【Unipos Bridge 2025】「エンゲージメント」を経営戦略の中核へ
2026.05.22
目次
Unipos株式会社が主催したイベント「Unipos Bridge 2025〜人と組織の熱が動かす日本企業の未来〜」。前編では、澤円氏と田中弦氏によるAI時代の働き方についての対談をレポートした。
Unipos Bridge 2025レポートの後編では、Unipos株式会社 代表取締役社長 松島稔と株式会社リンクアンドモチベーション 代表取締役社長 坂下英樹氏による特別対談の模様をお届けする。
Profile

松島稔
Unipos株式会社 代表取締役社長
2013年、現Unipos株式会社(旧Fringe81株式会社)取締役COOに就任。同社COOとしてプロダクト企画/事業開発/事業提携/営業マネジメントを管掌。2016年、同社の東証グロース市場への上場に貢献。2021年、Sansan社との資本業務提携を主導。2021年、Unipos株式会社 代表取締役副社長COOに就任。2025年1月より現職。

坂下英樹 氏
株式会社リンクアンドモチベーション 代表取締役社長
株式会社リクルートを経て、2000年に株式会社リンクアンドモチベーションを共同創業。エンゲージメントの概念が一般的でなかった時代から、企業の組織変革・人材開発に25年以上携わる。「エンゲージメントスコア」の指標化を通じて、企業の業績・採用・資本市場への影響を実証的に提唱し続けている第一人者。
エンゲージメントを経営の「ど真ん中」へ
Unipos Bridgeの前半では、元マイクロソフト業務執行役員の澤円氏とUnipos株式会社代表取締役会長の田中弦氏が、AIの急速な進化がもたらすスキルの陳腐化と、それでも揺らぐことのない人間固有の「意思」の重要性について白熱した議論を展開した。
続いて行われたのは松島と株式会社リンクアンドモチベーション代表取締役社長 坂下英樹氏との特別対談だ。テーマは「なぜ今、人と組織に投資するのか」。エンゲージメントを中心に据えるこれからの人材戦略のあり方について、両者が語り合った。
エンゲージメントという言葉すら一般的でなかった時代から25年以上にわたって組織変革の最前線に立ってきた坂下氏がまず口を開く。
「創業時、『モチベーションがビジネスになるんですか?』と言われることもありました。当時は、モチベーションやエンゲージメントという概念自体がまだ浸透していませんでした。しかし、創業して3年ほど経ったころ、居酒屋で人や組織のあり方、 つまり“エンゲージメント” について語り合う会話を耳にしたときは、こっそりガッツポーズしました」と坂下氏は当時を振り返り、会場の笑いを誘った。

坂下氏がエンゲージメントという概念を普及させるために重視したのが指標化だ。経営の優先課題として認識してもらうためには、数値で可視化することが不可欠だった。
偏差値のように50を平均としたとき、エンゲージメントスコアが60を超える企業では、戦略に基づくあらゆる施策で成果が現れる。一方、40を下回る企業では、同様の施策を実行しても成果が出ないという。つまり、エンゲージメントという土台があってこそ、戦略は意味を持つのである。
この話を受け、松島はエンゲージメントが経営の中核に据えられることが重要であると指摘する。
「Uniposのプロダクトだけでお客様の組織を変えられるかという問いをずっと持っていまして、答えはやはり『否』でした。経営者の方がエンゲージメントを経営の文脈で語れないと、人事戦略が機能しない。エンゲージメントが経営の中核テーマとして据えられることが本当に大事だと実感しています」(松島)
採用における「エンゲージメントスコア」は無視できない
こうした認識は、今の時代背景とも深く共鳴している。
2023年から上場企業に対して人的資本に関する情報開示が義務化され、「人材を資本として捉え、その価値を最大化する」という人的資本経営の考え方は急速に浸透しつつある。
しかし松島が指摘するように、開示が形式的なものにとどまり、エンゲージメントが経営会議の中心テーマとして議論されない企業も少なくない。人事戦略が経営戦略の真の一部として機能するためには、トップが自らの言葉でエンゲージメントを語れるかどうかが重要なのだ。
坂下氏は、慶應義塾大学との研究データなどに触れ、エンゲージメントの向上が企業にどのような影響を与えるのかを解説する。エンゲージメントスコアは売上高との相関は見られない一方で、営業利益率・ROE・ PBR といった財務指標と有意な相関を示すのだという。「エンゲージメントへの投資が利益の質そのものを変える」という構造が、データに表れているのだ。
さらに坂下氏は、エンゲージメントスコアと所属社員のクチコミによる転職情報サービス「OpenWork」のスコアに強い相関がみられると続ける。エンゲージメントスコアが高い企業では、OpenWorkのスコアも高くなる傾向にあるという。
「飲食店のクチコミサイトのように、採用市場においても求職者がクチコミを重視するようになってきている傾向があります。今後は第三者によるレビューやスコアが低ければ採用に苦戦する。そんな時代が来るかもしれません。エンゲージメント投資の効果は社内だけでなく、労働市場・資本市場にまで波及するものとして、経営の中核に据えることが重要です」(坂下氏)
では、エンゲージメント向上を阻む壁とは何なのだろうか?坂下氏はリーダーの意識こそが最大の壁になるという。エンゲージメントの重要性を認識していないリーダーが組織にいる限り、継続的な投資は難しく、優れた施策を投入しても運用していくことは困難だ。
「Uniposが提供しているのは褒める文化ですが、その先に見据えているのは『褒める文化』を通じて意思が『伝わる組織』を増やしていくことだと思っています。好きな人から承認されると嬉しいように、信頼関係があってこそ称賛は力を持ち、競争力が高まっていく。いかに伝わる組織を創るかが、エンゲージメント向上の第一歩です」(坂下氏)。

AI時代の到来により、ツールやスキルだけではなく個のあり方そのものが変化していく。これからは、自分の意思を持って働く個が組織変革の起点となることは間違いないだろう。意思を持った個が集まり、エンゲージメントという土台の上で互いの行動を称え合い学び合う循環こそが、変化の時代に組織を強くする道筋なのである。
エンゲージメントとは数値の管理ではなく、人と人の間に信頼という回路を丁寧に引いていく営みだ。組織の中に「伝わる」という感覚が根づいたとき、称賛は単なる承認を超え、働く動機そのものになり得る。その積み重ねが文化となり、強い組織を生み出していく土台となるだろう。
※記載されている情報はインタビュー当時のものです。
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