老舗企業はなぜ変われたのか?カルチャー変革のキーマンを遠藤功が徹底分析
2024.04.15
ガレージやホテル、太陽光発電など多岐にわたる事業を展開するカクイチ。創業138年を迎える老舗企業だが、2018年から組織の大改革に取り組み、成果を挙げてきた。カクイチはなぜ変わることができたのか。
カクイチ代表取締役社長の田中離有氏と、多くの企業でコンサルティングを手がける株式会社シナ・コーポレーション遠藤功氏が、企業の変革に必要なマインドについて語った。
Profile

田中離有 氏
株式会社カクイチ 代表取締役社長

遠藤功 氏
株式会社シナ・コーポレーション 代表取締役
トップの危機感を全社に共有することが大事
カクイチでは代表取締役社長の田中離有氏のもと、2018年から組織の大改革を実施した。改革前は、昔ながらの縦割り組織で社内の情報共有がうまくいかず、現場の状況がトップに届きにくい体制になっていた。こうした環境から受け身の姿勢になっている従業員も多く、モチベーションの低下が起きていたという。
多くの老舗企業と同じように古い体質が残っていたのにも関わらず、なぜカクイチは変化することができたのか。田中氏は「自分がやるしかないという強い危機感があった」と振り返る。
「私は副社長時代が長いんです。当時は兄が社長を務めていましたが、父が実権を持った院政状態。そのため、私は人事権もなく、抑圧された状態でした。その間、『自分が社長になったらこういうことをやろう』とアイデアを考えていました。2014年に社長に就任したとき、私は52歳。『あっという間に年を取ってしまう』と思い、ずっと準備してきたことを実行に移していったのです」(田中氏)
社長就任後、新しいことに取り組もうとする田中氏に対して、社内の経営幹部からは否定的な意見が出たという。新しい事業を提案しても、「そんなリスクの大きいことはできない」と反対されることも多かった。田中氏はこうした社内からのプレッシャーをどのように乗り越えてきたのか。
「2018年から大規模な組織変革を始めたのですが、その前年に父が他界したんですね。それが1つのきっかけとなりました。『この会社を変えられるのはもう自分しかいない』と思ったんです。当社はこれまで同族経営でしたが、私の次は社員からトップになる人材を育てなくてはなりません。候補は100人、なんなら全従業員約500人の中から魅力ある人材を探していきたい。『次を育てなければ』という覚悟を持ったことが改革を実行するエネルギーになったと思います」(田中氏)
2018年前後で役員の世代交代が進んだことも大きかったという。「今のままでもいいのでは」と言っていた人が会社から離れ、「会社を変えなければ」という田中氏の強い危機感が次第に全社に共有されるようになった。田中氏は「企業が変革するためには、まず人の変革が必要。人が変われば組織も変わります」と語る。
こうしたカクイチの事例に対してシナ・コーポレーション遠藤功氏は、「やはりトップの強烈な危機感、切迫感が従業員に伝わったのでしょう」と語る。さらに、遠藤氏は組織変革において重要な視点として「オープンアイズ」「フレッシュアイズ」の2つを挙げた。

「『オープンアイズ』とは、外に目を向けてお客様やライバル会社、マーケットがどのように変化しているかを知り、自社を客観的にとらえること。内向きのままではそもそも危機に気がつくこともできません。また、『フレッシュアイズ』も組織に必要です。そのためにも新しい価値感を持った人を組織に入れていかなければなりません。『外から新しいことを取り入れ、変化していくことが当たり前』という意識を組織で育んでいくことが重要です」(遠藤氏)
「情報の垣根」をなくせば、「組織の垣根」も壊れる
組織変革にあたり、田中氏がまず取り組んだのが会社のスローガンの変更だ。新しくできた「やろう。だれもやらないことを」というスローガンには、従業員一人ひとりが夢を持って新しいことに挑戦してもらいたいという想いが込められている。
新しいスローガンを社内に浸透させるためにはハードルもある。カクイチでも新しいスローガンやカルチャーに対して否定的な意見を持つ人や、自分から積極的に動かず静観するだけの人はいた。しかし、会社から強くメッセージを発信し続けることで、社内の雰囲気が少しずつ変わってきたという。
「社内でSlackを使っているのですが、新しい取り組みに積極的な従業員はどんどん情報をSlackにあげてくるんです。投稿するとポジティブな反響が返ってくるので承認欲求が満たされる。賛同する仲間も増えて活動がどんどん活発になっていきます。一方、こうした取り組みを冷めた目で見て、投稿を読む専門の人たちも一定数いました。しかし、しばらくして社内の雰囲気が変わってくると、最初は読むだけだった人も変わってくる。それでもネットワークに入ろうとしない人は自然と辞めていきました」(田中氏)
こうしたカクイチの取り組みからわかるのは、社内の雰囲気が変わることで人も少しずつ変わっていくということ。遠藤氏は「カルチャーをしっかりと根付かせていくことで、風土に合わない人は居心地が悪くなって去っていくんですよね」と語る。

また、店舗や事業単位が基本の縦割り組織から脱却するために、田中氏は従業員全員がほぼすべての社内情報にアクセスできる環境をつくり、人と人をつなげる取り組みをした。この際にオンラインだけに頼らず、リアルでのつながりも重視したという。
「2019年からzoomを導入したのですが、これは脳がかなり疲れるなと思ったんです。そこで、テレワークだけで終わらせず、リアルでのつながりを充実させる取り組みをしました。例えば、事前情報をオンラインでシェアして、討議は泊まり込みの合宿で行うといったイベントを実施しました」(田中氏)
情報をオープンにし、人のつながりを重視した狙いについて田中氏は、「組織を壊すのはとても難しい。だから、まずは情報の垣根を壊すんです。そうすると、組織の垣根も勝手に壊れていくんです」と語った。
このほか、田中氏はミドル層の変革を実施。カクイチでは社員が自主的に行動するようになったことで中間管理職の役割が減った。そこで、「管理者の層は薄くていい。一番大事なのは現場で働くパフォーマーである」という考え方のもと、現場と経営陣をつなぐ存在として新たにタスクチームの制度を構築。経営陣が設定した経営課題を解決するべく、5人のメンバーで1つのタスクチームをつくり、3カ月で成果を出すという仕組みだ。
「1つのタスクチームの中に役員、課長、パート従業員が混ざっていることもある。Slackで従業員の投稿をいつも見ていると、『この人はこのテーマに興味がありそうだな』というのが見えてくるので。向いているテーマがあったときにタスクチームへの参加を呼びかけます。取り組むテーマについては、従業員から寄せられることもあります。『工場のランチメニューを変えてほしい』といったテーマが出たこともありました」(田中氏)
組織のカルチャーをプロデュースする人が必要
田中氏が行ってきた組織変革によって社内の雰囲気は大きく変わり、部門を超えた新しいイノベーションも生まれやすくなった。
遠藤氏はこうしたカクイチの組織変革を「非常識でおもしろい」と評価し、「田中氏の本気とノリの良さが組織変革の成功につながたった」と語った。
「組織文化というのは意識と行動の蓄積です。従業員一人ひとりの意識が変わって、実際に行動に移していく。その積み重ねで組織のカルチャーは形成されていきます。だから、まずは意識を変える。でもそれだけではダメで、カクイチさんのように人がつながる機会をつくったり、タスクチームをつくったりなど行動につなげていく仕組みをつくることも大切です」(遠藤氏)
続けて、遠藤氏は「組織にはカルチャーを盛り上げるプロデューサーのような存在が必要」と指摘。
「経営というと、いかに管理するかが語られがちですが、会社のカルチャーをプロデュースするという視点をもっと意識したほうがいいと私は思います。変化を楽しんでいくノリの良さがもっと必要ですし、一つひとつの取り組みや変化をつなげて、トータルで会社のプロデュースしていくことが重要です。その点でカクイチの田中社長はまさにカルチャー変革のプロデューサーと言えるでしょう」(遠藤)

カクイチのような大胆な組織変革は、従業員が約500人の企業だから社長のトップダウンでできるのであって、大企業では難しいと考える人もいるだろう。しかし、遠藤氏は「時間は少しかかるかもしれないが、大企業でもできるはず。まずは自分の部署や事業部など身近なところから変化を起こしていってください」と語る。
遠藤氏は「日本企業の多くは管理ばかりして、ノリが悪い」と言うが、「かつての昭和カルチャーそのものは悪くない。ノリが良かったし、仲間うちで飲みながら愚痴を言い合うこともあったけれど、それで課題を言語化して共有できた。助け合う文化もあったと思います」と語る。
「問題は平成です。平成では昭和の悪いところばかりを引きずって、新しいものが生まれてこなかった。そして、変えられないまま令和に入ってしまった。日本人は根はお祭りが好きな人が多いですし、基本的にはノリがいい国柄だと思います。それが抑圧されて、本来の力を発揮できない状態になっていることが今の問題です」(遠藤氏)
では、どうやって変化を楽しむノリの良い会社をつくっていけのか。田中氏は遠藤氏の話を受けて「上が本気で行動しなければ、下も動いてはくれません」と述べた。遠藤氏は、「組織を変革しようと思ったら、まずは自分が踊る。そうすると、共感してくれた人が一緒に踊ってくれるかもしれない。まずは自分から動くことが大切です」と語った。
カクイチの成功事例からは、組織変革においてトップが本気になることがいかに重要であるかがわかる。遠藤氏は最後に、「本気になれば組織風土は変えられます。『まだできることはある』と信じて、諦めずに取り組みを続けてください」と締めくくった。
※記載されている情報はインタビュー当時のものです。
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