
【伊藤羊一・秋元里奈】喫緊の課題、エイジ・ダイバーシティ
2023.04.18
2025年、日本の労働人口の約50%がミレニアル世代とZ世代になると言われている。価値観や働き方など世代間ギャップの話題も尽きない今、「〇〇世代」というステレオタイプを越え世代に関係なく協働し成長するために出来ることはないのだろうか。プレイヤーとしても成功を収め、現在は指導者・経営者としてミレニアル世代/Z世代と関わる識者が世代を越えた役割・価値の創出法を解説した。
Profile

伊藤 羊一 氏
Zホールディングス株式会社 Zアカデミア学長/武蔵野大学アントレプレナーシップ学部 学部長
日本興業銀行、プラスを経て2015年よりヤフー。現在Zアカデミア学長としてZホールディングス全体の次世代リーダー開発を行う。またウェイウェイ代表、グロービス経営大学院客員教授としてもリーダー開発に注力する。2021年4月に武蔵野大学アントレプレナーシップ学部(武蔵野EMC)の学部長に就任。

代表作に60万部ベストセラー「1分で話せ」ほか、「1行書くだけ日記」「FREE, FLAT, FUN」など。

秋元 里奈 氏
食べチョク 代表
神奈川県相模原市の農家に生まれる。慶應義塾大学理工学部卒業。DeNAでwebサービスのディレクターやアプリのマーケティング責任者など4部署を経験。2016年11月に株式会社ビビッドガーデン創業。2020年4月にアジアを代表する30歳未満の30人「Forbes 30 Under 30 Asia」に選出。2020年9月に報道番組「Nスタ」の水曜レギュラーコメンテーターに就任。その他、「スッキリ」コメンテーター、「セブンルール」、「カンブリア宮殿」などに出演。
Y世代・Z世代の定義。エイジ・ダイバーシティとは
これまで日本企業の労働力人口は「5つの世代」で構成されてきた。年代の分け方には諸説あるが、主には以下のように定義されることが多い。
少子高齢化は日本における深刻な社会課題だ。労働人口も年々減少している。さらにベビーブーム世代の“最後”が60歳以上になる2025年からは「労働人口の過半数がY世代・Z世代になる」とも言われている。労働人口の過半数、つまり“会社組織のマジョリティが若者になる時代”——。それがもうすぐそこまでやって来ている。
日本でも会社組織の「ダイバーシティ」に関する活発な議論がたびたび行われてきた。しかしこれまではどちらかといえば、女性活躍推進をアジェンダとするような「性別」「ジェンダー」の側面から語られることが多かった。
しかしこれからはそこに世代間のダイバーシティ——「エイジ・ダイバーシティ」が加わることだろう。特に若者が過半数を占める新たな会社組織では、彼らの発想・行動に対するマネジメントの素養・仕組みを備えなければいけない。エイジ・ダイバーシティ推進は多くの日本企業にとって喫緊の課題といえる。
世代を越えた新しい発想・行動にどう対峙するべきか
エイジ・ダイバーシティ論でたびたび話題となるのが、人材育成や業務における世代間コミュニケーションである。上司・部下のコミュニケーションはビジネス論の永遠の課題であるが、Y世代・Z世代のコミュニケーションではそれとは趣が異なる。
2025年以降の「Y/Z世代(1980年以降生まれ)が過半数を占める会社組織」において上司となるべきは「X世代」(1980年以前生まれ)。年齢にすれば2023年時点で43歳がおおよその境界線となるが、彼らは現在“シニア”と呼ばれている世代から薫陶を受けてきた。ときには厳しく教えられ、ときに叱られ、そして鍛えられながら。当時は部下を元気づけるための“飲みニケーション”もうまく機能していたことだろう。
しかしY/Z世代とのコミュニケーションでは同じ手法がうまく機能しない。
これらはY/Z世代のなかでもZ世代を表すのによく取り沙汰される彼らの特性で、X世代(より上の世代)との価値観の決定的な違いから「コミュニケーションがうまく機能しない」とされる。
本当にコミュニケーションはうまく機能しないのか。あるいは彼らとどう対峙すればよいのか。指導者・経営者としてY/Z世代と関わることも多い2人の識者が、世代を越えた役割・価値の創出法を解説した。
役職とは「機能」。日本の人事制度に問題も
上司は年齢のことなど忘れてしまえ——。そう教示するのはZホールディングス株式会社 Zアカデミア学長/武蔵野大学アントレプレナーシップ学部 学部長の伊藤羊一氏である。
伊藤氏曰く「先人が作ってきたものへのリスペクト、長年生きてこられた先輩たちへのリスペクト——そうしたことは時代に関係なくこれからも重要かつ大前提となるべき事柄」としながら「それをそのまま職場・仕事に持ち込めば、それはコミュニケーションの阻害要因になる」と話す。
「以前の職場で10歳くらい年上の部下がいたことがあります。そのうちの1人に言われたのは『リーダーとは機能』であり、その機能を果たせばいい。年功序列のキャリア制度が長らく君臨した日本は不慣れかもしれませんが、“上司”という立場・役職なんて業務遂行上の機能に過ぎない。それを前提に置けばコミュニケーションの仕方も変わっていくはず」(伊藤氏)
伊藤氏は組織づくりの観点から「人事制度の昇格・降格」の問題も指摘した。すなわち多くの大企業では一度“昇格”すればめったに“降格”が起こらない。成果を出せなければおとなしく降格させ「また次に頑張ってもらえばよい」が、多くの日本企業では一度就いた役職はなかなか解かれることがない。“上り下りできる”柔軟さが人事制度に備わればY/Z世代のキャリア、そして上司への向き合い方も変わるかもしれない。
DeNAで教えられた「コトに向かう」カルチャー
株式会社ディー・エヌ・エー(DeNA)退社後、2016年11月に株式会社ビビッドガーデンを創業し、産直通販サイト「食べチョク」をローンチした秋元里奈氏も、自身の経験談から「組織カルチャーの重要性」を説いた。
秋元氏曰く「DeNAは“人”ではなく“コト”に向かう会社」。誰が言ったかではなく何を言ったかで評価された。「新卒1年目でもそれが良い意見なら排除もされない。抜擢文化を生むのは組織の評価制度だが、DeNAはたとえ経験が浅くても、その人が成長しそうであれば裁量を託した」という。
「私が『食べチョク』で起業する際にはそうしたDeNAのカルチャー・土壌づくりをかなり意識しました。スタートアップとはいいながらも古い慣習から役職・肩書きにどうしても囚われてしまう人が多いのは事実。だから私自ら『肩書きは役割に過ぎない』と今でも繰り返し言い続けていますし、そのための評価制度も考えてきました。同時に1on1で個人個人にかかっている役職・立場へのバイアスを引き出し、1つひとつを解決するようにしています」(秋元氏)
志を持ち、Y/Z世代に「夢を語れる」リーダーへ
エイジ・ダイバーシティ推進を実行していく組織では、それらのマネジメントや組織作りを牽引するリーダーがキーマンとなる。新たなリーダー=X世代に求められる素養とはどんなものだろうか。両者は「自分と向き合い、全能感を捨てよ」と話す。
伊藤氏は「リーダーシップの原点は“Lead the self”——自分自身をリードすること」だとする。
過去を振り返り、今大事にしている思いを知り、未来に思いを馳せて行動する。行動したら新たに違うものが見えてくるから、それをまた繰り返す。そうしてずっと繰り返し「亡くなるときに『自分もリーダーシップを発揮できた』とある程度満足できればそれで十分」と伊藤氏。「その意味でも新たなリーダーを担うX世代には、役職・肩書きなんかに縛られず、今こそ志を持って欲しい。人生の中で自分が何をしたいのか問い続けてほしい」と語った。
「これまでの日本企業では、多くの年配者が若者に対して“志”を求めてきたと思います。しかし志は求めるのではなく、己で持つもの。40・50・60・70代の人間が志を持ったっていいじゃないですか。ある程度まで年齢を重ねながらそれを持つのは“カッコ悪い”とするような美徳がありますが、シリコンバレーなんかに行けば『web3でこんなことをしたいんじゃ!』なんて話している年配者が大勢います。夢を語れることもこれからのリーダーに求められる素養の1つです。日本がこれまでの歴史上生み出してきたものは強いしまだまだ可能性もある。でもどこか停滞ムードがあるのは、エイジ・ダイバーシティが阻害要因になっているとも感じます。それを解決するのは、新リーダーによるFREE, FLAT, FUN。“自由に・フラットに・そして楽しく”喋る。みんなで盛り上がろうとする考え方が、エイジ・ダイバーシティでは大事だと思います」(伊藤氏)
組織は経営者の写し鏡。組織論の前に自らが変わるべし
秋元氏は経営的な視点も加えながら「全能感を捨て、自分を客観視することを意識している」と話す。
「企業のなかにいるとリーダーや経営者は批判を受けづらいし、周りからフィードバックを得づらいものです。それが長く続くとついつい全能感を持ちがちですが、全能な人間なんているわけがありません。経営者であれリーダーであれ、謙虚でいるべきだと思います。それぞれが得意なこと・不得意なことを自己開示しやすい環境をつくったうえで、リーダーは年齢・立場に関係なくそれを組み合わせていく。個ではなくチームによる成果を意識することが重要だと思います。
組織は経営者の写し鏡です。自分が自信を持てなければチームも自信を持てないし、自分がフラットでいればチームも自然とフラットになる。エイジ・ダイバーシティの問題においてもそれは同様で、新たなリーダーにとっては自分自身と向き合い続けることが最も重要だと思います」(秋元氏)
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