれば、社内の人材レベルは底上げされていくはずです。
「貴重な戦力は、フロント業務にまわしたい」という意見もごもっとも。しかし、人材が人材を呼ぶ好循環を生み出すためには、採用活動と現場のエースの連携は不可欠です。
――エントリーしてくる候補者が“ダイヤの原石”ばかりとは限りません。目立った能力や実績のない候補者を採用後に磨き上げるのも有りなのでしょうか?
採用と育成は、切っても切れない“両輪”の関係にあります。採用を頑張れば育成の負荷が減り、採用がうまくいかなければ育成の重要性が増してきます。。
シビアな言い方をすると、ルビーの原石は磨くことで「磨かれたルビー」にはなりますが、ダイヤには変わりません。だからこそ、ダイヤが欲しければ、採用の時点でダイヤの原石を獲得する必要があります。特に新卒・第二新卒であれば、採用面接とは候補者のポテンシャルを判定する重要な場となります。

人事担当者が覚悟を決めて、経営陣に歩み寄る
――組織力を強化するうえで、人事と経営陣の連携は欠かせません。とはいえ、両者間の距離が遠くなっている企業も少なくありません。その距離を縮め、連帯感を高めていく手立てはあるのでしょうか?
人事担当者側からお話しすると「経営陣がこちらに歩み寄ってくれないかな……」と思っているようでは、大きな進展は望めないと思います。「こちらの気持ちを察してほしい」は通用しないので、自ら経営陣に歩み寄る必要があります。そうでなければ、いつまでも距離は縮まりません。
ときには、思うような連携がとれずに苦戦することもあるでしょう。壁に直面したときに気をつけていただきたいのは、問題のポイントを見誤らないこと。上手くいかないと「うちの社長はああいう性格で話を聞かない人だから」という理由にしがちですが、もとを辿れば人事担当者個人が抱えているミクロな問題であるケースも少なくありません。前編でお話した、勇気が出せない人事担当者が最たる例です。人事担当者は覚悟を決めて、経営者がより良い意思決定ができるように議論していく必要があります。
人事界隈にはさまざまなトレンドや流行となる施策がありますが、それらに安易に飛びつく前に、あくまでも自社にとって重要な問題について経営陣と粘り強く対話していくこと。そのようなマインドを持って人事業務に向かい合うことで道は拓けていくでしょう。
※記載されている情報はインタビュー当時のものです。
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