【Vol.2】日本企業が直面する、世代間ギャップの乗り越え方
2023.06.08
目次
前回は、アンラーンが今求められている理由やその定義について中竹氏に話を伺った。続いて今回は、個人の中でも世代間ギャップに苦しむ方々に焦点を当て、どのようなアンラーンが求められているのか中竹氏の考えを紹介する。
Profile

中竹 竜二氏
株式会社チームボックス 代表取締役
(一般社団法人日本ウィルチェアーラグビー連盟 副理事長
一般社団法人スポーツコーチングJapan 代表理事)
1973年福岡県生まれ。早稲田大学卒業、レスター大学大学院修了。三菱総合研究所を経て、早稲田大学ラグビー蹴球部監督就任。自律支援型の指導法で大学選手権二連覇を果たす。2010年、日本ラグビーフットボール協会 、指導者を指導する立場である初代コーチングディレクターに就任。2012年より3期にわたりU20日本代表ヘッドコーチを経て、2016年には日本代表ヘッドコーチ代行も兼務。2018年、コーチの学びの場を創出し促進するための団体、一般社団法人スポーツコーチングJapanを設立、代表理事を務める。


『アンラーン戦略 「過去の成功」を手放すことでありえないほどの力を引き出す』監訳。その他著書『ウィニングカルチャー 勝ちぐせのある人と組織のつくり方』(ダイヤモンド社)など多数。
世代間ギャップの乗り越え方
ー 世代間ギャップという話で言うと、先日行われたWBCで日本代表が優勝したことはそのギャップを乗り越えた象徴的な出来事のように感じます。栗山監督が選手の自主性を尊重し、ダルビッシュ選手が「野球を楽しんでいるところをファンに見てもらうことを1番大事にしていた」と語っていたことが、これまでのスポーツ界のあり方と決定的に違う印象を与えました。このような世代間ギャップの上手な乗り越え方について、お考えを聞かせてください。
私が関わる企業のリーダー層の中でも、「本当に成果を上げろということだけを言っていてよいのか?」と自問自答される方も一部いらっしゃるものの、「成果を追わないといけないなんて、当たり前じゃないか。自主性を引き出したり、楽しむことが重要だと言って何になるんだ?」という反発を受けることもしょっちゅうあります。
しかし、アンラーンする上では必ず痛みが伴うので、このように組織から反発があるポイントを見つけ出すのはアンラーンを促す上で重要視しています。私は様々なアプローチや問いかけから企業ごとの「ツボ」を見つけ出していきますが、中でも定番の手法が「ちゃんと、綺麗事を言う」ということです。

綺麗事を言ったときの相手の反応・リアクションを見ることで、その人が普段どのような価値観を持って仕事をしているか、その組織に根ざす文化が何かは概ね見当が付きます。
例えば、「みなさん、本音でコミュニケーション取りましょう」「笑顔で働きましょう」などと伝えたときに、「いや、ここは会社であってプライベートじゃないんだから」「そんなのは成果に関係ないだろう」といった反応が大体起こるわけですね。私からすると、そのように鼻で笑ったり反抗的なアクションが起こるポイントは分かりやすくチャンスが眠っているところです。
なぜなら、組織が成果を上げることを考えたときに、当然仲の良いほうがよいし、本音でやれた方がよいし、楽しくやれた方が成果が出そうだ、ということはみなさんも薄々感じてきていることだと思うんですね。ただ、そこに対して先ほどのような反発を起こす方というのは、殆どの場合上からその考えを否定され続けてきたわけです。
本人も実はそういったことが大事だと思いながらも、昔上司に怒られたり左遷されたりした方がいっぱいいる。それなのに今になって本音や自主性が大事だと言われても、これまではその自主性によって酷い目に遭ってきたというトラウマがあるわけなんですね。特に日本企業で近年「働かないおじさん」という言葉も出てきましたが、私は性善説的な考え方を持っていて、そういう方が働くことに意味を見いだせなくなってしまった要因はその人の外側にもあるのではないかと捉えています。
私の仕事はそのトラウマを癒やしにいくというか、最初は痛みを伴うけれども一緒にアンラーンを行うことで、その人の奥底にある価値観・思考体系を今の時代やその人に求められる役割に適応するように変革を促すことなのです。
「働かないおじさん」は変えられるのか?
ー 「働かないおじさん」が今後企業の中で再び活躍していくためには、何が必要なのでしょうか。
「働かないおじさん」については、まず安全地帯に連れて行ってあげるしかないでしょうね。そもそも彼らがなぜ働かなくなってしまったのかを紐解いていくと、先ほどお話したように全ての人が元から全くやる気がなかったというわけではないでしょう。昔はモチベーションを持っていて、何なら活躍もしていた中で、何らかの仕組みや文化によっていつの間にかそうなってしまったのではないか、と考えています。
長いキャリアの中で、なにかのきっかけで上司の評価を下げてしまい、その結果周囲全体の評判も悪くなり、何をやろうとしても周りから冷笑されたり文句を言われたりする。そういうことを何度も学習してしまった結果新しいスキルも学べなくなってしまい、また学ぼうとしても他のメンバーや部下にも聞けない。このような状況で「働かないおじさん」になってしまった原因をその人だけに帰結させてしまっては、いつまで経っても問題を解決できません。
なので、先ほどお伝えした通りまず安全地帯を作ることが重要なのです。我々はよく“Yet Mind”(まだまだ変われる、もっと成長できるという発想)というのですが、「あなた、本当はそんなもんじゃないでしょ? まだまだ行けるはずだし、このまま人生終わって大丈夫ですか? 悔しいけど、もう1度仲間として頑張りましょうよ。必ず成長できますから。」という話をするんです。
もちろん最初は、「バカにしてるのか、自分はそんなに駄目じゃない」と拒絶されます。しかしそこで諦めずに深掘りして対話を続けていくと、その人が抱えている不安に必ず行き着きます。その人にとってはどこを見ても八方塞がりな状況なわけで、不安を抱えていないはずがないんです。その不安を、周囲との関わりの中で解きほぐしてあげることが重要です。
鍵となるのは「言語化」
ー 周囲の中で孤立している状況から、人間関係を活用していくことはハードルが高いようにも思えます。
我々が支援に入っている場合は我々相手にやっていただければよいのですが、本来は家族や友人の中でやってもいいし、ChatGPTで対話してもいい。最も重要なのは自ら言語化することであって、関係性を使えば他者の視点を取り入れることで言語化しやすくなるというだけなのです。自分がモヤモヤしていること、後悔していること、これからやりたいことをちゃんと言葉にするだけで第一歩は始まります。『アンラーン戦略』の中でもフォーマットが紹介されているので、ヒントにしてみると良いと思います。

(『アンラーン戦略』より引用)
あともう1つ言えるのは、「あの人は働かないおじさんだ」とカテゴライズしてしまう側にもアンラーンが必要だということですね。私が過去に監訳した『マネジャーの最も大切な仕事』という別の本で、成果を挙げ続けているとあるエリアマネージャーに注目した興味深い研究が紹介されていました。
その人はエリアマネージャーとして自分で成果を出すというより彼の部下が成果をあげ続けていたわけなのですが、その人の行動だけを見ると仕事らしい仕事は全然していなかったのですね。様々な地域に散らばる部下のもとへ行っても、仕事の話は一向にせず部下の家族の話や大したことのない雑談ばかりして、また本社に帰っていく。
仕事の指示をするわけでもなく、「マネジメント」という言葉から想起されるような仕事はしていないのですが、実は現場で働いている人からするとモチベーションが大きく高められている。エリアマネージャーが部下を心から信頼し、大事にし、その人のプライベートまで心配するということは、部下からすると「あの人は仕事のだめではなく、自分のためにわざわざ半日もかけて本社から来てくれた」ということになるわけです。この「わざわざ」という概念がキーワードです。
ー 九州の炭鉱で「スカブラ」と呼ばれていた人たちの話にも通じる内容ですね。
その通りです。「仕事が好かんでブラブラしている」ことからスカブラと名付けられた一部の炭鉱労働者たちは、表面的には普段から全く仕事をせず、くだらない話ばかりしていただけの存在でした。しかし、炭鉱ビジネスが経営不振となりいち早くその人たちのクビが切られてしまった結果、他の人達の作業効率まで大きく下がってしまった。外からは分からなかったものの、スカブラたちは組織の潤滑油・調整役としての機能を果たしていたわけなんですね。
このように考えると、「あの人は働かないおじさんだから」とカテゴライズした瞬間に、その人が組織の中で目に見えない貢献をしていたとしても、見る側の主観によって無かったことにされてしまうわけなんですね。全て一括りにしてしまうと、組織の中でそういった人を淘汰してしまう可能性がある。組織におけるアンラーンを推進する上では、そのような危険性を認識した上で相互作用的な影響があることを常に頭に入れておくことが大切です。ここから詳しくお話していきましょう。

※記載されている情報はインタビュー当時のものです。
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