真面目だが「挑戦する姿勢」が乏しい日本をどう変えるか
2023.04.18
かつて日本は「ジャパン・アズ・ナンバーワン」と言われるほど、世界的にも脅威の対象となる経済大国だった。1989年「世界の時価総額ランキング」では日本企業が上位20社のうち14社を占めたが、近年はその勢いもすっかり下火に。2022年同ランキングではトヨタ自動車がかろうじて31位に入ったが、日本企業の衰退は明らかだ。
「デジタル戦略で世界に遅れを取った」「日本の栄光は過去のもの」と言われ、その空気を即座に変えることも叶わず、世界のマーケットと比較して「活力がない」「笑顔がない」「挑戦する姿勢に乏しい」と揶揄されることもある。
なぜ日本企業の活力から失われてしまったのか。なぜ日本企業には笑顔がないのか。なぜみんな真面目だけど「挑戦する姿勢」に乏しいのか——。人事と経営の立場から、その理由と解決策に迫った。
Profile

島⽥ 由⾹ 氏
株式会社YeeY 共同創業者/代表取締役、アステリア株式会社 CWO(Chief Well-being Officer)、元 ユニリーバ・ジャパン・ホールディングス合同会社 ⼈事総務本部⻑
慶應義塾⼤学卒業後、パソナを経て、⽶国コロンビア⼤学⼤学院にて組織⼼理学修⼠号取得。⽇本GEにて⼈事マネジャーを経験し、2008年ユニリーバ・ジャパン⼊社。2014年より取締役⼈事総務本部⻑に就任。⼈のモチベーションに着⽬し「WAA」など独⾃の⼈事施策を多数実⾏、同社はForbesWOMEN AWARDを3年連続受賞した。2017年に株式会社YeeYを共同創業し代表取締役に就任。企業の経営⽀援や⼈事コンサルティング、組織⽂化の構築⽀援などを通じて、⽇本企業のウェルビーイング経営実現に取り組んでいる。⽇本の⼈事部「HRアワード2016」企業⼈事部⾨個⼈の部最優秀賞。「国際⼥性デー|HAPPY WOMAN AWARD2019forSDGs」受賞。

井手 直行 氏
株式会社ヤッホーブルーイング代表取締役社長
1967年(昭和42年)生まれ。ニックネームは『てんちょ』。国立久留米高専を卒業後、電気機器メーカー、広告代理店などを経て、1997年ヤッホーブルーイング創業時に営業担当として入社。地ビールブーム終焉の後、再起をかけ2004年楽天市場店の店長としてネット通販事業を軸にV字回復を実現。2008年より現職。フラッグシップ製品『よなよなエール』を筆頭に、個性的なブランディング、ファンとの交流にも力を入れている。クラフトビール国内約600社の中でシェアトップ。『ビールに味を!人生に幸せを!』をミッションに、新たなビール文化の創出を目指している。著書に『ぷしゅ よなよなエールがお世話になります』(東洋経済新報社)。
日本の衰退要因は「学習性無力感」「ルールが多すぎ」?
島⽥由⾹氏は、日本企業の活力が失われた要因に「学習性無力感」を挙げた。
学習性無力感とは心理学の言葉で「不快な体験が続くことで変えられない実状を諦め、たとえ変えられる状況下にあっても自発的行動を起こせなくなる現象」を指す。
とりわけ島田氏は、会社組織におけるコミュニケーションで「(相手を)認めない」「褒めない」「受け入れない」姿勢が当たり前のように蔓延り、多くの社員が「何をやってもだめ」だと諦めてしまっているのが日本社会の実状だとする。
「例えば何かの案件があり、上司が『ボトムアップでどんどんアイデアを上げてくれ』と言っている。でも結局最後は潰してしまうんです。部下はみんな意気消沈しています。そうしたことが何度か繰り返されると、潰された側は『こういう会社なのね』『どうせ何をやってもムダ』と諦め、“笛吹けど踊らず”みたいな社員ばかりになってしまう」(島田氏)
井手直行氏も島田氏と同様に、組織内で分け隔てなく自分の考え・意見を発信できる状態を指す「心理的安全性」が日本企業に欠けている点を憂慮した。さらには企業内に細かなルールがたくさんあり、かつ、失敗を許容しない点を指摘する。
「何か少しでも失敗したりルールを犯したりするだけで注意をするじゃないですか。そうした管理型のカルチャー・制度が日本の組織をダメにしていると感じます。ルールなんて最低限で整っていればいい。うちの会社にも一応就業規則はあるけれど、実は社長である自分自身がよく覚えていません(笑)。就業規則が全く要らないわけではないけれど、会社として大事にしていることが伝わればそれで十分。守らなかったら罰を与える、みたいな空気が挑戦を阻害していると思います」(井手氏)
人的資本経営の本懐は人の強みを引き出すチームづくり
日本古来の慣習・カルチャーに長年触れてきたことで、組織には不安感・疲弊感・徒労感・他責感・不信感……などがまん延してしまった。そうしたなかで経営者が今求められているのが「人的資本経営」。
経済産業省はその言葉の定義を「人材を『資本』として捉え、その価値を最大限に引き出すことで、中長期的な企業価値向上につなげる経営のあり方」としており、具体的には有価証券報告書で人的資本経営に関する情報開示が義務化された。
しかし開示義務が課せられたことで、人的資本経営は多くの経営者にとっての“宿題”となり、やらされ感も充満しつつある。島田氏も「良い言葉だけど」と前置きしながら、その取り組み自体には否定的だ。
「数値やKPI、プロセスの管理ばかりが注目され、結局は“人”というものを捉えきれないまま(取り組みが)進められている気がします。経営は人がすべて。それはたしかです。でもそれはお金の投資とかだけで成立するはずはなく、気持ちの投資・想いの投資・チャンスの投資みたいなものが必要です。そこまできちんとできるのであれば、素晴らしい言葉だと思います」(島田氏)
ヤッホーブルーイングではもとより「人的資本経営」という言葉は使わないながらも、島田氏のいう“気持ちの投資・想いの投資・チャンスの投資”に取り組んできた。同社は働きがいのある会社研究所「Great Place to work」のベストカンパニーにも6年連続で選定されていて、チームの状態を測るため年2回の社内満足度調査を実施している。しかし井手氏は「そうした数値以上に、チームの状態の良し悪しは見ればわかる」と話す。
「おかげさまで当社はコロナ禍をはさみながらも19期連続で増収を更新していますが、スタッフ(=社員)の活動の根本にあるのはチームビルディングです。そもそも私はスタッフに成長してもらいたいし、幸せになってもらいたい。だから何かに悩んでいれば本当の家族のように心配するし、いろいろな人たちが困っている人をフォローする空気ができています。僕はそれを当たり前のように思っているけど、経営は一度動き出してしまったら、人の投資が先なのか売上・利益が先なのか分からなくなり、人への投資がおざなりになることがある」(井手氏)
島田氏も井手氏と同様にチームづくりの重要性を説いている。島田氏曰く“TEAM”とはTrust(信頼)・Engagement(エンゲージメント)・Authenticity(真実性)・Meaning(意味・意義)によって組成され、メンバーもチームにそれらを求める。そうした本質をないがしろにしたまま、お題目通りの「人的資本経営」を進めてもうまくいくはずもない、というのだ。
「私が人事としてずっと大切にしてきたのは、つながりだとか関係性の部分です。人はつながりや関係性があるとき、信じられないほど大きなパワーを発揮します。そのくらい人はシンプル・単純で、楽しければもっとやろうとするし、楽しそうな人を見たら自分もやってみようと思うもの。人の持つ強みや可能性を余すことなく引き出す場をつくっていく、その旗振りこそが人的資本経営では求められていると思います」(島田氏)
学習性楽観主義。各人が「幸せ」を選択する生き方へ
昨今の日本企業にまん延するネガティブな空気を晴らし、再び「挑戦できるカルチャーをつくる」カギは、チームを起点とした組織づくり。人事・経営はそれに向け、何をすべきなのだろうか。島田氏はそのきっかけとして「ウェルビーイング」を挙げた。
ウェルビーイングは「身体的・精神的・社会的に良好な状態にあること」を意味する言葉で、社員のウェルビーイングを測るウェルビーイング経営も浸透している。アメリカの心理学者であるマーティン・セリグマン教授が提唱するウェルビーイング理論では、ウェルビーイングを向上させる5要素を「PERMA」と呼ぶ。
このうち島田氏が特に注目するのが、PERMAのちょうど真ん中にある“R=Relationship”=つながりだ。
「ある社員を見ていて、もしも人とのつながりが希薄だと感じたり、あるいはそこに悩みを感じたりしているのならば、その方のウェルビーイングがその先に低下してしまうかもしれない、ということです。その部分は上司なりリーダーなりがフォローできると思う。1人ひとりのつながりが改善されれば、職場環境はがらりと良くなるはずです」(島田氏)
しかし一方で、階層型のピラミッド構造がいまだ根強い日本企業では、それを実行しにくい懸念もある。その点において井手氏は「そもそも会社のなかに“偉い人”なんていない」と強調した。
「年上の方への配慮を持つのは大切だけど、新入社員であってもパートさんであってもアルバイトさんであっても関係ない。僕は入社2年目の女の子と背中合わせの席で仕事し、くだらない会話もしていたりする。偉ぶらない、役職は役割である、心理的安全性がとれるようなコミュニケーションを日頃から心掛ける——まずはそうしたことから始めてみるのがよいと思います」(井手氏)
チーム内でのポジティブな関係性を組織全体、ひいては社会に広げていくにはどうしたらよいのだろうか。最後に両者に見解を伺った。
「働く人間の活力低下の背景には、長い歴史で形成されてきた古来の日本的文化があります。一気にすべてを変えるのはやはり難しいと思いますが、変われる人・変われる組織を局所的につくるのはすぐにでもできる。そこに小さな渦ができれば、小さな渦と小さな渦がつながって、大きな渦が渦巻くかもしれない。いつかどこかでブレークするポイントがあると思うので諦めてはいけません」(井手氏)
「学習性楽観主義という言葉があります。学習性無力感が『現状を諦めて自発的行動を起こせなくなる現象』だとしたら、学習性楽観主義は『未来は変えられるんだと思え、変えようとする意欲と共に物事に取り組む姿勢』という意味。いわば対極にある言葉です。みんなが学習性楽観主義になれれば、組織はポジティブに回っていきます。学習性無力感は“感覚”ですが、学習性楽観主義は“姿勢・考え方”。ポジティブであろう、幸せであろう、前を向こう——そうして“自ら選択する”ことが組織、ひいては日本企業の活力を取り戻す第一歩になると思います」(島田氏)
※記載されている情報はインタビュー当時のものです。
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