【スキルマネジメント】その目標、従業員のスキルに落とすことからはじめてみませんか?

人材の流動化が進む中、人材の定着や生産性向上のために従業員エンゲージメントを重視する企業が増えている。しかし、「社内の改革がなかなか進まない」「エンゲージメント・スコアが上昇しない」「そもそも何から始めればいいかわからない」といった課題を抱えている企業も多い。こうした中、従業員エンゲージメントを高め、成長する組織をつくるための方法として注目されているのが、「人」ではなく「スキル」を管理する「スキルマネジメント」だ。

「噂の人事・組織本」第2回となる今回は、『従業員エンゲージメントを仕組み化する スキルマネジメント』の著者である中塚敏明氏に、従業員エンゲージメントを高める新しいマネジメント手法について伺った。

Profile

中塚敏明 氏

スキルティ株式会社 代表取締役社長

一般社団法人ITキャリア推進協会 理事
1976年生まれ。1998年武蔵工業大学(現 東京都市大学)電気電子工学科卒業後、同大学院へ進学。卒業後、東日本電信電話株式会社(NTT東日本)入社。法人営業本部にて、超大手企業の様々なネットワークインテグレーションを手がける。2011年「ビジョナリーカンパニーを作りたい」との思いのもと、ネットビジョンシステムズ株式会社を設立。2016年「世の中の繋がるを支えるため、ITインフラエンジニアを輩出し続ける」ビジョンを掲げ、ネットワークエンジニアの養成スクールを開校。若い世代のエンジニア育成に取り組む中で、成長環境を整えれば組織力が高まるだけでなく、従業員エンゲージメントが劇的に向上することに気づき、能力開発をマネジメントするスキルマネジメントを開発。

なぜ従業員エンゲージメントが重要なのか

—近年、従業員エンゲージメントを重視する企業が増えています。この背景をどのように捉えていますか?
今はどの業界でも人材難という課題を抱えています。優秀な人を採用することが難しくなり、採用しても定着せずにすぐ辞めてしまうことも多い。こうした中、離職率の低下や生産性の向上、顧客満足度の向上などを実現するため、従業員エンゲージメントの向上に力を入れる企業が増えてきました。

転職が当たり前になった今の時代、従業員の離職を防ぐためには、会社の方針や存在意義をしっかりと従業員に伝え、定着させるための施策が必要です。たとえ給料や福利厚生などの条件がそろっていても、会社の目指す方向性が曖昧だと、従業員はその会社でのやりがいや存在意義を見いだすことができず、去ってしまいます。

会社の方針に対する従業員の共感度や理解度を高めることが働く意欲を向上させ、エンゲージメントの向上につながっていくのです。

—従業員エンゲージメントの向上に取り組むうえで、多くの企業で課題となっているのはどんな点でしょうか?
大手企業だとエンゲージメント・サーベイを導入して、積極的にエンゲージメント向上の取り組みをしている企業も多いですが、特に中小企業の場合では「そもそも何をしたらいいか、わからない」というケースが多いのではないでしょうか。
従業員エンゲージメントはさまざまな観点で測定され、エンゲージメントを高めるための施策も多岐にわたります。多い企業では60以上の項目で測定しているケースも。その1つひとつの数値を高めていく必要があるのですが、いざ取り組もうとしても何から手をつけたらいいかがわからないというのが多くの企業の現状だと思います。

また、会社としてのメッセージが従業員に伝わっておらず、会社側と従業員側の考え方にギャップが生まれてしまうことで、施策が定着しない、効果が出ないといった課題を抱える企業もあります。
企業によって抱えている課題は異なりますし、どの施策の効果が大きいかも変わります。そのため、まずは現場の従業員にヒアリングをして現状の課題を把握したうえで、何から改善していくか優先順位を定め、インパクトの大きい施策から取り組んでいくことが大切です。

加えて、従業員エンゲージメント向上に取り組もうとする企業が陥りやすいのが、「従業員満足度」と「従業員エンゲージメント」を混在してしまうことです。

「従業員満足度」は働く環境や待遇などが自分にとって満足できる環境かを問うものである一方、「従業員エンゲージメント」は会社が目指す方向制を定めて、会社と従業員の相互理解を客観的なデータで可視化して測定するものです。この2つの違いを理解しないまま施策を進めてしまうと、待遇改善に力を入れて従業員の満足度は向上したものの、生産性や売上の向上にはつながらないといった状況に陥ってしまうこともあります。

企業が従業員エンゲージメント向上に力を入れる中、近年新しい課題も出てきました。自分の業務を回しながら従業員の指導や支援をするプレイングマネージャーにとっては、エンゲージメント・サーベイの導入によって業務の負担が増加します。その中で、いわば「管理職の寄り添い疲れ」といえるような状況が生まれ、管理職の退職が加速しているケースも見られます。

この課題を乗り越えるためには、管理職に負担をかけずに人材を育成する仕組みをつくることが大切です。そのために必要なのは、従来の人に頼った社員育成とマネジメントではなく、スキルを管理する新しいマネジメントだと考えています。

人ではなくスキルを管理する「スキルマネジメント」

—スキルを管理するとは、どういうことでしょうか?
人に頼ったマネジメントの場合、誰がやるかによって仕事の結果が左右されますし、育成の仕方も異なります。また、せっかく人材が育っても、退職してしまったら会社には何も残りません。これに対して、定量化できるスキルに焦点を当てたマネジメントの場合、人材による仕事のばらつきがなくなり、育った人材が退職しても仕組みは会社に残ります。

このようにスキルを管理することで人材育成を目指すマネジメント手法が「スキルマネジメント」です。定量化して可視化することで共有しやすくなり、フィードバックがしやすく、本人の内省を促すこともできます。人材育成や人材評価の低難易度化を実現できるのです。

—多くの企業では従業員に求めるスキルを定量化していない、ということでしょうか?
ある程度は求めるスキルを定量化していると思いますが、「一人で業務を回せるレベル」というような曖昧な項目が多いのではないでしょうか。さらに、それが実際にできているかどうかを適切にジャッジできている企業は少ないと思います。判断する上司の主観や勤続年数などで判断されるケースもあります。

「スキルマネジメント」では、業務に必要なスキル、マネジメントに必要なスキル、会社の方針に対する理解、社会人として求められる基本的なスキルなどを細かく言語化、定量化し、どのレベルで達成できているのかを高い精度で評価していきます。従業員の能力開発と会社の方向性をすり合わせ、一人ひとりが自律的にキャリアを形成する仕組みです。

—「スキルマネジメント」を取り入れて、エンゲージメントの高い組織に転換するためのポイントを教えてください。
従業員エンゲージメントを高めるためには、現状を把握しながら3つのステップで取り組むことが必要です。

ステップ1では、まず従業員の不満足を解消することから取り組みます。そして、従業員エンゲージメントの源泉となるミッション、ビジョン、バリューといった会社の方針や人事評価制度を整備します。
エンゲージメントの低い企業では、「経営陣が考えていることがよくわからない」といった不満を持たれる、会社が目指す方向性と人事評価制度が一致していないといった課題を抱えているケースがあります。経営陣と従業員の多面的なコミュニケーションを設計すると共に、従業員に求められる考え方や行動指針を評価項目に組むことが必要です。

マイナスをゼロにリセットすることができたら、ステップ2では成長環境の構築に取り組みます。従業員の自己効力感を高め、従業員が成長できる環境や仕組みを整えていくのです。一人ひとりがスキルを高め、仕事の達成感を感じられるようになると、モチベーションやエンゲージメントも高まっていきます。
ここのステップで役立つのが「スキルマネジメント」です。
会社に不満を抱えた状態や仕事が思うように進んでいない状態で、「会社の方針は……」と聞かされても、従業員からしたら「それどころではない」という気持ちになりますよね。まずはマイナスの部分を解消してから、成長環境を整えることが大切です。

ステップ3はカルチャーマネジメントのフェーズです。企業理念や行動指針を現場に落し込み、評価制度に反映させます。人事制度と連動させることで理念の浸透、共感が進み、カルチャーとして定着させていくのです。

求めるスキルや評価基準を細かく言語化し、PDCAを回す

—ステップ2の「スキルマネジメント」を実施する際、具体的にどのように開発するスキルを定めるのでしょうか?
「スキルマネジメント」ではまずはスキルマップを作成します。まずは自社が従業員に求めるスキルを網羅的にピックアップし、一覧できるように整理していきます。

スキルは大きく3つに分けられます。1つ目が業務遂行に求められる職種ごとのテクニカルスキル。自社独自で求められる専門性の高いスキルもここに含まれます。2つ目がコミュニケーションや積極性、協調性といったヒューマンスキル。あらゆる業界で必要とされるポータブルスキルです。3つ目が、論理的思考力や課題解決スキル、マネジメントスキルなどのコンセプチュアルスキル。コンセプチュアルスキルの部分は一般社員よりもマネジメント層のほうがより多く求められます。

スキルマップをつくる際に注意が必要なのが、業界や職種で必要なテクニカルスキルに偏ってしまうこと。社会人基礎力や会社が求める人物像を含めたノンテクニカルスキルもしっかりと言語化してスキルマップに落とし込むことが必要です。ノンテクニカルスキルは経済産業省が定義している「社会人基礎力」がベースに考えると良いでしょう。

スキルマップが完成したら、次はスキルボックスを構成します。スキルボックスでは、1つのスキルにつき、5つのアクションリストと判定基準で構成します。

「発信力(=自分の意見をわかりやすく伝える力)」というスキルを例に挙げてみましょう。

まずは「どんな行動ができていれば発信力があるか」を細かく分解し、具体的なアクションリストをつくります。たとえば、「①PREP法を意識している」「②事実と解釈をわけて話すことを意識している」「③細かな報連相を意識している」といったアクションが挙げられます。

次に、それぞれのアクションごとに行動規範や評価判断の基準を明確にします。たとえば、①のアクションができているかを判断するために、「適性な順番で話せている」「内容が端的にまとまっている」といった判断基準を設定するのです。すべてのスキルに対して、こうしたスキルボックスの中身をつくっていきます。

会社によって求める行動規範やスキルは異なるため、同じスキル名でもスキルボックスの中身が変わることもあります。社会人基礎力のような広く社会で求められるスキルであっても、より自社の特性にあわせてカスタマイズすることが必要です。

—どのように運用するのでしょうか?
スキルを高めるためには、スキルを特定して評価基準を明確にしたうえで、実行、評価、行動修正を繰り返して高頻度でPDCAを回していかなければなりません。
そこで、アクションリストの項目ごとに点数をつけて、本人による自己評価と評価者の一次評価、二次評価で採点します。定期的に振り返ることで従業員のスキルが可視化され、自分にとって何が足りないのか、どうすれば達成できるのかがわかりやすくなり、各自の成長を促すことができます。

成長スピードを早めるための理想的なサイクルは、本人の振り返りが週1回、評価者が月1回チェックするサイクルです。ただ、工場勤務でパソコンを使う頻度が少ない場合は月1回、サービス業の場合は日々の行動を振り返るために毎日チェックをするなど、業界や業種によって最適な運用方法は変わります。

—定量化することで従業員の成長がわかり、マネジメントやアドバイスがしやすくなりますね。
従業員ごとに評価をする一方で、会社全体の傾向を分析することも大切です。データで可視化することで、会社として強化が必要な部分が明らかになります。

たとえば、離職者のデータと比較することで、「発信力や柔軟性が低い従業員は離職の可能性が高い」「ストレス管理能力が低い従業員はトラブル発生時に離職しやすい」などの課題を発見することができます。
傾向が見えてきたら、会社の教育プログラムに組み込んで対策を立てたり、個別にフォローアップすることも可能です。

従業員が成長実感を得られる環境づくりが大切

—実際に「スキルマネジメント」を導入している企業では、どのような成果が出ているのでしょうか?
弊社でコンサルティングをしている企業では、従業員のモチベーションが高まって資格取得率が上がったケースや、従業員のスキルが高まった結果としてお客様満足度が高まったケースなどがあります。また、人間関係やストレスによる休職や離職率の低下にもつながっています。
従業員エンゲージメントを高めるための前段階として、本人が仕事をしっかりと回せることが大切です。自信を持って目の前の仕事こなせるスキルがあることで、自己効力感やモチベーションは上がっていきます。成長実感を得ることができれば仕事が面白くなり、会社に対しての貢献意欲も高まっていくのです。

また、「スキルマネジメント」を新入社員のオンボーディングに活用する企業もあります。自社のカルチャーやルール、ビジョンやバリューをスキルとして言語化して、スキルボックスを設計することで、オンボーディングの効果を高めることが可能です。
このように「スキルマネジメント」によって人材育成や人材評価を仕組み化することで、管理職の負担は減り、会社が求める人材の育成を加速させることができます。

人事の役割は、従業員が成長や幸せを求めていける環境を用意すること。今の評価制度やマネジメントは効果があるのかを突き詰め、従業員の成長と結びついているのかを考えることが大切です。こうした取り組みが、従業員エンゲージメントの向上、離職率の低下につながっていきます。

※記載されている情報はインタビュー当時のものです。

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