「非ロジカル」が信頼と熱量を生む。100年企業の代表対談【木村石鹸×側島製罐】
2025.09.30
組織のレガシーをどのように引き継ぎ、企業を存続させていくことができるのか。 事業承継を実現した当事者の言葉から、そのリアルを探る連載企画。
今回は創業101年を迎える木村石鹸代表取締役の木村祥一郎氏と、創業119年の側島製罐代表取締役石川貴也氏がコミュニケーションの側面から事業承継ストーリーを語る。組織文化をつくる「言葉」とは?
Profile
木村 祥一郎 氏
木村石鹸工業株式会社 代表取締役
1972年生まれ。1995年大学時代の友人とITベンチャー企業を起ち上げ、商品開発やマーケティングなどを担当。2013年6月家業である木村石鹸工業株式会社へ入社。2016年9月、4代目社長に就任。石鹸を現代的にデザインした自社ブランド商品を展開しOEM中心の事業モデルから、自社ブランド事業への転換を図る。自律型組織を目指し、稟議書の廃止や「自己申告型給与制度」の導入、社員自らが組織づくりを行う「じぶんプロジェクト」等、様々な施策を通じて組織改革を行っている。
石川 貴也 氏
側島製罐株式会社 代表取締役
1986年名古屋市生まれ。慶應義塾大学を卒業後、新卒で日本政策金融公庫へ入庫。事業企画部などに在籍、内閣官房へも出向。約10年勤めたのち、先代である父親と事業承継にかかる念書を取り交わし、2020年に側島製罐へ入社。23年に同社代表取締役に就任。「社長」という肩書は無くし、社員が給与を自分で決める「自己申告型報酬制度」を導入するなど、自律分散型の組織づくりを通じた新しい時代の中小企業の在り方に挑戦している。
お互いを認め合う文化は「挨拶」から生まれる
——お二人は100年以上の歴史を持つ老舗企業を先代から受け継ぎ、代表を務められています。まずは事業内容をご紹介いただけますか?
木村:木村石鹸は大正13年創業の、今年で101年目を迎える会社です。石鹸やシャンプー台所用洗剤、衣料用洗剤といった家庭用洗剤や業務用の洗浄剤類を製造しています。元々僕は木村石鹸に入社する前はIT会社を経営していて、その後4代目として後を継ぎました。
石川:側島製罐(ソバジマセイカン)は1906年に創業し、一貫して缶を作ってきました。缶といっても種類は様々ですが、弊社が主に製造しているのはお菓子の缶ですね。私自身は6代目として2020年に入社し、2023年に代表に就任しました。
——石川さんは代表就任後に社員の方々と一緒にミッション、ビジョン、バリュー(以下、MVV)を定められたそうですね。どのような経緯があったのでしょうか?
石川:実は今回MVVを定めるにあたって、ある反省があったんです。僕が入社してまだ1年の時に会社のMVVをつくったのですが、これからの側島製罐はこの価値観でやっていくぞと意気込んで発表したら、完全にしらけてしまって。
僕は後継ぎとして事業承継することを前提に入社しました。115年の歴史の中でたった1年しか在籍しておらず、残りの114年間は当然僕がいない中で企業が存続してきたわけじゃないですか。なのに、急に現れた人間にそんなこと言われても、社内の人間に響かないのは当然ですよね。
代々会社を支えてきてくれた人たちがいて、そういう人たちの思いを一言にまとめるのが、経営理念やMVVのあるべき形だなと気づいたんです。長い歴史の中で培われてきたものを言語化してみんなで共有できる形にしていく。そのために、社員と一緒に作り上げたのが現在のMVVです。

——100年以上の歴史がある企業を変革することは簡単ではないですよね。
石川:おっしゃる通りです。ずっと会社を支えてきてくれた人たちがいて、そういう人たちの思いがある。それを無視することはできませんが、一方で変えていかなければならない部分もありました。
——変えていかなければならないところというのは?
石川:僕が入社した頃は社内の雰囲気が悪く、社員が出勤して来ても全く挨拶がなかったんですよ。退社時もタイムカードを押して、みんなが無言で帰っていくというような状態でした。まず、ここから変えていかなければならないなと思いましたね。
木村:それは大変でしたね。どのように変えていったんですか?
石川:挨拶、感謝、お詫びを言葉にするということを社内で徹底しました。社員に言うからには、まずは自分が変わらなきゃいけないと、僕自身、会話をする中で一言「ありがとう」を添えるということは、今もずっと意識しています。「おはよう」を昨日言ってくれなかった人が、今日言ってくれたのなら「挨拶を心掛けてくれてありがとう」と伝える。クレームが不良品の案件が発生した時も「教えてくれてありがとう」から会話を始める。そこからスタートして、大真面目にやり続けています。
木村:社員はミスをすると怒られたくない気持ちから報告に後ろ向きになってしまうものですよね。そこに感謝の気持ちで返すのは素晴らしいですね。
石川:大袈裟かもしれませんが、挨拶をして、相手から返事が返ってこないと自分の存在意義が認められていないように感じてしまうと思うんです。それが一番の問題ですよね。お互いが認め合うというのは、挨拶や感謝の言葉、お詫びのような当たり前の言葉に表れるのではないでしょうか。
挨拶や感謝を伝えるようになったことで社内の雰囲気も良くなりましたし、コミュニケーションをする上でのストレスも軽減されましたね。

ロジカルではない意思決定が生んだ信頼関係
——木村さんが代表に就任された時、社内はどのような雰囲気でしたか?
木村:これは弊社が自慢できる部分なのですが、お互いが助け合う文化というのは先代から育まれていたんです。新しい仕事や新しい取り組みを始めると、今やっている仕事とは別の業務を必ずやらないといけなくなるじゃないですか。そういう時でも必ず誰かが手を挙げてくれますし、誰かに頼まれても「これ私の仕事ですか?」って断るような人がいないんです。そういう姿勢の社員が揃っていたので僕はとても楽な経営者だと思います。
——なぜ協力的な社員さんが多いんですか?
木村:元々、僕が入社する直前まで、月1回「道徳の勉強会」が行われていたんです。商売やマーケティングの話ではなく、良い行いとは何か、利他の心とは何かをみんなで考えるという取り組みを20年間も続けていたんです。その蓄積もあり、助け合いの精神が大切だっていうメッセージが社内に浸透していたんです。
石川:素晴らしい取り組みですね。
木村:実は親父から僕が引き継ぐまでに別の方が経営者になったタイミングがあり、そういった価値観がないがしろにされたこともあったそうなんです。なので、僕が代表になってから、もう一度助け合う土壌を大切にしようと社員に伝えたんですね。
——そういった企業文化は制度を定めたからといって一朝一夕で育まれるものではないですよね。お父様はどのような方針で経営をされていたのでしょうか?
木村:僕はIT会社を経営してきましたし、経営に関する最新の理論を学んできたという自負があったんです。木村石鹸に入社した時は、職人が集まる町工場のようなものだと捉えていて、言葉を選ばずに言うと、経営らしい経営をしていないと思っていたんですよね。けれど、改めて親父の決断の仕方や社員との向き合い方を見た時に、自分は勘違いしていたと気付かされたんです。
石川:どんなことがあったのでしょう?
木村:ある時、弊社の取引先が道徳的によくないことをしてしまったんです。その時に親父が「この会社と付き合っていると、うちの徳が下がってしまう」と取引を辞めるよう社員にお願いしたんですよ。大口の取引先だったので社員は止めたんですけど、それでもやめて欲しいと譲らなくて。
その時に、親父は「向こう3年は厳しくなる。でも、3年以内に必ずその分の売上を立てられる。みんなやったらできる」って言い切ったんですよ。最後に「やり方は知らんけどな」と付け加えて(笑)
石川:売上への影響も少なくない中、そのように言い切れるのはすごいですね。
木村:社員を本当に信用していたんですよね。その後社員が頑張って、本当に3年以内に売上がアップしたんです。ロジックではなく、とにかく心の底から信じて、任せている。大きな信頼を与えられて社員も奮起したのでしょうね。
お互いを社員を成長させる任せ方とは?
石川:任せることは大事ですよね。私が経営者になって感じたのは自分だけが失敗できる立場にいるということでした。経営者は裁量が大きく、比較的自分の意思を通しやすいじゃないですか。その責任を引き受けるからこそ自分と向き合うし、失敗してももっと頑張ろうと思って成長していくことができる。
一方で、社員に「成長して欲しい」と言っているにも関わらず、成長する機会を与えられているのか?と考えたんです。やはり失敗しないことには本当の意味で学びも成長も得られないので、任せることを大切にしたいなと思っています。
弊社では新しい取り組みを始める時は必ずSlackで全社に対して目標と、それに対するリスクを説明してもらうようにしているんですね。それは社員全員が決裁者であるということなんです。当然、反対意見を言うこともOKですし、反対意見がなければ自由にやってもいい。経営者だけが決裁権を握る状況を変えていくために、このようなやり方をしています。
木村:よくわかります。担当者に任せて終わりではなく、コミュニケーションを取ることがすごく大事ですよね。
以前、ブランドを担っている社員が商品を改良したいって要望を出したことがあったんです。それを受けた商品開発チームはもちろん対応したのですが、要望の一部が反映されていなかったんですね。
その社員になぜ反映されなかったのかと確認したら、「わかりません。なぜか反映されなかったんです」と言うんですよ。細かく注文をつけたら嫌な顔されるかな?と思ったのかもしれませんが、結果として遠慮してしまい、自分の意思を伝えきれなかった。お互い思っていることに対しては、納得いくまでちゃんとコミュニケーションする。それを徹底するようには伝えていますね。
組織変革に近道はない
——組織変革に取り組んでいる経営者の方々も少なくありません。お二人がこれまで取り組んできた中で、意識されていたのはどのようなことでしょうか?
石川:シンプルな結論になってしまうかもしれませんが、ひたすら継続するということですね。組織を変えるのに、魔法はないんです。やっぱり、変化というのは大変なことであって、現在の環境を維持する方が楽じゃないですか。人は楽な方に流れてしまうものですから、そうならないよう、ひたすらブレずに言い続けるしかないと思います。
木村:口先だけでなく、本気で社員を信じて期待する。これは実際にやってみるととても難しいことで、僕も未だにできていないと思うことが多々あります。ですが、本気で信じて期待しなければ、社員も応えてくれることはありません。
言葉では信じていると伝えながら、全く反対のメッセージとなる規則やルールを設けていたら、社員はその矛盾に気づきますから。
石川:本当にその通りだと思います。組織を変えるには時間をかけて地道に積み重ねていくしかない。でも、その積み重ねが必ず組織を変えていく。それを信じて続けることが大事なのだと思います。
※記載されている情報はインタビュー当時のものです。
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