組織はなぜ崩壊し、再生したのか?6社の代表が語る事業承継ストーリー

労働人口の減少が深刻化する中、企業にとって人材の獲得・定着は生存戦略の要となっている。リクルートの調査によると、転職・就職を考える人の約6割が組織風土やカルチャーを重視し、7割が「条件面が希望と違っても、自分に合った組織風土の環境で働きたい」と回答。一方で、退職要因の約6割も企業風土・カルチャーが占める。つまり、魅力的な職場づくりこそが、これからの企業経営の核心なのだ。

2025年3月、Unipos株式会社主催の「カルチャー大変革討論会」が開催された。テーマは「大人手不足時代を生き抜く、事業承継企業のシン・生存戦略」。登壇したのは、厳しい経営環境の中でカルチャー変革を成し遂げた6社の代表だ。泥臭くもリアルなストーリーには組織変革のヒントが詰まっていた。

Profile

山下和洋 氏

株式会社ヤマシタ代表取締役社長

大西里枝 氏

大西常商店 代表取締役社長

嶌田洋一 氏

株式会社ベアレン醸造所 代表取締役社長

中村拓郎 氏

セーバー技研株式会社 代表取締役社長

脇本真之介 氏

ワキ製薬株式会社代表取締役社長

小田島春樹 氏

有限会社ゑびや代表取締役社長/株式会社EBILAB 代表取締役CEO

私たちは「風を届ける会社」。113年続く老舗企業が実行した事業ドメインの再定義

大西常商店の大西里枝社長は、京扇子という年間市場規模わずか10億円の業界で、伝統と革新のバランスを取りながら組織変革を実現した。大西社長が直面した最初の課題は、業界全体の高齢化。そこで、大西社長がまず行った変革は、事業ドメインの再定義だった。扇子という商品から「日本文化」へと軸足を移した。

「70歳代の方すらも若手と呼ばれる超高齢化が進んだ業界。需要も下がる中、手を打たねば先細りしていくことは間違いない。そこで、扇子に限らず、京都に来られる海外のお客様に対して文化事業を展開するようにピボットしました」

事業ドメインの再定義にあわせて、SNSを活用した採用戦略にも取り組んだ。扇子ではなく京都の文化に関する情報を広く発信したことでファンを獲得。その結果、日本文化を入り口に扇子に興味を持ち、扇子職人になりたいという求職者が出てきたという。

「私たちは扇子も含めた『文化』という風を作り、京都から発信していこうとしています。事業ドメインを捉え直したことで扇子に興味を持っていただける方を増やせたという点は、弊社だけでなく業界への貢献にもなったと自負しています

大西社長は事業承継において「何を継承し、何を変革するか」を重視したという。伝統の技術や精神は継承しつつ、その表現方法を時代に合わせて変革してきた。このバランス感覚が、大西常商店を113年続く老舗企業にした要因なのである。

組織を1500人から2800人へと拡大を実現させた「言葉」とは?

介護用品レンタル・リネンサプライ業を展開する株式会社ヤマシタの山下和洋社長は、父親の突然の交通事故死を機に25歳で急遽経営権を承継した。従業員1500人の会社は残業代も払えない状況。借入金は十数億円。さらに父親の片腕の人も病で引退が決まっていた状態。しかし山下社長は、この危機をむしろチャンスと捉えた。

「厳しい状況にも関わらず、社員みんなが『この若い経営者を支えよう』と奮闘してくれました。課題だらけの中小企業がそのまま大きくなったような会社だったので、やれば絶対成果が出る状況。会社の危機に直面したからこそ、一致団結することができました」

山下社長が最も力を入れたのが、「現場で毎日使う理念体系」の構築だった。従来の理念体系をゼロから見直し、全社員が日常業務で実際に使える形に再構築したのだ。

「理念を構築する際に重視したのは『現場で毎日使うもの』であることです。言葉を統一するのは本当に大事です。事業部では、社で定めた以外の表現で発信しないように徹底しています。そうすることで、社員の人数が増えても求心力は維持されます。また、バリューに関しては評価制度と連動させ、体現していない社員は評価されない仕組みにしました」

この取り組みにより、同社は12年で従業員数を1500人から2800人へと倍増。理念体系と人事制度の改革から、組織再生の土台を築くことに成功したのだ。

ビール好きではなく「岩手好き」を採用。クラフトビール醸造所のユニークな採用戦略

ベアレン醸造所の嶌田洋一社長は、東京生まれ東京育ちでありながら、岩手という地域に根ざしたクラフトビール文化を築き上げた。クラフトビール業界は大きなブームになった後、長い低迷期を経験している。そんな市場状況にありながらも順調に成長していた同社だが、やがて大きな転機が訪れる。

「最初の5年間はがむしゃらに働いていました。そんな中、工場の中で従業員1人が亡くなってしまう大きな事故が起きました。事業停止を余儀なくされたことを機に企業のあり方を見直し、再構築していきました」

同社の採用戦略は極めてユニークだ。それは、ビール好きな社員ではなく、岩手が好きな社員を採用するというもの。

「クラフトビールが大好きで、ビールを造りたいという優秀な方も応募してきますが、あまりうちでは採用しません。それよりも、岩手県を元気にしたい、地域から価値発信をしていきたいという思いを持った人材に入社してほしいと思っているんです

こうした方針を取るのはなぜか?嶌田社長が目指しているのは単なるビール製造業ではなく、地域活性化のハブとなる組織だからだ。

「地域に根ざした食文化を作りたいんです。ビールの流通は発達しており、ECで地方のクラフトビールを簡単に飲むこともできます。しかし、そうではなく、その土地で作られたビールを現地で飲むという体験を提供したいんです。そのため、弊社のブランドは土地に根差したものでなければならないんです」

同社が独特の組織文化を築くための施策は非常にシンプルだ。それは、ミッションを浸透させるために1on1を徹底するというもの。

「ミッションを実現するための項目を挙げ、上司と部下が達成度を確認しています。例えば、朝来たらお客様と会ったら元気よく挨拶しようとか、簡単な項目について毎月話す。魔法の一言はないんです。人は楽な方に流れてしまうもの。そうならないよう、ひたすらブレずに言い続けるしかありません

ベアレン醸造所のユニークな戦略は、こうした地道なコミュニケーションの積み重ねの先に実ったものだと嶌田社長は強調する。ミッションの実現に近道はないのである。

「希望を語れる社会」をつくる。パーパス経営で組織を再生

セーバー技研の中村拓郎社長は、創業40年の設備工事業を父である先代から28歳で承継した。きっかけは、深刻な経営危機だったという。

「会長がうちの父で、父の弟が社長を務めていました。業績が悪くなって、『もう自分たちも辞めるから、まかせた』と突然言われまして。一番最初の仕事は、銀行にお金を借りに行くことでした」

中村社長はその後も従業員の一斉退職や、組織崩壊など複数回の危機を経験。数々の逆境から中村社長は重要な気づきを得た。

「目標や数字が目的化してしまっていて、自分の人生をかけて何をしたいのかというビジョンがないまま経営をしていました。だから話す言葉も伝わらないし、熱量もなかった。まずはそこを見直さなければならないと感じました」

組織崩壊の痛い経験を経て、中村社長は経営幹部とともに1年間かけてパーパス策定に取り組んだ。導き出されたのは「すべての人が希望を語れる社会を実現する」という言葉だ。一つの事業がなくなったとしても、人材さえ残ればやっぱり新しい事業を作ればいい。組織の存在意義が「人材」だと定めたのだ。

「弊社の従業員や関わる人たちが希望を語る。そうすれば、その家族や、周囲の人々も自然と希望を持てるようになる。希望を与え続ける人をどれだけ作れるが会社の存在目的なのだと気づいたんです」

近年、企業活動を通じてより多くの人に希望を持ってもらうための「2050年ビジョン」を策定した。これはパーパスを軸にした社会課題解決事業を100個作ろうという壮大な計画であり、パートナー企業1万社、関係人口10万人の経済圏を構築しようとしている。

「経営者の重要な仕事は視座を高めて、メンバーに発信していくこと。経営者がわくわくしていないのに、従業員の人たちがわくわくすることはまずありません。2050年ビジョンを掲げることで私自身が一番わくわくしています。だからこそ、同じ未来を目指してくれる人が増えていくと信じています」

採用基準は「めっちゃいい人」

有限会社ゑびやの小田島春樹社長は、妻の実家の事業を承継した際、会社を変えるために50名の従業員のうち47名を入れ替える大変革を実施。組織再生のキーワードは「めっちゃいい人採用」だ。

「優秀、大企業出身、高学歴、こうした点を採用のベンチマークにすることが一般的だと思いますが、弊社はそうではありません。『めっちゃいい人を採用する』『やる気のある人を採用しない』という方針を取っています」

これは一般的な採用基準とは真逆のアプローチだろう。「やる気のある人を採用しない」にはどういった狙いがあるのだろうか?

「やる気に満ちあふれた人は、他の社員を出し抜こうという意識を持っていたり、組織を変えようとするあまり軋轢を生むケースが多い。実際、そうしたやる気のある人がきっかけで組織崩壊をしたことが何回かあったんです。その反省から、こうした方針を定めました。

採用面接は自己アピールの場なので基本的に自分の話ばかりすると思うんです。ですが、そんな場で他者の話ができる人を『いい人』と捉えています。家族の話であったり、誰か困っているときにどういう対応をしているのかなど、そういう観点を大切にしました」

さらに、会社のクレドには「他人をいじめない」「特定の人間を排除しない」「悪口言わない」といった項目が明記されており、違反した場合は訓告・懲戒処分もあり得るという。

偽善であっても、働いている8時間はいい人でいようと言い続けています。その結果、人間同士のトラブルが減って、退職者が少なくなりました」

やる気のある人を採用しないという方針を定める中で、事業に対するモチベーションはどのように創出されるのだろうか。

「基本的に社員のやりたいことを軸に事業を考え、実行してもらえるようにしています。採用面接時に『あなた本当は何の仕事がしたかったの?』と聞いて、全部記録しているんです。それに基づいた仕事を用意したり、それを実現できるようなテーマを与えています」

同時に、歩合を中心とした報酬体系を設計する。担当する事業において成果が上がれば、収入も増加する。シンプルでありながら大胆な人事を行っている。

社員がやりたいと言っている事業を用意できれば、自然と熱意は生まれてくるもの。その環境を作り出すことが私の役割ですね

家族の解雇からスタートした言行一致の組織改革

ワキ製薬株式会社の脇本真之介社長(5代目)は、140年の歴史を持つ老舗企業。代表に就任した時点で借入金は十数億円、資金繰りも厳しく、従業員の士気も最悪だったという。脇本社長が最初に行ったのは、思い切った組織改革だった。

「従業員さんの信頼を得るために、まずは親族の社員を全員解雇し一からチーム作り直しました。同時に僕自身の給料をゼロにしました。まずは自分がリーダーとして痛みを伴う改革の姿勢を見せる。そこがスタートだと考えました

言葉だけではなく、行動で示す。言行一致の姿勢が社内に浸透していったことで組織は徐々に変わっていったという。M&Aを通じて組織が拡大する際も同様に、脇本社長はメッセージを発信している。

「僕は普段から人を大事にしますという話をしています。それがどういうことなのか、行動で示していかなければなりません。例えば、業績が苦しければ仕事を取ってくる。納期に間に合わなかったら僕自身も現場に立って業務にあたる。そういう姿勢を見せることで、自分たちを大事にしてくれているんだなと感じてもらえるのだと思います」

徹底的に社員に寄り添う。脇本社長の姿勢は社内の「上司」にも引き継がれている。

組織作りで大事にしているのが、上司が必ず部下の目標と課題を理解しているということです。例えばマネージャーに『メンバーの課題って何?』と聞くんです。そこで答えられなければ、上司は責任を果たしているとは言えません。同じチームで仕事をしている人が何に悩んでいるかを把握していないというのは、大きな問題です」

言葉と行動の整合性を人は知らず知らずの間に必ず見ていると脇本社長は続ける。言行一致を実現できていなければ、信頼関係は生まれず、組織は崩壊する。組織の風土を作るための第一歩はトップの言動にかかっているのである。

カルチャー変革は組織の生存戦略

単なる制度改革ではなく、言葉や行動を通して理念を浸透させ、従業員の行動基準を引き上げていく。組織変革にはこうした地道な活動の積み重ねが重要だ。カルチャーは組織の土壌である。豊かな土壌があってこそ、人材や事業の成長が実現する。その土壌を耕すことが、労働人口が減っていく今後の社会で、企業が組織に投資することの意義に他ならない。

各社の事例が示すのは、そうした組織は決して偶然には生まれないということだ。経営者の強い意志と継続的な取り組み、そして何より「人を大切にする」という基本姿勢があってこそ、本物のカルチャー変革は実現する。人材獲得競争が激化する今、中小企業にとってカルチャー変革は単なる理想ではなく、生存戦略そのものなのである。

 

※記載されている情報はインタビュー当時のものです。

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