「働きがいのある会社」調査・ランキングから紐解く、「働きがい」のこれから
2023.07.04
日本企業の働きがい・エンゲージメントは何かと低いと言われがちだ。事実、日本企業のベンチマークスコアはグローバルベンチマークを下回る。しかし働きがい向上は従業員の離職率やメンタルリスクを下げるのみならず、会社の業績にも相関関係があると言われている。働きがいのある会社をつくっていくにはどうすればよいのか。世界約100カ国で「働きがいのある会社ランキング」を調査・公開しているGreat Place To Work® Institute Japan 代表(株式会社働きがいのある会社研究所 代表取締役社長)の荒川陽子氏が解説した。
※本記事は2022.9.1開催『働きがいサミット』の荒川陽子氏講演内容を再構成により作成
Profile

荒川 陽子 氏
Great Place to Work® Institute Japan 代表
(株式会社働きがいのある会社研究所 代表取締役社長)
2003年HRR株式会社(現 株式会社リクルートマネジメントソリューションズ)入社。営業職として中小~大手企業までを幅広く担当。顧客企業が抱える人・組織課題に対するソリューション提案を担う。2012年から管理職として営業組織をマネジメントしつつ、2015年には同社の組織行動研究所を兼務し、女性活躍推進テーマの研究を行う。2020年より現職。コロナ禍をきっかけに働き方と生活のあり方を見直し、小田原に移住。自然豊かな環境での子育てを楽しみつつ、日本社会に働きがいのある会社を一社でも増やすための活動をしている。著書に「働きたくなる職場のつくり方」(かんき出版)。
コロナ禍で「働きがい」向上は難しくなった!?
Great Place To Work®(以下、GPTW)の定める働きがいのある会社とは、マネジメントと従業員との間に信頼があり、1人ひとりの能力が最大限に生かされている会社を指す。それらの会社には優れた価値観やリーダーシップがあり、イノベーションを通じて財務的な成長をもたらすことができるという。しかし近年そんな働きがいのある会社を作っていくのが簡単ではなくなっているようだ。
要因の1つは、コロナ禍だ。
GPTWは企業に「働きがいのある会社」調査を実施し、調査結果が一定水準に達した企業を「働きがい認定企業」や「働きがいのある会社」ランキング ベスト100として発表している。調査は「働く人へのアンケート」(エンゲージメントサーベイ/従業員意識調査)と「会社へのアンケート」(経営方針・制度など会社の取り組みを聞く調査)から構成されるが、コロナ禍前、コロナ禍1年目、コロナ禍2年目の3年分の調査データを見ていくと興味深い変化があるという。
すなわち「働きがいのある会社」調査の参加企業では、リモートワーク定着で「働く環境の設備が整っている」「仕事に必要なものが与えてらえている」「労働環境が安全・衛生的」「裏工作・誹謗中傷がない」「経営・管理者層は重要事項・変化を伝えている」といった設問にスコアの改善が見られた一方、「経営・管理者層と気軽に話せる」「休暇がとりやすい」「意思決定に従業員を参画させている」「楽しく働けると感じる」「自分の仕事の特別な意味がある」などの設問では3カ年での改善幅が小さかった(または低下した)。
GPTW Japan荒川陽子氏はこの結果を次のように分析する。
「コロナ禍前のように『出社することが当たり前』ではなくなりました。また日頃の業務では対面でのコミュニケーションの頻度が減少しました。そうしたなかでも、会社もしくは上司が部下にとって心理的にも近い存在でいられるかどうか。ここに近年の『働きがい』の難しさがあると伺えます」(GPTW Japan・荒川陽子氏)

さらに荒川氏はコロナ禍でも継続的に働きがいを維持・向上させていた企業とそうでない企業の違いについて、次のように考察した。
「働きがいを維持・上昇させた群と下降させた群があるとするならば、両者の決定的な違いは“信頼”の有無です。下降群では特に設問『仕事に行くのが楽しみである』のスコアが(コロナ以降)最も低下したのですが、維持・上昇群ではコロナ禍が長引き慢性化した状況下でも、従業員が会社・上司をしっかりと信頼しています。少し言い方を変えれば、コロナ禍で引き起こされたコミュニケーション不足を信頼が補い、職場の連帯感を高めている。結果的に従業員はコロナ禍でも『仕事に行くのが楽しみ』と感じられていたようです」(荒川氏)
女性・若者にとっての「働きがいのある会社」とは?
GPTW Japanは、特定の属性に特化したサブランキングの発表も行っている。ここから属性別の傾向を見ていこう。
まずは女性にとっての働きがいのある会社を示した「女性ランキング」だ。
女性ランキングのランクイン企業・認定企業は、女性に限らず男女ともに働きがい(全設問平均)スコアに高い傾向が見られた。さらに働きがいを一般従業員男女・管理職(部長層未満)男女の4軸で比較してみると、ランクイン企業・認定企業・不認定企業のいずれでも女性管理職のスコアが最も高いことがわかる。
「女性に管理職のポジションを打診すると『自分には荷が重い』とか『大変そうだから無理』だと躊躇されてしまう、なんて声をよく聞くのですが、実際に管理職にアサインしてみれば、実は男性管理職よりも女性管理職のほうが、会社に働きがいを感じている。こうした客観的データをもとに、自社のアンコンシャスバイアス(無意識な思い込み・偏見)を打破し、女性管理職の登用が進んでいくことを願っています」(荒川氏)
また女性ランキングのランクイン企業に勤める一般従業員は、ここでも上位者への信頼レベルが高く、具体的には経営・管理者層による「適切な人材配置」「意思決定への参画」「言行一致」「会社の価値観の体現」「事業運営能力の高さ」「約束を守る」「適切な採用」などの設問でランク外企業との顕著な違いが表れた。
「会社・上司が女性を1人の戦力として見て、責任ある仕事をアサインしながら育成している。そして職場運営の意思決定にも関わらせている。不要な配慮やアンコンシャスバイアスは未だ社会的に根強いですが、それらを取り払い、女性を職場の重要な戦力として育てていく企業こそが信頼関係を高めている会社なのだと思います」(荒川氏)

さらに女性管理職の設問回答だけに絞ってみると、ここにも面白い傾向が垣間見える。女性ランキングのランクイン企業は、「言行一致」「適切な採用」「適切な人材配置」「会社の価値観の体現」など一般従業員の設問回答にもあった「上位者への信頼」に加え、「福利厚生」「働く環境の設備」「安心して働ける環境」「能力開発の機会」など、働きやすさに関する設問の女性管理職のスコアにおいてランク外企業と大きな差をつけていたのだ。
「女性ランキングのランクイン企業は女性管理職比率が高いのが特徴ですが、人数が増えてくると、必然的にライフイベントとの両立をうまくやっていきながら管理職を担う女性が増えていきます。そうしたとき、真に働きやすい環境・精神的に安心して働ける環境であることが非常に重要になってくる。そんなことが示唆されるデータでした。
国による働き方改革の号令のもと、日本企業の働きやすさは改善されてきたように私は思います。さらにコロナ禍で在宅勤務・フレックス制度・時差通勤が一般従業員にも拡大・普及し、それらの制度を使うことへの心理的ハードルはかなり低くなったのではないでしょうか。それらはワーキングマザーをはじめとする女性にとって、とても良い傾向だと思います。今後も、職場環境の整備を一段と進め、女性にとっても男性にとっても働きやすい環境・就労条件を整えることが、結果的に女性管理職を増やしていくうえで欠かせないのだと思います」(荒川氏)
次に若手ランキングを見てみよう。若手ランキングも女性ランキングと同様、ランクイン企業と不認定企業ではスコアに大きな差があるが、なかでも荒川氏は「年齢別の分布」に着目をしているという。
例えばランクイン企業では「25歳以下」と「26〜34歳」の働きがいスコアに大きな差はないが、不認定企業では25歳以下より26~34歳の方がスコアが低く出ている。ここから、若手は働きがいの高い企業に入社すれば働きがいが維持されていくが、そうではない企業に入社すれば年次が進むごとに働きがいを失っていることが示唆されている。その要因は何なのか。
「具体的には、経営・管理者層による人材配置が適切か、事業運営能力は高いか、えこひいきがないか、などが該当すると思いますが、不認定企業では年齢を重ねるごとに会社・上司への見方が厳しくなる傾向があります。特に日本におけるメンバーシップ型の雇用形態・人事制度では、本人の強み・キャリアを考慮した異動配置というより、会社都合の異動が通例です。入社時は働くことに期待に胸を膨らませていても、そうした現実に直面すると会社・上司に対して厳しい見方をしてしまう。そして結果的に、どんどん働きがいを下げてしまう構造にあります。
私はもろ手を挙げてジョブ型を推奨したり礼賛したりするつもりはありませんが、メンバーシップ型の人事制度も工夫を凝らす時代に来ているのかもしれません。なお、ランクイン企業と不認定企業の若手で顕著なスコア差があった設問を分析した結果、若手の働きがいを高めるのに必要なのは『適切な人材配置』『自分らしく働く環境』『仕事の意味・意義の理解』の3要素でした」(荒川氏)

「働きがいのある会社」の未来
日本企業経営者の大きな課題の1つに人的資本経営がある。経済産業省によれば、人的資本経営とは「人材を『資本』として捉え、その価値を最大限に引き出すことで、中長期的な企業価値向上につなげる経営のあり方」。なかでも統合報告書等に記載されることになる非財務情報には大勢の経営者が注目をしている。
GPTW Japanは会社・働く人の双方を対象にしたアンケート調査から人的資本と「会社業績」および「働きがい」の相関を分析している。
調査では、人的資本に関わる具体的な12施策を、調査対象企業がどのくらいの数だけ導入しているかを調べ、施策数別にグルーピングした。
各グループの売上伸び率(前年度比)の平均を集計したところ「施策数が多い企業群(施策数9〜12)の売上伸び率は28.1%」「これより少ない企業群(同5〜8/同1〜4)はそれぞれ11.4%/10.0%」に留まった。人的資本の施策数と業績の相関はあると推定できる。
また同調査では「従業員の働きがいスコアが高い企業・低い企業」「売上伸び率が高い企業・低い企業」を2×2=4象限に分類し、各象限ごとの人的資本施策数についても調べられた。
当然「働きがいスコアが低く、業績も伸びていない企業」より「働きがいスコアが高く、業績も伸びている企業」のほうが人的資本に取り組んでいることがわかった。

荒川氏は「働きがいスコアと業績の“いずれか”が低迷した企業群」に対し、こんな注意喚起を行う。
「業績は好調なのに働きがいが低い企業には『利益が公正に分配されていない』『働き方に無理が生じている』『仕事に誇りを感じられない』等の組織課題があり、将来的には特に若手コア人材の大量離職が進む可能性があります。
反対に、働きがいは高いのに売上が芳しくない企業では、業績低迷が報酬・雇用面に波及すると従業員が予見し、それが働きがいの低下につながる恐れがあります。
すなわち、働きがいと業績、いずれかが低ければ、結果的に従業員は会社から離れていく。どちらかが高ければ大丈夫、と高をくくるのではなく、ともに高めていくことが非常に重要です」
最後に荒川氏はこう話す。
「働きがいのある会社を作ることは、人的資本経営の効果を上げる観点でもますます欠かせないものになっていくでしょう。しかし、人的資本経営について考える大前提としてあるべきは『徹底的に個(従業員)の視点に立ち返って考えるからこそ組織は動く』という経営の基本作法なはずです。この視点は絶対に忘れてはいけません。
『働きがいを高める』ことを業績向上の“手段”にしてはいけません。つまり、売上を上げるために働きがいを上げるのではない。両方を向上させていくのが経営ではやはり重要だと思います。それらの視点に立てればおのずと、従業員のみならず、すべてのステークホルダーの働きがいを高めること=企業のパーハスになっていくでしょう。
“Any company can create a Great Workplace.”——どんな会社でも素晴らしい職場を作ることができる、そう信じて多くの企業に働きがい向上に取り組んでいただくことを願っています」(荒川氏)

※記載されている情報はインタビュー当時のものです。
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